17.ちょっとした差で大違い。焼き菓子すごい超すごい
一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。
買って下さった方ありがとうございます。
本屋で見かけましたら手にとって頂けると幸いです。
そしてそのまま買って下さいお願いします。
ボルクの里に塩対応された次の週。
カイはまたボルクの里へと馬車を走らせていた。
「今回は評判が良いといいえうね」「む。がんばれ」「諦めない所がカイ様の良いところでございます。私達を抱きしめて俺が何とかしてやると言って下さった日の事を、私は一生忘れることはありませんわ」「む。あの殺し文句は最強」「えう」
「そうだな」
『わぁい』
ひひーんっ、ぶるるっ……
妻達とシャルと馬たちの激励にカイは笑った。
まあ、行商人の仕事はまだまだ始めたばかりだ。
飯屋の主人も「これから楽しくなるんだよ」と忙しい合間にカイに親身にしてくれる。
その期待に応えたいものだ。
今回は娯楽の品を集めてみた。
長い間呪われていたエルフの娯楽はあまり発達していない。
そんなものより頭を鍛えて、そして土下座。
食べる事に必死だったエルフの遊びは森を道具にしたものばかり。サイコロや双六、盤ゲームやカード遊びのようなものはどこの里でも見たことが無い。
食べることが最高の楽しみであり娯楽なのだ。
今は余裕があるのだから、少しは受けるといいんだが……
カイは期待と不安を胸に、ボルクの里の関所を抜ける。
またまたマナで察知していたのだろう、里の皆がカイの到着を待ち受けている。
こいつら、律儀だな……
カイは変わらぬ彼らに感謝しつつ、彼らの前に馬車を止めた。
「また来た……「カイ殿!」「歯みがき粉!」「石鹸は?」……は?」
いきなりこれである。
「まあ、少しは持って来たが……」「「「ください!」」」
ちょっとは使ってくれるかな……
と、カイが淡い期待を持って積み込んだ歯みがき粉を馬車から取り出すと、ボルクの皆が奪うように買っていく。
入れ食いである。
先週とは打って変わって熱烈対応。
なんだこれ?
あっという間の売り切れにカイが首を傾げていると、長老がやってきた。
「カイ殿。さすが」
「? よくわからないんだが……」
さらに首を傾げるカイである。
付き合いで買ってもらった歯磨き粉や石鹸を、今日は先を争って買っていく。
その理由がカイにはさっぱりわからない。
長老はそんなカイに穏やかに笑い、二つの菓子を差し出した。
「あれを使う事で、焼き菓子に使えるマナが増えた」
「えーっ……そんなに変わるものなのか?」
「ほんのちょびっと」
「だよなぁ」
「しかしそのちょびっとが菓子には重要。これをどうぞ」
歯磨きや石鹸の代わりに使う魔法がそんなにマナを使うとも思えない。
差し出された菓子の見た目はほとんど同じ。
だからそんなに変わらないだろうと半信半疑で菓子を手に取り、食べてみる。
「……!」
どちらも美味い。とても美味い。
しかし印象はまるで違う。手を加えたであろう片方は何かで味を見事に引き立たせているのだ。
「これ、何が違うんだ?」
「表面に少しトッピングを加えただけ」
「それで、ここまで違うのか」
菓子すげえ。
「焼き菓子は繊細。ちょびっとのトッピングが味の印象を大きく変える。我らボルクは焼き菓子に全てを捧げる焼き菓子の民。焼き菓子作りは常に全知全能を傾け全力で作る」
「そのちょびっとの力が、歯磨きと石鹸で浮いたマナか」
唖然とするカイに長老は頷いた。
「あれのおかげで我らの菓子道に新たな道が示された。カイ殿のおかげ」
魔法とはマナを願いで変質させる行為だ。
何にでも変わるマナを願いで目的に適したものに変質させ、使う。
言ってしまえば超汎用品。
しかし、汎用品は専用の品にはかなわない。
魔法でもそれは変わらない。
マナを使って清潔にするよりも石鹸や歯磨き粉、歯ブラシを使った方がマナ的にはお得なのだ。その為の力が備わった物なのだから
そして出来た余力を焼き菓子に注いだことで、より美味しい焼き菓子が出来た。
長老の言う新たな道を、カイの商品が開いたのだ。
「さすがは我らの現人神」「焼き菓子様は今も健在」「このキノコいらない」「人間も侮れない」「さすが繁栄しただけの事ある」
長老が後ろにさがり、ボルクの皆がカイを囲む。
皆、カイの商品の賞賛半端無い。
「……それは、お前達の力だよ」
カイは商品をただ、ボルクに持って行っただけだ。
新たな道を見つけたのはボルクの皆の焼き菓子愛だ。
それに全力を傾ける姿勢だ。
しかしボルクの皆は、こぞって首を振った。
「そんなことはない」「カイ殿が持ってこなければ我らは買わない使わない」「置いていっても捨てていた」「それはカイ殿なればこそ」
カイの信用が、ボルクの皆に商品を使わせた。
そして新たな世界を開かせた。
だから皆はカイを賞賛するのだ。
「カイ殿はいつも我らに様々な喜びをもたらしてくれる」「いただいた飴帽子は我らの家宝。灰となった葉の安らかな寝床」「先祖もきっと飴を食べて喜んでいる」「ひゃっほい」
「……ありがとう」
カイは彼らのくれる喜びに、ただただ頭を下げる。
我々はこれを追求するから、それ以外のものは他の者に任せた。
これが商売。
そしてこれが、共に生きるという事なのだ……
「で、今回は何を?」
「あー、今回は遊びの類だ」
「遊び!」「それもください超ください」「よくわかりませんがカイ殿の品、きっと何かの役に立つ」「ひゃっほい」
カイが荷台から取り出した遊び道具をボルクの皆が買っていく。
皆珍しげにそれを眺め、どうすれば楽しいかを考えている。
「カイ殿、このマス目板とたくさんの人形はどんな遊びなのですか?」
「駒取りゲームか。盤の上の駒で戦い、相手の親玉を取った方が勝ちな遊びだな」
「人形は駒」「なるほど」「駒を焼き菓子にして、取ったら食べよう」「それだ」「親玉取ったら総取りで」「それもいい!」「負けられない勝負、爆誕」
「「「それだ」」」
「……お前ら、賭け事はほどほどにしとけよ?」
カイの商品で、カイが考えもしなかった新たな世界が広がっていく。
そんなボルクの皆を見て、カイは心の底から思うのだ。
あぁ、商人っていいものだなぁ……と。
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