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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
12.秘境大陸アトランチス
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12-2 右から貰った祝福を、左に受け流す

 妻達に頭を下げ、イグドラと打ち合わせて、準備して、打ち合わせて、周囲に頭を下げて回って、打ち合わせて、準備して……

 そして次の火曜日。


「来たぞ。アトランチス」「えう」「む」「はい」


 カイ達はアトランチスの地を踏んでいた。


 しかしアトランチスといっても、かつてのエルフの都アトランチスやエルフの移住著しい都会? のような場所ではない。


 カイが立つこの地はそこから直線距離で二千キロちょっと離れた無人地帯。

 目の前にあるのは何ともだらーっとした草原だ。


 どんな祝福が来ても大丈夫なように。


 と、イグドラとカイが選んだ結果である。

 何も無い地ならトンチキ祝福も無問題。

 全国家から脅威扱いされてしまったあったかご飯の人ことカイの涙ぐましい配慮であった。


『うむ、ここなら何も無い』

「まあ、お前が食いまくった結果だがな」『ぐぬぬ』


 満足げなイグドラの言葉にツッこまずにはいられないカイである。


 地形もマナが無ければ維持出来ない。

 マナを食いまくったイグドラが山を丘に変え、岩を砂に変えた。

 地がマナを失い大きな形状を維持できなくなったのだ。


 天に還るために無数の異界を食らったイグドラのおこぼれでアトランチスは緑あふれる豊かな地になったが、地形は今もだらりなまま。


 今はマナが豊かだから問題にはならない。

 しかし広大な大陸全土がだらりとした地では将来的には問題がある。

 海があるから雲が出来、山があるから雨が降り、起伏があるから川が出来る。

 水がめぐる事で土やマナが運ばれて地が潤い、それらを養分に成長する自然が様々な姿を見せるのだ。


 が、しかし……今のようなだらーっとした地形ではこの循環がうまく働かない。

 起伏が無いので川が無い。

 山が無いので雲が集まる場所も無い。


 あぁ、神の理不尽さよ……


 カイはイグドラの食いまくった結果にため息をつく。


「ま、いつまでもお前の食べカスをアテにする訳にもいかんしな」

『余の食べカスと言うでない』

「お前の食べカス魔石、システィから「こんなの世に出したら超危ない!」って門外不出食らったんだぞ」

『あの程度でガタガタ言うでないわ』

「まあ、マリーナに食べてもらったけどな」『まずかったですねぇ……』

『汝、食べれば解決は相変わらずじゃのぉ……』


 まあ仕方ない。

 このまま地形を放置したら、移住しているエルフの里が困る。

 せっかくの祝福なのだから神の不始末を埋め合わせしてもらおうではないか。


 と、カイは身構える。

 イグドラ暴食ドーピングが有効な今がチャンス。

 再び草木の生えない砂漠に戻る前にある程度の起伏を付けねば後々面倒臭い。


「危ないかもしれんから、少し離れてくれ」

「気をつけるえうよ?」「む。危なくなったらすぐ逃げる」「いつでもカイ様をお守り出来るよう、回復も強化も万全ですわ」『家族は私が守りますから』

「「「ぶぎょー」」」

「他の奴らも離れてくれ!」


 格好良く言えば、天地創造。

 カイはミリーナ、ルー、メリッサ、マリーナと子供達に言葉をかけ、他の者に叫ぶ。


「お、ついにやるの? やるのね?」


 当然のようにいるのはシスティだ。


『ふむ、面倒事の後始末は我らが何とかしよう』『おう』『まかせろ』

「回復ならお任せ下さい」

「天地創造を見る事ができるとは、人生長生きするものですね」「おうミルト、カイに近寄りすぎるなよ。死ぬぞ」「カイ、僕も頑張るよ」「わふんっ」


 システィはアドバイザー。

 バルナゥ、ルドワゥ、ビルヌュはアドバイザー兼後始末役。

 ソフィア、ミルトが回復役、マオとアレクとエヴァが皆の護衛だ。


 自然のありさまなど、カイにはさっぱりわからない。

 何しろ行うのは文字通り天地創造。

 知識を持つ者がいないと困る。

 そして天変地異に対応できる力がないともっと困る。


 これまでの所業から、カイは神など欠片も信用していない。

 そして祝福のタイミングがわかれば、カイも準備を怠らない。

 ぶっちぎり最強戦力の竜と人間最強戦力の勇者を土下座でかき集め、神のはっちゃけ祝福に臨んでいた。


 そして助っ人は、彼らだけではない。


「「「ぶぎょーっ」」」『おお我が神よ、オークスーパージャグリング!』『『『えうーっ!』』』

「長老、ハンバーグ」「長老、私は焼きそばをお願いします」

「汝らブレないのぉ……」

「エルネの。カツ丼」「それでは私は焼肉定食でお願いします……るっぴぷー」

「ボルク長老にエルトラネ長老、汝らもブレないのぉ……」

「ベルガ様! 我らも注文いたしましょう!」「……ダメだ」

「「「なんと冷たい!」」」

「お前らはエルフ勇者だろ。携帯食で我慢しろ」

「「「そんなーっ」」」

「「「ぷぷーぴっぷぱー」」」


 おおおぉおおおえうめしえうめしえうめし……


 子供達が行くなら我らもと乗り出した老オークとオーク達は異界のマナを使った各種消耗品補給を担当する。彼らがマナを一旦異界のマナに変え、カイ達がそれに願う事で消耗品を補充するのだ。


 そしてアーの族、ダーの族、ハーの族エルフは世界樹の守りと魔法による防御を担当する。

 さらにベルガとエルフ勇者。

 カイはこれまでのコネを目一杯使い、これでもかと準備をしていたのであった。


「バルナゥ、なぜ私がここにいるのだ?」『おおーふルーキッドともだちーっ』

「カイさん、頑張って」「あー」

「カイなら大丈夫だよ。だってカイだもの。ああ、目を閉じればあの日の事を思い出す。僕がまだ奴隷だった頃にカイが差し出した食べ物……あの時カイが僕を導いたようにアトランチスを導く「長いぞ」えーっ、今日はカイ曜日なのにーっ」


 ついでになぜか居るルーキッド、カイル、カイトである。


「ルーキッド様すみません」

「気にするな。バルナゥが悪い」『おおーふっ!』

「そしてなぜカイルとカイトがいる?」

「見学です」「あぷー」「だって今日はカイの日だから!」

「……家族はちゃんと守れよアレク」「うん!」


 気分は完全に観光。

 そしてぷぎーぶもー、ひひーん、ぶるるっ……

 カイに関わる獣達も大集合だ。


「おぉ久しぶりだなジョセフィーヌにクリスティーナ」


 カイが猪のジョセフィーヌに竜牛のクリスティーナの頭を撫でる。

 二頭はアトランチスの猪と竜牛の始祖。

 繁殖は子の世代に任せ悠々自適なアトランチスライフを満喫している二頭だが、カイの求めに応じて馬のフランソワーズとベアトリーチェと共に馬車に繋がれている。竜とエルフとオーク達が手一杯だった時の非常時とんずら要員なのである。


『汝、チキン過ぎるじゃろ』「自分のしでかした事を見てから言え」

『ぐぬぬ……』「最初くらい、目一杯準備しないとな」


 というか、ここまでやっても全く不安が拭えない。

 相手は何をしでかすかわからない上に超絶ハイパワー。

 そしてカイはド素人。

 どこまで準備しても安心など決して出来ないのである。


『そろそろ準備は良いかのぅ』「ああ」


 カイが皆から少し離れ、草原の頂に立つ。

 イグドラが告げた。


『汝が行うのは神の御業、まさしく天地創造じゃ。気を抜くでないぞ』

「それはこっちのセリフだ。バカ共の指導はしっかり行えよ?」

『わかっておるわい』

「というか俺を経由せずにイグドラが直接やれよもう」

『それでこやつらが納得するならそうするわい』

「お互い災難だな」『全くじゃ』


 はぁ……


 天と地で二人のため息半端無い。

 しかしイグドラは原因を作った張本人の一人でもある。飼い主の粗相にあまり大きな事を言えないのであった。


『それではいくのじゃ』

「あまり祝福するなよ。ちょびっと、ちょびっとだからな?」

『わかっておるのじゃ、そぉれ……』


 イグドラの言葉の直後、右手がずしんと重くなる。

 神の祝福が流れ込んでいるのだ。


『右手から左手へと流すような感じじゃ』

「俺は排水管か……」『言い得て妙じゃの。そんなもんじゃ』


 つまりカイは管の先に付いた栓なのである。

 何とも切ない役回りであった。


『さぁカイよ、かつてのアトランチスの姿を蘇らせるのじゃ。白き頂輝く急峻な山々、無数の沢を束ねた大河、山頂から噴水のようにあふれる水の柱。そして天に浮かぶはエルフの町を擁する数々の浮島……』

「さらっと嘘を混ぜるなよ』『バレたか』「真面目にやれ」


 イグドラにとっては些細な事でもカイにとっては超大事。

 カイはふざけたイグドラをたしなめると左手を遠くの草原にかざす。

 近くにすると危ないが遠すぎればわからない。

 厄介事に即応する必要性から視界の届く数キロ先が限界だ。


『かざした左手から庭に水を撒くような感じで祝福をばらまき願うのじゃ』

「こ、こうか……?」


 かざした左手に願うとモコモコ膨れる草原だ。

 祝福のもたらす膨大なマナに地面が形を変えているのだ。

 カイの願う左手の先、丘は瞬く間に山となり流れる雲を貫いた。


「おぉ……なんかすげえ」

『ちなみに注がれた祝福を目一杯放出すると空に浮かぶ月程度なら軽く弾け飛ぶ故、注意せい』

「絞れよ!」


 ずごん!

 アホかと叫ぶカイの声に祝福が暴れ、山が弾けて飛び散った。


『『『『やばい!』』』』「わふん!」『『『えうーっ!』』』

「鍋防御!」「「「はいっ!」」」


 あふれる砂塵。飛び散る岩石。

 カイの粗相を竜とエヴァとオークとエルフで鎮めれば残るのは巨大な穴である。

 世界最高水深の湖、シボレヨ湖誕生の瞬間であった。


「穴だ」「穴が出来たぞ」「なんとすさまじい」


 おおぉおおお……皆の歓声半端無い。


『大きな声を出すでない』「このやろう……」


 そしてうかつに大声も出せないカイである。

 何にでも反応してはっちゃける。今までよりもはるかに厄介な祝福であった。


『なお、祝福を溜めすぎると汝が巨大化する』

「おおい!」


 ゴゴゴゴゴゴ……カイの叫びに地が鳴り響く。


「地から何か昇ってくるえう!」「むむむこれは天変地異」「カイ様!」

「これは噴火かのぅ」「無の息吹だ!」「「「はっ」」」

「「「ひゅっぱーっ」」」


 ミリーナ、ルー、メリッサがカイを囲み、エルフが皆を囲んで無の息吹を発動させる。

 皆が身構え見つめる先の地面がめきめき盛り上がって山となり、頂点に亀裂が走って赤い輝きがあふれ出す。

 溶岩だ。

 輝きに続き溢れる轟音、噴煙、稲妻……エルネの長老の言う通り、火山の噴火が始まったのだ。


「うわぁ……水、水!」


 冷やすといえば水。

 カイは溶岩あふれる山頂に手をかざして水をあふれさせる。

 が、実は水は超絶やばい。

 一千度を超える溶岩に注がれた水は瞬く間に沸騰し、水蒸気となり膨張して巨大な爆発をもってカイの盛った山体を崩壊させた。


「えーっ……」


 いわゆるマグマ水蒸気噴火である。

 噴火はさらに激しく噴煙は天を衝き、陽光を遮り周囲が暗い影となる。

 何とも悲惨な有様に、カイは呆然と呟いた。


「そんなものより祝福で冷やせ!」

「あ、ああ!」


 ベルガの叫びに冷えろと願いながら、カイは祝福を投射する。

 祝福により溶岩は瞬く間に冷え山頂からの噴火は停止した。


 が、しかし……

 祝福により引き寄せられた溶岩と発生した大量の水はまだまだ存在する。

 噴火口を失った溶岩と水は崩壊した山体の中で圧力を逃がす先を求めて足掻き、そこら中から吹き出した。


「なんじゃこりゃ……」

「鍋防御!」「「「はっ!」」」


 エルフ勇者の聖剣『心の芋煮鍋』の巨大な鍋が飛来する火山弾を防ぐ。


 やればやるほど酷くなる。

 なにこの地獄……?


 光景に唖然とするカイである。

 そして周囲を見渡し皆が無事な事を確認し、さらに草原を歩くエルフも走る動物もいない事を見てふぅと安堵の息を吐く。


「……誰もいない場所で良かった」

「んな訳ないでしょ!」


 ホッとするカイに叫ぶシスティ。

 そう、そんな訳が無いのだ。


「何してんのよカイ! 大噴火の後には漏れなく飢饉が来るのよ飢饉! 民が飢えると色々大変なのよどうすんの!」

「ど、どうすればいいんだ?」「とにかく灰の拡散を抑えなさい!」

「か、風、風か?」「やめなさい」


 気流が乱れても飢饉は起こる。バカにならない祝福パワーに止めるシスティだ。


「じゃあどうすれば」「祝福で地面に叩き落とせば……そんな事したらアトランチスが海の底に沈みかねないわね。ああもうどうすれば……」


 何をやってもあふれるパワーで災害の予感半端無く、もはや人間やエルフにはどうしようもない。

 人間やエルフには。

 唸るシスティにバルナゥが翼を広げた。


『ルドワゥ、ビルヌュ、そしてマリーナ。噴火を食うぞ』

『『おう』』『まずそうですねぇ』

『カイよ、汝は続けて山の中の溶岩を冷やすのだ。吹き出した諸々は我らが何とかしよう』

「あ、ああ」

『溶岩は災害だが自然の行いの一つでもある。あまり深くまで冷やしてはならぬ』

「わかった」


 竜達が飛び立ち、噴煙を食らい始めた。

 マナブレスを吹いてまとめた噴煙をバクリと食らい、またマナブレスを吹いてバクリと食らい……

 もっしゃもっしゃまずいと呟きながら竜達は拡散しつつあった噴煙を一時間ほどかけて食べ尽くし、山の溶岩を冷やし尽くしたカイの脇にふわりと着地した。


『『『『まずい!』』』』

「あ、ありがとう……」


 あぁ、何でも食らう竜の頼もしさよ。

 戻った陽光に鱗輝く竜達に土下座感謝のカイである。

 とりあえず噴火と飢饉の危機は去った。

 そして残るのは水柱の立つ崩れた山頂である。


『汝、ホラを現実にしようとしとるのか? 次は浮島か? 浮島なのか?』

「……んな訳ないだろ。とりあえず元栓閉めろ」

『そうじゃの。やはり天地創造は無理があったか』


 巨大な噴水と陽光が作る虹の下、カイの右手が軽くなる。


 ……なんだこれ、すげえ難しいじゃんか。


 畑を耕すのとは次元が違う。

 畝を盛るような感覚で地を掘れば溶岩が現れ噴火。

 たき火を消す感覚で火口に水を作れば大噴火だ。


「イグドラ……」『何じゃ?』「お前ら、どうやって天地創造したんだ?』

『汝よりも派手にやっておったぞ』「……」

『適当に作っても億年放っとけば自然がうまく削るからのぉ。生物も大したものがおらんかった故やりたい放題じゃった』「……」


 しかし経験者はカイよりも派手。

 聞くだけ無駄だった。


『ほれ、ベルティアとエリザがうるさいから祝福を再開するぞ』

「ち、ちょっと待て。どうしていいかわからん。まず力をもっと絞ってくれ」

『この、もやしっ子め』


 祝福に右手がずしんと重くなる。

 最初の頃より祝福は軽いがシボレヨ湖も噴火もそれほど力を込めた訳ではない。先程と同じように行使すればやはり噴火や大穴が空くだろう。


 自然を作るなどカイはした事が無い。

 それどころかここにいる誰もした事が無い。

 アテになる者など世界のどこにもいないのだ。

 そして経験者であるイグドラは大雑把過ぎてまったく参考にならない。


 これは……どうしたものか。


 カイが途方に暮れていると、カイルが声を掛けてきた。


「カイさん」「……なんだ?」

「砂遊びですよ」「……?」

「底から持ち上げるのではなく周囲から土砂をかき集めて、マナを注いで岩にしてしまえばいいのですよ」

「あぁ!」


 ポンと手を叩くカイである。

 表面の土砂だけを移動させ、それをマナで岩に変える。

 多少水を含んだ砂で大きな山を作るのと同じ要領だ。

 なるほど砂遊びである。


 それなら確かに溶岩も穴も無い。

 このだらっとした平原も元はイグドラが食べて砂になった地形である。

 よせ集めればそれなりの地形が作れるはずなのだ。


「さすがカイル!」「僕らの子は頭がいいなぁ」「あふー」

「友達とよく砂遊びをするものですから」

「子らとはよく遊んでいるようだな」「はい。ベルガさんちのお姉さんにもよくお世話になってます」「……ベルガ?」「いや、まだ何も無いだろ……まだ」

『遊びから学ぶ。素晴らしいぞカイル』「えへへ」


 システィにアレクにカイト、ベルガにバルナゥがカイルを誉める。

 遊びには人生の役に立つ諸々がちりばめられているものだ。

 もっとも重要なものは興味。

 楽しむ事を考える心だ。

 それが遊びの域を越えた時、社会に新たな可能性が生まれるのだ。


「なるほど。やってみるよカイル」

「はい。カイさんならきっと出来ます」「カイだから!」

「うっせい」


 カイルもだんだんアレクに似てきたな……

 さすがは親子だ。


 カイは苦笑しながらぐちゃぐちゃになった地形に左手をかざす。

 持ち上げるのではなく、寄せる。

 そして盛る……


 カイの願いに地が蠢き、土砂が一点に集められていく。

 適度な高さになった所でカイは土砂にマナを注ぎ、砂を合わせて岩にした。

 岩にしてしまえばそう簡単には崩れない。

 山の完成である。


「できた……」

「山えう」「む。山」「山ですわ」


 荒削りであるが山である。

 カイは同じ要領で土砂を寄せ、盛り、マナを注いで岩に変えるを繰り返す。

 やがて山が連なる山脈が出来上がった。


「山脈えう」「む。山山」「確かに山脈ですわ。同じような山が連なっているのが何ですが……確かに山脈ですわカイ様」

「はは、自然の複雑な形はちょっと無理だ」


 型で作ったような山が連なるが、ちゃんとした山脈である。

 上から見たら何かの模様のように見える事だろう。何とも人為的な風景に苦笑のカイである。


 まあ、後は自然がうまく削ってくれるはずだ。

 この山々がうまく雨を川に変えてくれるだろうか、そして川がうまく流れてくれるだろうか……

 自然がもたらす唯一無二の素晴らしさを実感しつつカイは大きく息を吐く。


 これなら、いける。


 手応えを感じたカイは似たような山をそこら中に作り、適度に砕いてメリハリを作り、雨を降らせて流れを見る。

 カイはこれを日暮れまで繰り返し、一帯にそれなりの地形を作り上げた。


『また、みみっちぃ事を始めたのぉ』

「うるせえ。これでも超絶危ないんだよ。俺らは自然の前には無力だからな」


 溶岩と噴煙あふれる最初の頃の派手さは無い。

 ちまちました、しかし比較的安全な天地創造だ。


 しかし、これでいいのだ。

 これがいいのだ……


 と、思ったカイだがこれではよくない者もいる。


「カイよ」「カイ」

「……はい」


 ランデル領主ルーキッドとビルヒルト領主の妻システィである。


「お前は祝福が収まるまで、火曜日にランデル領に居る事まかりならん」

「ビルヒルトも同じく禁止ね。こんなのやられたら破滅するから」

「……」「えう」「ぬぐぅ」「ふんぬっ」


 デスヨネー……


 火曜日だけに限定してくれる所がルーキッドとシスティの温情である。

 付き合いが無ければ完全追放されていただろう。

 二人の信用の表れであった。


『ではカイ、また来週火曜にアトランチスで会おう』

「……おぅ」


 そして来週、ふたたび苦行はやってくる。


 これ、本当に大丈夫なのかよ……


 途方に暮れるカイであった。

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世界樹エルフ
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