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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
一巻発売記念月間 ランデル領館に頭を抱える領主を見た!
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12-2.おお、ハラヘリの神よ!

一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。

本屋で見かけましたら手にとって頂けると幸いです。


 ルーキッドの許可を得て、カイは両替商の活動を開始した。


「カイさん、これをお使いなさい」

「まだ聖銀貨がパチモン扱いなんですね。お義母さん」

「だってハラヘリが超便利なんですもの。最近は支払いもパチモンが増えてきて困っていたところです。これでハラヘリをたくさん持って来てくださいね」

「……はい」


 元手はエルネの蔵に転がっていた、パチモンと書かれた聖銀貨の袋。

 まずこれをランデルに持って行き、ルーキッドが税で得た銀貨に両替する。


 ランデルにとっては金庫に山と積まれた銀貨を聖銀貨と交換してくれるのはありがたい。

 ルーキッドからも言われているのだろう、役人は喜んで両替に応じ、カイは一万枚の銀貨を両替手数料なしで手に入れた。


「ハラヘリ美しいえう」「む。箱の重さは幸せの証」「パチモンがハラヘリになりましたわ! 素晴らしいですわ!」

「いや、普通は価値が高い聖銀貨の方が素晴らしいんだがな」

「ご飯ならハラヘリえう」「む。パチモンではご飯ダメ」「比較にもなりませんわカイ様」

「そ、そうか……」


 カイは銀貨の詰まった箱をシャル馬車に積み込み、御者台に座り手綱を握る。

 シャル馬車を引くのは聖教国の領主から譲り受けた二頭の牝馬だ。


「シャル。フランソワーズとベアトリーチェの手伝いはするなよ?」

『わかったー。普通の馬車になるんだね』「そうだ」


 シャルに頼めばあっという間だが、普通だとどの程度なのか知っておきたい。

 カイは手綱で合図を送り、ゆっくりと馬車が動き出す。


「重いか?」


 ひひーんっ、ぶるるっ……

 大丈夫とばかりに馬がいななく。

 銀貨一枚はさほど重くはないが一万枚もあれば相当重い。

 馬車はゆっくりとランデルの門を出て街道を走りはじめた。


 最初の目的地は出資者であるエルネの里。

 ランデル領で管理している街道をしばらく進み、途中でオルトランデルへと続く道へと入る。

 ここからはエルネの里が管理する木で舗装された道だ。 

 管理の行き届いた真っ平らな道を馬車は軽快に駆けていく。

 一時間ほどでオルトランデルを通過した一行は……すでにげんなりしていた。


「遅いな……」「えう」「む」「ふんぬぅ」


 妻達がカイを担いで走った方がずっと速い。

 ここからエルネまではエルフの足で半日程度。

 しかし今の速度だとどこかで夜を明かさなければならないだろう。

 異界経由やマリーナに乗って移動していたカイ一家にとって、普通の馬車はあまりに遅いのだ。


「俺たち本当に、常識から外れてたんだなぁ」

「えう」「ぬぐ」「ふんぬっ」


 ルーキッド様、常識外れですみません。


 と、心で土下座のカイである。

 かっぽかっぽと馬を走らせ、結局かかった時間は一日半。

 ランデルからエルネに着くまで野宿一泊、食事四回。

 カイと妻の食費だけでも十六ハラヘリ。シャルと馬の食事を入れれば百ハラヘリは下らないだろう。


「なにこれ、経費すげえ……」

「ひいばあちゃん強いえう!」「異界も強い超強い」「シャルも本当にすごいですわ」

『えへーっ』

「あ、でもシャルを普通の馬車に変えれば食費は半分だな」

『ひどいやーっ!』


 行商人が持ってくる商品が高い訳である。

 賃金、食事代、光熱費、時間、通行税等々の経費が商品にまるっと上乗せされているのだ。そりゃ高くなるってものだ。


 やべえ……この経費、両替で元が取れるのか?


 と、不安マシマシなカイである。

 金を金で買う。それが両替。

 同じ金であるだけに目減り額も一目瞭然。

 どれだけカイが持って行ったか分かるのだ。


 これは、さすがにダメか……?


 シャル馬車がエルネの里の門をくぐり、ゆっくり広場へと入る。

 カイの心配は全くの杞憂だった。


「ハラヘリ神!」「ハラヘリ神が来たぞ!」


 おぉおおおおおおめしめしめしめし……


 馬車を迎えるエルネの歓声半端無い。

 皆、ハラヘリを持って来るカイを待ちわびていたのだ。


「何だよそのハラヘリ神って」

「使いにくい十ハラヘリ金貨や使い物にならない百ハラヘリ白金貨をハラヘリに交換してくれる!」「つまり神!」

「で、十ハラヘリ金貨で何枚のハラヘリが頂けるのですかハラヘリ神!」

「そうだなぁ……」


 最低でも食費位は捻出しなければならないだろう。

 カイの手持ちは銀貨だけだ。

 だから銀貨だけで両替できなければならない。

 期待に満ちた皆を前に、カイは静かにレートを告げる。


「十ハラヘリ金貨一枚をハラヘリ銀貨九枚と交換します」

「「「すごい!」」」


 いやすごくないから。

 一割持っていくとか相当ボッタクリだから。


 と、心で呟くカイ。

 相変わらずの小心者である。


「十ハラヘリ金貨五枚ならハラヘリ銀貨四十七枚と交換します」

「「「さらにすごい!」」」

「百ハラヘリ白金貨ならハラヘリ銀貨九十八枚と交換します」

「「「神! やはりハラヘリ神!」」」


 エルフの皆が叫び、金貨や白金貨を突き出してくる。

 カイはまず金貨を出してくるエルフに対し両替を行い、ある程度金貨が貯まったところで新たな交換レートを宣言する。


「よし、今から百ハラヘリ白金貨を十ハラヘリ金貨九枚とハラヘリ銀貨九枚で交換するぞ!」

「「「いりませーんっ!」」」


 しかしエルフの皆、十ハラヘリ金貨を断固拒否。


「お前ら十ハラヘリはいらんのか!」

「だって十ハラヘリ使いにくいんだもん!」「使いやすいのはやっぱハラヘリだよな」「巡礼はハラヘリ払いが礼儀なんですよ」「だから俺、巡礼でしこたまハラヘリ使っちゃってさ」「俺もだ」


 エルフのハラヘリ好き半端無い。


「釣りのハラヘリなんてないよと注文を断られるのも今日が最後だ!」「アホか」

「十ハラヘリで十人前を頼んで他の奴に食われずに済むぞ!」「アホか!」

「ハラヘリが知らん間に十ハラヘリにすり替えられて泣く日々よ、さようならアディオース!」「儲けてるじゃんか!」


 額面がいくらあろうと使えなければ価値はない。

 使いにくい十ハラヘリ金貨よりスパッと使える一ハラヘリ銀貨。

 これがエルフなのである。


 結局一万枚の銀貨はエルネだけですぱっと完売。

 食費をさっ引いても二百ハラヘリの手数料にホクホクのカイである。


 ランデルには納税されたハラヘリ銀貨が今も山積み。

 戦利品カイは巡礼地にてハラヘリを続々回収中。

 ハラヘリの需要がなくなる事はないだろう。


 エルフの心に燦然と輝くハラヘリ銀貨はエルフから戦利品カイへ、ルーキッドへ、そしてカイへと巡ってエルフの元へと戻るのだ……


 マッチポンプ臭いなんて、言うなよ?

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世界樹エルフ
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