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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
12.秘境大陸アトランチス
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12-19 世界樹、根付く

一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。

よろしくお願いいたします。

 『異界の主むしり』を終えて元の世界に還る彼を頭を下げて見送り、周囲の安全を確認して整地して火曜日の三度目の朝を迎えて……


「……いた」


 カイは彼の足跡をたどり、アトランチスの大地に子らを見つけた。

 豊かな緑が揺れる丘のてっぺんにそそり立つ大樹。


 世界樹だ。


 身の丈五十メートル。

 それだけのマナを食べたのだろう。その姿はもはや若木ではない。

 太い根はしっかりと大地を掴み、微塵も揺らぐことはない。

 これが世界樹の根付きなのだろう。

 世界樹は世界を食べて一気に育ち、彼を呼び出しカイを救ってくれたのだ。


『あらあら、これはまた見事な大樹』

「火曜日一日で、ずいぶん成長したなぁ……」

「カイ、そろそろ木曜日と言うえう」「む。超ややこしい」「そうですわ」


 いや、まだ火曜日だ。

 まだ火曜日じゃないと困る。


『カイよ。下りるぞ』「頼む」


 バルナゥに頼み世界樹の近くに下りたカイ達は、ゆっくりと木陰へと歩いていく。

 戦利品カイが伝えたのだろう、アレクとシスティが正座した子らと共にカイを迎えた。


「済んだ?」「ああ」「さすがカイ」


 まあ、俺は侵攻の拡大を防ぐ位しか出来なかったけどな。

 すべて、彼のおかげだ。


 システィの問いにカイは心で呟き、正座する子らの前に立つ。


「反省したか?」

「はい」「「「ごめんなさいー」」」


 聞くカイに、カイルと子らが土下座する。


 もうアレクとシスティの説教をさんざん受けたのだろう。

 カイは素直な子らに頷き、背後の大樹に歩み寄る。


 悪い事をして恐縮しているのだろう。

 いつもならはしゃぐ世界樹も今はただの樹木のように静かだ。

 カイは立派になった世界樹の幹を、何度も再生した左手で撫でた。


「大きくなったなぁ」『……うん』

「お前が、彼を呼んでくれたんだな」『……うん』

「まあ、食え」『……うん』


 まだまだ火曜日。

 三回目の朝日を迎えても火曜日だ。

 カイはイグドラが流す祝福を右手で受け、左手で世界樹に祝福を注ぎ込む。

 祝福のマナに込めるのは感謝だ。


「ありがとう。お前のおかげで助かった」


 そして言葉にしなければ伝わらない事もある。

 カイは子の頭を撫でるように世界樹の幹を撫でる。


『……本当?』

「本当だ。あんなの俺の祝福だけじゃどうにもならなかった」『そっかー』

「ほれ、まだ火曜日だから食え。もっと食え」『わぁい、わぁい!』


 いつもと変わらないカイに世界樹がはしゃぎだす。

 幹を揺らし、枝葉をくねらして喜ぶ世界樹は大きくなっても変わらない。


「まあそれはそれとして、俺も説教するからな?」『えーっ!』


 何がえーっ、だ。

 子の良い所は誉め、悪い所は怒る。

 そして自らを省みる。

 それが大人というものだ。


「カイさん。あまり世界樹さんを叱らないであげてください」「そうですよカイさん。止めなかった私達が悪いんですから」「そうだよ」「ごめんなさい」


 カイルとエルフの子らが世界樹をかばう。

 火曜日ですっかり仲良くなった世界樹と子らにほっこりなカイである。

 が、しかし……それとこれとは話は別だ。


「いや、当然お前らにも説教するからな?」「「「ええーっ」」」

「当たり前だ。お前らよりも幼い世界樹が説教されるのに、お前らが説教されないのはおかしいだろう?」

「でも世界樹ですよ?」「こんなに大きいのに!」「でかい」「超でかい」

「それと幼いは関係ありません」


 大きくても世界樹でも子供は子供。

 カイはぴしゃりと言い放つ。


「もう父上と母上からさんざん説教されたのに」

「カイさん! ほら、私達こんなに反省していますから!」

「「「ごめんなさいー!」」」

「お前らエルフは土下座のプロだからなぁ……反省なのかご飯が欲しいのか俺にはわからん」

「そぉおおんなぁあああっ」「あ、でも芋煮欲しい」

「「「ところでご飯はまだですか?」」」

「正直だなオイ!」


 アレクとシスティの説教を受けたのなら大丈夫だと思うが念のためだ。

 カイは土下座する子らに説教し、お昼ご飯の芋煮を作り、また説教しておやつの芋煮を作ってまた説教する。


 異界は世界の脅威。

 どれだけ説教しても足りない。


 カイ、アレク、システィは世界樹と子らにさんざん説教し、もうしませんと子らの心の底からの土下座を確認して頷いた。


「よし。じゃあ帰るか」「「「はぁい……」」」


 夕日が空を赤く染めている。


「長い火曜日だったな……」「えう」「む」「はい」

「え? 火曜日? さすカイできる!?」

「アレク、私達は火曜日じゃないから」「えーっ……」

『あらあら』


 火曜日な今日はこれで終わりだ。

 また日が昇れば金曜日。変わらぬ日々の始まりだ。


 カイは世界樹の幹を優しく撫でる。

 世界樹はこの地に根付いた。

 ここで世界を見守り、エルフと人を導いていく事だろう。




 と、カイは思っていたのだが……




『じゃ、僕も帰るーっ』「え?」


 しゅぱっ!

 くるくるくるくる……すたっ。

 しゅぱたたくねくねぐりんぐりん。


 世界樹は空に舞い、ぐるぐる回転して華麗に地面に着地した。

 その動きは以前とまるで変わらない。

 いや、今までより根が増えた分フットワークが軽い。超軽い。


「根付いたんじゃないのか!」『王じゃからのぅ!』


 カイの叫びにイグドラが笑う。


『心ある者の根付きは心。カイよ、余の子は汝の心に根付いたのじゃ。これから汝の心を学び、汝が去ったはるか先まで伝えていく事じゃろう。命と同じように心も繋がり、広がっていくのじゃ』

「……それは、仕方ないな」


 心に根付いたんじゃ仕方ない。

 カイはくねくね踊る世界樹を優しく見上げ、手を伸ばす。


「帰るか」『わぁい!』






 ランデルの森の中にぽつんと存在するエルフの里、エルネ。

 芋煮都市オルトランデルに最も近いその里は、最も開かれたエルフの里。

 ランデル領主の許可を得て初めて訪れた者がまず目を奪われるのは、里の中心に根を張る大樹だ。


 しかしこの大樹、エルネにあったり無かったり。


 時にランデルやオルトランデル、ビルヒルトや他のエルフの里にあったりする。

 なぜだと聞いた者は皆、答えに首を傾げるのだ。


「しっかり根付いておりますからなぁ。今はどこに行ったやら」






『ぶぅうううううーんっ』


 今日も世界樹はカイ達を乗せ、どこかを元気に駆けている。

12章はこれで終了です。

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世界樹エルフ
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