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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
一巻発売記念月間 ランデル領館に頭を抱える領主を見た!
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14.妻達、カイを支えると張り切る

一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。

本屋で見かけましたら手にとって頂けると幸いです。

「……行商人の免状をもらった」

「えう?」「む?」「はい?」


 夜。エルネの里、カイ宅。

 ルーキッドに呼び出された日の夜、カイは一枚の免状を妻達に見せた。


 書面には、カイがランデル領主の認めた商人であると書いてある。

 露店や朝市で売る者達よりも幅広く活動できる、領主公認の商人である証だ。

 これがあれば他の領地でも商人として扱われ、その領地の商人に認められた特権をある程度受ける事ができる。

 カイはこれで、王国領地であればどこでも商売できるようになったわけだ。


「カイ、昨日まではハラヘリ神だったえうよね?」「両替商だ」

「む。神殿にハラヘリ神が引っ越した」「ハラヘリ神なんていないから」

「両替商とか行商人とか色々あってややこしいですわ。あったかご飯の人で良いではありませんかカイ様」「いや、普通はその名前の方がややこしいからな」


 首を傾げるミリーナ、ルー、メリッサにカイがツッコミを入れる。


 エルフには絶大な知名度を誇るあったかご飯の人も、人間社会では怪しい人。

 王侯貴族には恐怖の対象、商人や平民にはふざけた名前。

 わからない事に人は冷たいのだ。


「エルフがはっちゃけて里を渡る両替商がダメになったからな。次は商人でもやってみろって事だろう」

「あれならランデルで両替しても変わらないえう」

「む。カイがする必要まったくない」

「ランデルの門を出たとたんに土下座エルフが両替ですもの。移動する必要がまったくありませんでしたわ」


 まあ、この免状はルーキッドの厄介払いげふんげふん温情だ。


 領主公認の商人の免状を得るのは金とコネが必要。

 どこかの商人のもとで働き、金を貯め、商人の推薦状を得てはじめて免状を買う事が出来る。


 金と品を扱う商人の力は絶大。

 だから、それだけの信用が必要。

 推薦状も金もなしで免状を出すなど普通はあり得ないのだ。


「ルーキッドも頑張るえうね」「そしてカイは大変」「そうですわね。今やエルフは祝福でご飯をお腹いっぱい食べられるのですから、のんびり生きればよろしいのではありませんか?」

「まあ、それもいずれは出来なくなるからな」


 子の世代か、それとも孫の世代か……

 イグドラが祝福を止め、里で育てた世界樹がエルフを祝福するようになる。

 神の祝福から世界樹の祝福に変われば今のままではいられない。 


 エルフは遠くない未来、神の祝福を失う。

 ひゃっほいと踊ってご飯を得る事も出来なくなるかもしれないのだ。

 カイは真新しい免状を眺め、呟いた。


「そう考えると今、行商人をするのは良い事かもしれないな」

「えう?」「む?」「はい?」


 首を傾げる妻達にカイは笑う。


「働く。という事を色々見せてあげられるからな」

「今だってエルフは働いているえうよ」「む。作物もキノコも育ててる」「畜産だって林業だってやっておりますわ」

「それ、全部祝福ありきの話だろ?」

「えう」「ぬぐ」「ふんぬっ」


 今のエルフの仕事は神の贔屓を受けたブーストだ。

 人間が一年かけて収穫する実りを一日に何度も得る事ができ、巨樹すら一日で育て上げる。 

 働いてはいるかもしれないが、大した苦労はしていない。

 極端な話、今のエルフは一人でも楽々と生きていけるのだ。


 しかし、働くというのは一人で生きる事ではない。


「働くという事は人の役に立つという事だ」


 人の役に立つ何かを集め、何かを作り、何かを手伝う。

 カイも昔はありふれた薬草をちまちま集めて薬師ギルドに売っていた。

 薬師ギルドはカイの薬草から薬を作って人々に売り、絞りかすを町にまいて衛生環境を改善した。


 それは一人でできる事では決してない。

 カイをはじめとした冒険者達、薬師、ミルトらが力を合わせてはじめてできた事なのだ。


「自分のした事が人を助ける。そして自分は人に助けてもらう。人間はエルフと違って食を簡単には得られないから皆で色々な事をやって支え合う。祝福を持たない人が作り上げた社会は、いずれ神の祝福を失うエルフの救いとなるだろう」


 エルフも協力して色々な物を作っているが、やはり祝福ありきだ。

 祝福が神から世界樹になれば、今のままでは行き詰まる。


 人々の努力の品を運び、金品と交換する事で他の人を助ける。

 それが商人。

  物を介して人と人をつなぎ、支えるのだ。


「それなら妻も頑張るえう!」「む。夫を盛り立てる妻偉い」「今こそ私メリッサのオシャレの人の真価が問われる時ですわ!」「むむ! ならルーは奉行芋煮販売むふん!」

「えうは? えうはどうすればいいえうか?」「「布教?」」「えうっ!」

「おいおい、そんなのはエリザ世界だけで十分だぞ?」「えうーっ!」


 張り切る妻達にカイは笑う。

 カイが色々なものを運んでも、今はまだエルフがそれを理解する事は無いだろう。

 祝福でどうにかなってしまうからだ。


「そういえば、畑は耕すようになったえうね」「む。耕すと育ちが違います」「そうですわね。栽培方法と農具は人間のものを色々と参考にしていますわね」

「お前ら、食への執着だけは本当に半端無いなぁ」

「えうっ」「ぬぐぅ」「ふんぬっ」


 ですから百年くらいは儲からなくても勘弁して下さい。ルーキッド様。


 妻達が騒ぐなか、カイはいつものように心でルーキッドに謝るのであった。

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世界樹エルフ
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