31.ランデル道の駅計画
一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。
お盆に是非お読み下さい。
よろしくお願いいたします。
「道の駅?」「はい」
オルトランデル、トニーダーク商会の貴賓室。
そこに招かれたカイは、アルハンの言葉に首を傾げた。
「エルフの里との取引も増え馬車の往来も増えました」
「そうだな」
アルハンの説明にカイが頷く。
エルフの交易は日々拡大しており、馬車の往来も激しくなってきた。
以前はエルフばかりが駆けていた里への道も、最近は馬車が爆走するのでちょっと危ない。
「こうなると心配なのは事故、そして夜盗のような不届き者でございます」
「その通りだな」
「我々は木材などをエルネの里、焼き菓子などをボルクの里から仕入れておりますが、どちらのエルフの里も道は長く険しく、食事と安全な休息と宿泊の場が必要だと前々から感じていたのでございます」
「そうなのか?」
「はい。私どもにはカイ様のような便利な馬車などございませんので」
シャル馬車とか異界とかを使うカイにはない悩みである。
「で、それをなぜ俺に?」
「エルフの崇めるハラヘリ神だからでございます。おぉ偉大なハラヘリ神よ!」
「やめれ」
仰々しく崇めるアルハンに、カイはツッコミを入れる。
アルハンのハラヘリ信仰もだいぶサマになってきた。
枠外の駄犬がバカですみません。
自業自得だがオーバーキル分くらいは謝った方がいいだろう。
アルハンのあまりの変貌っぷりに心でペコリなカイである。
「ルーキッド殿とエルフの里の許可はいただいております。あとはカイ様の許可をいただくのみでございます」
「相変わらず根回し早いな。まあ、安全が確保出来るならいいんじゃないか?」
「ありがとうございます」
ルーキッド様が許可しているのだから、問題はないだろう……
と、カイはアルハンに許可を出す。
それにしても……
「アルハン、雑用係みたいになってきたな」
「これも本店の命令なのです。お前はオルトランデルの発展とハラヘリ神の崇拝に生涯を捧げよ……と」
「……辞めた方がいいんじゃないか?」
「トニーダーク商会は大商会でございます。次の働き口なんて潰して回るに決まっているではありませんか」
「……」
商売って、キツイなーっ……
涙ながらに語るアルハンに冷や汗を流すカイだ。
どうやら商会が手を回して働けないようにするらしい。
大きな力を持つとロクな事をしない悪い例だ。
しかし、そんなアルハンも百戦錬磨の商人。
涙を拭くとしれっと笑い、話を続けた。
「まあ、この道の駅も商売でございます」
「そうなのか?」
「はい。商人は損得勘定で動きますから得と判断すればしっかり金を払います。ですから商人相手の商売は普通の旅人よりはるかに金払いが良い。商人は品と身の安全を金で買えて幸せ。道の駅は食事や宿泊でぼったくって幸せ。ウィンウィンでございます」
商売って、すげえなーっ……
転んでもただでは起きない。
そのたくましさにひたすら感心するカイである。
「トニーダーク商会は町作りも開拓も請け負う大商会。道の駅の二つや三つあっという間でございます。さっそく手配いたしますのでどーんとお任せ下さいませ」
「いやぁ、その必要はないと思うぞ?」
自信ありげに胸を叩くアルハンだが、カイはのんびりだ。
「なぜでございますか?」
「食事と休息の為の施設を作るとエルフの里に許可を取ったんだよな?」
「はい」「なら、もう建ってるだろうな」「はあ?」「エルフが食事処の完成をのんびり待つ訳ないからな」
そしてカイの言う通り、貴賓室に乱入してくる者がいる。
おなじみエルネとボルクとエルトラネの長老達だ。
「作ったぞアルハン! エルネの道にがっつり作った道の駅!」「む。ボルクも作った超作った」「我らがエルトラネの近くにも作りましたぞ!」
「「「これで心のエルフ店が里の近くに!」」」
ひゃっほい!
踊るエルネとボルクとエルトラネの長老である。
……エルトラネ?
カイはアルハンに聞く。
「エルトラネにも作るのか?」「はい。顔のある樹の近くに」「えーっ……」
まだ諦めてないのかよ。
カイがアルハンを見れば表情に出ていたのだろう。
アルハンが笑う。
「我ら大商会は長い歴史を持つのです。今はダメでもいつかは扱う。この道の駅はそのための投資なのでございます。五十年でも百年でも待ちますぞ」
「また、ずいぶん気長な話だなぁ」「大商会ですから」
大商会って、すごいなーっ……
気長な商売に呆れるカイである。
「しかし、もっと街道に近い方が街道往来の商人も使えて便利じゃないのか?」
「魔道具目当ての道の駅ですから」「正直だな!」「はい」
アルハン、街道どうでも良いらしい。
そんな会話をしていると割り込んでくる長老達だ。
「アルハン、料理人はしっかりした者を使うんだよな?」
「それはもちろんでございます。わが商会が選び抜いた料理人の料理をお楽しみ下さい。ハラヘリはしっかり頂きますよ?」
「当たり前だ」「む。料理にはハラヘリ当然」「素晴らしい。エルトラネは他の里より離れた場所にあるので心のエルフ店に行くのも大変だったのです。ああ! これで里の外に出るだけでマオ殿のような料理が……じゅるり!」
「いやぁ、マオ並は無理だと思うぞ。あれは完璧超人だからな」
「「「そうですなぁ」」」
カイの言葉に長老達が同意する。
しかし大商会が選び抜くのだ。
しっかりとした料理人がやってくる事だろう。
「あ、それならアルハン」
「はい」
「道の駅で歯磨き粉とかも取り扱ってくれないか?」
行く必要がなくなるし。
カイはそう考えてアルハンに提案する。
しかしアルハンはにこやかに、本当ににこやかに断ってくるのである。
「カイ様の商品の取り扱いは、お断りいたします」
「なんでだ?」
「カイ様がエルトラネへ行かなかったら、我ら商人は誰に魔道具の仕入れをお願いすれば良いのです? カイ様にはエルフの里に出向いてもらわないと困ります」
「えーっ……」
「休息とお食事はしっかりご提供させていただきます。ハラヘリは頂きますが」
道の駅に商品を置かせてもらえない。
見事にハブられたカイであった。
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