13.ハラヘリ両替樹シャルロッテ
一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。
本屋で見かけましたら手にとって頂けると幸いです。
カイが両替商をはじめて里を回ってしばらく、巡礼地に異変が起きた。
『ハラヘリー、ハラヘリ両替するよー』
声を発する四角い小屋が、巡礼地の隣に登場したのだ。
シャルである。
カイがハラヘリを大量消費する主要な地にシャルを分割、配置したのだ。
エルフの里はだいたい森の中の僻地。
カイがランデルで銀貨を仕入れて運ぶのは近場のエルネでも一日半。
まともにやったら一週間に一つの里がせいぜいだ。
そしてシャルとマリーナを使って高速移動しても、一日に五つの里が限界。
だからカイはなかなか来ない。
ハラヘリを欲するエルフが待ち伏せ土下座両替を求める始末だ。
ランデルの門から出たとたんにハラヘリ土下座攻勢を受け、まあいいかとカイが両替したのが運の尽き。
あれよあれよと言う間に群がるエルフに銀貨はあっさり底をつき、オルトランデル到着前にもう一度銀貨を取りに戻るというアホな事件が発生した。
これに激怒したのがカイを待ちわびていた里である。
「うちのハラヘリが横取りされた!」「くそう! 好き勝手やりやがって!」「今週はアトランチスの予定なのに……抜け駆け許すまじ!」「里で待ってなんかいられるか! 俺はランデルの森に行くぜ!」
オルトランデルに着くまでに銀貨が尽きるのだから、エルフの里には届かない。
里で待っていてもハラヘリはやって来ない。
だからそれぞれのエルフの里は屈強な精鋭部隊を組織してランデルに送り、ランデルに近い森の場所取りで里対抗魔法合戦が始まった。
「ランデルの門の前は俺達の縄張りだ!」「知るかバカ!」
おぉおおおおおめしめしめしめし……
おかげで街道を使う人間達は戦々恐々。
森で輝くマナ瞳と時折響く魔法の炸裂音と謎の雄叫びに「あいつら何を企んでるんだ」と疑心暗鬼半端無い。
そしてこの話を聞いたルーキッドが頭を抱え、カイが土下座謝罪するのである。
「もうハラヘリ行商はやらん!」
「「「ええーっ!」」」
あぁあああああしめしめしめしめ……
カイの宣言に屈強な精鋭部隊の精鋭土下座が半端無い。
こんな調子では街道での両替を禁止しても、行った先の里に群がりハラヘリ土下座合戦が始まるだろう。
そう判断したカイは両替をすぱっと止めたのだ。
「そ、それでは我ら、今後どうやってハラヘリを得れば……」
「オルトランデルなど主要な場所に両替所を開設し、そこで行う事とする!」
「神殿だ!」「ハラヘリ神殿だ!」「おお、我らがハラヘリ神!」
ランデル近くで両替合戦が出来るくらいなら、お前らが両替しに来やがれ。
かくしてカイはシャルに頼み、各所にシャル両替樹が設置された訳である。
「この十ハラヘリ金貨を両替してくれないか?」
『はーい。五枚とか十枚なら手数料が減ってぐっとお得だよ?』
「じゃあ、五枚」
『まいどーっ』
ぱくん。むしゃむしゃ……じゃらじゃらじゃら。
シャルは差し出された金貨を食べ、ハラヘリを吐き出す。
巡礼のエルフ達は拍手喝采だ。
「すごい!」「さすがハラヘリ神殿!」「巡礼の地に新たな土下座の地、爆誕!」
「シャル様!」「ハラヘリ神殿シャル様ーっ!」
『えへーっ』
しゅぱたたくねくねぐりんぐりん。
シャルもノリノリだ。
そして何でもマナにして食べるシャルだから、貨幣の真贋判定も完璧だ。
シャルは偽造貨幣を弾いてルーキッドに渡し、ルーキッドが王都に送る。
そして王国はシャルの協力のもと偽造組織を捕らえ、重罪に処すのである。
営業時間は朝の七時から夜の七時。
そして夜、シャルは戦利品カイの家となるのだ。
「巡礼地はどこも僻地だからなぁ。お前がいてくれて本当に助かるよ」
『わぁい』
巡礼地は森の中、竜峰ヴィラージュ、アトランチスの墓所などなど。
シャルはそんな僻地でこつこつ銀貨を稼ぐ戦利品カイの頼れる相棒だ。
営業時間外のシャルは家となって戦利品カイを雨風などの脅威から守り、芋煮を煮込み、一緒にご飯を食べるのだ。
『僕の芋煮、美味しい?』
「ああ。うまいぞ」
『わぁい!』
あったかご飯に会話も弾み、夜は静かに更けていく。
戦利品カイはシャルのベッドに潜り込む。
「ああ、ベッド最高超最高」
『これまではどうしてたの?』
「野宿」
『うわぁ……』
「盗賊に襲われて、エルフに助けてもらった事もあったな」
『うわぁ……』
システィの戦利品使いの荒さ半端無い。
しかしシャルなら防御は完璧。ぐっすり眠れるというものである。
『明かり、消すねー』
「おう」
部屋が静かな闇に包まれる。
「……イグドラが色ボケしなかったら、エルフとイクドラの関係はこんな感じだったのかもしれないな」
『かーちゃんならもっとすごい事が出来るよ。だって神様だもの』
「そうだな」
闇の中、戦利品カイは頷く。
しかしイグドラは実を作り、エルフは芽吹いた世界樹を育てられずに呪われた。
『もしそうだったら今の世界はどんなに凄かったんだろうねぇ』
「まあ、俺ら人間はエルフの家畜だな」
『えーっ……』
「お前と俺の出会いもない。生まれてすらいないかもしれん。だからこれで良かったんだよ。相棒」
『わぁい、わぁい!』
「ええいやかましい。寝るぞ」
戦利品カイもやっぱりカイ。
シャルはカイに根付いて良かったと心から感謝して、寝床をしっかり守るのだ。
そして次の日。
「よぉし、今日も頑張ろう」
『はぁい!』
朝日を見ながら背伸びをする戦利品カイとシャルの前に、しゅぱたたと樹木が駆けてくる。
銀貨を運ぶ分割シャルである。
『銀貨持ってきたよー』『じゃ、金貨と白金貨と交換だ』『わぁい』
「エルフに売る食材は?」
『前の巡礼地に団体巡礼エルフが来てたから、たくさん持ってきたーっ』
「そうか。今日は大変そうだな」
両替はシャル、運搬もシャル、ハラヘリ回収は戦利品カイ……
本物のカイは戦利品カイとシャルにまるっと仕事をぶんどられ、ただのあったかご飯の人に戻ってしまった。
そしてカイは、ルーキッドに呼び出されるのである。
「カイよ」「……なんでしょう」
「行商人の免状を出そう。暇だろう?」「うわぁん!」
あぁ、へなちょこの悲しさよ。
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