52.エルフの里はカイズで会話する
「それでですなベルガ殿……」
「……」
ビルヒルト領、ホルツの里。
長老であるベルガ・アーツはカイズを前に頭を抱えていた。
現在カイズはエルネ、ボルク、エルトラネ、ホルツに限らずカイが関わったエルフの里に必ずひとりは常駐している。
ビルヒルトでさんざん異界を作られまくったシスティの判断だ。
こっそり農作物を作りまくって異界を顕現されては困るので、カイズを連絡係兼監視係として配置しているのだ。
しかし、エルフの里の数もずいぶん増えた。
分割しまくったカイズは鍋を持てない程に分割しまくったカイセブンティーン以上のもやしっぷりで存在が超絶希薄。里によっては向こうが透けて見えるほどの幽霊状態だ。
こんな感じで無理に配置したカイズであったが、それを多用する者がシスティの他にも二人いる。
ひとりは当たり前だがカイ。
そしてもうひとりは今、頭を抱えているベルガだ。
ホルツの長老ベルガはエルフ全体の長でもある。
他の里に連絡を取る事も多いベルガはカイズを活用してエルフの里に連絡をとり、必要事項の伝達を行っているのだ……食べ物の話ばかりであったが。
そして最近、新たな話題が加わった。
「歯磨き粉はまだですかのぅ」「石鹸、石鹸」「アトランチスに移り住んだ我が里も申し込んで早三ヶ月、なかなか行商が来ないのです」「ベルガ殿からカイ殿にどうにかしてくれと言ってはくれませぬかのぅ」
「すまぬが私はカイ行商担当ではない。それはカイに言ってくれ」
「「「ですから言っております」」」
「……それはカイズだ」
カイの行商に関するクレームである。
申し込んだがカイがなかなか来てくれない。品が少なくて次に来るまで歯磨き粉や石鹸が無くなってしまう。歯ブラシがへたれた等々。
こんな事をベルガに要求してくるのである。
カイの行商予定などベルガが知るはずもない。
だから私ではなくカイに言ってくれと言うのだが、長老達はカイズに言っていると言い張る始末。
要はカイの行商がなかなか来ない不満を愚痴る対象がベルガなのである。
ベルガは若いとはいえエルフをまとめる長。
最初の頃は困っているんだなとシスティに相談してみれば人間の行商人も田舎ならそんなものよとばっさり切り捨てられ、カイに言えば他の里へ行商に行く予定が詰まってるんだよとばっさり切り捨てられる。
それを長老達に言えばもう一度カイ殿にお願いしてくだされとばっさりだ。
近隣の里ともロクに交流しなかったエルフの里は長老が頂点。
だからエルネの長老のように他者にずけずけ言う図々しさ半端無い。
ベルガは長というより苦情受け付け係のような有様だ。
「そんなもんよ」「そんなもんなのか?」
しかしシスティに相談してみればそれもばっさりだ。
「私やアレクを見てれば分かるじゃない。カイズを使ってるけどそこら中を飛び回ってるわよ」
「それは、そうだな」
アレクはビルヒルト中をエルフ勇者と共に駆け回り、システィは王国中を駆け回っている。
カイズをこき使っていても自分でしっかり出向く。
ほとんどの里をカイズを介してしか付き合わないベルガとはえらい違いだ。
「人は互いに付き合わないと生きて行けない生き物だから、直接顔を合わせるのもとても重要な事なのよ。ま、そのあたりはひとりでも生きていける祝福されたエルフにはわからないかもしれないけどね」
「……我らはつい最近まで、呪われていたのだがな」
「カイにも言われたでしょ? 人間は土下座でご飯は食べられないのよ」
「う……」
ベルガもカイと同じく、システィにはこてんぱん。
安定した生活を送ろうと思えば全てが手に余る。
それが人間。
だから互いに分担して助け合うのだ。
ランデル領のルーキッドもオルトランデルや他の集落に出向き、多くの者と直接顔を合わせて事を進めている。
助け合いは相手との円滑な関係が必要。
だからカイズやシャル、バルナゥやエヴァンジェリンといった者達を頼る事はあっても仕事を彼らに全て任せる事はせず、自らの足で出向くのだ。
まだ出向かなくて良い分、楽をしているのかもしれないな……
と、カイズで連絡を取り合っているだけで済んでいるエルフ社会に安堵するベルガだ。
「そういえばカイズの補充ができたから、里に常駐するカイズも幽霊状態から脱却できるわよ」
「そうか」
そしてベルガがビルヒルトからホルツの里に戻ってみれば、長老達が喜びに満ちた言葉をカイズで伝えてくる。
「カイ殿が行商にいらっしゃいましたぞ」「うちはシャル馬車が臨時行商に来た」「もうカイは手が回らないから馬車が行商するよーとシャル馬車が」「里の娘達はオシャレ講座がないとがっかりしていましたが臨時ですから仕方ありませんな」
カイもシスティやアレク、ルーキッドと同じように飛び回っているらしい。
そして手が回らない分はシャルにぶん投げたらしい。
相変わらずのカイである。
私もたまには里を回らねばな……
と、思いながらベルガはシスティの話を切り出した。
「システィがカイズが増えたので今のカイズと交換したいと言っている」
「「「なんと!」」」
一気にヒートアップする長老達……の、真似をするカイズ。
「我が里はセブンティーン! セブンティーンを要求する!」「セブンティーン一択!」「みーちーのーえーきーっ!」
「……すまぬが私はカイズ派遣担当でもない。カイセブンティーンは移動道の駅の要。常駐させたいならシスティに直接言ってくれ」
「「「言っといて下さい」」」「断る」
……直接言って、システィにこてんぱんにされてこい。
カイズは長老達の言葉を伝えながら、無様さに頭を抱えている。
ベルガも頭を抱えながら、長老達の要求をばっさり切り捨てた。
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