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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
一巻発売記念月間 ランデル領館に頭を抱える領主を見た!
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15.人は見た目で判断するものだからな

一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。

本屋で見かけましたら手にとって頂けると幸いです。

 ランデルの通りを馬車がのんびり走っていた。

 カイの馬車だ。


 修行中なのか、馬車は通りをあっちに行ったりこっちに行ったりと忙しい。

 御者台に乗るカイの隣に座っているのはランデルの飯屋の主人。

 今は飯屋をしているが昔は商人。

 カイが冒険者になる前、下働きをしていた商人だ。


 損害を出して店を畳まねばならなかった彼は、カイに同じ道をたどって欲しくはないのだろう。飯屋の休憩の合間に様々な事を教えている。


 彼の提案で着飾ったエルフの妻達は見目麗しく、道行く皆の視線を奪う。

 物を売るにはまず注目される事。これがなければ始まらない。

 元商人は経験からそれを良く知っている。

 つかみは上々であった。


「頑張っているではないか」


 そんな様を領館の窓から眺め、ルーキッドは満足げに頷いた。


 ルーキッドは行商人の免状を出したが、それは他の領主や商人に文句を言われないようにするため。


 カイの商売相手はエルフ。

 心のエルフ店の店主マオも「あいつら食い物ばっかだわ」と匙を投げた者達だ。

 あったかご飯の人であるカイが商売できなければ誰にもできないだろう。 


 エルフの品を人間が買い、人間の品をエルフが買う。

 人間がエルフから一方的に材木や食品を買うような今の関係を続けていたら、やがては破綻する。

 今はバランスが悪すぎるのだ。


『なあ、ルーキッドよ』

「なんだ?」

『汝、少しカイに厳しくないか?』


 バルナゥが金貨を磨きながら呟く。

 ルーキッドはバルナゥに答えた。


「私は領主だからな」

『金貨が欲しいなら家賃を銅貨を百枚にしようか?』

「安すぎだ」

『おおーふっ』

「確かに税は欲しいが、それだけではないのだ。バルナゥよ」

『む?』


 バルナゥが首を傾げる。


 ぶっちぎり最強のお前は徒党を組むという事をあまりしないだろうからな……


 ルーキッドは笑い、話を続けた。


「領民を守り、導くのが領主である私の務めだ」

『ふむ』

「カイがお前のように強大であったりアレクら勇者のように地位があれば話は別だが、あったかご飯の人だと意味不明な名を称してフラフラする者をやたらと遇していては他の領民に示しがつかん。人は見た目で判断するものだからな」


 見た目だけで言えばカイはエルフの里のヒモ。

 それを遇すれば他の領民が首を傾げる事になるだろう。

 公平でなければ不和や疑念が生じるのだ。


『カイは強大だぞ』

「まあ、そうだろうな」


 ルーキッドも全く同感だ。

 あれだけの事をなす者がへなちょこな訳がない。


『あれの体にあふれるマナを見れば器などすぐにわかるだろうに……本人に自覚はないだろうが、妻達どころかアレクやシスティすら超えておる』

「ほう……そこまでなのか」


 神のはっちゃけ祝福でカイは常人では想像も付かない経験を繰り返し、様々な選択や決断を行い成長している。

 もはやカイ自身の潜在能力も勇者を超えているのだ。


『今からでもしかるべき鍛錬を積めば誰よりも強い勇者となるだろう。そんな者を他の者と同列に扱うのはそれこそ不公平だろう』

「私もそうだが、ほとんどの人間にマナは見えない」


 妙な威圧感を感じる時もあるが、それだけだ。


「だからバルナゥ、お前のように膨大なマナを持たねば我らは畏怖も尊敬もしないのだ。そのくらい明確でなければわからないのだからな」


 見えないものはわからない。

 だから評価される事はない。

 誰にでも見える何かを行い、成果を出してはじめて評価されるのだ。


「さしずめ今のカイは腐ったみかんといったところだ」


 ルーキッドは笑って言う。


『ソフィアから聞いた事があるぞ。一緒に置いておくと近くのみかんも腐っていくという奴だな』

「そうだ。我ら人間にはみかんの中身は分からない。いくら中身が素晴らしくても見えないから我らは外面を磨くのだ」


 外見とは例えるならみかんの皮。

 たとえ腐ったみかんの中身がみずみずしく新鮮であっても、皮が腐っていれば回りのみかんは腐り、放っておけば中身も腐る。


 人は徒党を組んで生きるもの。

 カイの姿を見て「あれがいいなら俺も……」などとなったら目も当てられない。

 だからルーキッドはカイに働けと言い続けるのだ。


「だから腐ったみかんは腐りを取って綺麗にするか、別にしなければならない」

『働け、さもなくば去れ、か。面倒臭い事だな』

「まったくだ」


 まあ、カイの本質を見抜かれたらルーキッドとしてはもっと困る。


 神のストーキングを受ける常識外れの能力を知れば、利用する者が必ず現れる。

 エルフにご飯をくれてやっていたようにカイは基本お人好し。

 きっと力を貸すだろう。


 普通に扱い、地道に働かせるのが一番なのだ。

 エルフにとっても、人間にとっても。

 そしてカイにとっても。


「ほう、行くか」


 ルーキッドが窓から通りを見れば、馬車が門へと向かっている。

 準備と仕入れが終わったのだろう。

 カイ・ウェルスの行商人人生の門出だ。


『できると思うか?』

「まあ、しばらくは無理だろうな」


 そんな簡単に商売できるなら、誰もが成功しているだろう。


『おおーふ……ルーキッド、やはりカイに厳しいな』

「それは当然だ」


 ルーキッドは笑い、バルナゥに言った。


「人は見た目で判断するものだからな」

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