38.メテオイーター、シャル
一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。
続刊にご助力お願いしたします。
夜。
エルネの里、カイ宅。
「よぅし。芋煮張ったぞー」
「「「ぶぎょーっ!」」」
ころころころころぼちゃぼちゃぼちゃん……
カイの言葉に子らが転がり、芋煮へと飛び込んでいく。
カイ宅名物、芋煮露天風呂だ。
エリザ世界から流れ込む源泉掛け流しの芋煮は、エリザ世界に排水されてマナに分解され蛇口に戻り、もう一度芋煮となって芋煮湯船に流れ込む。
何とも贅沢な異界の使い方だなぁ……
芋の間を浮き沈みしながら泳ぐ子らをにんまり眺め、カイは奇怪な巡り合わせに感謝する。
芋煮を満喫する子らは満面の笑み。
芋煮だった頃を思い出しているのだろう。
芋煮から生まれた子らにとって芋煮鍋は生命のゆりかご。魂の故郷なのだ。
「カイ、一緒に入るえう」「む。家族芋煮風呂万歳」「そうですわ。芋煮が冷めない内にささ、早く」
「「「ぶぎょーっ!」」」
『あらあら』
「そうだな」
月が煌々と照らすエルネの広場で、カイはミリーナ、ルー、メリッサと共に服を脱ぎはじめた。
ついたても何もない広場のど真ん中で素っ裸なのも何だが、今は夜。
こんな時間に駆け込む来客もいないし里の皆も食事に夢中。
まったりゆったりナイトライフだ。
「よいしょ」
「ざばーんえう!」「芋煮あったかあったか芋煮」「はぁぁぁぁ、癒やされますわ。やっぱり一日の終わりは芋煮風呂ですわ」
『では私も』
ざぶーん……
カイ一家の入る芋煮風呂があふれる。
芋煮露天風呂はマリーナを含む一家が入れる広々設計。
芋煮は異界からあふれるので、マリーナがこれ以上大きくなっても楽々対応だ。
家シャルはさすがに無理だが。
『あらあらもったいない』
ぶおぉおおお……
マリーナがブレスであふれた芋煮を食べる。
「あったまるなぁ」
「月が綺麗えう」「星も素晴らしい」「いい天気で良かったですわ」
「「「ぶぎょーっ!」」」
『あらあら』
カイ達も子らのようにぷかぷか浮かび、芋煮の流れに身をゆだねる。
雲一つない天に月が輝き、星が瞬く。
静かで綺麗な夜である。
「指輪をもらった夜を思い出すえう」
「懐かしいなぁ」
「むむむ一緒に思い出す。あの勘違いはひどかった」「エヴァ姉さまをカイ様の思い人と勘違いしていた頃ですわね。恥ずかしいですわ」
『私はそのころ、ベルティア様とあーだこーだやってましたねぇ』
もう、あれから十年以上か……
星空を見上げ、カイは昔を振り返る。
本当に色々あったなぁ。
そして神はロクな事をしなかったなぁ。
今もロクな事をしないなあいつらは……
カイがそんな事を考えていると、天にキラリ輝くものが見えた。
「お、流れ星か?」
「えう?」「む?」「本当ですわ」
スウッ……
天を彩るひとすじの輝きを、ぷかぷか浮かびながら皆で見送る。
しかしマリーナは眼光鋭く、首を持ち上げ呟いた。
『あれは……堕ちますね』
「「「「ええーっ!」」」」
流れ星どころじゃない。隕石だ。
「どこに堕ちる?」『そこまではわかりません』
「大変えう逃げるえう!」『ここには堕ちませんよミリーナ』「むむむまたアルハンが何かした?」『違うと思いますよ』「大変ですわ一大事ですわ。皆で異界に避難ですわ!」『ですからここには堕ちませんって』
「「「ぶぎょーっ!」」」『あらあら』
「マリーナ、ブレスだ!」『ブレスだってムリな事はあります。間に合いません』
慌てふためくカイ一家。
だが隕石の速度は人間の対応出来る速度をはるかに超えている。
その姿を見た時にはすでに手遅れなのだ。
……被害が無ければいいなぁ。
と、芋煮風呂で棒立ちになって隕石を見送るカイ一家。
しかし隕石はしばらく天を駆けた後、いきなりフッ……と消失した。
「消えた」
「消えたえう」「む。これで安心」「ですがなぜ……バルナゥでしょうか?」
『とーちゃんは一家でご飯を食べてます』
マリーナの言う通り竜峰ヴィラージュは静かなもの。爆ぜてもいなければブレスが飛んでもいない。
あと、そんな事ができそうなのは……
カイは家シャルに声をかける。
「シャルか?」『食べたー』「そうか」
どうやら先回りしていたらしい。
さすが世界樹、その能力は超絶だ。
「よく気付いたな」『かーちゃんが知らせてくれたから』「そうか」
シャルの母イグドラは神。枠外の存在である神なら星の世界の有様も手に取るように分かるだろう。
しかしシャルに騒ぐくらいなら、自分で何とかすればいいのに……
と、カイが考えていると聞いていたのだろう、イグドラが声をかけてきた。
『カイ、汝に頼みがある』
「……なに?」
嫌な予感がするが、聞かない訳にはいかない。
『実はのぅ……先日やらかした石っころが、まだ二兆ほど星の近くをさまよっておるのじゃ』
「危ねぇ!」
「超危ないえう!」「兆だけに。ぷぷっ」「笑い事ではありませんよルー。この星の回りを二兆個の石っころが巡っているのです」
『あらあら』『わぁい』
見上げる夜空は綺麗なのに、地まで堕ちてきそうな石が二兆。
宇宙怖い怖すぎる。
『すまぬ。六十兆をちまちま動かしておったのじゃが、ちと漏れた』
「いやいやそれこそベルティアにやらせろよ」
『星の巡りが変わって天変地異が起こるかもしれぬが、それでも良いか?』
「それは嫌だな」
「嫌えう」「嫌」「嫌ですわ」
「「「ぶぎょっ」」」
『ベルティア様、相変わらず細かい事が苦手なのですねぇ……』
『いや、あれでも神としては超絶器用なのじゃぞ?』
超絶器用でもハイパワーかつ巨大すぎて世界が荒れる。
それが神。
ハイパワーの弊害半端無い。
後始末が出来ないならそんな事するなよ……と、皆の呆れも半端無い。
イグドラは申し訳なさそうに、本当に申し訳なさそうにカイに告げた。
『まあ、そんな訳じゃから……カイよ、シャルと共に掃除してきてくれぬかの?』
「えーっ……」
カイ、宇宙へ行く。
イグドラのあまりの申し出に、素っ裸な事を忘れてしまうカイであった。
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