42.さすカイ友の会
火曜日の夜。
ランデル領館、執務室。
「さあ! 今日はカイの日だから気持ち良くカイの話をしよう」
『アレク、カイの事好き?』
「大好きだ!」『僕も大好き!』「さすがシャル」『えへーっ』
『なるほど。我は汝らほどではないが、カイには一目置いている』
「いつもしょぼくれてるわふんけど、やる時はやるわふん」
「だよねー」『わかってるー』『うむ』「わふんっ」
ルーキッドは久しぶりに頭を抱えていた。
「領館で何をやっているんだ、お前らは……」
「『『さすカイ』』」「わふん」
「アホか!」
執務室にいるのはシスティに連れられて来たアレク、金貨磨きに入り浸る分割金貨磨きシャル、そしてバルナゥにエヴァンジェリンだ。
領主、世界樹、竜に犬……いや、忠犬、忠犬、でかい犬、姉犬か。
これら四者がルーキッドの執務室に居座り、カイ談義に花を咲かせようとしているのだ。
アレクを連れて来たシスティは火曜日だから仕方ないわねと、ソフィアとランデルにあるビルヒルト領館別館へと戻ってしまった。
カイは火曜日だから当然のようにアトランチスで天地創造。
カイ、システィ、そしてソフィア。
犬どもを止められる者がいない。
ちなみにエヴァは自由な犬なので誰にも束縛される事は無い。
ここは自らの足で立つ町ランデル。
だからエヴァも自らの足で立つ犬なのである。
「あぁ、思い出すなぁ初めて会った日の事を。奴隷でロクに食事も食べられず、もうダメだと森をさまよっていた僕にカイがくれたあのご飯。あの日から僕はさすカイなのさ。さすカイーっ!」『食べ物だーっ』
「懐かしいわふん。餌をちらつかせるカイのしょぼくれた可哀想な顔。あまりの不憫さに撫でさせてあげたわふん」『また食べ物だーっ』
『我は陰湿者に叩き落とされた先がカイが串焼きをしている場であった……見事に焼かねば陰湿者に殴られるというあの時の切迫感。カイは今も知るまい』
『みんな食べ物絡みだねーっ』「『カイだから』」「わふん」『わぁい』
さすがカイだな……
安定の全員食べ物絡み。
皆の出会いにさすカイなルーキッドだ。
『僕は生まれてからずっとカイが世話してくれるんだー。だから今の僕の体のほとんどはカイの祝福なんだよーっ』「奴隷時代なら僕も体の八割はカイのご飯だったね」「さすがに二割もいかないわふんっ」『汝ら、カイの食に頼り切ってるな……不憫な』
お前、昔から貧乏なのになぁ……
そして結構食わせている。
カイの納税書類を思い出してさすカイなルーキッドだ。
「そして僕の奴隷代金の半分はカイが出してくれたんだ」『さすカイ!』「さすカイわふんっ」『それはなかなか出来る事ではないな。まさにさすカイ』
「返してないから僕の半分は今もカイの物なのさ!」『勇者なのに返さない!』『そして領主になっても返さない。さすカイ過ぎるぞアレク』「わふんっ」
さすがにそろそろ返してやれアレク……
と、ロクに催促もしない貧乏人にさすカイなルーキッドだ。
まあ、そんな所がカイがさすカイな所なのだろう。
ご飯で皆と縁を結び、結んだ者同士をさらに結びつけて神と世界を救った。
まさにあったかご飯の人。そしてさすカイだ。
だから彼を慕う犬達の会話は途切れる事なく続き、執務室はさすカイ論議であふれるのだ。
……まあ、しばらく聞いているのも良いだろう。
ルーキッドは執務席に深く座り、犬達のさすカイに耳を傾ける。
そして……
「わぁ、綺麗な朝日ださすカイ」『わぁいさすカイ』「さすカイわふん」『なかなかに良い徹夜であった。さすカイ』
「……」
さすカイで徹夜してしまった……
そして、二日連続で頭を抱えるルーキッドだ。
そんな中、カイが領館を訪れる。
火曜日の帰りに商品を仕入れるためランデルに寄り、システィに頼まれアレクを迎えに来たのだ。
「なんだアレク、そんなフラフラで。徹夜か? 徹夜なのか?」
「さすカイで語り明かしちゃったよさすカイ」『わぁいさすカイ』「さすカイわふん」『うむ、有意義なさすカイであったさすカイ』
「語尾がおかしいぞお前ら!」
「『『さすカイ』』」「わふんっ」
徹夜明けの謎テンションで語る皆。
「えう!」「ぬぐぅ!」「ふんぬっ!」
そして皆の謎語尾に反応するカイの妻ミリーナ、ルー、メリッサだ。
「さすカイなら第一回忠犬選手権優勝のミリーナに任せるえう!」「むむむ今こそ私が一番になる時!」「三番でしたが今度は負けませんわ! あれから磨いたこの忠犬、今こそ見せる時ですわ!」
「あははっ。君らがカイの奥さんでも、さすカイの頂点は譲れないよさすカイ」
謎の語尾で自信満々に笑うアレク。
ミリーナが叫ぶ。
「これから第二回忠犬選手権を開催するえう!」
増えた……
さすカイが、増えた……
と、頭を抱えるルーキッドだ。
「カイよ」
「何でしょう、ルーキッド様……」
さすカイは理解したが今日はもう水曜日。
これ以上のさすカイは健康と執務に関わる。
ルーキッドは出口を指差し笑う。
「よそでやれ」
「申し訳ありません!」
カイは即座に土下座した。
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