30.長いものには巻かれろーん
一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。
お盆のぜひぜひお読み下さい。
よろしくお願いいたします。
「ランデル領民、青銅級冒険者カイ・ウェルス。改めて行商人の免状を与える」
隕石騒ぎが収まった頃、ランデル領館の執務室。
カイは再びルーキッドから免状を受け取っていた。
「……税目当てですね」
「その通りだ」
カイの言葉にルーキッドがぶっちゃける。
「まあ、それだけではない」
「と、いうと?」
「今後も大商会が出しゃばらない為に、ハラヘリ神のご威光を広く示す必要があると考えたのだ」
「ひどかったですからねぇ……」
「ああ。あれはひどい。ひどすぎだ」『全くだ』
天を埋め尽くす隕石を思い出して盛大にため息をつくカイ、ルーキッド、そして大竜バルナゥ。
そして大商会のオルトランデル支店の支配人は全て据え置き。
トニーダーク商会のオルトランデル支店の支配人は今もかわらずアルハンだ。
天を埋め尽くす隕石の様がルージェ領をはじめとした複数の近隣領で目撃されたからである。
大商会は主要な都市に必ず支店を置いている。
そこから本店に送られる情報は扱う商品だけにとどまらず、領地の政治や自然現象など非常に雑多。
何でも商品にしてしまう大商会は、情報も重要な商品なのだ。
そして送られてきた情報を前に、商会の幹部達は首を傾げた。
「ハラヘリ神?」「銀貨が大好き?」「聞いた事ないぞ」
どうやらエルフには聖樹教の聖樹様のような神がいるらしい。
それがアルハン達の横暴に怒り、あのような事をしでかした。
「エルフにこのような神が……」「なぜ、これまで力を振るわなかったのだ?」「聖樹様の御力が我らを守っていたのだろう」「つまり、聖樹様が天に還られたことで抑えが効かなくなったのか」
「それで……この事態をどう処理する?」
「「「……」」」
あまりの出来事に幹部達は対応を議論するも、神をどうにかできる訳がない。
かつて人間社会を守護した聖樹様が天に還ってしまった今、エルフのハラヘリ神は世界のオンリーワンハイパワーなのだ。
「ビルヒルト領主の苦情はどうする?」「あの苦情、やたら我らの内情に詳しい」「ハラヘリ神だけでも大変なのに、まったく面倒な事だ」「そういえば、ビルヒルト領はいずれエルフの治める地になるのだったな」
「まさか……ハラヘリ神の御力か?」
「「「……」」」
そしてビルヒルト領主からの苦情はやたらと大商会の内情に詳しく、商会の幹部達はハラヘリ神が銀貨を介して調べたのかと戦々恐々。
こんな怪奇なオルトランデル支店の支配人になどなりたい者がいる訳がない。
下手を打ったら周囲を巻き込むハラヘリ神罰が堕ちてくる。
もし今回のような事がもう一度起こったら、大商会でもただでは済まない。
国土に災害をもたらす商会など王国が許す訳がないのである。
そして本店に集まった幹部達は決断した……何も変えない事を。
「アルハンよ」
「はい」
「お前、人柱な」「神を怒らせたんだろ?」「その生涯で詫びろや。な?」
「……はい」
自業自得とはいえ本店も残酷。
かくして芋煮都市オルトランデルに舞い戻ったアルハン達は土下座行脚。
オークに土下座し、エルフに土下座し、竜に土下座し、ルーキッド、アレク、システィに土下座したアルハンは当然カイ一家にも土下座した。
カイに至るまでにさんざんいびられたアルハン達は見るも無惨。
その有様に地道に生きようと決意を新たにするカイである。
そんなトニーダーク商会は最近、支店の前に祠を建てた。
エルフの謎神、ハラヘリ神を崇める祠だ。
賽銭はもちろん銀貨。
毎日祠を磨くのはアルハン。
オルトランデルに訪れた商人は必ずこの祠に手を合わせ、商売の無事を祈るのだ。
その脇には誰が建てたか巡礼碑。
『あったかご飯の人、ハラヘリ神となりて罪人アルハンを罰する』
「罪人だ!」「罪人アルハンだ!」「すぺっきゃほーっ!」
アルハンはエルフがひれ伏す晒し者。
あまりの惨状に同情してしまうカイである。
「アルハン……大変だな」
「ふっ……カイ様、これが商会というものです。儲かる為なら何でもする。本店は死んでこいと言わんばかりでございますよ」
本店から晒し者を命じられたアルハン、憐れすぎる。
そんな中で名を上げたのはフィーフォールド商会のダリオだ。
ハラヘリ神の怒りを買わなかった商会という噂は瞬く間にエルフの間に広がって、増えた取引に嬉しい悲鳴を上げている。
何もしなかった事が好感。そんなのも商売の妙というもの。
「カイ様、この前お預かりしました回る魔道具、競売で良い値で売れましたよ。なんでも買った方は自走馬車を作るとか」
……シャルに頼めばいいじゃん。
と、感覚のズレが半端無いカイである。
「別に売れなくても良かったんだが」
「またそんな事を……ですが、そんな所がエルフの皆に好かれているのでしょうね。商人向きではありませんが」
「そうかな?」
「そうですよ。さすがはエルフの偉大なハラヘリ神様」
「その名はやめてくれ……」
エルトラネの魔道具は全てカイからこの商会を通じて競売にかけられ、王国に流通する。
トニーダーク商会をはじめとした他の大商会はとりあえず魔道具から手を引いたが、忘れた頃に再び手を出して来る事だろう。
それが命短き人の宿命。そして商売人というものだ。
その頃までには、エルトラネも賢くなっているといいなぁ……
そんな事を考えながら、カイはまた聖銀貨を受け取り巡礼地の両替樹に向かう。
ミリーナと初めて会った思い出の地。
そして新たな神を崇めるハラヘリ神殿の地だ。
「我らの偉大なハラヘリ神よー」
「「「ハラヘリ神よー」」」
『ハラヘリ神よーっ』
こいつら、天下の往来で何してるんだよ……
シャル両替樹を囲み崇めるエルフに頭を抱えるカイである。
はっきり言ってくっそ邪魔だ。
「おい、両替するからどいてくれ」
「ハラヘリ神!」「ハラヘリ神だ!」「我らの為に天の怒りを示したハラヘリ神がお姿をお見せになったぞ!」
おおおぉおおおおめしめしめしめし……
土下座歓声半端無いエルフの皆である。
「いや、お前ら真実知ってるだろ。なに崇めてるんだよアホなのか!」
「いやもう、カイ殿が神でいいです」「あんな迷惑神とかクソ大木よりずっといい!」『何おぅ?』「ですから神やってくださいお願いします」「嫌だよ!」「じゃあ代わりに芋煮ください」「なんでだよ!」「あったかご飯の人だから!」
エルフ達は相変わらず。
そしてカイも相変わらず。
このような関係はこれからもずっと続いていくのだろう。
だからこれからも、カイは鍋を据え叫ぶのだ。
「よぉしお前ら、芋持ってこーいっ!」
と。
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