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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
一巻発売記念月間 ランデル領館に頭を抱える領主を見た!
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25.商人達のフレッシュフード作戦

一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。

お盆のお供にぜひどうぞ。

よろしくお願いいたします。

「やはり、ダメか」「そうだな」


 エルトラネの里の入り口の前。

 商人達は木々を前に忌々しく呟いた。


 里を守護する顔のある樹が彼らに道を開かないのだ。

 カイが来た時は『るるっぷぷー』や『ぽまーる』と呟くだけの樹木も強欲な商人達には全力防御。通ろうとすれば枝で妨げ、押し入ろうとすれば電撃をぶち当てる守護者っぷりである。


 彼らは商人。

 だからエルトラネの魔道具には相手と合意した対価を支払うつもりだ。

 相手が商品の正当な価値を知らなくても知った事ではない。不当な価値で合意した相手が間抜けなのだ。


 彼らは商人。

 エルトラネの魔道具ならどんなものでも買うつもりであり、カイやシスティのように危険なものは外に出さない良識は無い。


 そんなものは商品の責任ではなく使用者の責任。

 商人の責任では決して無い。

 なぜなら商人が商品を売り渡すまでは安全だったのだから。


 とまあ、こんな思考なのだから顔のある樹が商人達を通す訳が無い。


 エルトラネを守護する顔のある樹は自律判断ゴーレムの一種だ。

 マナから接近者の心理を読み、解析し、予測し、判断し、必要なら排除する。

 商人達はその思考から、エルトラネにとって危険な存在と判断されたのだ。


「どうする?」「まあ、手はある」


 入れないならおびき出せば良い。

 商人達は使用人達に指示を出し、食事の準備をはじめた。


 食欲そそる食の香りがエルトラネの森の奥へと流れていく。

 毒か何かであれば顔のある樹は防ぐだろうが相手は悪意はあれどただの匂い。そこまで過剰に反応しない。

 無反応な木々に商人がニヤリと笑う。


「エルフは食への執着半端無い。交渉も取引もエルトラネの外で行えば良いのだ」

「なるほど、ここでエルフをもてなし交渉するのだな」「その通り」


 商人達がエルトラネの地へ行く必要はない。

 エルトラネのエルフが魔道具を外に持って来てくれれば良いだけの事。

 商人達は使用人に料理を作らせ、テーブルと椅子を用意させ、料理を並べてエルフを待つ。


「「「おいしそうなご飯の香りが!」」」

「ようこそ、エルトラネの里の皆様」


 さすがはエルフ。食への執着半端無い。

 彼らの目論み通り、顔のある樹の奥からひょっこりエルフが現れた。

 ハーの族、エルトラネの里のハイエルフだ。

 商人の一人が代表して一歩前に進み、柔和な笑みを浮かべて深く頭を下げた。


「お初にお目にかかります。私はオルトランデルに店を構えるトニーダーク商会のアルハン・ベルランジュと申す商人でございます。この度、魔道具で名高きエルトラネの皆様と取引をいたしたくご挨拶に伺いました」

「……食べていい?」

「お近づきの印に、ぜひどうぞ」

「「「わぁい!」」」


 エルトラネの皆がテーブルに群がっていく。


「人間はいろんな食事があって楽しいなー」「調理器で出来るのとはひと味違うよね」「バカ。時代は薪だろ、薪」「そうだったー」「僕達も美味しい料理を作れるように頑張ろう」「「「おおーっ」」」


 カチャカチャガチャガチャ……

 激しく食器を鳴らしながら食べるエルフにテーブルマナーはまるで無い。

 美味しく食べられればそれで良い。楽しければさらに良い。

 それがエルフなのだ。


 これは、いけるな……


 と、アルハンは彼らが喜んでいる事に笑みを深くして、取引の話を始めた。


「この度、私どもトニーダーク商会はランデルとビルヒルトの領主様とシスティ様からエルトラネの皆様との取引の許可をいただきました」

「「「そうなの?」」」

「はい」


 首を傾げるエルトラネの皆にアルハンは頷き、話を続けた。


「私どもは商会の規模も大きく、エルトラネの皆様が現在お取引きされておりますカイ・ウェルス殿よりも良い条件で取引させていただく事が出来ると思います。いかがでしょうか?」

「「「えーっ、そりゃ無理だよー!」」」


 エルトラネの皆がアルハンの言葉に食事の手を止め、笑う。


「カイ様、かかった日数のご飯のハラヘリくらいしか取ってないもん」

「……ハラヘリ? 銀貨の事ですか?」

「「「そうだよー」」」


 エルトラネの皆が頷き、騒ぐ。


「カイ様は面倒な事が嫌いだからー」「だから僕達、馬車にハラヘリ投げるんだよ」「ハラヘリ神がハラヘリに困ってるなんて僕達に信心が無いのと同じだからね」「ハラヘリ神がハラヘリ貧乏なんて許せない!」「だから、ディックみたいなおじさん達には絶対絶対無理だよねー」

「そ……そうなのですか?」


 アルハンの額に汗が流れた。

 ディックという名にアルハンは憶えはないが、かつては取引があったらしい。

 エルトラネの皆はアルハン達を、今は取引していない者と同じと言ったのだ。


 アルハンの長年の商人の勘が、心の奥で警鐘を鳴らす。

 しかし、もう遅い。


「そうだよー。だってカイ様だもの」

「カイ様はいつも『また面倒な事しやがってこいつら。まったくもう仕方ないなぁ』って考えてるよね」「そうそう。面倒な事には関わりたくありませんって心が叫んでるんだよね」「だから得があっても全部こっちに投げ返すんだ」「まさにハラヘリ神!」「でもさ」「うん」「だよねー」


 心を見透かす瞳がアルハンを見上げて笑う。


「「「おじさん達はそんな事、ないよね?」」」


 エルトラネのエルフは皆、強力な回復魔法使い。

 心を読む事など造作も無いのだ。


「エルトラネがどうなろうと自分が良ければいいって思ってるよね?」「こいつら素人だからボッたくれって思ってるよね?」「白金さんと一緒だねー」「ディック・ランクとそっくりだー」「でも残念。ちょっと遅いよ」「あの頃と違って今はエルフもご飯は食べられるんだー」「あったかご飯は美味しいねー」「「「そしてごちそうさまでした」」」


 エルトラネの皆は立ち上がり、テーブルにぺちんと貨幣を押しつける。

 十ハラヘリ金貨だ。


「このご飯にかかったお金は三ハラヘリ位だよね?」「でもお釣りはいらないよ?」「パチモンだから」「僕らのハラヘリはこんなものには勿体無い」「ぷるるっぱー」


 呆然とするアルハンにエルトラネの皆は笑い、顔のある樹の森へと歩き去る。


「おじさん達とは取引しない」「カイ様とシスティに怒られるもの」「やっぱりカイ様最高だー」「困った顔が超ステキ」「次はシスティとマオだよね」「キツイけど」「心のエルフ店は素晴らしい」「その次はアレクとかソフィアとか」「あとミルト」「ルーキッドを忘れたらダメだよぅ」「「「すぺっきゃほーっ」」」


 もうアルハンの言葉も届かない。 

 商人達が呆然とする森の中、ただエルトラネのエルフの笑い声が響いていた……

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世界樹エルフ
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