表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
一巻発売記念月間 ランデル領館に頭を抱える領主を見た!
181/355

5.カイよ、地代を払うのだ

一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。

書籍化なんて二度と無い事かもしれんからはっちゃけろー。

 おおーふっ。おおおーふっ……


 早朝。ランデル領館。

 ルーキッドは情けない大竜の咆哮で目を覚ました。


 何事だバルナゥ……?

 というか、来るなら日の出後にしろと言っているだろう。


 日の出はまだなのだろう、カーテン越しの外の光はまだ弱い。

 起床したルーキッドはいつものように窓へと歩き、カーテンを開いて外を見る。


『おおーふっ。我の、我の降りる場所がない! ルーキッド助けてーっ!』


 領館の前にどどんと、家が建っている。


 土地の無許可占拠、だな……


 ルーキッドは罪状を心の中で呟き、着替えをはじめた。


 この程度の怪奇で頭を抱えていてはランデルの領主は務まらない。

 そして犯人の見当も付く。

 というか、間違いなくカイだろう。


 怪奇親玉よ。

 お前、どんどんはた迷惑な奴になっていくなぁ……


 ルーキッドは手早く着替え、領館の外へと向かう。


「……やはり、家だな」


 玄関を出てみればやはり家。完璧に家である。

 さすがはエルフ。

 この領館をあっという間に建てただけの事はある。


 しかし、ここでは領館の出入りにとても邪魔。


 悪いが撤去してもらおう……


 と、ルーキッドが近付くと家が挨拶してきた。


『あーっ。ルーキッドおはよー』

「……シャルか?」


 お前は樹木じゃなかったのか?

 枝葉はどうした?


 と、奇怪な怪奇に首を傾げるルーキッドだ。

 しかしこの家が喋って踊って駆ける世界じゅー? なら移動も簡単。

 ルーキッドはシャルに言った。


「シャルよ。ここは人や馬車が行き交う往来。どいてくれねば困る」

『はぁい』


 しゅぱっ。

 シャルが根を伸ばし、縁の下の広場の往来を確保する。

 根の下は馬車も走れる広々空間。

 だがしかし……


『おおーふっ!』

「……バルナゥが拗ねるから移動してやれ」

『はぁい。おじゃましまーす!』


 しゅぱたたたっ……

 と、なぜか領館に入るシャルロッテだ。

 バルナゥが入れる領館は小さな家なら楽々入る。

 シャルは家を縮めたり伸ばしたりして玄関を通り、バルナゥの寝床にどどんと居を構えた。


『ここには一度入ってみたかったんだーっ』

『おおーふっ。我の寝床、我の寝床に家が! ルーキッド助けてーっ!』

「……そこは家主のバルナゥ専用だ。どいてやれ」『はぁい』


 しゅぱたた。

 家がバルナゥに場所を譲る。


 怪奇、歩く家。


 また新たな怪奇が増えた……


 と、頭を抱えるルーキッドだ。

 そしてここまでシャルが動いているのにカイは出てくる様子もない。


「カイはどうした?」

『カイ達まだ寝てるから、しーっ、ね』

「寝てるのか」『うん』


 寝てる間に移動してくれる家、すごい。

 そして移動している間もぐっすり眠れる家、超すごい。


 馬車で王都まで行った事のあるルーキッドにはよく分かる。

 揺れに騒音、馬の嘶き、さらに貧乏領主の馬と馬車はレンタルだ。

 揺れがひどくて眠れない。自分の体に微妙に合わない。貧乏なので色々貧相。さらに色々臭い。


 しかしカイは今も安眠。

 人を起こしておきながら、ゆっくりぐっすり夢の人だ。


 なんか、腹が立ってきたな……


 ルーキッドはとりあえずカイを起こす事に決め、シャルの戸を叩いた。


「誰だよまったくうるさいな……あれ? ルーキッド様? あれ? ランデル?」

「……そうだランデルだ。ランデル領館だ」


 あんぐりと口を開いたカイの後ろから妻と子供が現れる。


「寝てたらランデルえう!」「むむ素晴らしき安らか移動」「寝る前にシャルに頼めば早朝までにすぱっと移動。素晴らしいですわ!」

「「「ぶぎょーっ!」」」『あらあら』


 ええい、怪奇親玉一家め。


 と、呆れ半端無いルーキッドだ。

 しかしルーキッドも怪奇ベテラン。この程度で屈するほどヤワではない。


「とにかく家をどけろ。それと家には土地利用税をかけている。地代を支払え」

「へ? 地代?」


 素っ頓狂な声を上げるカイである。


「家屋が占有する土地の使用税だ。普通は年徴収なのだが移動できるシャルだから特別に日割り計算してやろう」

「そんな税を作ったんですか?」

「何を言う。これまでも家を持つ者からはしっかり地代を徴収しているぞ?」

「……この家はルーキッド様の客という事にはできませんか?」

「できん」


 家が客とか何だそれ?


「シャルでも家なら税をかけねば他の領民に示しがつかん。という訳で払え。今すぐ払え」

「えーっ……」

「ハラヘリ、ハラヘリえうか?」「さすが人。色々ややこしい」「カイ様、ハラヘリを持ってきますわ」


 メリッサが奥から財布を持ってきて、何とも苦しげにハラヘリを取り出した。


「くううっ……食べられもしないものに貴重なハラヘリを使わなければならないなんて」「そのハラヘリ一枚でお腹いっぱい」「おあずけを食らった気分えう!」


 税はランデル領の整備に必要な財源だ。

 皆が利用するものに必要な経費を利用者から徴収しているだけなのに悪者扱い。

 ちょっぴり悲しいルーキッドだ。


 そして、カイも何かとけちくさい。


「シャル、次からランデル外で俺らが起きるまで待ち、俺らを下ろしたら体を縮めて馬車の駐車場で待っていてくれ」

『はぁい』

「いや、馬車からも通行税は取っているからな?」

「俺がエルネに住んでいる間に、ややこしいルールが増えましたねルーキッド様」

「昔から馬車税は存在したぞ。お前に縁がなかっただけだ」

「ええーっ……」


 カイは唸り、頭を抱え、そして妙案をひらめき叫ぶ。


「そうか! シャルが樹木ならいいんだ! さすがに樹木往来税は無いでしょうルーキッド様!」


 カイのあまりのけちくささにルーキッドは叫んだ。


「お前は稼げるんだから働いてしこたま稼げ! そして税をしこたま支払え!」

「「「「『ええーっ』」」」」

「ええーっ、ではない!」

「「「ぶぎょーっ」」」『あらあら』


 ここでガツンと言ってやらねば、取り返しのつかないことになる……!


 ルーキッドは一度気分を落ち着かせ、静かにカイに問いかけた。


「カイよ。お前はエルフを導くあったかご飯の人なのだろう?」

「はい」


 頷くカイ。

 ルーキッドは大きく息を吸い、再び叫んだ。


「エルフがお前の生き方をマネしたらどうするのだ! 神の祝福はいずれ育てた世界樹の祝福にかわるのだぞ! そんなフザけた有様で世界樹を育てて祝福をもらえると思っているのか! エルフを導くあったかご飯の人なら先頭に立って働け! 人々に労働を提供して成果をあげて対価を得よ! そして税を払って社会を支えろ!」

「すみません! 本当にすみません!」


 お前、本当にはた迷惑な奴だなぁ……!


 ルーキッドは頭を抱えるのであった。

誤字報告、感想、評価、ブックマーク、レビューなど頂ければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一巻発売中です。
よろしくお願いします。
世界樹エルフ
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ