19.カイ殿は神様でございます
一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。
本屋で見かけましたら手にとって頂けると幸いです。
そのままお買い上げ頂けるととてもとても幸いです。
よろしくお願いいたします。
「カイ殿、歯磨き、歯磨き粉を!」「私は石鹸!」「歯ブラシ!」「泡立て器!」
「カイ! 商品が無くなったえう!」「待て、馬車から出すからちょっと待て!」
ランデルの隣領、ビルヒルト。
ここでもカイの商売は盛況だ。
歯磨き粉や石鹸といった使えば無くなる品の注文は増える一方。
ランデルの薬師ギルドは手伝ってくれと新たな住人、聖樹教に泣きつく始末だ。
新たに商品に加えた調理道具や農具の売り上げも順調。
魔法でサクッと処理するマナで、ご飯にひと味トッピング。
このあたり、エルフは本当に食への執着半端無い。
「これでうちもエルトラネの調理器を使わずに済む」「あれ、マナ食うもんなぁ……」「普段使いの鍋なんて変形する必要ないよな」「それなら浮かせたマナを食に注ぐ」「「「その通り!」」」
「ええーっ……あれ、便利じゃんかよ」
「「「そんなものより美味しいご飯!」」」
まさかのエルトラネ製駆逐。
あれの性能は折り紙付きだがマナを食う。
そんな事に魔石やマナを使う位ならうまいご飯なのである。
「うぉお! これがはじまりの奉行芋煮!」「オルトランデルで食ったのよりずっと美味い!」「やべえ!」「もう一杯!」
「むふん」
元祖奉行芋煮も大盛況。
ルーの煮込む鍋が叫ぶ「ぶぎょー」はひと味違う。
芋煮達を子まで育てた母の味。芋煮愛が違うのだ。
「ここは、こうして……この髪飾りで留めると髪がぐっと映えますわ」
「さすがエルフのオシャレの人ですわ!」
「髪はエルフの命です」は今も健在。
食を受けるために綺麗にしていた呪われていた頃も今は昔。
今は意中の殿方を射止めるエルフ女性の大きな武器だ。
メリッサの手で変貌する娘達に里の男の視線が半端無い。
いまいちだと思っていたあの娘がすげえ輝いてる。
あいつ、あんなに可愛かったのか……
等々。
カイの目から見ればエルフ女性は皆美女なのだがエルフ達の感覚はまるで違う。
それが当たり前であればレベルはぐっと高まるのだ。
「これで意中の殿方も貴方に夢中ですわ」「ありがとうございます!」
「カイ殿もメロメロですか?」「今もカイ殿がフリーだったら超アタックしてますよ」「というか四人目の妻になりたい」「愛人でもいいです!」「今なら呪う事もありませんし」「毎日カイ殿の芋煮とか最高です」
しかし、エルフと比べれば見た目は全くなカイの人気は半端無い。
どこまでも食。それがエルフなのである。
そんなエルフ女性にミリーナ、ルー、メリッサは首を振る。
「それはダメえう」「ダメ」「ダメですわ。カイ様と苦難を共にした私達に並び立てる者はそう多くありません。今、私達が認めるお方はただ一人だけですわ」
「そ、そのお方とは?」
「「「エヴァ姉さん」」」
「「「わふん様にはかないません」」」
バルナゥの祝福を受けて散歩範囲が広がっているらしい。ランデルの頼れる番犬エヴァンジェリンはビルヒルトでもしっかり立場を確立していた。
「よし。これで売り切れだ」
「奉行芋煮も完売。むふん」「カイ様、アクセサリーの受注がこんなに!」
「凄いえう。カイも二人もすごいえう!」
商売は順調に進み、カイもルーもメリッサも昼前に完売御礼。
ミリーナのえうはどうにもならないが、エリザ世界では神の言葉。
それで我慢してもらおう。
カイは商品のなくなった店を畳み、商売道具を馬車に放り込む。
里の長老が礼を言いにやってきた。
「カイ殿、様々な便利な品をありがとうございます」
「いや、どっちかと言えば不便だろ」
「確かに魔法の方が便利ではありますが、そのおかげで我らの道具はどれもいまいち。人間の工夫には感心する事しきりでございます」
マナを注げば望む結果を得られるのなら道具は発展しないだろう。
そして食が得られなかったエルフのマナは常に余り放題。使い放題。
そのツケが今、ここで出て来ているのだ。
「我らの為にここまでしてくださるカイ殿は神様でございます」
「それは言い過ぎだ」
「次は芋煮、芋煮ですよね?」「イモニガー」「我らエルフを救った聖なる食事、今日は是非とも頂きたく思います」「カイ殿、かまど作りました!」「鍋はこれをお使い下さい」「皆の衆、芋だ! 芋をカイ殿に捧げるのだ!」「ささ、カイ殿レッツクッキング!」「「「ところでご飯はまだですか?」」」
たちまちの内に山盛りな道具に食材。
そしてカイを取り囲み、期待に目を輝かせるエルフ達。
もう作らなければ帰さないという勢いだ。
「我らがあったかご飯の人!」「芋煮を!」「神の芋煮を!」「イモニガー!」
「……お前ら、神と言いながら人使い荒いな」
「「「ええーっ……」」」
ええぇええええええめしめしめしめし……
カイの言葉にエルフの皆が驚愕に叫ぶ。
「カイ殿の神扱いもこんなものではありませんか!」「いや、カイ殿はこれよりずっとひどいです!」「神を顎で扱い使いっ走りにするなんてカイ殿にしかできません」「つーか、公然とコケにしてるよな」「それも何柱も!」
「いやいや、いくら俺でもそこまでは……やってるな」
『おぉい!』
唸り頷くカイにはさすがのイグドラもツッコミ炸裂だ。
「いや、だってお前ら超迷惑じゃん」
『何おぅ?』
「ダンジョンの主にされるわ、輝いて土下座祭りだわ、アトランチスの天地創造をやらされて左腕が破裂するわ、お前らが関わるとロクな事がない」
『ぐぬ!』
芋煮を煮込みながらカイがぼやき、イグドラが唸る。
「ほら、これがカイ殿の神の扱い」「やっぱりひどい」「ひどすぎる」
「いやいや、ひどい目に遭ってるのは俺の方だろ」
「「「それはそうですね」」」
『……汝ら、またぶん殴ってやろうか?』
まあ、神の扱いなんてこの程度がちょうど良い。
アテにしても入れ込んでも、ロクな事が無いからな……
と、神被害の第一人者カイ・ウェルスは鍋をかき混ぜながら思うのであった。
誤字報告、感想、評価、ブックマーク、レビューなど頂ければ幸いです。