35.ぬぅおおおーっ道の駅! ビルヒルトにも道の駅を要求する!
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ビルヒルトは今、動乱の中にあった。
「ぬぅおおおーっ、道の駅!」「領主よ! ビルヒルトにも道の駅を要求する!」「領主! 我らに道の駅を!」「みーちーのーえーきーっ!」
ビルヒルト領館を取り囲んで騒いでいるのは、エルフだ。
我らに道の駅をよこせ。
ギブミー道の駅。
ランデル領に建設された道の駅を見たエルフがビルヒルトに戻って騒いだ結果、ついに全ビルヒルトの里を挙げての抗議行動が始まったのである。
「領主! 道の駅の無いアトランチスに我らを追放する気か!」「道の駅が無いのなら、アトランチスには移らんぞ!」「出て来て説明しろ! 領主よ!」
怒号が飛び交うビルヒルト領館。
その執務室に、頭を抱える二人がいた。
「アホ過ぎるわ……」
「すまん。私がいながらアホで本当にすまん……」
ビルヒルト領主の妻システィと、ホルツの長老ベルガである。
道の駅を求めて動乱。
エルフわけわからん。
いや、すっげーわかりやすい?
「あははー。さすがエルフだ」「そうですね」「ぱーぱ」「お、カイト賢いなー」「ぱーぱー」「カイトーッ」……
領主の椅子に座るアレクはシスティと違ってのんびりだ。
長男カイルと次男カイトものんびりだ。
「アレク、あんたものんびりしてるんじゃない!」
「いやーだって、こんなの道の駅作るしかないじゃん」
「そうですよ母上」「あー」
のんきなアレク父子に妻システィは頭を抱え、そして叫んだ。
「お金かかるのよ!」
「ぶっちゃけたねシスティ!」
システィは叫び続けた。
「いい? 今、ビルヒルトには百近くの里があるのよ? それら全てに道の駅なんて作ったら三つ目くらいで破産するわよ!」
「料理人だけでいいんじゃない?」
「百人近くの料理人なんて集まらないし雇えないわ!」
「じ、じゃあランデルと同じようにトニーダーク商会に頼んでみたら?」
ふっ……
商会を頼ろうと言うアレクにシスティが心底嫌そうに笑う。
「隕石堕とす奴なんて、うちの領に二度と入ってきて欲しくないわね」
「あー、それはそうだね」
あれは本当にひどかった……
と、まったく同感なアレクだ。
「父上、それはカイさんにつきまとう神様のせいなのでは……」「それは言ってもどうしようもない事なんだよカイル。だから、どうにかできるアルハンのせいにするんだよ」「それではカイさんのせいになるのではないですか?」「カイが悪いと思うかい?」「思いません」「じゃあアルハンのせいだ」「なるほど」「あー」
そしてさすがは親子。どちらもカイが大好きだ。
本当の元凶は天災なのでどうしようもない。
だからアルハンのせい。
世の中そんなものなのだ。
しかしもうすぐ夜。
いくら領都ビルヒルトに住人が少ないとはいえ、これはちょっと迷惑だ。
アレクはカイトの頭を撫で、システィに提案した。
「まあ今日のところはお引き取り願おうよ。炊き出しして謝ればエルフ達もわかってくれるよ」「くっ……」
システィが呻く。
食料庫は無限ではない。
というか復興でカツカツなビルヒルトは食料の備蓄が少ない。
住人のエルフは税政の枠外。
ベルガが長老のホルツの里だけは善意の納税を行っていたが、納税すべき人間がほとんど住まないビルヒルト領は常に貧乏なのだ。
「……まあ、そうするしかないわね。ガスパー!」「かしこまりました。総動員で炊き出しをいたします」「私もやるわ」「じゃ、僕も」「僕も手伝います」「あー」
「蔵の食料だけでは足りんだろう。私はエルフ勇者を指揮して栽培と収穫を行おう」「頼むわベルガ」
領館の皆が動き出す。
アレクとシスティは蔵を開き、領館を守っていたエルフ勇者から鍋を借りて炊き出しを行った。
「今日はこのくらいで勘弁してやるもぐもぐうまい!」「しかし我らの道の駅への渇望は癒えぬおかわり!」「もぐもぐ道の駅、ぱくぱく道の駅!」
「申し訳ありません。早急に検討いたしますので……」「すみませーん」
あんたら、食べるか要求するかどちらかにしなさい。
システィはこめかみをピクピクと震わせながらエルフ達のご飯をよそい、すみませんね検討しますから少し待って下さいと愛想笑いを浮かべてアレクと共に頭を下げる。
食料庫を空にした上にベルガとエルフ勇者が作物を作りまくって百近くの里に炊き出しを行い、ようやくエルフの皆が帰った頃にはすでに月が煌々と輝く夜中になっていた。
「うわーい……」「あー……」
カイルとカイトは夢の中。
アレクとベルガとガスパーはやっと終わったと苦笑い。
そしてシスティは……怒りに燃えていた。
「すまんシスティ。蔵の食料はホルツが責任を持って元に戻そう」
「ベルガ、マオに頼んで道の駅を即席量産するわよ」「どうやって?」
「うってつけの奴がいるでしょ」「……ああ。確かにいたな」
怒りのマナにギラリと瞳を輝かせ、ベルガとシスティが笑う。
元凶に、責任を取ってもらう事にしよう。
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