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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
一巻発売記念月間 ランデル領館に頭を抱える領主を見た!
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2.カイよ、名前を付けてやれ

一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中。

書籍化なんて二度と無い事かもしれんからはっちゃけろー。

「……困った」


 ランデルの町、領館。

 ルーキッドは今日も頭を抱えていた。


 新たな怪奇、世界樹のせいである。

 齢二億を超えるバルナゥとは違って心は幼くハイパワー。

 とにかく全てに興味を持ち、何かと食べようとするのだ。


 先日も城壁を食われてカイに修理させたばかりである。

 しかし、さすがはエルフの妻を持つ祝福されたカイ一家。

 ホホイと樹木を現地で育てて材木を調達し、これまで以上に頑丈な城壁をその日の内に作ってのけた。


 現地調達。即日完成。かかった費用は昼食だけ。

 かつてオルトランデルを一日で森に沈めたエルフの祝福半端無い。


 あちこちに頭を下げて資金調達したルーキッドにとっては超目の毒。

 自分の苦労を他者にホホイとやられると切なくなるものなのだ。


 しかし、私も怪奇にずいぶん慣れたものだ……


 頭を抱えながらも、ルーキッドは笑う。

 オルトランデルが森に沈んだ真の理由を知った時には寝込んだのだから、慣れたと言っても良いだろう。


 ルーキッドもすでに怪奇ベテラン。

 怪奇親玉のカイの足下にも及ばないが、あそこまでいくとすでに人外。

 神をなだめる役回りなどルーキッドはまっぴらご免だ。


「バルナゥ。今日はビルヒルトで世界の穴埋めだろう? 行け、ほれ行け」

『おおーふっ。ルーキッド厳しいーっ』

「お前は世界の盾なのだろう? 世界の厄介事はお前の仕事だ」

『待つのだ。この金貨、この金貨の曇りだけは……』

「は、や、く、い、け」


 世界の盾が甘えるな。

 寝床で金貨を磨くバルナゥを足で蹴って追い出したルーキッドは、窓からランデルの街並みを眺めた。


『びゅうーんっ』


 しゅぱたたたたたた……


 視線の先では世界樹が往来を駆けている。

 その枝葉にはランデルの子らが乗ってすごいすごいと騒いでいたり、洗濯物が干してあったりとランデルの者の怪奇順応半端無い。


 そして道行く人の世界樹に対する順応も半端無い。

 皆、世界樹がうまく避けてくれる事を知っているので駆けていても気にしない。


『ぶぅううーんっ!』

「奥様、あそこの商店で食品の在庫処分をやってますわよ」

『びゅうわぁーんっ!』

「あら、すぐに行かなくちゃ」


 往来で談笑する婦人らの頭上を世界樹は何度も駆けているのに、婦人らは談笑を止める様子も無い。

 ルーキッドに負けず劣らずの怪奇ベテランっぷりである。 


 バルナゥには賽銭を投げ、駆ける世界樹の下にいても世間話に花が咲く。


 我がランデルは一体、何処へ行こうとしているのだ……?


 と、将来を心配するルーキッドだ。

 それともう一つ、世界樹に気がかりな事がある。


『世界樹でーすっ』

「あらあら」「まあまあ」


 この名である。


 聖樹教が聖樹様と呼び崇めているのが世界樹だ。

 かつての聖樹教が国家に与えていた世界樹の枝葉は神の力の末端。

 枝は強力な武器の素材として使われ、葉は全てを癒やし寿命すら延ばす。


 今では与えられた世界樹の枝葉は全て灰となってしまったが、あの力を欲する者は今でも多い。


 普通の樹木ならルーキッドも「名前が同じだけ」と気にしなかったが、世界樹は喋って駆ける超樹木。

 かくして、ルーキッドに商人や貴族から問い合わせが殺到することになる。

 人間側の窓口は、決まって必ずルーキッド。

 怪奇領主の宿命だ。


 面倒事が増える前に何とかしなければな……


 もしかしたらという期待を持たれても困る。

 ルーキッドは席を立ち、エヴァに頼んで世界樹と共に来ているであろうカイを求めて領館を後にした。


「エヴァ。カイはどこにいる?」

「ミルトの家わふんよ」


 カイはミルトの家で、ミルトと茶を飲んでいた。

 ちょっと大きめの古い木造住宅、旧ランデル聖樹教教会はまだまだ健在。

 今日も回復魔法使い達が世界樹の命枝に吊られて雨漏り修理の真っ最中。


 ルーキッドはトンテンカンと修理の音を聞きながら、世界樹に軽く頭を下げて玄関のドアを叩いた。


「カイ、いるか?」

「ルーキッド様」「あら、いらっしゃい」

「わふんっ」


 ルーキッドの訪問にカイが頭を下げ、ミルトは席をすすめて茶を淹れる。


「何か問題でも?」

「……」


 お前にその言葉を言われると、内心穏やかではないな……


 ほとんど全ての問題はカイ発であり、これから相談する事柄もカイ発である。

 ルーキッドは文句を言いたいのをぐっとこらえ、会話を切り出した。


「これから起こるかもしれない問題に早めに対処しようと思ってな」

「と、言われますと?」

「そこにいる世界樹を求める人間が、やらかす前に手を打っておきたいのだ」

「あら、聖樹教の回復魔法使いは世界樹を聖樹様とは思っておりませんよ?」

「まあ、回復魔法使いは心が読めるからな」


 実際に会った聖女ソフィアの心を経由してイグドラに拝謁した回復魔法使い達は、聖樹様の偉大な姿を知っている。

 山よりも巨大な聖樹を見た彼らは聖樹様の子とは思っても、聖樹様そのものとは思わないだろう。


 しかし問題はそこではない。


「世界樹の枝葉を求める者は多い。特に世界樹の葉は治癒のみならず寿命が延びる事が知られているからな。どんな手を使っても手に入れたいという者が多いのだ」

「アレに、そんな効能を期待する人がいますかね?」

『ひどいやーっ!』


 カイの言葉に世界樹が騒ぐが、仕方のない事である。

 今の世界樹を見たら聖樹よりも異界の怪物の方を連想するだろう。言動があまりに幼く軽いのだ。

 カイとルーキッドは腕を組み考える中、ミルトが一つの案を出す。


「欲しがる人に、提供してみてはいかがですか?」

「……大丈夫なのか?」

「案ずるより産むが易しですよ。ルーキッド様」


 他ならぬミルトの言葉だ。

 ルーキッドはさっそく手配し、世界樹の葉の品評会を行った。

 やっぱり期待する者はいたのだろう、たくさんの商人が集まり葉を口にする。


「「「くそまずい!」」」


 そして広がる悪評三昧。


「くそまずい!」「しかし体調は良くなった」「だがくそまずい!」「くそまず過ぎる!」「ありふれた薬草よりは効く」「だが、耐えられんほどくそまずい!」

『もう一枚食べるー?』

「「「いらん!」」」


 くそまずい、もう一枚。

 とは、絶対ならない。

 体調と味のバランスが悪すぎるのだ。


 イグドラが授けた何でも治り寿命も延びる世界樹の葉とは違い、今の世界樹の葉はありふれた薬草よりもちょっと良い程度の代物。

 ぶっちゃけ大した事無いのだ。


 それなのにくそまずいのではたまらない。

 魂を削って体調がちょっと良くなる葉など、誰もがノーサンキューなのだ。


「聖樹様の足下にも及びません」「あの素晴らしきお力はやはり聖樹様だからこそ」「聖樹様のような偉大さがあって、はじめて世界樹なのですね」

『じ、じゃあ僕は何なのさ?』「世界じゅー?」『ひどいや!』


 本物の世界樹がパチモン扱い。

 神イグドラの面目躍如。

 しかし世界じゅー? が名ではあんまりである。

 ルーキッドはカイに言う。


「カイよ、名前を付けてやれ」

「え?」

「というか、お前はいつまで世界樹と呼んでいるのだ」

「だって世界樹じゃないですか」

「この先ワラワラと世界樹が芽吹いたらどう呼ぶつもりなのだお前は。戦利品カイのように世界樹ワンとか世界樹ツーとか呼ぶ気なのか?」


 ルーキッドはカイに訴える。


「いやー、それは親であるイグドラの役目でしょう」

『汝に任せた。余の子よ、汝が根付いたカイに名を付けてもらうがよい』

『わぁーいっ!』「このやろう!」


 撃ち返し弾炸裂。

 ぶん投げ負けたカイである。


「ところで世界樹、お前は男女どっちなんだ?」

『いずれ実をつけるから、女なんじゃないかなぁ?』

「……やっぱりか」


 エヴァンジェリン、ジョセフィーヌ、クリスティーナ、フランソワーズ、ベアトリーチェ。

 犬、猪、竜牛、馬二頭。

 全て雌。

 奇妙な縁である。


 カイは頭をこねくり回し、何とか世界樹に名をつけた。


「よし。今からお前はシャルロッテだ」

『わあい!』「愛称はシャルな」『うわぁい!』


 しゅぱたたくねくねぐりんぐりん。

 喜びに踊るシャルだ。

 名が付くということは個別な扱いとなったという事でもある。

 世界樹は今、世界樹という種から一個の存在として認められたのだ。


『ルーキッドのおかげだよ。お礼に僕の葉をあげるよー』

「いらぬ」


 ルーキッドは即座に断った。

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一巻発売中です。
よろしくお願いします。
世界樹エルフ
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