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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
一巻発売記念月間 ランデル領館に頭を抱える領主を見た!
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9.あぁ、えうを禁じたい……

一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。

よろしくお願いいたします。

 ランデル領館。

 今日もまた、ルーキッドは頭を抱えていた。


『ランデル領主ルーキッド殿、ご相談がありますえう』


 ルーキッドの目の前にいるのは老オーク。 

 異界であるエリザ世界の者の代表。

 やたらと語尾にえうをつける「えう人」だ。


『我が連れてきたのだぞルーキッドよ』

『助かりましたえうバルナゥ様。オルトランデルの外は物騒ですからえう』

「……そうか」


 おおーふえうえうえう……


 バルナゥと老オークが笑う。


 老オークは異界の者だから、冒険者にとっては討伐対象だ。


 ランデル領ではエリザ世界の者の討伐を禁じている。

 しかし討伐してマナに願ってしまえば証拠は討伐者の心の中にしか残らない。

 エリザ世界のオーク達にとってはヌルいランデルもなかなかハードなのである。


 が、しかし……

 ルーキッドはそんなえう人の過酷な境遇よりも、別の事を考えていた。


 あぁ、えうを禁じたい……


 えう。

 カイの妻のひとり、ミリーナの口癖だ。

 ミリーナなら可愛げもあるが老オークでは可愛くない超可愛くない。

 『えう』と言われてもバカにされているとしか思えないのだ。


 しかしルーキッドがえう禁止を言ったところで、老オークがえうを止める訳もない。

 彼らオークの神の父であるカイが言うから、カイの前では信仰をねじ曲げ我慢しているだけなのだ。

 ルーキッドが言ったところで『えうーっ?』と鼻で笑われるだけだろう。


 これも、ランデルの、ため。


 ルーキッドは「えう」葛藤をねじ伏せ、にこやかに老オークに話しかけた。


「それで、相談とは?」

『もうすぐ我らの神、芋煮三神のご誕生から三年なのですえう』

「ほう、誕生日ですか」『盛大な祭りを行いたいと思っておりますえう』

「オルトランデルの中で行うなら許可しましょう」『えう』


 オルトランデルで祝うのならば止めはしない。

 ルーキッドは頷いた。


『それで相談えう。我らは何か記念の品を芋煮三神に捧げたいえうが、何か良い案は無いえうか?』「……」


 そんな話を私に持ってこられてもな……

 カイ一家に直接聞くか、アレクやシスティあたりに持って行ってくれよ。


 と、思うルーキッドだ。

 しかし危険を押して来た者に「知るか」と言うのも悪いだろう。

 ルーキッドはとりあえず聞いてみる事にした。


「カイの子らの好きなものとは何でしょうか?」

『奉行芋煮えう』「他には?」『芋煮えう』「……他には?」『奉行芋煮風呂えう』「…………他には?」『芋煮風呂えう』

「それなら、芋煮で良いのでは?」

『それではいつもと変わらないえう!』


 いや、それでいいじゃん。

 普通が一番よ?


 と、頭を抱えるルーキッドの前で老オークが叫ぶ。


『たとえ我らの神が芋煮を一番喜ぼうとも、我らエリザ世界のえうの民は形になるものを捧げたいのでございますえう! 我らの信仰は永遠えうーっ!』


 ええいお前、えうえううるさい。


 会話のえう濃度にルーキッドのストレス半端無い。


 しかし、形あるものを残したいという気持ちはルーキッドにも理解できる。


 芋煮では食べれば終わり。

 カイの子はまだ赤子。成長すれば忘れてしまうだろう。

 オーク達は物心つく前から見守っていたという証が欲しいのだ。


「では、芋煮を食べるのに使う食器類とかはいかがですか?」

『すでにエルトラネ製のものを使っておりますえう』


 超ハイテク魔道具ブランド、エルトラネ。

 ピーな奴らのはっちゃけ魔道具以上の品を用意するのは難しい。


「では芋煮調理なども……」

『鍋も包丁も農具も当然のようにエルトラネえう。かまどは世界じゅー? えうからシャル殿の見守りばっちり安心超便利えう。ルー様が煮込めば芋煮はかならず奉行芋煮でございますえう』

「……あいつめ」


 カイよ、お前もっと働いて税を支払え。

 質素な生活かと思えば、金がかかっていないだけで超リッチではないか。

 働け。めっさ働け。

 面倒事ばかりぶん投げていないで税もしこたま払えこんちくしょう。


 ルーキッドはしばらく心でカイに説教した後、老オークに提案した。


「すると食以外になさった方が良いでしょう。服などは?」

『世界樹の守りがあるからまったく適当えう。喜ぶと思えないえう』


 あぁ、エルフやカイ一家の服に季節感がないのはそういう訳か。


 と、納得するルーキッドだ。

 さすがはエルフ。食に全振りだ。

 ルーキッドは暖房の必要ないならその分税にして払いやがれと思いながら頭を抱えて考えて、ひとつの糸口を見出した。


「そういえば、カイの子らはものすごい速度で転がっていましたな」

『えう。シャル殿が家となってから鍛えられているのかご成長著しく、もはや御母堂様も追いつけなくなりましたえう。一家で追いつけるのはマリーナ様とシャル殿だけでございますえう』

「……では、こんな魔道具はどうでしょう?」


 ルーキッドは老オークに魔道具を提案する。


 そして、誕生日から数日後……


「「「ぶーぎょっ」」」


 ぶもー……

 竜牛が鳴く中、カイの子らはエルネの牧場を転がっていた。

 三人の服に縫い付けられているのはえう人の信仰の証、通話の魔道具だ。


 通話可能。位置確認可能。防犯電撃魔法搭載。

 さらに舐めれば奉行芋煮味。

 腹はふくれないが美味しいそれに子らもすっかり満足だ。


 カイやミリーナ、ルー、メリッサも対となる魔道具に「ご飯が出来たえう」と言えば戻って来るので探す手間がなくなった。

 良いことづくめである。


「便利えう!」「む。家に居ながらにしてご飯コール万歳」「これで子らを追いかけるシャルの超絶ダッシュで家具がめちゃくちゃにならずに済みますわ!」

『わぁい』

「ああ、これは楽だな。ありがとう」

『あらあら』

「「「ぶーぎょっ」」」

『なんともったいないお言葉……!』


 感謝感激な老オーク。

 そしてランデルでは、またルーキッドが頭を抱えるのだ。


『我らの神もお喜びえう! カイ様と御母堂様からもお礼を言われたえう!』

「……それは、良かったですな」

『こんな良いものを考えて下さったルーキッド殿にお礼をしなければならないえう! お金にいつも困っているようなのでエルネの芋煮蛇口のようなお金蛇口を作るえう!』

「いらん!」


 貨幣偽造は重罪。

 ルーキッドは即座に断った。

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