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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
短編 ハッピーライフで世界は回る
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12.マオ、ボルクに酒造りを伝授する

「おお、真・焼き菓子様よくいらっしゃいました」

「いい加減その呼び方やめろ。それと真を増やすな」


 ある日のボルクの里。

 巨大なキノコの乱立する里の中でマオは馬車から荷物を下ろしながら、土下座するボルクの皆にぶっきらぼうに告げた。


「なぜ?」「いい加減恥ずかしいからだ」

「では偉大なる真・焼き菓子様」「さらに増やすな!」


 食い下がるボルクの長老に怒鳴るマオ。

 ボルクは今も相変わらずの焼き菓子大好きっぷりである。

 そしてボルクの焼き菓子恩人に対する崇めっぷりも相変わらずだ。


 ボルクに焼き菓子をもたらしたカイは焼き菓子様。

 そして、ちょくちょくやってきては焼き菓子のレシピを伝授するマオは真・焼き菓子様と呼ばれ崇められている。


 クッキー、ケーキ、パイ等々。

 来るたびに焼き菓子を伝授してくれるマオは、真なるボルクの焼き菓子様。

 マオが来るたびにボルクは歓喜に踊り、ボルクが作りまくった焼き菓子がランデル領にあふれるのだ。


 そんなこんなで今やボルクは焼き菓子の聖地。

 オルトランデルに出荷される各種スイーツは奉行芋煮と並ぶオルトランデルの名物となり、他領の商人が先を争い買い占めるために焼き菓子競売場が開かれるまでに至っていた。


 作って幸せ、食べて幸せ、売ったハラヘリで材料を沢山買ってもっと幸せ。

 今、ボルクの里は焼き菓子幸せスパイラルの真っ只中にあるのだ。


「で、今日はどのような焼き菓子を伝授して頂けるのですか?」

「今日は趣向を変えて酒造りだ」


 ええぇええええしかしかしかしか……

 ボルクの皆がどよめく。


「焼き菓子じゃない」「焼き菓子様なのに」「我らが焼き菓子様ご乱心!」「このキノコで正気に戻る!」「むふん」

「お前らひでえな」


 焼き菓子で無いだけでマオの株がだだ下がりである。


 だがここは焼き菓子大好きボルクの里。

 この位はマオも想定済みである。

 そしてそれを打開するアイテムも準備済み。マオは荷物の中から一つの包みを取り出し、ボルクの皆に中身を見せた。


「まあ、これを食ってみろ」

「それは?」「ブランデーケーキだ」


 おぉおおおおかしかしかしかし……

 ボルクの皆がマオの切り分けたそれに群がる。


「良い香り」「味も素晴らしい」「酒と菓子、なかなかの組み合わせ」

「そうだ。酒は大人の味なんだよ」

「?」「六十にも届かぬマオ様が大人を語る不思議」「百以下は子供」「むふん」

「……その子供に教えを乞うお前らは何様だ」「ダーの族」「むふん」


 あぁこの里やりにくいなぁ。


 心で嘆くマオである。

 エルフの寿命は千年を超える。確かにマオなどまだまだ子供であった。


 しかしここでくじける訳にはいかない。

 マオは拳を握る。


 発酵といえばダーの族のダークエルフだからだ。

 様々なキノコを生やすだけでなく生ゴミから肥料も作れる菌使い。

 祝福によりあふれ活発に活動する菌は彼らボルクの願いに応え、瞬く間に見事な肥料を作ってのける。

 祝福が発酵をコントロールするのだ。


 酒造りには様々な工程があるが肝は何と言っても発酵。

 これが無ければそもそも酒精が作れない。


「そういう訳で、今日は赤ワインを伝授する」


 他の工程はまあ、後で考えればいいや。


 と、マオはエルネの長老に頼み調達した葡萄を馬車から降ろし始めた。

 大量の葡萄にボルクの皆が荷下ろしを手伝い始める。

 マオは彼らの焼き菓子様。乱心していても崇める心は忘れないのだ。


「葡萄」「そうだ」

「そのまま食べても美味しい」「ワインだ」

「葡萄ジュースでもいい」「ワインだ」

「レーズン」「そうだレーズンだ!」「レーズンケーキが作れるぞ!」


 おぉおおおかしかしかしかし……


「だから、ワインだ」


 えぇえええしかしかしかしか……


 ああもぅ、全くこの里やりにくいなぁ。


 再び心で嘆きながらマオは大きな桶を用意させ、葡萄をその中に入れた。


「で、まずこれを種が潰れない程度に潰す。なかなか重労働だぞ……」

「「「水よ!」」」


 グシャッ……


「出来た」「はやっ!」


 水魔法つええなおい。


 と、驚愕のマオである。


 普通の酒蔵は魔法使いを使わない。

 というかマナを操る魔法使いが珍しい。

 その手の者が集まる冒険者ギルドでも魔法使いは少数派なのだ。


 驚愕するマオをよそに桶に群がるボルクの皆。


「これをしぼれば葡萄ジュース」「そしてクッキー」「いいね!」「マオ様!」「我らの真・焼き菓子様!」

「……だから、ワインだ」


 ええぇええええしかしかしかしか……


 ああもうこいつらこれだから……


 目眩を禁じ得ないマオである。


「で、これをかき混ぜながら発酵させて酒精を作る。その際に出る熱はあまりよろしくないんだがまあ最初だし、とりあえず発酵させて酒精を作ってみるか」

「「「水よ!」」」「「「発酵!」」」「「「冷やせ!」」」


 ざぶーん、ポスンッ……

 ボルクの里の皆の叫びと共に、ボコリとあふれる発酵気泡。


「出来た」「おおぃ!」


 祝福と魔法のタッグ超強い。

 再び驚愕のマオである。


 マオがコップですくって味見をすれば確かに酒精は出来ている。

 まさに一瞬。驚異の発酵能力である。


 もうこいつら何なのよ……


 マオはよろめきながら別の桶を用意させ、次の工程を告げた。


「で、これを絞って種とか皮を分離する。これもなかなか大変……」

「「「ワインよ!」」」


 ザバァ……

 桶の中のワインが別の桶に飛び込んで、皮や種が残される。


「回収」「むむ、まだ残ってる」「「「再びワインよ!」」」「回収」……


 ボルクの皆は何度かそれを繰り返す。

 五、六回繰り返した桶に揺らめくのは濁りの欠片も残ってない、澄んだ赤い液体だ。


「これでいい?」「……あ、あぁ」


 すげえ、もうこれでいいんじゃないか?


 と、マオには思えるほどの澄んだ赤ワインである。


「で、これをしばらく放置して取り除けなかった不純物を沈殿させたり味を安定させたりする」

「まさかのおあずけ!」「葡萄ジュースならすぐ飲めるのに!」「土下座、土下座で頭突きなのですか真・焼き菓子様!」

「家畜を育てるようなもんだ」「「「なるほど肉うまい」」」「……」


 それで納得するのかよ。


 何とも疲れるボルクの皆に呆れながらもマオは荷物から赤ワインの瓶を取り出しコップに注いだ。


「で、最終的にこんなものが出来る。まあ飲んでみろ」


 マオが渡したコップをボルクの皆が回し飲む。


「酒」「酒だ」「酒」

「クッキー」「「「それだ!」」」「ケーキ」「「「それもいい!」」」

「お前らどこまでも焼き菓子だな……まあ、それが出来上がりの赤ワインの例だ」

「「「ワインよ!」」」


 ざばーんっ……再び暴れる赤ワイン。


「出来た」「ええーっ!」


 それでいいのかよ!


 と、マオがコップですくって飲めば確かに先程与えた赤ワイン。

 祝福と魔法と食への執着半端無さがもたらす超絶技術であった。


「な……なお発酵させる前に皮や種を取り除くと白ワインという赤くないワインが

作れる」

「「「ワインよ!」」」


 ババッ……一つの桶の中、色だけが分離される。


「白ワイン」「ええーっ!」


 もうこいつら何でもアリだな。


 呆れ半端ないマオである。

 まあ実際には違うのだろうが見た目はとりあえず白ワイン。


 これなら魔法で蒸留酒も造れるんじゃねぇか……?


 マオは恐る恐る聞いてみる。


「……お前ら、蒸発する温度で成分を分ける蒸留って作業があるんだが」

「「「むふんっ!」」」


 バッと別れる水と酒精。


「出来た」「それだけでいいのかよ!」


 ボルクつええ超つええ。

 あらゆる製法が魔法一発。そして祝福一発である。


 マオは門外漢だからこれ以上は無理だが、しかるべき者に師事すれば素晴らしい酒が醸造される事だろう。

 おそるべしダーの族である。


「お前ら、本当に酒造りに向いてるわ」

「やだ」「焼き菓子がいい」「ギブミー焼き菓子!」「このキノコで正気に戻る!」

「やかましいわ!」

「で、今日の焼き菓子は?」「ねえよ! 今日はもう終わりだ終わり!」


 荷物を片付け始めるマオ。

 まさかの日帰り酒造り終了である。


 後でシスティにこの事を話してみると、歴史の古い酒蔵は魔法使いが醸造に携わっているらしい。

 マオの考えなどはるか昔に別の誰かが思い付き、実行しているのであった。


 そしてボルクは相変わらず焼き菓子道に邁進していたが、片手間に酒造りをする者が現れはじめる。

 焼き菓子の味わいを広げる材料と認識されたのだ。


「酒と焼き菓子」「合うね」「グッド」


 ボルクの皆は焼き菓子を食べ、ついでに酒を飲む。

 焼き菓子大好きボルクの里。

 どこまでも焼き菓子であった。

酒造りややこしいね。

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世界樹エルフ
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