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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
4.飢えた、エルフが、やってくる
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4-5 聖樹教、収穫祭を復活させる

 カイとソフィアがオルトランデルで世界樹の枝の輝きに驚いていたまさにその時……

 世界中の聖樹教教会で、大きな出来事があった。


 御神体として祀られていた世界樹の枝が輝いたのだ。


 突如としてマナに輝く御神体を前に人々は驚き、ひれ伏し、祈りを捧げた。

 そして、その場にいた者は皆、聖樹の声を聞いたのだ。


『今こそ、実りを喜ぶ時ぞ!』


 と……





「収穫祭?」

「はい。王国は収穫祭の復活を宣言し、今から一月以内にしかるべき町で催すようにとの通達を全国に早馬で出しました」


 ランデルの町に借りた宿。

 王女システィ・グリンローエンは王都の役人からこの話を聞いていた。


「またずいぶん急な話ね。まあ早くしないと収穫の時期を逃してしまうけれど」

「その通りです。何はともあれ領主は蔵を開き、領民に実りを振舞い、騒げ、と」

「来年からやればいいのに早馬まで使うなんて……聖樹教絡みかしら」

「そのように聞いております」


 システィが役人を呼んだのは収穫祭の話をするためではない。

 青銅級冒険者カイ・ウェルスに対する要経過観察の裁定を王都に伝えるためである。


 システィは彼が現在私欲に溺れていない事、エルフとの信頼関係を構築している事、食事の世話しかしていない事など王国に害をなす気がない事を理由にこの裁定を下した事を説明し、経過観察者としてアレクらを指定した。


「もっとも影響を受けるランデル伯にも観察者を出してもらうべきでしょう」

「そうね」


 役人は副観察者を領主のランデル伯に求める事を提案し、システィが了承する。

 勇者級冒険者は異界の討伐が第一の務めだ。

 王国にとって国土は絶対不可侵であり異界など論外だ。討伐の間の代行観察者は必要だった。


 そして観察者になる以上、この近くに住まねば役に立たない。

 システィは役人に言った。


「あと、ランデル伯に勇者の拠点を作る許可を貰ってちょうだい」

「ここよりは都会のビルヒルトの方が、よろしいのでは?」

「エルフの住む森に近い方が楽でしょ」


 システィの決定には仲間の勇者級冒険者への配慮がある。

 ふらりと旅に出て戻っていないアレクはカイの事を常に思っていた。

 ソフィアはランデルの教会で司祭に新たな道の教えを受けている。

 マオはカイとエルフらの元でスローライフを満喫している。可愛いエルフが言い寄ってくると鼻の下を伸ばしていたので餌付けするなと釘を刺した。


 拠点を作り、周囲の異界を討伐する。

 発見即討伐が理想の異界討伐にとって、近くに勇者がいる事はとても重要だ。

 システィもそろそろ彼らに本拠地を与えようと思っていたところである。

 あと二、三年で王都に戻されるだろう彼女はその時までに居場所を作ってあげたかった。


 ソフィアやマオがランデルに意味を見出した今、それを決断するべきだろう。

 システィは領主であるランデル伯にアレクらの拠点建築の許可を求める事を決め、役人に伝達を要求した。


「冒険者なんて根無し草だと思ってたけど、私の方が根無し草ね……」


 と、システィは自嘲する。


 システィ・グリンローエン。

 王家の血を引く王位継承権を持つ女は道具として扱われる。

 競走馬やペットと同じように血の継承に価値を求められるのだ。


 ある時は権力、ある時はマナの強さ、ある時は名声……

 それらの価値と王家を繋ぐ楔として使われ、嫌がる時は受け入れるまで媚薬と魔法で悦びを植えつけられる。

 それが王女システィ・グリンローエンの未来。


 王家の一人として決められた未来は受け入れるつもりだ。

 顕現する異界の討伐も王国の安定のための婚礼も国土を守る戦いであり、命を懸けるに値する。


 ただ、その新たな戦いの手向けに……アレクと一度でも良いから結ばれたかった。


 システィは死に際に叫んだ心のままに行動を起こそうとしていたが、肝心のアレクは旅に出たまま一向に戻ってこない。

 もうどこに行っているのよとやきもきしているうちに意気が萎んでしまった。

 何ともしょんぼりな結果に結ばれる運命に無いのかもしれないとネガティブになりはじめているシスティである。


「それでは王女殿下、私はランデル伯の所へと参りますのでこれで」

「ご苦労様。王都に持ち帰る案件と書簡もお願いね」


 王都へと戻る役人だ。使わせてもらおう。

 と、収穫祭の件を知らせた帰りに用事を与えるシスティだ。


 書簡は世界樹に関わりの無い勇者の武器を用意して欲しいとの要求だ。

 森の住人であるエルフに効果が薄いと記してある。

 本当は効果が薄いどころか無効なのだが混乱の種になりそうなので今は秘しておく事に決めた。


 対してコップの件は秘密にする理由も無いのでそのまま告げる。

 宝物庫で増え続けるカイ・ウェルスは減らしたいと思っていたからだ。


「コップと宝物庫のカイ・ウェルス四体との交換と、この書簡の件ですね」

「そうよ。急いでちょうだいね」

「わかりました。書簡の方は戻り次第担当者にお渡ししますがコップの件は王女殿下の鑑定署名があるとは言え品が無いと難しいかもしれません」

「それは、そうね」


 システィは考え、役人に言った。


「とりあえず一体とコップを交換して、王都での鑑定結果に従い何体か渡してくれればいいわ」

「わかりました」

「どうせ掃除と整頓しかしてないんだからケチらないでね。食べ物の恨みは怖いわよ。勇者級三人でも一方的に殺されたからね」

「は、はい……そのように伝えます」

「くれぐれも、急いでちょうだい」

「はい」


 システィは役人を少し脅かして退室させた。

 妙な気を起こさせないためである。役人に横着などされてはたまらないのであった。


「さて、こっちも伝えに行かないと」


 システィは立ち上がり、彼女の装備を身に着けはじめた。

 ランデルでの仕事はひと段落付いた。

 こちらの意を伝えた役人は速やかに仕事を遂行するだろう。

 カイのコップ以外はどのような手段を使おうがシスティは関知する気は無い。それは役人の問題である。


 元々ドライフルーツ収穫の手伝いに行くつもりではあったが今はカイに急ぎ伝えることがある。彼に収穫祭の事を伝え元凶達に釘を刺してもらわなければならない。


 ついでにコップと戦利品カイの交換を王都に伝える事もカイに教えねば。

 一刻も早くコップを手放したいカイは物々交換に文句を言いそうだが、それはシスティの知ったことではない。


 すぐに準備を整えたシスティは宿を出てソフィアに同行を要請し、念のために冒険者ギルドでカイの動向を確認してエルフの畑へと向かった。

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世界樹エルフ
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