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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
一巻発売記念月間 ランデル領館に頭を抱える領主を見た!
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6.街道の馬車、足で走る

一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。

書籍化なんて二度と無い事かもしれんからはっちゃけろー。

いわさきさんも担当さんも宣伝を頑張ってらっしゃる。俺も頑張ろう。

「ルーキッドからあんたへの仕事の斡旋を頼まれたわ」

「……」


 ビルヒルト領ビルヒルトの領館の執務室。

 システィの言葉に、カイは心で呟いた。


 ルーキッド様、告げ口しましたね?


 先日の税問答がよほど腹に据えかねたのだろう、ルーキッドはカイの天敵に助けを求めたのだ。


 ビルヒルト領主アレク・フォーレの妻、システィ・フォーレ。


 戦利品カイを手足のようにこき使う戦利品カイの親玉にしてグリンローエン王国の為なら何でもやっちゃう元王女の勇者様。

 カイもなにかと困った時に助けてくれる彼女に頭が上がらない。

 ゆえに天敵。


 平時でも非常時でも眩しく輝く女。

 それがシスティなのである。


「いや、俺はちゃんと働いてるし税も納めてるぞ?」


 生活に必要な金銭の分だけ働いて、あとは自給自足だが。


 しかし、さすがはルーキッド。

 カイの納税資料など、とっくにシスティに提供済みである。

 システィは資料をパラパラ眺めてカイの言い分をぶった切った。


「去年は五ハラヘリだったわね。まったく足りないわ」

「ぐっ……」


 五ハラヘリ。

 心のエルフ店でご飯を五回食べたら終わりだ。


 冒険者として働かなくなったので、ギルドを通じて納税される事もない。

 ご飯も燃料も祝福で手に入るので、畑も薪もいらないし金もあまり使わない。

 移動は森を進んだり空を飛んだりするので、街道もそんなに使わない。

 寝泊まりは妻達子供達と一緒に森で野宿。今は超快適なシャル家だ。

 そして妻達は、今はまだ税を徴収していないエルフ。

 税を徴収する機会をことごとく回避する男、それがカイなのである。


 黙るカイにシスティが言う。


「社会ってのは互助なの。自分に必要な分しか働きませんでは困るのよ。あんたを含む全体の生活を維持するために税を使って街道を整備したり、馬車が走ったり、井戸を掘ったり、城壁を築いたり、兵が巡回したりする。これが人の社会。やる気の無い者を救う必要は無いけれど、弱い者を救う必要はあるのよ」「……」

「というかルーキッドの苦労はほぼあんたが原因なんだから、税くらいたんまり納めてあげなさい」「……」


 ぐうの音も出ないカイである。


 苦労は出費を伴うもの。

 ランデルの拡張に次ぐ拡張に領兵や役人の増員、オルトランデルの整備、エルフやえう人の交易管理等々、ルーキッドの仕事は忙しくなる一方だ。


 全部カイが発端である。


 まあ税を納める事に異論は無い。


 無駄に払うのは嫌だが、しかるべき税は払うべきだろう……


 と、カイはルーキッドの前で屁理屈ぶっこいた事をまるっとスルーしてシスティに問いかけた。


「で、俺にして欲しい仕事って何だ?」

「喜びなさい。定職の無いあんた向きのいつ終わるかも分からない仕事を持ってきたわ。山賊の討伐よ」

「おい……」


 なに? その砂漠で砂粒を探すような仕事は?


 と、怪訝な顔をするカイにシスティはにんまり笑う。


「まぁエサはまいたから、あんたならすぐに終わるわよ」


 そしてシスティの言う通り、仕事はすぐに終わるのである。

 システィから仕事を請け負い、危なそうだからと自分より強い妻達をシスティに預け、街道に馬車を走らせ四時間。


「フランソワーズ、ベアトリーチェ! 走れ!」


 ひひーんっ、ぶるるっ……

 馬のいななきやかましく、カイは街道を疾走していた。


 背後からは馬に乗った荒くれ者が追ってくる。

 システィの言っていた山賊だ。


 どんなエサをまいたのか効果てきめん。

 カイが街道に入った直後から怪しい奴が付けてきて、ビルヒルトから離れたとたんに襲ってきたのだ。


「この顔はへなちょこの顔だぜーっ」

「このどこにでもいるありふれた顔、典型的なカマセ顔だぜひゃっはーっ!」

「儲けー、超儲けーっ!」


 エサは俺かシスティーっ!

 戦利品カイに何させてんじゃいお前!


 カイが心で叫ぶ中、馬に乗った山賊が距離を詰めてくる。

 カイは二頭立ての馬車。

 対する山賊は騎馬。

 一頭が受け持つ重量がそもそも違うのだ。


「へなちょこが護衛も連れずにバカじゃねえの?」

「荷物置いてけば命は助けてやるぜぇええええ」


 しかし、相手は神出鬼没なのが厄介なだけのただのゴロツキだ。

 少しでも実力のある者がいれば、カイを獲物になど絶対にしなかっただろう。


 カイの馬車からにじみ出る、破格のマナを見られるものがいれば……だが。


「シャル、馬を担いで走れ!」『わぁい!』


 カイの馬車が叫ぶ。

 そして山賊が驚愕に叫んだ。


「あの馬車、馬を持ち上げやがった!」「「「馬必要無いじゃん!」」」

「つーか足、足で走ってるぞ!」「「「車輪必要無いじゃん!」」」

「枝葉が伸びてくるぞ!」「「「馬車じゃないじゃん!」」」


 まあ確かに馬車じゃない。

 ある時は樹木。またある時はカイ家。またある時は馬車。


 その正体は何にでも興味を持ちマネするシャルロッテ。

 完全変形擬態世界じゅー? だ。


「うわあっ!」「ぬぅおおおっ!」「なんじゃこりゃーっ!」


 成長すれば異界を食う世界じゅー? は、山賊ごとき敵ではない。

 伸ばした枝葉が山賊を絡め取り、宙に体を持ち上げる。

 手足が拘束され宙に浮いてしまえば、盗賊はもう何も出来ない。


 討伐完了。

 そして捕まえた山賊の一人に見たような顔を見るカイである。


 おい、システィ。

 山賊に、俺を、混ぜるな。


 山賊のひとりが、戦利品カイであった。


 似顔絵付きで指名手配されたらどうすんだよこれ。

 つーかここまで仕込んでるなら俺が出るまでも無いじゃん。

 戦利品カイだけで何とか出来るじゃん。


 と、山賊を枝葉で捕まえしゅぱたたと駆けるシャル馬車の上で頭を抱えるカイである。


 かくしていつ終わるとも知れない山賊討伐は、システィの仕込みであっという間に終わったのであった。


「あら、やっぱりすぐ終わったのね」

「なんで俺がやる必要があったんだ? これ……」

「たまには戦利品カイの儲けをあんたに分けてあげようと思ってね」

「それならもっと分け前よこせ」

「嫌よ」


 システィが笑う。


「戦利品カイの元は私ら勇者が討伐した主だもの。獲得者が使用権利と儲けを得るのは当然の事よ」「……」


 こう言われるとぐうの音も出ないカイである。

 システィはガスパーに賞金の支払いを指示し、カイは独身時代の年収の数倍という賞金を手に入れた。


 社会の弱い部分を突いてくる山賊のような存在はセコく細かく非常に厄介。

 こうやって弱い所を食い散らかして社会全体を脅かす。

 強い者が弱い者を救うのは、社会の一員である自分の為でもあるのだ。


「あんたはもうへなちょこじゃないんだから、ちゃんとやりなさい」


 あぁ、そうだった。

 自分にこういう事が出来ないから、アレクに託したんだよな俺……


 と、若い頃の自分を思い出すカイである。


「あと、他にも色々仕込んであるからこれからも働いてちょうだいね」

「このやろう!」


 そしてシスティはこういう女だったなと、再確認したカイであった。

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世界樹エルフ
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