60.そして、カイは里をめぐる
「よし、こんなもんだろう」
ランデル、薬師ギルド。
仕入れた商品を積み込んだカイは、シャル馬車の荷台を見上げて頷いた。
「リストの品物はみんな積んだえう」「む。芋も万端」「注文のアクセサリーと服も積みましたわ……ぷぷぺまー」
「ありがとう」
『美味しそうな芋ですねぇ』『食べていい?』
「いや、食うなよ?」
カイは手伝ってくれたミリーナ、ルー、メリッサにに礼を言い、相変わらずのマリーナとシャルにダメだと釘を刺す。
いつものカイの仕入れ風景。
そんなカイを訪ねる者が現れる。
「カイ、今から出発か?」「今度はどこに行くわふん?」
「ルーキッド様、エヴァ姉」
「「「わーふんっ!」」」
「わふんっ」
休憩ついでの町の視察だろう、エヴァンジェリンを伴ったルーキッドだ。
カイはルーキッドに深く頭を下げる。
イリーナ、ムー、カインはエヴァに飛びついた。
「もふもふー」「あったかー」「いいきもちー」
「わふんよ」
「今回はアトランチスのメリダの里に行く予定です」
「そうか。エルフもようやく食以外のものに目を向けるようになったか」
「まだ食絡みですけどね」
「良い商売を。そして税を頼むぞ」
「ハハハ……努力します」
「わふんっ」
冗談めかして税を語るルーキッドにカイは苦笑いして一礼し、御者席で手綱を握る。
「フランソワーズ、ベアトリーチェ、シャル。出発だ」
『はぁい』
ひひーん、ぶるるっ……
カイの言葉に馬達が応え、ゆっくりとシャル馬車が動き出す。
「ぱーぱ」「いっしょにすわるー」「おそと、わぁい」
「気をつけろよ?」
「「「はぁーい」」」
群がる子らにカイが注意するなか、馬車はランデルの門を潜る。
しばらく街道を走ってオルトランデルへと続く道に入れば、森の入り口にエルフ群がる心のエルフ店。
エルフはハーの族のハイエルフ。はっちゃけエルトラネの皆だ。
「おう、今日はアトランチスか?」「いってらっしゃい」
「「「お土産待ってまー「持ってこないぞ?」そんなーっ……ぷるるぷっ!」」」
休憩中のマオとミルトがカイに手を振り、群がるエルトラネの皆がカイに土産を要求する。
そんな彼らを適当にあしらい、オルトランデルへの道を走ればすれ違うのはボルクの焼き菓子を求める商人の馬車だ。
「カイ殿だ」「我らが焼き菓子様だ」「焼き菓子様行商中」
オルトランデルまでの便乗だろう、馬車に乗ったボルクの者が手を振ってくる。
「焼き菓子馬車えう」「む。さすがボルクの里」「相変わらずの大人気ですわ」
「ばしゃー」「たくさんー」「しゃるー?」
『違うよーっ』『あらあら』
オルトランデルに入って街中を行けば巡礼地にはベルガ一家とガスパーとカイルとカイトとエルフ達。
「何してるんだベルガ?」「いや、娘が巡礼地に行きたいと言い出してな」「僕は便乗です」「僕もー」「私は付き添いでございます」「「「こんにちはーっ」」」「カイル、便乗なんて他人行儀な言い方はダメよ?」「はい、お母さん」「も、もうカイル君ってばーっ」
そして商店立ち並ぶ区画に入れば知り合った商人達が手を振ってくる。
トニーダーク商会のアルハンと、フィーフォールド商会のダリオだ。
「カイさん、また魔道具をお願いしますねーっ」
「次回はぜひ、我らトニーダーク商会にお願いいたします」
いやぁアルハン、お前に委ねるのはちょっと怖いわ……
カイは手を振り返して通り過ぎ、命を育んだ芋畑へ。
そこで待つのは守護するルドワゥ、ビルヌュと、畑を耕すえう勇者アーサー、そしてオーク達だ。
『よう、カイ』『お仕事ご苦労さん』
『イリーナ様、ムー様、カイン様、そしてカイ様に御母堂様、帰りはぜひえう神殿にお寄りくださいませ』
「ぶーさん」「ぶーさーん」「またいもにー?」
『戻ったら寄って下さいねー』『渾身の芋煮をご馳走えうーっ』
『『『えうーっ』』』
坂をくだって地下に入り、アトランチスへと続くダンジョン通路へ。
エルフ行き交うそこを抜ければエリザ世界だ。
『カイよ、行商か?』「あら、カイさん」
異界で羽ばたくのはソフィアを背に乗せたバルナゥだ。
「バルナゥ、ソフィアさん、こんな所で何してるんですか?」「『助っ人』」
『突撃えうーっ!』『『『『えうーっ!』』』』
老オークの号令で突撃するオーク達。
あぁ、異界に攻められてるのね。
アーサー、お前勇者なんだから畑耕してないで戦えよ。
「危ないえう!」「む。カイはへなちょこすぐ逃げる」「そうですわ。バルナゥと師匠ならば大丈夫でございます! とんずらですわカイ様!」
「よし、とんずらだ!」
「「「とんずーら」」」
『あらあら』『わぁい!』
異界討伐はバルナゥにまかせ、カイはそそくさとアトランチスへと続くダンジョン通路へと入り込む。
通路を進めば今度は主の間から怒号だ。
「ちっ、またアルハンの奴やらかしやがった!」「また情報漏洩かよ。折檻だな」「なんか、あいつ折檻で済む程度の事を狙ってやらかしてないか?」「折檻で済むなら安いもんか?」「骨の髄まで商人だな」「ダリオ、何とかしてくれねーかな」「商会の規模が桁違いだからムリだろうなぁ」「そろそろ裏の王にご足労願おうぜ」「「「という訳でお願いしますシスティ!」」」「あんたら、やっぱカイね……」「さすカイ!」
相変わらずだなお前らは。
カイズとシスティ、それにアレクの声を聞きながら、カイは主の間を走り去る。
「帰りはえう神殿で芋煮を食べような」
「「「わぁーいっ!」」」
アトランチスとエリザ世界、オルトランデルとエリザ世界を繋ぐダンジョンはそれぞれの世界を貫きあう複線構造となっている。
だから行きはえう神殿を通過しない。
子らと芋煮の話をしながら、カイはアトランチスへと抜けた。
「よぅしシャル、駆けていいぞ」『わぁい!』
しゅぱたた、シャルが馬を抱え上げて大地を駆ける。
ランデルではルーキッドがあまり良い顔をしないシャル走りもアトランチスなら問題ない。
景色が瞬く間に過ぎていく。
シャルの速度は音すら超える。あっという間にメリダの里だ。
「次はフライドチキンを頼もうかのぅ」「うわぁん! お姉ちゃーん、兄弟子が帰ってくれないーっ!」「あんた、いつまで居座るつもりなのよ!」「はぁ?」「このヒゲじじい!」
そこにカイと共に現れるヒゲじじいの天敵、マリーナ。
『優雅なご飯ですねぇ』「げっ! マリ姉!」
「……エルネの長老がごめんえう」「む。相変わらずのアクティブヒゲじじい」「ですわ」
「ははは」
「「「エルネのちょーろーだーっ」」」
『わぁい』
思えば遠くへきたものだ。
農家の三男に生まれたが耕す畑が足りず、商家の下働きとして働いたが山賊のために職を失い、冒険者となり上を目指したが食中毒の最中に狼の群れと戦い挫折し、採集と狩りで生計を立てればエルフに目を付けられて煮込み人生が始まった。
そこから勇者を巻き込み、竜を巻き込み、アトランチスへと渡って神を天に還し、神のはっちゃけに巻き込まれてダンジョンの主となって異界を救い、ぺっかーと輝いて聖教国を壁に閉ざし、火曜日にアトランチスの天地創造を行い、世界樹シャルロッテを育て、神のはっちゃけ後始末で宇宙に行き、オーク達と共に子らの門出を祝った。
まったくもって波乱万丈、カイ自身も呆れる人生である。
人生は流れる川の如く。
流れの先はある程度見えても望む流れに乗れるかどうかはわからない。
それでも人は流れの中で足掻く。
望む人生に少しでも近付くために、世界の中を泳ぐのだ。
カイも流れに足掻いたひとり。
流されながらも掴んだものは、今もカイの腕の中だ。
「げっ! えんがちょがメリダの里に何の用よ!」
「行商だ行商」
お前らが呼んだんだろうが。
相変わらずのアリーゼにカイは苦笑し、馬車を里の広場に停める。
「商品を広げるえう!」「私は芋煮」「アクセサリーと服はこちらでございますわ……ぷぷるぱすぺっきゃほーっ!」
『シャル馬車、商店変身ーっ!』
「「「いらっしゃーい」」」
妻達も子らもシャルもやる気満々。
そしてカイもやる気満々。
カイは商店シャルの扉を開き、集まるメリダの皆に頭を下げた。
「ようこそあったかご飯の店へ」
さぁ、商売の始まりだ。
記念月間終わりです。
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