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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
一巻発売記念月間 ランデル領館に頭を抱える領主を見た!
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45.メリッサ、あの時の薬草を育てる

「では、お願いしますねメリッサ」

「おまかせください。師匠」


 エルネの里、カイ宅。

 用件を終えて去るソフィアにメリッサは深く頭を下げた。


 メリッサにとってソフィアは回復魔法を教わる師匠。

 今はどちらも忙しくなり教え教わる時間を持つ事も難しくなったが、ソフィアが師匠である事に変わりはない。

 ピーでないメリッサは礼儀正しく真面目なのだ。


『僕が送ろうかー?』

「ヴィラージュは近所ですから大丈夫ですよ。それでは……よいしょっ!」


 ずばん!

 轟音と共にソフィアが跳ねる。

 一度のジャンプで適度な高さまで跳ねたソフィアはヴィラージュを見据え、シャルのように空間を駆けていく。


 エルネは竜峰ヴィラージュのふもとで登山道もあるが、エルフの足でもそれなりに時間がかかる。

 そんなヴィラージュを近所と呼び空を駆けるソフィアは、さすが竜の祝福を受けた竜の妻。

 人前ではあまり見せないが、人やエルフの力を大きく超えている。


 メリッサはソフィアの姿が見えなくなるまで見送って、雪に覆われたヴィラージュの頂にもう一度頭を下げた。


「今、なんか大きな音がしたけど」


 轟音が気になったのだろう。玄関を開いてカイが現れる。


「師匠ですわ。カイ様」

「ああ、ソフィアさんか」


 すごい帰宅だな……そんな表情でカイはヴィラージュの頂を見上げている。

 ついさっき帰ったと思ったらもう姿すら見えない。

 竜の妻すごい超すごい。


「それで、何の用だったんだ?」

「薬師ギルドから相談されたそうで、効果の高い薬草の栽培を頼まれたのです」

「へー」

「何でも、ありふれた薬草が採れすぎて……その、売値が下がって困っているそうですわ」

「うわぁ……ソフィアさんごめんなさい」


 ヴィラージュに向かいカイがペコリと頭を下げた。

 このあたりの事はだいたいカイのせいである。

 エルフは人間と違って植物の栽培に時間がかからない。ハラヘリ欲しさにエルフがガンガン栽培するので売値が下がってしまったのだ。


 ちなみにペネレイでも同じような事が起こっているらしい。

 再び謝るカイである。


「これまでよりも高い薬効で、さらに製法が同じならなお良いそうです」

「なかなか難しい注文だな」


 製法が異なれば模索と熟練が必要となり経費がかかる。


 ランデルのありふれた薬草から作った薬は他の物よりも薬効が高いのです……薬師ギルドが考えているのはこんな薬なのだろう。

 正直、かなりわがままだ。


 ありふれた薬草の絞り滓を練り込んだ歯磨き粉を売り歩くカイにとっては原価が下がって嬉しい事だが、人は歯磨き粉だけで生きるにあらず。

 新商品も客も金も評判も必要なのだ。


 青空眩しい家の前、カイとメリッサはしばらくうーんと考える。

 思いついたのはカイだった。


「あ、あれ作ればいいんじゃね?」「はい?」「ほら、メリッサが取ってこいを始めた頃にあったじゃん」「……ああ! あれでございますか!」


 カイの言葉にメリッサが叫ぶ。

 カイが思いついたのはメリッサがまだ取ってこいがうまく出来ずに苦悩していた頃の産物。

 高品質のありふれた薬草だ。


「確かにあれなら注文にぴったりですわ! さすがですわカイ様!」

「で、あれってどうやって作ってたんだ?」

「カイ様の為と丁寧に、丁寧に祝福を捧げて育てていたのでございます……残念な事にカイ様のお役には立ちませんでしたが」

「ごめんなぁ」


 あの頃のカイはこっそりエルフと関わるしがない下級冒険者。

 そんな薬草を売って注目される訳にはいかなかったのだ。


「ですが今なら薬師ギルド公認です。あの時の苦悩が役に立つ時が来ましたわ」


 今こそリベンジとメリッサは拳を握る。

 しかしカイは首を傾げ、遠慮がちに呟いた。


「んー、でも丁寧に作ると行商で離れた時とかどうするんだ?」

「あうっ……それはダメですわとてもダメですわ。私のオシャレ行商を待っているエルフの乙女は多いのでございます。ミリーナとルーが行くというのに私だけが留守番とかありえませんわ」


 当たり前だがメリッサに留守番という選択肢はない。

 困った、困ったと頭を抱えるメリッサだ。

 そんなメリッサの横、カイが空を見上げて問いかける。


「イグドラ、どうすればいい?」

『簡単な事よ。そこの芋煮ダンジョンで育てれば良いのじゃ』


 さすがカイに付きまとうストーカー神である。

 期待通りの即答だ。


『祝福とはぶっちゃけてしまえばマナを注ぐという事じゃ。マナを吸い上げるダンジョンならばマナは豊富。そこらで育てるより強い薬草が作れるじゃろう』

「なるほど」


 そしてさすがは世界の神。あっさり正解を教えてくれた。

 えこひいきだ。


 メリッサとカイは移動に使う芋煮風呂ダンジョンの適当な場所に土を入れ、祝福でありふれた薬草を芽吹かせる。


「これを普通の祝福で育てるのですね?」『そうじゃ』


 丁寧ではなく普通に。

 子らに捧げる芋煮ダンジョンの一角で、メリッサはありふれた薬草を普通の祝福で育てていく。

 育った薬草は期待通りの薬効のものだ。


「できましたわ! あの時と同じ高品質のありふれた薬草ができましたわ!」

「やったなメリッサ」

『当然じゃ。神じゃからのぉ!』


 ソフィアを呼んで見せれば、ソフィアも納得の出来だ。


「ああ、これならヴィラージュに畑を作れば作れますね。そこら中でありふれた薬草を作りまくるハイエルフを雇って作ってもらいましょう」

「師匠。私が作るのではないのですか?」

「ここでは狭すぎるでしょう? それなりの量が作れないといけませんから。うちはこことは違って五万階層以上ありますから、良い段々畑ができますよ」


 ダンジョンを薬草畑に使う。超絶もったいない。


 さすが伝説の花をおひたしにして食べる女ソフィア。ミスリルや魔石や宝石を食べる幼竜らにもったいないと語る彼女の感覚もやっぱり相当ずれていた。

「メリッサ、『取ってこい』に苦悩する」はとらのあな様の購入特典小説です。


誤字報告、感想、評価、ブックマーク、レビューなど頂ければ幸いです。


一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。

盆休みの締めくくりにぜひどうぞ。

よろしくお願いいたします。


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よろしくお願いします。
世界樹エルフ
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