40.世界樹は命のたまご
作家メシにて私の手抜きご飯が公開中。カイよりひどいぞ(笑)
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いわさき先生のご飯もチェックだ。
一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。
続刊にご助力頂けると幸いです。
よろしくお願いいたします。
『ぎゅうううああああーんっ!』
『もっしゃもっしゃ……カイ、味付けを。竜牛味です竜牛味』
「はいよ」
ばくばくばくばくもっしゃもっしゃ……
宇宙。
マリーナとシャルがぷかぷか浮かぶ石ころを食らう。
放っておけばやがては星へと堕ちる隕石となる石ころは、それなりに大きい。
そんな石ころをマリーナとシャルはもっしゃもっしゃと食べていく。
『うわぁい。大人しいから食べ放題だーっ』
「そりゃ、石ころだからな」
マリーナの食欲もすごいが数万に分割したシャルはもっとすごい。
石ころに根付いて砕いて食らい、また別の石ころへしゅぱたたと駆けていく。
そして時々分割し、数を増やしてより多くの石ころを食らうのだ。
「ねずみ算だな」
「どんどん増えていくえう」「む。さすがシャル。半端無い」「あっという間に減っていきますわ」
二兆なんて出来るかよ。
と、思ったカイだが桁ならたったの十三桁。
石ころをいくつか食らえば分割できる倍々シャルなら数十回分割すればすぐ届く。
見る間に増殖していくシャルを、シャル家で呆れて見つめるカイである。
『食べたーっ』『ごちそうさまでした』
「……おつかれさん」
倍々シャル恐るべし。
時間にしてたったの四時間。本当にあっという間だ。
『おぉさすが余の子。こっちも食べるか?』『食べるーっ』
しゅぱたたたた……
イグドラが星から引き離した数十兆の残りにも食らいつくシャル。
二兆と数十兆なら桁の差はたったの一桁。
シャルは数えるのも馬鹿らしい数に一気に分割し、石ころにしゅぱたと取り付きばくばくと食べきった。
『食べたーっ』『よし。これでしばらく星に隕石が堕ちる事はないぞ』『わぁい。カイもみんなも安心だね』
さすが世界樹。竜と同じく格が違う。
まさに世界のぶっちぎり生物だ。
『合体だーっ!』『『『うわぁい!』』』
全てを食べ終えたシャルはしゅぱたたたと集まり合体していく。
やがて大小およそ六十兆の石ころを食べた分だけ大きくなった大樹が、カイの前に現れた。
「でかくなったなー」
『えへーっ』
全高、百五十メートル。
あれだけ食べてもあまり伸びないなと思ったカイだが、世界樹や竜のマナ密度は他の生物や物質とは段違い。
密度を上げればこんなものなのだろう。
「じゃ、帰るか」
『はぁーい……あれ?』
カイ達の居るシャル家と合体したシャルは大きく枝葉を広げ、何かに気付いて呟いた。
『あっちの方……なにかいる』
「いや、星しか見えないが」
『すっごく遠く。ものすごく遠くに何かいるよ?』
「わからないえう」「むむむ?」「さっぱりですわ」
『あらあら』
枝葉をくねくねと広げながら星を見つめるシャル。
しかしカイ達が見ても無数の星だけ。
首を傾げるシャルに答えたのはこの世界の神、イグドラだ。
『余の子よ。それは別の星の命じゃ』『別の星?』『そうじゃ。この星のような命持つ星が世界にはたくさんある。そのひとつを見つけたのじゃな』『すごい?』『すごい。さすが余の子じゃ』『わぁい!』
イグドラの言葉に驚くカイだ。
「へー。世界はここだけじゃないんだ」
『当たり前じゃ。ここだけじゃったらここしか耕せんじゃろうが。神が汝らを世界に送るのは世界を耕すためじゃぞ』
「あー、そういやそんな事を言ってたな」
この世界の命は神が手を出せない細かい所を耕すためのもの。
大きな事を神が行い、細かい事をカイ達のような命が行う。
世界はそうして育っていくのだ。
『カイ、すごい? すごい?』「すごいぞ」『わぁい!』
『王じゃからのぉ。盛りに盛りまくったわ』「いや、お前は盛りすぎだ」『まぁ、その通りじゃのぅ……じゃから以前の芽吹きは悲劇じゃった』
八百六十万年前の事を思い出したのだろう。イグドラが静かに呟く。
『幼き心に破格の力。無邪気に食えばたちまち異界が現れ狡猾な主の餌食よ……カイよ、よくぞここまでシャルを育ててくれた。礼を言うぞ』
「お前が手伝ってくれなければそれも無理だった。本当に盛り過ぎだ」
『仕方ない。こやつは世界樹。世界となる樹じゃからのぅ』
「世界?」
『そう。世界じゃ。世界樹の世界はまさしく世界、いつかは一人で世界となり、皆をその身に宿して星を渡るのじゃ』
「そうか……」
やがては星を渡る生物。それが世界樹。
空間を掴み駆ける世界樹に駆けられない場所はない。
「だからお前は世界樹で顕現したのか。イグドラ」
『まぁ、星は壊れなかったがのぅ』
星が壊れても世界樹なら皆を宿して宇宙を渡れる。
イグドラが世界樹で顕現したのは植物の王であると同時に生きとし生ける者の『世界』となれる樹木であるからだ。
全てをマナとして食らい、何にでも変わる事のできる世界樹は世界をその身に作り上げ、命を宿しながら宇宙を駆ける樹木。
大規模な異界の侵攻で星が砕けても、世界樹が星の代わりとなれば多くの命を繋ぐことが出来る。
多くの命を救う為に、イグドラとベルティアが作り上げた命なのだ。
『いっその事壊れておれば余も楽じゃった。星の破片を食らって力をつけ、別の星でもう一度世界を作れば良いだけの事じゃった……中途半端に残ったのが運の尽きよ』
「よく頑張ったな」
『……ぬかせ。余はこの世界の神イグドラシル・ドライアド・マンドラゴラ。この世界の為に頑張るのは当然の事』「まあ、確かに当然だな」『何おぅ!』
命を宿し星を渡る生物、世界樹。
だがしかし……今となってはその必要もないだろう。
「エリザ世界を経由すれば、宇宙を渡る必要ないよな」
『……カイよ、それは禁句じゃ』
『存在全否定だぁ、うわぁん!』
「いいじゃんかシャル。のんびり気楽に暮らせよ、な?」
カイは笑った。
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