36.戦利品カイ、料理を修行する
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「おぅカイ……なんだっけ? ワンセブン?」
「セブンティーンだよ」「ああもう面倒だなぁお前ら。今はお前一人だから俺はカイと呼ぶぞ? いいな?」「ああ」
ランデル、心のエルフ店。
全てのエルフ憧れの店で、マオは正座する戦利品カイに言い放った。
正座しているのはカイ本人を一番として通し番号十七番、カイセブンティーン。
瞳を輝かせて笑うシスティに「ちょっと料理人になって来い」と首をむんずとひっ掴まれ、バルナゥの背に乗ってここまで飛んで来た戦利品カイである。
断ったら間違いなく魔撃が飛んでくる。
マナに輝くシスティ怖い超怖い。
ちなみにカイセブンティーンが修行するのはここだけでない。
エルネ、ボルク、エルトラネの道の駅に勤める料理人のところにも行っている。
数を増やした分だけ知識や技術の習得が早まる。
それが分割タイプの戦利品カイなのだ。
「という訳で、エルフの元凶元締めのお前に後始末してもらう事になった訳だ」
「それなら俺じゃなくてカイ本人にやってくれよ。それが一番効率的だろ」
戦利品カイはカイ本人の記憶や技術を受け継ぎ、エルフの祝福も神のはっちゃけ祝福も少しだけ受け継いでいる。
カイセブンティーンに仕込んでもカイセブンティーンしか技術は獲得できないが、カイ本人に仕込めば戦利品カイ全てがその技術を獲得できるのだ。
しかしマオは頭をポリポリかきながら、その意見を却下した。
「あー、カイ本人? 奴は逃げた」
「くっ……な、なぜだ!」
「お前もカイならわかるだろ。妻達にご飯の味が変わるって反対されたんだよ」
「くそぉカイの奴、適当な料理ばかりしてるから妻達がそんな事言うんだよ……でも可愛い超可愛い!」
戦利品カイもやはりカイ。
うちの嫁可愛い超可愛いなのである。
「という訳でお前、生け贄な」
「くうっ……しかしこれも妻達の為。カイと妻達の幸せ芋煮生活のため! 俺は料理人になる。お前は適当料理を守り抜けカイワン!」
ひどい言い草だが仕方ない。
たとえ今はもっと美味しいご飯があってもカイのご飯は特別だ。
エルフを呪いから救った魂のご飯。
もはや味の善し悪しなど超越しているのだ。
美味しくなったら妻達のみならずエルフの皆からブーイング確実。
カイセブンティーン……面倒なので以下カイ……は立ち上がり、マオと並んで厨房に立った。
「いい面構えだ。俺の料理を叩き込んでやる」
「お願いします!」
ニヤリと笑うマオにカイは深く、とても深く頭を下げた。
かくしてカイの料理修行が始まった……
のだが、すぐに限界が露呈する。
生まれてこのかた適当料理なカイに料理の心得などある訳がない。
開始から十分、マオが呆れた声を上げた。
「お前……ぜんぜんダメだな」「ぐっ……」
「よくそんな腕前でエルフを餌付けできたな。たまたまかお前」「ぐうっ……!」
まっとうに料理のできるマオの言葉がカイの心につき刺さる。
沸騰した湯に新鮮な食材をぶっこんで混ぜただけのカイのご飯など、誰でも作れる簡単料理。
材料の切り方、皮のむき方、火の扱い、味付け全てがいい加減。
道の駅の他の料理人からもダメ出し連発。
こんな奴に料理教えなきゃならんのかとまで言われる始末。
さんざんである。
「もうちょっと料理上手なカイはいねぇのか? あれだけいるのにみんなこんなもんか? あぁん?」
いる訳がない。みんなカイなのだから。
だからカイは頭を下げるしかないのだ。
「お願いします師匠!」「あぁもう面倒臭ぇなぁ。お前、俺が寝てる間も分割して特訓してろ」「はい師匠!」
戦利品だから休まなくても何とかなる。
そして分割できるから経験を人より多く獲得できる。
カイは分割して練習し、腕をめきめき上げていく。
「お、できるようになったか。分割便利だな」「ありがとうございます!」
マオが起きるまでに何とか技術を習得し、さらに次のステップへ。
そんなこんなで二週間。
マオと料理人達の罵倒と蹴りと鍋に叩かれ鍛えられたカイは、早くも巣立ちの時を迎えるのである。
「今のエルフを納得させるくらいの料理は出来るだろう。姫さんがこれ以上待てないそうだから今後は修行と同時に現場で料理だ」「ありがとうございます師匠!」
苦笑いなマオに深く礼をするカイである。
カイは分割し、マオとそれぞれの料理人の元にカイを残してビルヒルトへと戻っていった。
そして……すぐに問題が発生する。
「師匠! 大変です!」
修行中に素っ頓狂な声を上げるカイである。
「どうした!?」
「分割しすぎて鍋が持てません!」
「アホか! お前も姫さんもアホか!」
戦利品カイは分割すれば分割しただけ能力が減っていく。
ビルヒルトの百近くの里にカイを分割配置した結果、鍋すら持てないもやしっ子になってしまったのである。
使えねぇこいつ。本っ当に使えねぇ。
もう次はシャルに仕込もう。料理できれば樹でいいじゃん……
と、思ったマオはシャルを呼び、料理を仕込む事になる。
たくさんの枝葉を器用に使い、一度に十人前の料理をしゅぱたと作れる料理樹シャルの誕生である。
そして……
「このカイは料理が上手すぎるえう」「む。これはニセモノの味」「パチモンですわ。紛う事無きパチモンですわ!」
「くううっ……」
「いやお前ら、そんな事言ってやるなよ。俺よりずっと美味しい料理じゃないか」
「ミリーナはカイの芋煮が大好きえう」「ルーも、ルーも」「私もカイ様の芋煮が大好きでございますわ」
「くうううっ……」
超可愛い妻達のあまりの言葉に、涙のカイセブンティーンなのであった……
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