41.シャル、自分を考える
『お掃除しまーす』『シャル馬車アシストーッ』『十ハラヘリ金貨は九ハラヘリと両替でーす。まいどーっ』『ご注文の料理をお持ちしましたー!』『へい料理お持ちっ』……
宇宙で石ころを食べまくってしばらく。
シャルはいつものようにカイと仕事に勤しんでいた。
身の丈百五十メートルとなったシャルは家、馬車、両替樹、道の駅、料理樹と大活躍。何でも出来て何にでもなれる世界樹の能力をこれでもかと発揮中。
そんなこんなで一日が過ぎていく中、最近シャルの様子が少し変わった。
『うーん……』
くねり、くねり……
時々何かを考えるように幹をくねらせるようになったのだ。
暇な時は無邪気にしゅぱたと駆けていたシャルが何かを考える。
そんな姿を見て笑みを浮かべるカイである。
「大人になったのかな?」
「成長えう」「む。我思う故に我あり」「シャルは本当に成長が早いですわ」
考え悩むのは経験がなければ出来ない。
成長の証だ。
「ミリーナも子供の頃は色々考えたえう」「私も考えた」
「「ご飯は常に必死」」
「お前ら、切ねぇなぁ……」
呪われていた頃のエルフは子供の頃から食に全振り。
だから今も食に全振り。幼い頃の強烈な記憶は生涯に渡って影響を与えるのだ。
「スピーと一緒に裸踊りして長老に怒られたえう」「む。ペネレイ場所取りは常に戦い。どんどんランデルに近付いて長老に怒られた」「仲間えう」「なかーま」
「うらやましいですわ。私の子供の頃は……すぐピーになってしまったのであまり思い出がありませんの」「「「がんばれ」」」
暗い顔でフフフと笑うメリッサに頑張れと言う皆である。
カイもがんばれとメリッサの肩を叩き、シャルに仕事だと声を掛ける。
「おーいシャル、そろそろ仕入れに行くぞーっ」『はぁーいっ』
考えろ、考えろ。
今は答えが出なくても、いずれは答えが出るだろう。
自分なりの答えを出すにはさらなる経験が必要。
それはカイの近くででしゅぱたしても得られない。
様々な人との関わりが、それをシャルに教えるだろう。
「よし、行こう」
「えう」「む」「はい」
『しゅっぱーつ』
ひひーん、ぶるるっ……
シャル馬車が動き出す。
カイはシャルの良き成長を願うばかりだ。
行き詰まったら俺に聞くんだぞ?
どのカイでもいいから。
カイがシャルに聞く事はない。
人に悩みを打ち明けるのも経験だから。
そんな日々が続いたある夜、カイのひとりがシャルの悩みを聞くのである。
『僕……宇宙で暮らした方がいいのかな?』
森の奥深くにある巡礼地。
シャルはシャル家のベッドで寝る戦利品カイに問いかける。
「ん? 別に今のままでいいんじゃないか?」
『でも僕、大食らいだし……かーちゃんも星で暮らすには力を盛り過ぎたって言ってたし、宇宙の方が迷惑かからないんじゃないかって……」
「アホか」
『あたっ……』
ぺちん。
戦利品カイがシャル家の壁を叩いた。
「お前みたいな寂しんぼに宇宙一人暮らしが出来る訳ないだろ。世界樹がそんな生き物だからって、わざわざ星を渡る必要なんて無いんだよ」
『そうなの?』
家を傾げるシャルに戦利品カイが頷く。
「バルナゥに学べ。二億歳を超える世界の盾、ぶっちぎり最強生物なのに今は領館で金貨を磨いて悦に入るだけのでかい犬だ」
『そうだね』
「でも、あんな情けない様を晒してもバルナゥ本人はすごく楽しそうだろ」
『うん』
「あんな風に自分で決めればいいんだよ。それが迷惑なら回りがちゃんと迷惑じゃない生き方を教えてくれるさ。ルーキッド様もバルナゥを蹴り飛ばしてるだろ?」
『そっかぁ……そっかぁ!』
シャル家がしゅぱたと喜びに踊る。
「だからお前も好きに生きて、そして好きに食べろ。あ、でも食べ過ぎて異界は勘弁な。迷惑だから」『わぁい』
「そして今は寝ろ!」『はぁい』
そして次の日、さっそく領館に行くシャルである。
『……なんだ?』『僕も金貨磨くーっ』
『ふむ。クソ大木の子だというのに殊勝な事よ。この輝きの素晴らしさはルーキッドと我の思い出。心して磨くが良い。おおーふルーキッドともだちー「やかましい」……おおーふっ』『わぁい』
力の差は圧倒的でもルーキッドとバルナゥの立場は対等だ。
……まるで僕とカイの関係みたいだ。
二人の姿に自分を重ね、しゅぱたたくねりとシャルは踊る。
自分で考え生きればいい。
それでダメならカイがちゃんと止めてくれる。
これが共に生きるという事なんだ。
と、金貨を枝葉で磨くシャルだ。
シャルはカイと共に生き、考え、叱られながら成長する。
世界樹でもシャルはシャル。心のままに生きるのだ。
『月を食べに行ってくるーっ』「あまり食うなよーっ」『はぁい』
イグドラもそんな我が子ににっこりだ。
『おぉ、余の子はすくすく育つのぉ』
「イグドラ、お前も宇宙で飯食ってれば良かったのに」
『同じ世界樹でも格が違う。余が駆ければ星がすっ飛ぶぞ?』
「あー……お前、突然変異扱いなのか」
『ぐぬ! ま、まあその通りじゃ。前にも言うたが余の子は余の刹那ほどにもならぬからのぅ。力の桁が二十近くも違ければ、もはや同じ種とは言えぬじゃろうな』
「あー。お前、神だったな」『何おう?』……
そして子の成長は親の喜び。
カイとイグドラ、二人の親は今日もシャルの話で盛り上がるのだ。
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