53.妻達もカイズを願うえう!
「ミリーナもカイズを願うえう!」
エルネの里、カイ宅。
はじまりは、いつものようにミリーナの言葉だった。
「……俺がいれば良くね?」
芋煮を食べながら、カイはミリーナの言葉に首を傾げる。
カイズを願ったのは深刻なカイズ不足によるものであり、アレクに願ってもらったのは実績があるからだ。
不足はとりあえず解消された。
面倒臭いダンジョン掃除も無事終了した。
今はカイズ不足は一段落。
システィが仕事を増やさない限りツーハンドレッドまでで良いだろう。
しかしミリーナはアレクしか願っていない事がどうにも気に入らないらしい。芋煮を食べながら首を傾げるカイを睨む。
「ミリーナはカイの妻えう!」「そりゃそうだが」
「妻だからアレクよりしっかりしたカイを願えるはずえう!」「そうかなぁ」「そうえう!」
そしてここで加勢するルーとメリッサだ。
「む。ここは妻の貫禄を見せる時!」「そうですわ。アレクにあれだけ見事なカイズを願われているのに黙って見ているのは妻の名折れ。ここは私達がすごいカイズを願える事を示すのです!」
「……いや、すごいのはもういらないから」
「ぬぐっ」「ふんぬっ」
カイは参加も観戦もしていないが第二回忠犬選手権で妻達はアレクと熾烈な戦いを繰り広げたらしい。
そんなアレクがきっちりカイズを願ったから嫉妬しているのだ。
妙なライバル意識を持っちゃったなぁ……
と、カイはため息をついた。
必要だから願ったのに対抗意識を燃やされても困る。
カイズひとりを願うのにも膨大なマナが必要であり、最も近場で願える場所であるバルナゥのダンジョンの調子も悪くなる。
必要以上のカイズ調達はよろしくない。
何とか諦めてもらおうと思うカイだが、妻達は芋煮を食べながらヒートアップ。
「カイとミリーナ達は愛し愛されのラブラブ関係えう。カイズもバッチリ願えるはずえう!」「む。まったくラブラブ右肩上がり」「そうですわ。カイ様の素晴らしき愛をいただく私達がカイズを願えないはずがございません!」
いやぁ、愛と言われると弱いなぁ……
と、カイはにやけてため息をつく。
妻達はやる気マンマン。
それを見ればカイも何とかしてやりたくなる。カイ一家はラブラブなのだ。
「……じゃ、バルナゥに頼んでみるか」
「えう!」「ぬぐぅ!」「ふんぬっ!」
俺がバルナゥとソフィアさんに土下座して後始末に協力する程度で済むなら、まあいいか。
そんな感じで芋煮を平らげ、シャルに頼んで一家で竜峰ヴィラージュを登る。
『何!? またカイズを願うだと? 断る!』
案の定、バルナゥは拒絶半端無い。
「いやいや、そう言わずに一度だけ、今回だけだから。なっ」
『そんな事をしたらまたダンジョンが腐ってソフィアに怒られるではないか! 大体カイズ補充は一段落付いたのではないのか? なぜまだ願う必要があるのだ!』
バルナゥの拒絶は当然。
ダンジョンがマナ腐れを起こして大規模な掃除を行ったばかり。
そしてシスティからカイズはしばらく必要ないとも言われたばかり。
バルナゥにとっては必要のないカイズ願いは後始末がとても面倒臭いのだ。
が、しかし……流れを変えるのはやはり愛。
困るカイの前にミリーナ、ルー、メリッサが進み出た。
「カイズを願うのは、ミリーナ達がカイを愛してるからえう!」
『ぬ?』
「む。妻のカイ愛を見せる時」「そうですわ。アレクだけにカイズを願わせていては妻の愛がすたるというもの! 見ていて下さいカイ様。私の愛で立派なカイズを願ってご覧に入れますわ!」
『む……そうか、愛か』
愛に反応するバルナゥだ。
『カイよ、汝も夫なのだな……』
「俺も掃除するからさ、一度願わせてやってくれないか?」
『む。妻の愛なら仕方ない。掃除はしっかり付き合えよ?』
「ああ」
バルナゥとカイは苦笑い。
両者とも妻とはラブラブ。妻のお願いには弱い者同士なのだ。
「ありがとうえうバルナゥ!」「む。感謝、熱烈感謝」「私達に愛の証を示す場をくださってありがとうございます」
『うむ。汝らの愛、しかと見届けさせてもらおう』
バルナゥの許可を得て、ミリーナ、ルー、メリッサが主の間の中心に立つ。
まず最初はミリーナだ。
「カイカイこいこいカイこいこいえう。カイこいカイカイこいカイえう」
ミリーナの願いに応えてマナが集まり、カイズが姿を現した。
カイツーハンドレッドワンの誕生である。
「カイツーハンドレッドワン……えう」
「「「えう?」」」
「えうが! えうがえううぅううううう」
えうと言うカイズに叫ぶミリーナだ。
「む、カイはえう言わない」「全くですわ」
「気にするなミリーナ。アレクが願うカイズだって奴隷要素が混ざるしな」「そうえう。そう考えればアレクのカイズと変わらないえう。自信を持つえうミリーナ」「えうーっ!」
涙目のミリーナをよしよしとカイが慰め、カイツーハンドレッドワンが励ます。
しかしこのえう、俺が言うとえう人みたいで何か、こう……ダメだな。
と、思うカイである。
えうえう語るカイズは何とも可愛げがない。
カイツーハンドレッドワンもそのあたりが良く分かっているのだろう、自分の言葉に首を傾げ、何とも哀しい顔をした。
「む。次は私。カイこいむふん」
ミリーナの次にルーが願い、マナがカイズを形作る。
「む」
現れたのは寡黙で日焼けしたカイだ。
「……いや、自己紹介くらいしろよ?」「カイツーハンドレッドツー」
カイが促すも名前しか言わない。何とも無口なものである。
そんなカイツーハンドレッドツーに肩を落とすルーだ。
「むむむ無口過ぎる。そしてダークエルフ肌ぬぐぅ……」
「さすがに無口過ぎるえう」「全くですわ」
「気にするなルー。俺だって無口な時もあれば日焼けする時もある」「む」
カイと共にルーを慰める時もツーハンドレッドツーは寡黙。
何とも寡黙。寡黙過ぎる。
俺の姿をしたグラン兄さんみたいだな。
と、カイが思っていると、今度はメリッサが願いはじめた。
「最後は私ですわ。カイ様こいこいカイ様こい。こいこいカイ様カイ様こい」
メリッサの願いに応えて現れたカイズは……いきなり奇声を発した。
「すぺっきゃほーっ!」
「失敗カイえう!」「む。これは絶対失敗カイ」
「俺はカイツーハンドレッドぷぷぺまースリー。メリッサとピーの願いで生まれたぽりっぷぱーっカイズだ」
「途中から意味不明えう!」「む。心読めないから意思疎通不可能」「困りましたわ。これは困りましたわ!」
ピーは心で会話する。
しかし戦利品の心は読めない。だから意思疎通不可能。
これにはカイも苦笑いだ。
「奇声は言葉を最後まで言った後にしろ」
「悪いぷるっぷ。俺はカイツーハンドレッドスリーぷぷぺまー」
「すみませんカイ様。エルトラネですみません……ぷー」
「気にするなメリッサ。カイツーハンドレッドワンも似たようなもんだ」「「えうっ!」」
カイの慰めにショックを受けるミリーナとカイツーハンドレッドワンである。
細かい点での違いはあれど、これまでのカイズと比べても遜色の無いカイズだ。
カイは妻達の愛にほっこりである。
「アレクと違って初めてでこれだけのカイズを願えたんだ。愛の勝利だな」
「えう!」「む!」「カイ様!」
カイ一家はラブラブ右肩上がり。
「さすが俺えう」「む」「るっぷるっぷーっ」
そんな一家にほっこりな新参カイズ達だ。
『では、汚れが頑固になる前に掃除するか』「そうだな」『僕も手伝うよー』
カイはバルナゥとシャル、そしてカイズ達とダンジョンをさっと掃除した後システィにカイズを引き渡した。
カイ一家は連絡役のカイスリーだけで十分だからだ。
そして妻達が願ったカイズをシスティが配したのはエリザ世界。
老オークが皆に叫ぶ。
『我らの神の母が願い生まれた神の父を、我らの神殿にお迎えする!』
「よろしくえう」「む」「お世話になりますぷるりっぱ」
『おお、これがミリーナ様が願ったカイ様のえう……』『素晴らしい。ムー様の寡黙さが宿っておられる』『『『ぷるりっぱ!』』』
カインは奇声を発した事などないはずだが、えう人はノリノリ。
ミリーナ、ルー、メリッサが願い生まれたカイズは神の母が作った神の父。
カイ一家はいろいろ忙しい。
えう人にとって神殿に住めるカイズは格好の崇拝対象、ご本尊様なのである。
「就職先があって良かった……」
そしてカイは自分の分身の就職に、胸をなで下ろすのであった。
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