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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
一巻発売記念月間 ランデル領館に頭を抱える領主を見た!
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51.喜んだり嘆いたり忙しいなお前ら

『よし。集まったな』


 竜峰ヴィラージュ、バルナゥのダンジョン。

 集まった皆を見下ろし、バルナゥが厳かに告げた。


『皆も知っているだろうが、先日アレクがしこたまカイズを願ったせいでダンジョンのマナの流れがすこぶる悪い』


 語るバルナゥを見上げるのはマリーナとシャルを加えたカイ一家にバルナゥ一家、そしてアレクとシスティ、カイハンドレッドワンからハンドレッドナイン。

 やらかした側とやられた側、そして作られた側だ。


『そうだぞアレク』『お前、やりすぎだよ』

「アレクさんのカイさんへの執着には困ったものです」

「だってカイだよ? カイなんだからやり過ぎても足りないくらいだよ!」「『『『やかましい!』』』」

「えーっ……」『あらあら』


 バルナゥ、ソフィア、ルドワゥ、ビルヌュがやらかした側のアレクに怒鳴る。

 カイハンドレッドシリーズをしこたま願ったせいでバルナゥのダンジョンは異界から激しい攻撃を受け、ちょっと困った状態になっているのだ。


 マナ腐りである。


 アレクがカイズを願いマナをしこたま使ってダンジョンのマナを枯渇させてしまった結果、雑菌が繁殖……異界の者が大攻勢をかけてきたのだ。


 ダンジョンを流れるマナは川のようなもの。

 マナの流量はダンジョンの活力。

 流量が多ければダンジョンは主の願いを受け敵対者を排除するため、異界の者がそこまで大量に増える事は無い。


 しかし流量が減って澱んだり枯渇したりしてしまえばダンジョンは機能不全に陥り異界の者は繁殖する。

 排除される者よりも流入する者の方が多くなるのだ。


 マナ腐りというのは異界の侵入者があまりに多く流入した事で起こるマナの汚染であり、マナに侵入者の願いが乗って願いが歪んでしまう事だ。

 ドブが臭いようなもの。掃除が必要なのだ。


『……と、いう訳だ。主の間のマナが臭くなる前に流れを綺麗に戻したい』


 こごてバルナゥは一旦言葉を切り、ギロリとやらかし側を睨み、告げた。


『汝らに後始末をしてもらおう』

「「「ええーっ!」」」


 アレク、システィ、そしてカイが叫ぶ。


「だってカイじゃないか!」『意味がわからぬぞアレク』

「うわぁ……私も掃除するの?」『願ったのなら後始末をする。当然の事だ』

「なんで俺が」『汝がそもそもの元凶ではないか!』

「えーっ……俺なの?」

「えう」「ぬぐぅ」「ふんぬっ」

「「「ぶぎょーっ」」」

『あらあら』『わぁい』


 バルナゥの中ではカイはやらかし代表らしい。

 願われただけで元凶扱い。踏んだり蹴ったりなカイである。

 唖然とするカイをバルナゥは見下ろし、今度は穏やかに語り始めた。


『しかし戦いに慣れておらぬ汝にダンジョンのドブさらいは酷だというのも我には良く分かっている。故に今回願い生まれたカイズを使わせてもらう』

「いや、カイズだって俺なんだから戦いには慣れてないだろ」

「カイはへなちょこだからカイズもへなちょこじゃないえうか?」「む。多少力があっても技術はへなちょこ」「経験もへなちょこなのですから戦力にならないのではありませんか?」

「……そうだよな。うん」


 ミリーナ、ルー、メリッサの言葉がカイの心に突き刺さる。


「「「「カイワン。しょんぼりするな!」」」」

「お前ら……」


 そしてカイズに励まされるカイである。

 元はカイなのだからカイズもへなちょこ。

 特にここにいるハンドレッドワンからナインは生まれたばかりのカイズ達。カイとそれほど変わらないはずなのだ。


「あ、それは僕が仕込んだよ? システィに頼まれたから」

「えーっ……」


 しかしそこはさすがシスティ、抜かりない。


「そりゃまあ色々な事をするからね。とっとと教育して一人前のカイズとして働いてもらわないと私も他のカイズも困るもの」

「いやー、ハンドレッドワンからナインは超高性能だからあっという間に強くなったよ。今やエルフ勇者並さ」

「アレク……お前、余計な事は本当に素早いな」「ええーっ!」


 カイには常に全力なアレクに呆れるカイである。


『まあ、そういう訳だ。ドブ掃除は人海戦術。一気にバッと掃除して綺麗にすればそれで終わりだ。今日一日でカタをつけよう』

「なるほど。それなら火曜日にすれば祝福で一気に流せたのに」


 普段は妻達からへなちょこと言われるカイも、祝福があればほぼ無敵。

 しかしそんなカイをイグドラが静かに止める。


『カイよ、異界を貫いたダンジョンでおおっぴらに神の力を流すと相手側の神と殴り合いになる可能性があるのじゃ。神の力の応酬など見たくはあるまい?』

「ああ、そりゃそうか」


 相手がやるならこっちも容赦しない。

 守る側ならとにかく攻める側でこれをやったら相手の神もブチ切れる。

 やった者勝ちのように見える神の世界にも色々あるのだ。


『では、ソフィア、ルドワゥ、ビルヌュ、マリーナ……頼むぞ』

「わかりました」

『ビルヌュ、今度は虫とか鼠とかに注意しろよ?』『強烈虫避けブレスがあるから』『いや倒せよ。殺虫しろよ』

『まずそうですねぇ……』


 バルナゥ一家がのっしのっしとダンジョンへと潜っていく。

 強力な力を持つ竜は汚れを一気に落とす担当だ。


『じゃ、僕も食べて来るねーっ』

「おう。シャルも気をつけてな?」

『はーいっ』


 しゅぱたたた……

 次に行くのは幼竜に匹敵する力を持つ世界樹シャル。

 分割しても強いシャルはバルナゥ一家の後ろで残った汚れを落とす担当。


「じゃ、次は僕達だね」「ここで戦った事はないけれど、人間でも何とかなるのかしら?」「ソフィアが戦えるんだから大丈夫だよ」「いや、ソフィアは人の形をした竜でしょ……」「あはは。まあバルナゥがやれと言ったんだからできるでしょ」


 最後がアレク、システィとカイズ達。

 ダンジョンの浮いた汚れを綺麗に拭き取る仕上げ担当だ。


「よし、カイワンのすごい所を見せてやろう」「カイワンだってやれば出来る」「妻と子に、かっこ良い所見せましょう」「「「おう!」」」


 先程妻達にへなちょこ扱いされた事がショックだったのだろう、招集されたカイハンドレッド達はやる気満々。アレクらと共にダンジョンへと消えていく。

 後に残ったのはカイ、ミリーナ、ルー、メリッサ、そして子らだ。


「みんな行っちゃったえう」「む。芋煮作る」「そうですね」

「「「ぶぎょーっ」」」

「じゃ、俺はカイズへの情報伝達だな」


 妻達と子らはカイに付いて来ただけだが、カイにはきっちり仕事がある。

 主の間でダンジョンの拭き残しを確認する事だ。


 かつてのイグドラのダンジョン程ではないがバルナゥのダンジョンも広大。

 全てを確認出来る主の間で、残った汚れをカイズに知らせる仕事があるのだ。

 カイが見るダンジョンの主戦場ではバルナゥ一家の戦いがすでに始まっている。


『滅びよ!』

『『とりゃーっ!』』『あらあら』

「家の汚れは心の汚れ。きっちり綺麗に仕上げましょう」


 まずバルナゥがこびりついた大きな汚れをブレスで落とし、ルドワゥ、ビルヌュ、マリーナら幼竜とソフィアが細かく頑固な汚れを落とす。

 ブレスを吹きながら進む竜の一家はまさに無双。異界の者が散り散りになって逃げていく。


『『『いただきまーすっ!』』』


 逃げたそれらを食うのがシャルだ。

 何でも食らう世界樹は、やがては異界を主食とする。

 だから異界もバクバク良く食べる。


「僕達の異界討伐もこのくらい楽だといいよねシスティ」

「こんな贅沢な異界討伐、人間にはムリよ」


 その後に続くのがアレク、システィ、そしてカイズだ。

 シャルで全部終わるんじゃないかと思っていたカイだが汚れはきっちり残っている。システィの指揮のもと、アレクとカイズが敵と戦っていた。


「うわぁ……カイズ、すげえな」


 勇ましく戦うカイズにカイが感嘆の声を上げる。

 迫る敵を聖剣『心の芋煮鍋』で煮込む様はカイとはまるで別物だ。


 時に分割し、時に合体して大小の汚れにきっちり対応。

 妻達のへなちょこ連呼払拭の為に張り切っているのだ。


 が、しかし……

 ミリーナもルーもメリッサも、そんな事をカイに求めてはいない。

 妻達にとってはへなちょここそカイ。へなちょこラブリーなのである。


「カイっぽくないえうね」「む。芋煮がんばろう」「そうですわね。芋煮をしっかり煮込みましょう」

「「「ぶぎょっ」」」

「……ああっ、カイズが、カイズが目に見えてがっかりしてる!」


 妻達がスルーしている事を知ってがっかりしているカイズである。

 明らかな戦力ダウン。

 これはまずいとカイが思っていると、妻達は芋煮の準備をしながら笑う。


「大丈夫えうよ」「む。カイはがっかりしてもちゃんとやる」「そうですわ。へなちょこでもきっちりやるのがカイ様でございます」

「「「ぶぎょっ」」」

「あ、カイズが元気になった……」


 妻達の信頼の言葉に今度は元気になるカイズだ。

 カイから伝わる妻達の情報に一喜一憂。

 何とも忙しい奴らである。


 やがて皆はダンジョンの汚れをきっちり落としてマナ腐れの原因を解消。

 ヴィラージュのダンジョンを以前と同じ状態までに復旧させた。

 掃除完了である。


「お帰りえう」「芋煮、できてる」「カイズ達も食べますよね?」

「「「ぶぎょーっ」」」

「「「「いただきます!」」」」


 そして戻ったカイズは妻達の芋煮に涙を流し、転がり登る子らに涙を流すのだ。


「おお、これが愛妻芋煮」「素晴らしい、これは素晴らしい!」「記憶にはあるが直接食べると感激半端無いな」「妻達の手作りだからな」「妻素晴らしい!」「子も素晴らしい!」

「「「カイワン! これからも俺たちの癒しを頼むぞ!」」」

「いや、お前らのために生きてる訳じゃないから」


 感激するカイズ達に、カイはすぐさまツッコミを入れた。

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一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。

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