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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
一巻発売記念月間 ランデル領館に頭を抱える領主を見た!
202/355

24.我に臆するようではあれに手出しは出来ぬぞ

祝200話突破!

お祝いの言葉ありがとうございます!


一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。

お盆の一冊に是非どうぞ。

よろしくお願いいたします。

 ランデル領館、執務室。

 ルーキッドは今日もまた、頭を抱えていた。


「ランデル領主ルーキッド殿。我らの申し出、御許可いただきたい」

「我らオルトランデルの商人にエルトラネとの取引許可を」

「あのような駆け出しの行商人に出した許可を、我らに出さぬとは申しますまいな?」


 原因は目の前にいる商人達である。

 カイが競売にかけたエルトラネ製魔道具を、エルトラネの里と直接取引しようとルーキッドに許可を求めてきたのだ。


 田舎の、それも駆け出しの商人に先を越されたのが相当気に入らないらしい。

 何としても取引の許可を得てやろうという、気迫に満ちていた。


 まあ、気持ちはわかるがな……


 ルーキッドの前に並ぶ商人達は、王国では名の知れた大商会の者達だ。


 数百年に及ぶ歴史、莫大な財力、主要貴族や王族との親交による権力、そして多数の特権を持つ、王国の商売を牛耳る大商会の者達。


 その力を後ろ盾にルーキッドに要求する姿は慇懃無礼。

 礼儀上ルーキッドを目上と扱っているが、この貧乏田舎貴族めという侮蔑が全身から吹き出している。

 ルーキッドにコケにされたと思っているのだ。


 私もマナに敏感になってきた……バルナゥと遊びすぎたのかも知れぬな。


 以前よりも敏感になった感覚に、ルーキッドは何とも言えない笑みを漏らす。

 竜や世界樹が持つ膨大なマナは、近くにいる者の存在に影響を及ぼすのだ。


「それで、どうなのですかなルーキッド殿?」

「あれはランデル領主の私、ビルヒルト領主のアレク殿、そしてエルトラネを管理するシスティ殿の許可に加えてエルトラネとの親交があったからこそ出来た事。不用意な許可は出来ません」


 詰め寄る商人にルーキッドは答えた。

 彼らは確かに優秀な商人だろう。

 だがしかし、あくまで人間相手の事である。


 エルフから見れば、信用の格がカイとは段違い。

 目の前の彼らこそが駆け出しの商人。

 カイの妻ミリーナの半分生きているかどうかの若造のひよっこなのだ。


 しかし商人達にエルフの感覚などわかるわけもない。

 彼らはルーキッドを鼻で笑い、嘲るように言い放つ。


「知っております。エルトラネの者を妻に娶っているとか」「他にもエルネ、ボルクの者も妻に迎えているそうですな」「やれやれ、エルフも身内には甘い」

「……」


 まあ、あなた方から見ればそう見えるだろうな……


 ルーキッドは心で呟く。

 しかし、逆だ。


 甘いのはカイの方。

 その身を危険に晒してもエルフに食を与え、神と渡り合い呪いを祝福に変えて見せた。

 カイがエルフに付きまとっているのではない。

 エルフがカイに付きまとっているのだ。


 その信用は彼らには覆せまい。

 心が読めるエルトラネならなおさらだ。


「とにかく、我らはビルヒルト領主とシスティ殿の許可はいただきました」「あとはルーキッド殿、貴殿の許可をいただければ我らはエルトラネへと向かい、取引を願うつもりでございます」

「……」


 商人達はふふんと笑い、システィとアレクの免状をルーキッドの眼前に晒す。


 えーっ……許可したのあんた?


 システィのやりように唖然とするルーキッドだ。

 アレクはシスティにぶん投げるだろうからとにかくとして、システィが許可を出すのはルーキッドの予想外。


 盾にして断ろうと思っていたのに……何を考えているのだ?


 と、心中苦虫を噛み潰すルーキッドだ。

 許可を出したら面倒事が必ず起こる。

 かと言ってルーキッドだけ許可を出さないのも公正に欠ける。

 彼らは生粋の商人。

 カイがクリア出来る程度の条件は難なくクリアできるのだ。


「さあ、許可を」「免状をいただけますな?」「ランデル領主、ルーキッド殿」


 仕方ない……後始末はしっかり手伝ってくれよシスティ。


 これ以上はルーキッドの立場がやばい。

 ルーキッドは抵抗をあきらめ、机から書類を取り出しペンを取る。

 そして商人達が早く記せと身を乗り出して迫る中……家主が来訪した。

 大竜バルナゥである。


『おおーふ、ただいまルーキッド。そしてただいま我の友情金貨達よ』


 いや、お前は家主だが住人じゃないだろ。ただいまじゃないぞバルナゥよ……


 領館に入ってきたでかい犬は威厳もへったくれもあったものではない。

 ののっし、ののっし……

 と、うきうきスキップ登場だ。


 バルナゥは心底楽しそうにルーキッドの背後の寝床に歩くと自らの巨体を器用に動かし寝転んだ。


 ガァーフゥーッ……

 鼻息がルーキッドの背を叩き、商人達の顔面を撫でる。

 血気盛んな商人達が見る間に青ざめ退く。


「あ、あの……ルーキッド殿……」「バ、バルナゥ様はいつもここに御在室で?」


 何を臆する。

 よく躾けられたでかい犬ではないか。


 はじめはルーキッドも恐怖に叫んでいたが、もう慣れた。

 ルーキッドは穏やかに、商人達に笑いかけた。


「この領館の主は大竜バルナゥです。私は家賃を払って借りている住人に過ぎませんのでお気になさらず……ああそうだ、免状でしたな。しばしお待ちを」

「「「……」」」


 バルナゥを前に商人達が黙り込む。

 財力や権力を持っていても、人の枠外にいる竜の前では意味もない。

 その圧倒的な力の前にひれ伏すしかないのだ。


「どうぞ。免状です」

「あ、あぁ……」「ありがとう、ございます」

「で、では我らはこ、これで……」


 にこやかにルーキッドが差し出す免状をぎこちなく受け取り踵を返す商人達。

 そんな彼らをバルナゥが呼び止めた。


『汝らよ……』

「「「は、はいっ……」」」


 ガァーフゥー……

 体を撫でる竜の息に、商人達が震え上がる。

 バルナゥはそんな商人達をじっと見つめ、静かに告げた。


『我に臆するようではあれに手出しは出来ぬぞ。やめておけ』

「「「……」」」


 あれ、とはカイの事である。


『あれは汝らの財力、国の権力、そして我の暴力、その全てが及ばぬ世界の枠外から好かれた者。汝らが邪魔と殺してもすぐさま蘇り、世界の枠外から罰せられるであろう。若造ども、あれへの害意は全てその身に跳ね返ると心せよ』

「「「は、はひっ……」」」


 哀れなほどに震える商人達が逃げるように去っていく。

 彼らが去った後、ルーキッドはバルナゥに言った。


「やり過ぎだ。バルナゥ」

『わからぬ者はどれだけ言葉を積んでもわからぬよ。見ておれ、奴らやらかすぞ』

「それも、そうだな」


 あぁ、そういう理由かシスティよ……


 システィが許可した理由を理解したルーキッドである。


 要するに彼らは、王国の為にシスティが用意した晒し者なのだ。

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世界樹エルフ
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