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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
一巻発売記念月間 ランデル領館に頭を抱える領主を見た!
195/355

18.幸せな悩みだな、ルーキッドよ

一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。

本屋で見かけましたら手にとって頂けると幸いです。

そのままお買い上げ頂けるととてもとても幸いです。

よろしくお願いいたします。

 ルーキッドは今日もまた、頭を抱えていた。


「まさか、歯磨き粉が増産待ちになるとは……」


 カイの商人活動の結果だ。

 今、ランデルのエルフは空前の歯磨きブーム、そして石鹸ブームだ。


 これまでは魔法でホホイと行っていた事を道具を使ってマナを節約。

 残ったマナを食に注いでひと味違う食を得る。


 ボルクの里から始まったこのブームにエルネもエルトラネもひゃっほいと飛びつきカイに歯磨き石鹸を求め、ランデルでは品薄状態だ。

 さすがはエルフ。食への執着半端無い。


 いきなりの需要増に薬師ギルドも嬉しい悲鳴を上げている。

 エルフは森でありふれた薬草を育てて冒険者がそれを集め、薬師が薬を作り、また別の薬師が絞り滓から歯磨き粉を作る。

 それをこぞってエルフが買う。


 人間は需要マシマシ、エルフは美味しさマシマシ。

 そしてルーキッドは税収マシマシ。何とも嬉しい好循環だ。


 カイは信用されているな……

 いや、他の人間があまり信用されていないのか。


 頭を抱えたままルーキッドは考える。


 食に関わる事であればそれなりの交流を持てるエルフも食以外ではからっきし。

 エルフがこれまで人間から得ていたものはハラヘリと食の技術。

 食の技術は率先して得たエルフ達だがハラヘリはカイがいなければ見向きもされなかっただろう。

 エルフにとっては食べられない物の価値などその程度なのだ。


 これまでも多くの商人がエルフに食や材木を求め、対価に様々な人間の物品を売りつけようとして諦めた。


 しかし、カイが行えばこの通りだ。

 さすがは呪いからエルフを救い、世界すらも救った男。

 あったかご飯の人の名は伊達では無いのだ。


「これから、大変になるかもしれんな……」

『おおーふ?』


 しかしルーキッドは喜んでばかりもいられない。

 ルーキッドは領主。

 この好況の裏で起こる様々な事を調べ、場合によっては止める立場だ。


 カイとエルフが見つけた新たな道を歩きたいのはカイとエルフだけではない。

 すでに領館には商人が大勢押しかけ、エルフとのさらなる交易の許可を求めているのだ。


「いや、他の商人がな……需要があるなら参入させてもらいたい、と」

『幸せな悩みだな。ルーキッドよ』

「全くその通りだ……」


 頭を抱えながらルーキッドは答えた。

 上手く行った事で頭を抱える。バルナゥの言う通り幸せな悩みだ。


「しかしまだ早い。彼らが商品を持って行っても決して買いはしないだろう」

『然り。信用の格が違うわ愚か者共め』


 エルフを救い続けているカイですら一度は首を傾げられたのだ。

 便乗して儲けを狙う新参者はこれまで通り、相手すらしてもらえないだろう。


 今はカイだからと商品を求めるエルフだが、色々な商品に接し続ければエルフ自ら質や意味を見極め、取捨選択をするようになる。

 それには時間がかかるだろう。


 エルフと人間の対等な交易はまだまだ先。

 ルーキッドが生きている内に実現できるかどうかといった所だろう。


「もういっそカイがエルフの王になってくれれば……すまない。甘ったれた」

『そうだな』


 カイが号令すればエルフは従うだろう。

 しかしそれはルーキッドの望む所ではない。


 ランデルは自ら立つ町。

 きっかけに誰かの力が必要であっても維持するのは自らでなければすぐに関係は崩れ、破綻するだろう。


 地道に信用を育てていくしかないのだ。

 それに……


『そもそもあれは王の器ではない』

「……それもそうか」


 バルナゥの言葉にルーキッドは頷く。

 そして二人は呟いた。


『「あれは、神だな」』


 エルフのそばに常に在って助け導き、しかし自由は決して奪わない。

 神を天に還し神に祝福? された男。

 それがカイ・ウェルスだ。


 王や領主のように欲と恨みがひしめく中で苦悩し続け、決断のたびに恨み疎まれる事に耐えられるような器ではない。

 このあたりはエルフの長、ベルガがする事となるだろう。


 カイは今のままエルフに接し、時折何かをもたらしてはエルフの皆をかき混ぜる程度がちょうど良いのだ。

 そう、彼が煮込むご飯のように。


 カイはエルフをこれからも導くだろう。

 今回のように商品をもたらし、エルフはそれに意味を見出し使い方を模索する。

 そのような事が地道に繰り返された先に、人間とエルフの未来はあるのだ。


「ま、他の商人への許可はまだまだ先……だな」

『それがよかろう』


 派手にコケるのがわかっているのに許可を出すのも気の毒だ。

 ルーキッドは商人達の出した書類に不許可の判を押し、理由を書いて決裁済みの書類棚に放り込む。


 エルフと人との付き合いは始まったばかりだ。

 まだまだこれから。

 焦る事は無いだろう。


『ところでルーキッド、あのボンクラ王はそれで納得するのか?』

「王も商人や貴族から突き上げられているのだ。察してやれ」

『ふむ。ならばそやつらに我がガツンと言ってきてやろうか? ん?』

「不要だ。お前が行くと何かとややこしくなるからな」

『おおーふっ』


 だがしかし、焦っている者も多い。

 それをいさめるのもルーキッドの務めだ。


 これも、ランデルの、ため。


 キリキリ痛む胃のあたりをおさえながら、ルーキッドはバルナゥの申し出を断った。

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世界樹エルフ
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