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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
一巻発売記念月間 ランデル領館に頭を抱える領主を見た!
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44.今となっては良い思い出

「むふん……」


 朝。

 エルネの里、カイ宅。

 寝室の大きなベッドの上、ルーはムクリと体を起こした。


 窓の外はすでに明るく、もうすぐ日の出が近い事をルーに知らせてくれる。

 横を見ればカイ、ミリーナはまだ夢の中。

 眠るとピーになるメリッサは入れ替わりのときなのか、カイの横で眠って……


「るるっぱ」「む。静かにする」


 いなかった。

 ピーがカイの横で寝ていたいだけだった。


「「「ぶぎょーっ……ぶぎょーっ……」」」


 そして眠るマリーナの上、子らも転がり眠っている。

 ルーは彼らを起こさないように、静かにベッドを出た。


 カイ一家は皆、寝覚めが良い。

 だから皆もすぐに起きるだろう。

 服を着たルーは音を立てずに寝室を出た。


『おはよー』「む。おはよう」


 シャル家に挨拶をしたルーがまず手に取るのは……鍋だ。

 カイに初めてもらった鍋は、今ではルーの宝物。

 今日も鍋を手に取り感謝の素振り。ルーは玄関を出てエルネの広場に立つ。

 そして鍋を振り上げて、勢いよく振り下ろした。


「むふんっ、むふんっ……」


 ぶんっ……ぶんっ……

 風を切る音が心地よい。

 今日も鍋強い超強い。ルーはにっこり満足だ。


「おはようルー。今日もいい音だな」「むふん。おはようカイ」


 鍋をぶんぶん振っているうちに起きてきたのは夫のカイだ。


 芋煮露天風呂掃除担当。

 カイはマリーナが残り芋煮をきれいさっぱり平らげた湯船に水の入った桶を置き、たわしで湯船をこすり始める。


「カイ、いつもありがとう」「まあ、マリーナが残り湯を食べるから汚くはないんだけどな」「む。マリーナすごいブレス超すごい」


 竜すごい超すごい。

 だからカイの掃除もとても楽ちん。

 わずかにこびりついた煮汁跡を落として水で流し、雑巾で軽く拭けば完了だ。


「よし」「むふん」


 カイの掃除終了はルーの素振り終了の合図。

 ルーはカイと肩を並べ、カイ家の玄関をくぐる。

 家に戻れば子らを除く家族はもう起きていた。


「ルー、カイ。おはようえう」「おはようございます。さあ、今日の芋煮を作りますわよ」

『おはようございます』

「おはよう」「む」


 ミリーナが材料を洗い、メリッサが皮を剥く。


『では私は、長老の所に朝の挨拶に行ってきますね』

「行ってらっしゃい」「む」


 朝食の準備をする中、幼竜マリーナは外へのっしのっしと歩いていく。

 マリーナは頼れるエルネの姐さんだ。

 目につくゴミをもっしゃもっしゃと食べながら料理店を営む長老の家まで出向き、仕込みの味見とダメ出しをしてご飯を食べて戻るのだ。


 竜の徘徊するエルネの里はいつも平和。

 そして竜が掃除するエルネの里はいつも清潔。

 長老のご飯はその報酬なのだ……たぶん。


「ルー、煮込み準備が出来たえう」「む」

「じゃ、俺は道具の手入れだな」


 ルーは芋煮へ、カイは道具の手入れと確認へ。

 軽く汗を拭いた二人は互いの仕事場へと歩き出す。


 ルーは手にしていた鍋を、台所の棚にそっと置く。

 今はもう、この鍋で煮込む事はない。

 この鍋の大きさでは家族のご飯に足りないからだ。


 代わりに使うのはエルトラネ製の聖剣『心の芋煮鍋カスタム』。

 サイズ自在のすごい鍋だ。

 そしてかまどはシャル熱。

 まったく便利。超便利。


「むふん」


 振っていた鍋が使われていた頃を思い出してルーは笑う。

 呪われて火が使えなかった頃のエルフはあったかご飯を作れない。

 全部カイに押しつけだ。


 そして呪いが祝福に変わった今はルーの仕事。

 良い時代になったものだ。


「水よ」


 ルーが鍋に水を満たし、材料をポイポイ放り込む。

 味付けすれば煮込みはシャル熱におまかせだ。


「ルー、今日の鍋素振りはどうだったえう?」「む。今日も好調。絶好調」「懐かしいですわね。カイ様があの鍋をお使いになっていた頃は……ピーでしたわね私」「「がんばれ」」


 まったく良い時代になったものだ。


「何とか二人で料理を作ろうとアホな事をしたえうね。ルー」「む。ミリーナかまどはまったくダメだった」「えうっ!」「熱超足りない」「人肌だから仕方がないえう」「今こそリベンジ」「鍋底冷たいから嫌えうよ!」「むふん。今となっては良い思い出」「思い出に留めておくのが幸せえう」「む」


 本当に、まったく良い時代になったものだ。


 ルーはときどき鍋をかき混ぜ、クツクツと煮込まれる芋煮の香りににんまりだ。


 ぶぎょーっ……


 煮込む芋はやがて叫び、一家にできあがりを告げる。

 今日も絶品奉行芋煮。幸せを告げるぶぎょーの叫びだ。


 エルフの料理の人の奉行芋煮はそこらの奉行芋煮と格が違う。

 絶品中の絶品だ。


「「「ぶぎょーっ!」」」


 叫びを聞きつけ子らがころころ転がってくる。

 イリーナ、ムー、カイン。

 カイとの子は今日も元気によく転がり、母の胸に転がり上がる。

 そんな子らを抱き抱え、胸をはだける母達だ。


 ちぅーっ……

 子らが母の乳を吸う。

 エルフは五歳くらいまでは赤子。だから三歳の子らもまだまだ赤子だ。


「まだまだ赤ちゃんえう」「む」「ふふ。でもそろそろ乳離れですわ」


 ミリーナ、ルー、メリッサが子らを抱えて笑う。


「お、出来たな」

『ただいま帰りました』

「えう」「む」「はい」


 幸せの叫びは家族も呼ぶ。

 カイ一家、朝食の時間だ。

 皆で芋煮を椀によそい、席に着いて頭を下げる。 


 今は土下座も頭突きも必要ない。

 一家が頭を下げるのは、食べられる事への感謝のためだ。


『「「「「いただきます」」」」』

「「「ぶぎょーっ!」」」


 そして家族が美味しそうに芋煮を食べる姿を見て、ルーは幸せに笑うのだ。


 本当に、まったく良い時代になったものである……

「ルー、料理に挑戦する」はアニメイト様の購入特典小説です。


誤字報告、感想、評価、ブックマーク、レビューなど頂ければ幸いです。


一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。

盆休みの締めくくりにぜひどうぞ。

よろしくお願いいたします。


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よろしくお願いします。
世界樹エルフ
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