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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
一巻発売記念月間 ランデル領館に頭を抱える領主を見た!
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3.カイ、家を食われる

一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。

書籍化なんて二度と無い事かもしれんからはっちゃけろー。

「……あれ?」


 エルネの里、広場。

 広場の中央にある食料庫の隣で、カイは首を傾げていた。


 無いのだ……家が。


 里では唯一の心のエルフ店の間取りではない家、カイ宅。

 ミリーナの母が留守番でよく迷う、カイ宅がきれいに消えている。


 オルトランデルでの買い物から戻って来ればこれである。

 カイは再び首を傾げ、背後からしゅぱたんと近付いてくる世界樹シャルロッテに聞いてみる事にした。


『うわぁーい。竜牛に葉っぱあげたら喜んでたー』


 いやそれ竜牛悶絶するから。拷問だから。


 たぶんミリーナの幼なじみのスピーの所の牧場だろう。

 あったかご飯の人御用達の竜牛ブランドであるスピーの牧場は、竜牛の味の向上に余念が無い。


 色々試しているとは聞いていたが、まさか世界樹の葉を食わせるとは……

 竜牛のストレスが溜まってまずくなるぞ?


 と、カイは竜牛の不幸に同情の念を禁じ得ない。

 まあ、いずれは食べるのだが。


 それはそれとして家である。


「シャル。ここにあった家を知らないか?」

『食べたー』「ぉおい!」


 しゅぱた!

 マナ胸を張って答えるシャルにカイは叫んだ。


 なんでも食うって事は知っていたが、まさか家を食われる事になろうとは……

 勝手にいろいろ食べちゃダメって、いつも言ってるだろ。


 カイはよろめき膝をつく。


 まあ、家はまた建てればいい。

 しかし家族は……最愛の妻と子はどこ行った?


「ミリーナ、ルー、メリッサは……俺の子らはどこへ行った?」

『腹の中ーっ』「ぉおい!」


 いやそんな猟奇的な事を言われても……

 腹の中で一緒とか、お前をそんな風に育てた覚えはないぞ俺は。


 なぜか自慢げなシャルがカイにはまったく理解できない。

 しかし、そんなカイの前に答えが幹を開いて現れた。


 ガチャリ。


「カイ、何してるえう?」

「ミリーナ!」

「む。色々便利になった」「そうですわ。至れり尽くせりになりましたわ」「ルー! メリッサ!」

「「「パーパぶぎょーっ」」」

「おおっ、俺の可愛い子供達!」

『あらあら、便利なものですねぇ』

「マリーナ!」


 本当に腹の中。

 言葉そのまんまであった。


 シャル……お前、本当に生物か?

 まさか幹がドアのように開いてミリーナ達が出て来るとは思わなかったよこんちくしょう。


「すごいえう!」「む。さすが世界じゅー? 出来る子」「そうですわ。移動可能、魔道具は魔石いらずで至れり尽くせり。エルトラネのミスリル土台並ですわね」

『世界じゅー? はやめて!』

「「「じゅー? じゅー?」」」

『あらあら』


 ミリーナ、ルー、メリッサは絶賛一色。


 なにそれ、そんなにすごいのか?


 と、カイは開いた幹を覗きこむ。


「……なんか、広いな」


 身の丈五十メートルのシャルの幹は太いが、さすがに家は入らない。

 しかしドアの向こうはカイ宅まったくそのまんま。

 家具や小物まで食べられた家そのまんまである。


「カイ。入ってみるえうよ」「む。この素晴らしさは入らないと分からない」「そうですわ。ささ、カイ様ずいっとお入りください」

「「「ぶーぎょっ」」」

『あらあら』


 覗き込んだカイを妻達と子らが押す。

 カイは妻よりへなちょこだから力押しではかなわない。

 押されるままにシャルの中に入ったカイは、住み慣れたカイ宅と変わらぬ間取りに舌を巻いた。


「なんだこれ、ダンジョンか?」


 しかし異界の侵攻はない。

 異界は世界を食らう敵だ。必ず相手が攻めてくるのだ。


 おそらくこれはダンジョンのような異界に突き抜けたものではなく、世界に出来た「こぶ」のような物なのだろう。

 ダンジョンも異界に突き抜けなれば空間の拡張。

 これは膨大なマナで空間を歪めて作られた異世界なのだ。


 さすが世界樹。こんな事も出来るのか。


 と、カイは素直に感心し、やがて首を傾げた。


 ……それだけのマナ、どこにある?


「シャル……この空間、どうやって維持してるんだ?」

『がまんー!』

「ぉおい!」


 我慢って……


 呆れ半端無いカイである。

 要するにシャルは膨大なマナを投入してこの空間を維持しているのだ。


 しかし我慢はしょせん我慢。

 いずれ限界が来て破綻する。

 我慢は必要な時にする事であって、いつもする事ではない。

 カイは叫んだ。


「祝福の無駄遣いは許さん! 家だ、カイ宅を再建しろ!」

『ええーっ!』

「カイ、冷暖房完備えうよ。快適生活えうよ」「む。夏は涼しく冬はあったか」

「いや、俺ら世界樹の守りあるじゃん。マナの無駄遣いじゃん!」

「空間収納とか素晴らしいですわ」

「土地は余ってるから。倉建てればいいから。そもそもそんなに物無いから!」

「「「えーっ」」」


 不満の声を漏らす妻達。

 しかし、カイには切り札がある。


「お前ら、この家にシャルがどれだけマナを使っていると思ってる。食べたご飯以上のマナを使っていないとがまんなんて言わないぞ?」

「それは家再建えう!」「むむむ。ご飯が相手では放棄やむなし」「そうですわ。家よりもご飯。快適さよりもご飯ですわ」


 さすがはエルフ。食への執着半端無い。

 妻達はすぱっと便利を切り捨て再建のための樹木を育てはじめる。

 そんな妻達とカイに、シャルは幹を傾げてこう言った。


『んー、空間を増やさなければがまん必要無いよ?』


 ぶもんっ……

 言うなり幹が太く低くなる。

 家も納まる完全変形。


 確かにこのサイズならすっぽり家は入るだろうが、お前本当に生物か?


『王じゃからのぅ!』

「やかましい!」


 さすがに何でもあり過ぎると、呆れ半端無いカイである。


『ねぇ僕に住もうよー。移動できるよ? 飛べるよ? 間取り自由だよ? 持ち運びできるよ? 陽光を葉で食べれば十分だよ? がまんしてないよ?』

「……」


 その言葉にううむと唸るカイである。

 確かに我慢しなくて良いなら至れり尽くせり超便利。


「どうする?」

「シャルが我慢しないなら住むえう」「む。色々超便利」「自宅ごと移動できるなら、カイ様のエルフを導く旅もずっと快適になりますわ」

「「「ぶぎょーっ!」」」

『あらあら』


 カイは妻達と相談し、シャルの中に住む事に決めた。

 さすがは怪奇親玉とその妻達。この程度の事では動じないのである。


「カイ、手紙を送る時の住所はどうするえう?」「エルネの世界樹?」「シャルロッテでは届きませんわよね」

「そこはこれまでの住所でいいだろ」


 とりあえず、カイスリーの留守番小屋だけは作っておこう。


 留守番カイスリーの視線に、カイは樹木を育てはじめるのであった。

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世界樹エルフ
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