23.今度こそドライブデートえう!
祝200話!
一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。
お盆の一冊に是非どうぞ。
よろしくお願いいたします。
「今日こそドライブデートするえう!」
「「「ぶぎょっ」」」
『あらあら』
エルネの里、カイ宅。
始まりはまた、ミリーナの一言だった。
「む。リベンジデートきたこれ」「そうですわね。前回はデートというより巡礼地での興行? でしたから今度はまったり行きたいですわ」
巡礼地を巡った前回のデートは行く先々で当時の再現を求められ、デートとはとても呼べない代物だった。
だからミリーナの言葉にルーとメリッサもデートする気マンマン。
二人の了解を得たミリーナがカイに聞く。
「カイ、今日は暇えうよね?」
「いや、仕入れがあるんだが……」
前は専業あったかご飯の人だったが、今は兼業あったかご飯の人。
今は行商の仕事があるからな。
と、カイは心で呟く。
カイの運ぶ歯磨き粉や石鹸などの日用品を待っているエルフは多い。
食事が一品増える事を聞きつけたエルフがうちの里にもぜひ来てくれとカイに懇願半端無いのだ。
そしてカイズネットワークは行商の依頼でてんやわんや。
カイ宅に住むカイスリーはカイの行商スケジュール管理にてんてこまいだ。
「おーいカイ、アトランチスのメリダの里も来てくれってさ」
「二ヶ月後って伝えてくれよカイスリー。ソフィアさん頭を抱えるだろうなぁ」
すでにランデルの歯磨き粉生産は限界を超えている。
何とかこなしているのは手伝っている聖樹教が回復魔法使いの集団だからだ。
回復魔法使いが回復魔法ドーピングで歯磨き粉を生産する。
超勿体無い。
「そろそろどこかの里に頼んで生産してもらわないといかんなぁ。薬師ギルドに相談してみよう」
「……お前、人の心配してる場合か?」
「カイもてんやわんやえう」「む。ハラヘリ神の悲劇再び」「今度は日用品販売樹でしょうか?」
『つまり、またルーキッドに仕事を斡旋されるんだね!』
「えーっ……また俺転職するの?」
「「「ぶぎょーっ」」」
『あらあら』
朝食をとりながらソフィアを心配するカイに皆の呆れも半端無い。
まあ、カイ達だけではムリなのも事実。
そろそろ行商Bチームでも作ろうか。
ミリーナ、ルー、メリッサはムリだが馬はそれなりに、カイと馬車はいくらでも用意できる。
商人は売る商品を選ぶのも仕事。
銀貨単品しか扱わないエルフ相手の両替商とはそこが違う。
カイズとシャルが品を運んでも転職とはならないだろう。
と、カイは気楽に考え朝食を終えた。
「じゃあランデルで仕入れを終えたらデートだな」
「どこ行くえう?」「巡礼地はエルフがいるからダメ」「それだとオルトランデルもランデルもビルヒルトもダメですわね」「行く所が無いえう!」「アトランチス無人地帯散歩?」「それは毎週火曜にやっていますから……」「知らない町に行くえう!」「そして知らないご飯。むふん」「素晴らしいですわ!」「えう!」
カイが支度している間にミリーナ、ルー、メリッサはデートプランを考える。
おいおいやっぱりご飯かよ。
カイは相変わらずの妻達に苦笑いだが、それでも可愛い超可愛い。
シャル馬車に愛馬達をつなぎ準備を整えると、カイ達はランデルに出発した。
「仕入れたらルージェに行くえう!」「む。新たな味探索」「ルージェのあったかご飯訪問ですわ」
ルージェは王都側のビルヒルト領とは反対側の辺境隣領だ。
「カイは行った事あるえう?」
「ないな。歩けば二週間ほどかかるからなぁ」
「カイは出不精えうねぇ」
「いや、俺の親兄弟はみんなランデル領から出た事ないぞ? 商人でもなければそんなもんだよ」
カイの実家は農家。
地を耕す農家が地を離れるのは耕せなくなったとき。
良くない事が起きた時だけだ。
「む。私もカイと会わなければボルクで焼き菓子待ちぼうけ人生」「私は……ランデルの森で息絶えていましたわね。カイ様とルーの葉に感謝ですわ」「むふん。ご先祖様素晴らしい」「ありがとうございます」
「野に飛び出したのはミリーナだけえう!」
「ミリーナ……お前は速攻ご飯に屈しただろ」
「えうっ!」「「あったかご飯だから仕方ない」」
他愛の無い会話をしながらランデルに入り、薬師ギルドで仕入れとエルフの里での歯磨き粉生産を相談する。
薬師ギルドも能力を超えた注文増にほとほと困っていたようで、話は後で詰めましょうと良い返事をいただいた。
そしてランデルを出発すればカイ達を追跡する馬や馬車がある。
「あー……目をつけられたか」
「えう?」「む?」「はい?」
おそらくエルトラネの魔道具絡みだ。
今はまだ様子見だろうが、そのうちに便乗か横取りを企てるだろう。
どこにでもいる顔のカイを利用して儲けようとしているのだ。
しかし今はプライベート。
俺は今から超可愛い妻達とご飯を食べに行くんだよ。
だから俺も、容赦せん。
カイは手綱を強く握る。
「シャル」『なあにー?』「Bチーム出動だ」『わかったー』
しばらくして現れるカイ馬車、カイ馬車、カイ馬車……
カイは街道の曲がり角で馬車シャッフルを繰り返す。
「混乱してるえう」「む。あいつらには見分けムリ」「さすがですわカイ様!」
「よし、次の曲がり角で俺らだけかっ飛ばすぞシャル」
『はーい』
こちとら俺と馬車はいくらでも用意できるんだよ。
そしてお前らでは俺と戦利品カイは見分けられまい。
マナを見る事はたぶん出来ないだろうからな。
シャル馬車とカイはいくらでも出せる。
フランソワーズとベアトリーチェの馬二頭は、シャルの根っこをそれらしく変形させて動かせば後ろから判別するのは困難だ。
『ダーッシュ!』
ひひーんっ、ぶるるっ……
曲がり角を曲がるとシャル馬車は足を生やし、フランソワーズとベアトリーチェを持ち上げしゅぱたと疾走。
そして彼らが角を曲がる頃にはカイ達は次の曲がり角をしゅぱたたと曲がって消えている。
誰かは知らんがさようなら。
次はちゃんと商談を申し込むんだな。
「よし。ルージェに急ごう」
「えう!」「む」「はい」
『はーいっ』
しゅぱたたたた……
シャルは街道を駆けて駆けて駆けまくり、馬車も旅人も宿場町もごぼう抜き。
昼過ぎにはルージェ領の領都ルージェにたどり着いた。
が、しかし……
カイが行商人の免状を出すも、妻達を見た門番は首を横に振る。
「エルフはその免状では許可できん」
『「「「「ええーっ……」」」」』
まあ隣領なのだから当然だ。
ランデル領とビルヒルト領が特殊過ぎるのである。
しかし、ここで役に立つのが人脈だ。
「カイ様。ランデルの行商人カイ・ウェルス様ですね?」
「……そうですが」
「おお。あなたがカイ・ウェルス様ですか。あなた様が持ち込んだ魔道具で、私どもの商会は素晴らしい取引をさせていただきました。ありがとうございます」
カイがオルトランデルでエルトラネの戦利品を持ち込んだ商会の者だ。
商会の者はカイと妻達に深々と頭を下げると、懐から金を取り出した。
「門番殿、我が商会の客人という事で許可して頂きたい。エルフはランデル領ではそれほど問題を起こしてはいない。もし損害があれば我が商会がすべて賠償する」
門番にカイ・ウェルスというランデルの行商人が訪れたら知らせるようにと頼んでおいたのだろう。
絶妙なタイミングで現れた商会の者は、門番に金を渡して許可を求める。
すぐに許可はおりた。
「いいんですか?」
「はい。領主様には私どもから話しておきますので」
「ありがとうございます。ご飯を食べに来たのですが門前払いされる所でした」
「そのお食事、私どもが手配いたしましょう。ようこそルージェへ」
商売は買う者がいなければ始まらない。
そして買う者は儲けがなければ現れない。
エルフの信用を持つカイは、領主に口利きをしても良い商売相手として認められたのだ。
「新たなご飯の道が開かれたえう!」「むむむニューご飯!」「楽しみですわ。とても楽しみですわ!」
……魔道具を独り占めしなくて良かった。
と、妻達との食事に胸躍らせるカイである。
商会の者は手早く食事の手配を行い、すぐに食事の席が用意された。
「ご飯が綺麗えう!」「む。これは美味の予感!」「あぁ、料理とは見た目も重要ですのね。勉強になりますわ!」
「「「いただきまーす」」」
ぱくん、もぐもぐ……
「……マオの方が美味しいえう」「奉行芋煮の方が美味しい」「エルネの長老のお店の方が美味しいですわ」「このご飯もおいしいえうよ?」「む。確かに美味しい」「美味しいのです。とても美味しいのです。ですが……」「やっぱりマオえう」「奉行芋煮」「ですわね」
そして辛辣な三人である。
さすがはエルフな妻三人。食にはとても正直だ。
「……すみません。うちの妻達が正直で」
「い、いえ。ハハハ……」
でも、こういう時には世辞のひとつでも言ってくれないと気まずいなぁ。
と、商会の者に頭を下げながら思うカイであった。
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