幕間3 ハーの族、エルトラネの里のメリッサ・ビーン
「カイ様……」
カイがしょんぼりしてランデルに戻ったその夜。
メリッサはミリーナとルーと共にランデル近くに潜んでいた。
カイにもらった飴を舐めながら畑の向こうにあるランデルを睨む瞳はマナに輝き、人形のような美しく整った顔には焦燥があふれている。
有り余るほどの恩を受けたカイの命が危ないかもしれないからだ。
相手は王国の勇者級冒険者の三人。
今、メリッサが睨む視線の先でランデルの門を潜ろうとしている三人だ。
三人はカイはおろかミリーナやルー、そしてメリッサも足元にも及ばない王国最強の冒険者達。
カイを手伝うエルフ達が全力で殺したあの三人はカイとエルフを倒す気は無く、警告を与えようとしていただけだった。
蘇生の際に魂を扱ったメリッサはそれを良く知っている。
彼らがカイを監視する為にその場にいた事、エルフとの関与を観察で済まそうとしていた事、エルフの攻撃にただ逃げようとしていた事、手にした武器の調子が悪かった事。
そしてもう一人、真に最強な勇者が今回は戦っていないという事を。
王国最強の勇者アレク・フォーレ。
三人の記憶によればカイの友人でありカイを崇拝している勇者らしい。
聖剣グリンローエン・リーナスという全てをマナとして食らう剣を持つその勇者がいたら三人はエルフの猛攻にも悠々と逃げきっていただろう。
何しろ攻撃すら食らう武器である。エルフの魔撃は全て食われてしまったに違いない。
そして森を抜けられた時、エルフ達はどうしただろうか。
追いかけて攻撃したか、それとも森に留まりカイを森の奥に連れ去ったか……
メリッサは考え、どちらを選んでもカイを守れなかったと首を振る。
ランデルに被害を及ぼした元凶と、何をするかも解らないエルフに守られた者。
どちらも王国との対決は避けられない。早いか遅いかの差しかない。
結局、カイ様の決断が一番なのですね。
と、メリッサは輝く瞳をそのままにため息を付いた。
カイにはいくら返しても返しきれない恩がある。
世界樹の葉で命を救われ、飴で頭を救われ、ドライフルーツでエルトラネを救われた。
今、エルトラネの里はまともに働く頭に涙を流す者ばかりだ。
食べ物さえ口の中に入れていればラリるれる事は無いが世界樹はそれだけの食を渡してはくれない。刹那の正気の間に苦悩しながら抗う事もできずに狂気に呑まれていくあの悲しさはハーの族にしか理解できないだろう。
回復魔法はおろか世界樹の葉でも逃れられない狂気の世界。
それを救ってくれたのが青銅級冒険者カイ・ウェルスだ。
カイを助ける為ならメリッサは全てを捧げる覚悟がある。
それはエルトラネの総意でもある。彼が極刑となるのであればエルトラネは全てを捨てて彼を救い出すだろう。
たとえ人間との戦いになったとしても……
メリッサは夕日に赤く染まるランデルの門を潜り抜ける三人を射殺さんばかりに睨みつけた。
視力強化で見る三人の表情は暗く、何かしらを話しながら歩いている。
この距離では魂を読む事はできないが、監視していた限り蘇生前の決定を覆した様子は無い。
しかし勇者級はもう一人いる。
勇者アレク。
彼一人がどのように判断するかで状況は大きく変わる。
攻撃を食う聖剣はそれだけで他の勇者三人の力を大きく凌駕する。リーダーはあくまで王女システィ・グリンローエンだが戦いにおける実質的リーダーはアレクなのだ。
カイはアレクを信頼しているようだがカイには魂を読む力は無い。
だからカイはアレクの本心を知らない。
あの白金級冒険者のように表面上はにこやかでも内心はドロドロかもしれないのだ。
人はにこやかに騙す。
白金級冒険者はにこやかにあったかご飯を振る舞いながら儲けと破滅を求め、さらにエルフの討伐賞金を求めた。
表情や言葉や思考に意味は無い。決断と現れた行動こそが真実なのだ。
その点はカイも同じだ……やった事は白金冒険者とは真逆だが。
迷惑だ厄介払いだと言いながら、そして心でまたエルフと縁が出来たと後悔しながらもメリッサとエルトラネを助けてくれた。
カイの後悔や発言などその行動の尊さに比べれば些細なもの。
だからこそメリッサはどうしようもなくカイに惹かれたのだ。
「カイなら大丈夫えうよ。あったかご飯の人えうから」
「む。だいじょぶ」
天幕を張り終えたミリーナとルーが今もランデルを睨むメリッサに声をかける。
「私もそう思いたいですわ。ですがどうしても目を離す事ができませんの。カイ様があのような目に遭われたのも私達エルトラネが原因。カイ様がランデルから出てくるまでは安心する事はできません」
「でもここでピーは迷惑えう」
「飴食べるの忘れないで。絶対、絶対」
「わ、わかっていますわ」
ジャラジャラ。
メリッサはかぶった帽子から飴を取り出し口に含む。
ですがいくらカイ様の決断といえども心配なのは仕方がありません……メリッサは飴を舌で転がしながらランデルを睨み続ける。
ここは森の外れ、ランデルと目と鼻の先だ。
ここでラリるれる事は絶対に許されない。
メリッサらハーの族を飲み込む狂気は強い感情や意思を狂った形で反映させる。ここで狂えば確実にランデルを襲い、カイを探し出して奪うだろう。
それはメリッサの渇望する行為だがカイの決断を無にする行為だ。
ここにいる限り、いや、カイが無事に戻って来ない限り眠る事すら許されない。メリッサは時折回復魔法で自らの調子を整えながら睨み続ける。
日はすでに沈み、満天の星空が夜空を照らしている。
月が姿を現し、天に昇り地を淡く照らしてもメリッサは森の外れでランデルを睨んでいた。
ジャラリ。
頭から飴を取り出し口に含む。
安心して眠れないせいだろう、飴の数は日没前の半分以下に減っている。
このままでは朝まで続きませんわねと多少食べる速度を落とそうとメリッサが思ったその時、頭上の袋にジャラジャラと飴が注ぎ込まれた。
「ありがとうございます。ミリーナ」
「礼はいいえう。カイのためえう」
ミリーナが自分が貰った飴をメリッサの頭に注いでいた。
振り向きもせずメリッサが謝意を告げる。マナの動きを知覚できるエルフは隠蔽しない限りその行動は筒抜けだ。
そしてジャラジャラジャラジャラ……ミリーナが注いだメリッサの袋にさらに飴が注がれる。
今度はルーだ。
「私もあげる」
「お、重いですわ。飴を入れ過ぎですわ」
「む、贅沢」
「どうせ食べるから関係ないえう。強化魔法で何とかするえうよ」
「何日待つかわかりませんのに余計な事に魔法を使えませんわ」
「大丈夫えう。カイはすぐに出てくるえう」
「む。大丈夫」
メリッサの横に座って同じようにランデルを見つめ、ミリーナとルーが断言する。
「カイは必ず戻って来るえう。戻って来なかった事は無かったえう」
「ん。メリッサ言った。あの三人はカイを捕まえる気無かったと」
「勇者はもう一人いますから。アレクという最強の勇者が」
しかし二人は揺るがない。
「カイの友達なら大丈夫えう」
「む。友達なら大丈夫」
「……その自信はどこから来ますの?」
絶対の信頼。
メリッサの問いにミリーナはえううと、ルーはむふんと照れて笑う。
「カイを信じてるからえう。カイの忠犬なら当然えうよ」
「む、忠犬飼主信じる当然」
「なぜ犬ですの? 人として接すれば……できませんわね。私達エルフには」
「えぅ……」「む……」
メリッサが呟き、三人共に目を伏せる。
人として近づく事は許されない。
それがエルフの呪いだ。人として接し男女として交われば呪いは移り、カイを苦しめるだろう。
人の世界を森に沈める呪いはカイの求める薬草人生を奪う行為に他ならない。恩を仇で返す行為は決して許されない事だ。
それならば犬で良い……時折駄犬と小さく呟くカイにミリーナとルーはそう考えたのだろう。
もちろんメリッサもその考えに異論は無い。
どれだけ惹かれても人として愛を捧げるのはカイを不幸にしてしまう許されない行為。
ならばせめて犬として愛されよう。
彼に従い短い人の人生を共に歩もう。
ミリーナやルーのように。
メリッサは頷き、高らかに宣言した。
「では、私は愛犬を目指しますわ!」
「えう?」「む!」
「愛犬。人の世界では仕事ではなく愛される為に飼われる犬がいるのです」
さすがは何十年も人間に搾取され続けたエルトラネ。
ピーであってもエルネやボルクより人間の世界に詳しい。
「膝の上に乗せてもらったり腹を撫でられたり一緒に寝たりするのです。ああ、なんて私にピッタリな犬なのでしょう。こうしてはいられませんわ! 尻尾、尻尾を生やさないと……ふんぬっ!」
メリッサが腰に力を込めると柔らかいスカートの背後がふわりと持ち上がる。
メリッサがふんぬと言うたびにスカートは持ち上がり、最後のふんぬで大輪の花がポポンとスカートから飛び出した。
「ホホホホホ! どうですこの見事な尻尾! 愛犬、まさに愛犬ですわ!」
「尻尾は花なんて咲かせないえうよ?」
「ひまわりとか、バカ?」
「バカとは何ですかバカとは! 犬といえば尻尾フリフリでございますわ! フリフリ、フリフリーっあいたた回復回復……で、ですが負けませんわ!」
尻に根付いたひまわりが腰を振るメリッサの尻を刺激する。
たまらず回復をかけながら腰を振り続けるメリッサを、ミリーナとルーが呆れて見つめていた。
「この駄犬ピーえうね。まともに話せてもピーはピーえう」
「カイがお尻心配するから今すぐやめるべき駄犬」
「くうっ、同じ駄犬に見下されるとはとても心外ですわ! しかしお尻が困った事になりそうなのは同意です。カイ様に摘んでいただく尻の花は美しく、そう美しくなければなりませんから! ですが愛犬はやめません。モフモフ、そうモフモフです! カイ様に体を撫でていただくのです!」
「ピーとどこが違う?」
「ピーはこれだからダメえう。そんな事をしたらカイのキノコが困るえうよ」
「ううっ愛犬難しいっ! それでは膝上で甘えるとかもダメではありませんかっ」
「当然」「当たり前えう」
愛犬とのスキンシップを考え心おどるメリッサだがあくまで体はエルフである。そんな理屈がカイに通用するはずもない。
実際にやれば色仕掛けと何も変わらないのである。
「で、では髪、髪ならどうですか?」
「髪えう?」「髪?」
「そう! エルフの命である髪をカイ様に手入れして頂くのです。手でお持ち頂いて櫛を優しく通してもらう……ああっ、カ、カイ様素敵っ!」
「……そんなの無理えう、絶対無理えう……えぅ」
「そんな面倒くさい事する訳ない……ぬぐぅ」
ラリるれなくてもイッちゃってるメリッサの言葉をミリーナとルーが否定する。
しかし歯切れは悪く、二人の頬は微妙に朱に染まっている。
手で自らの髪に触れてえうぅぬぐぅと言う様はまんざらでも無いと言っているようなものだ。
「ふふ、二人とも期待していますね?」
縦ロールをふよんふよんさせながらメリッサがニヤリと笑う。
ミリーナとルーはちらちらとメリッサを見つめ、納得したように呟いた。
「えぅ、カイはときどきメリッサの髪を見てるえう」
「触りたいという意味なら納得」
二人は納得しているがカイは面倒臭そうな髪形だなと思っていただけである。
切っただけのナチュラルヘアーの二人とは違うオシャレさんっぷりに感心すると同時に関わりたくないと思っていたのだがミリーナやルーにそれが解る訳もない。
これからはエルフもオシャレの時代なのか……!
食に苦悩する事の無くなった二人がメリッサを見て、己を見て、互いを見て何とも貧相な服と髪にえうぅぬぐぅと唸る。
髪はエルフの命だがそれは清潔にしておかないと食に困るためであり、オシャレという訳では決して無いのだ。
だが今はカイのおかげで頭で直接受けなくても食を得る事ができる。
二人はメリッサをうらやましげに見つめ、やがて口を開いた。
「ミリーナも髪形変えてみたいえう!」「私も」
「ええっ?」
二人の髪形変えたい発言にメリッサが驚き、額に汗がにじみ出る。
確かにメリッサの髪形は縦ロールふよんふよんであるが、決してメリッサがオシャレさんという訳ではない。
エルフの中ではオシャレさんのハーの族の髪型は回復魔法の応用である。髪にそのような性質を与えながら回復する事で髪形を固定しているのだ。
しかしメリッサは自分が何故このような髪形になっているかは解っていない。
実はこの髪形はラリるれってる際の狂気が産んだピーの回復魔法の産物であり、メリッサが意識して行っているものではない。エルトラネの里の狂気が無駄な回復魔法を乱発しているだけなのだ。
メリッサからすればミリーナやルーのナチュラルヘアーこそが羨ましい髪形である。
食を受けても髪が絡まず楽に食を手にできる。
エルトラネの里は妙な髪形でとにかく食に絡むのだ。狂気が髪を取り除く訳も無く、正気に戻りもしゃもしゃと口から髪を抜く食事は何とも嫌な気分なのである。
正気で食を得られるようになったメリッサはもう二度と歯の間から髪を抜きたくありませんわと思っていた。
「い、いえ自然にまとまった髪の方が絶対に良いですわ!」
「そんな事ないえう。カイがちらちら見ているえうよ」
「む。カイ見てる、すごく見てる」
「それは単に髪形を整えたエルフが珍しいというだけでは?」
「人間は髪をいじるのが好き。今日ぶちのめしたあの二人もオシャレしてた」
「忠犬として身だしなみを考える時えう。これからはエルフもオシャレの時代えう!」
「は、はぁ……」
困った事になってしまいましたわ……
と、メリッサは心の中でため息をついた。
カイにこの髪を梳いて頂いて二人のような素直ヘアーにしてもらおうと思っていたのにまさかの逆反応である。
メリッサは食べ物に絡まるこの髪形が好きではないが二人には超受けている。
それは喜ばしい事だがメリッサはこの髪形にした自分の狂気を知らないのだ。
やりたくても出来ない事をやってとせがまれるのは何と切ないものである。
それが自分の狂気の産物であればなおさらだ。
狂った自分はそれを知っているのだから。
見栄と恥、そして信頼……メリッサの心に様々な感情が去来する。
そしてメリッサは信頼を選んだ。
普段はピーだが正気な時のエルトラネのエルフはまともなのだ。
メリッサは姿勢を正し、するりと二人に土下座した。
「すいません。これはラリるれった時の私がした事ですので私にはできませんの」
「できないえう?」
「はい」
「えぅ……」
土下座で告げるメリッサにミリーナはしょんぼりと肩を落とす。
しかしルーは違った。
「それ違う。やりかた知らないだけ」
「えう?」「はい?」
「ピーもメリッサも一緒。どっちもメリッサ」
「そ、そうえう! 今こそピーを返上する時えうよ。ピーの技術を獲得してエルフのオシャレの人になるえうよ!」
「エルフのオシャレの人……な、なんだかカイ様のあったかご飯の人みたいですわ」
魅惑的な言葉にメリッサの心が揺れる。
二人の勘違いだがカイはメリッサの髪に興味があるらしい。カイに恩を返す方法を色々考えていたメリッサはこれも恩返しとふんぬと拳を握りしめた。
くどいようだが勘違いである。
「やります! このハーの族、エルトラネの里のメリッサ・ビーンはオシャレの人を目指します!」
「えう! で、ではミリーナの髪を、こうズバーッとかズゴーッとかするえうよ!」
「わかりましたわ。かぁーいぃーふぅーくぅーっ、ズバーッと!」
そもそもズバーッとした髪形とは何かしら?
メリッサはそう思いながらその場の勢いで回復をかけた。
ソフィアと違い感覚で回復魔法をかけるエルフはソフィアのような状態把握をあまり行わない。
当然のようにマナをはるかに消費するがエルフは人間よりマナが多く、森の奥に引き篭っているのであまり戦う事もない。
世界樹の守りでなかなか怪我しないエルフの回復技術はソフィアの足元にも及ばず、対象の状態判断も適切な回復手法も全てがいい加減であった。
オシャレを知らないミリーナの要求もいい加減、回復をかけるメリッサの意識もいい加減ではまともな髪形になるはずがない。ミリーナの髪はまず伸びて地に達し、そしてグググと持ち上がり、逆立ち、やがて天を衝いた。
「えうっ? 何えう? 何この髪形えう? これがオシャレえうか? 頭振るとふよんふよんして気持ち悪いえう!」
ミリーナが騒ぐ。
それはそうだろう。地まで届く髪が全て逆立ち草木のように揺れるのだ。
動き始めで引きずられ、動き終わりで引きずられ、揺れが収まるまで毛根がうねうねといじられる。
気持ち悪いのも当然だ。
「ルー、どんな姿えうかこれ?」
「頭の上に草が生えてるみたい……ぷっ」
「えうっ! 笑った、笑ったえうね! これはきっと失敗えう! メリッサもう一度、今度はズゴーッとした髪形にするえう!」
「わ、わかりましたわ。かぁーいぃーふぅーくぅーっ、ズゴーッと!」
ミリーナの要求に応じてメリッサが再び回復をかける。
先ほどと同じく要求も意識もいい加減だ。
だから結果もやっぱりいい加減。天を衝いた髪は今度は全方位にズゴーッと伸びて固まった。
「えう? 今度は、今度は何えうか?」
「タンポポの綿毛みたいな感じに。く、くすぐったい近づかないで」
「えうっ! 自分だけオシャレするつもりえうねメリッサ!」
「ですから出来ませんのと言ったではありませんか。あれはピーがしていた事だと!」
「やっぱりいきなりは無理。カイがペネレイを見分けたように練習あるのみ」
「ピーに土下座して教わってこいえう!」
「そんな事できる訳が無いではありませんか!」
「ああもう戻すえう! こんな髪でカイの前には出られないえうよ駄犬に逆戻りえう!」
ミリーナがタンポポの綿毛のごとく全周囲を髪でふよんふよんさせながら叫ぶ。
逆戻りも何もずっと駄犬扱いですわ……
と、しみじみ思うメリッサだ。
今の三人はまさしく駄犬。回復は使えても細かい回復は出来ず、髪の毛を爆発させるその姿は遊んでいるのと変わらない。
飼い主の危機にこのような有様……カイ様が私の回復を使う日が来るかもしれませんのにこれはいけませんわ!
と、メリッサは回復技術を磨く事を決意する。
手本はソフィア。
魂を扱った際にさらっと見ただけだが回復も蘇生も手順が恐ろしく細分化されていた事を思い出し、メリッサは手本にする事に決める。
勇者級冒険者であり聖女でもある彼女の回復技術は人間世界ではトップクラスなのだがそんな事はメリッサの知らない事である。
「とりあえず戻すえうーっ!」
「わ、わかりましたわ! かぁーいぃーふぅーくぅーっ」
「角、角みたいぷぷぷ」
「えうーっ! 戻すえう、戻すえうーっ!」
「ま、待ってください。そろそろ疲れが、回復疲れが」
「水飲む、ミスリルコップで水飲む」
「んくっ、んくっ、ぷはぁーっ、さあ回復、回復いたしますわーっ」
「えうーっ!」
ランデル近くの森の外れにミリーナの叫びとメリッサの決意とルーの呆れが静かに響く。
髪をめぐるドタバタは結局朝まで続き、カイが三人の勇者級冒険者と共にランデルから出て来た頃にようやく収拾が付いたのであった……
書籍版のカイは遠目でバレないように冒険者の服や装備を与えてるから、三人の服装にそれほど差はありません。
あと、ランデル上層部にカイは全部ぶっちゃけてるのでこの日は皆で頭を抱えていたことでしょう。