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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
幕間.善意のラスボスは仲間を呼んだ
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パワーワードに祝福を

「これで良いじゃろ」


 ベルティア家、作業部屋。

 イグドラは機材を操作して満足げに呟いた。


 世界樹イグドラシル・ドライアド・マンドラゴラ。

 かつては世界に顕現した彼女も今はベルティア耕す植木鉢でのほほん生活。


 ある時はカイを導き、またある時はカイをからかう。

 今も昔もやりたい放題。

 先程もエルフ絡みでカイをからかったばかりである。


 そんな感じのイグドラだが、やるべき事はしっかりやっている。

 近くの根無しエルフに告げを出し、カイを導く。

 そしてカイはエルフをアトランチスへと導くのだ。


 彼女自身のためでもあるこの仕事をしっかりこなしているからこそカイは邪険にすれども拒絶せず、今も軽口を叩く仲なのだ。


 世界をめぐるカイの頼れる羅針盤。

 そんなイグドラだが、最近は仕事部屋での居心地が悪い。


『……あったかご飯の人だ』

『『『『おおおおおおおぉぉおめしめしめしめし……』』』』

「ああっ、カイさんさすがですカイさん」

「全くです先輩。えう、えうーっ!」


 植木鉢でイグドラが呆れて眺めるのはカイの映像に土下座拝謁を繰り返す困った二人の女神様。


 一人はイグドラの飼い主、世界主神ベルティア・オー・ニヴルヘイム。

 そしてもう一人は別の世界の世界主神、エリザ・アン・ブリューである。


 増えたのじゃ……


 内心嘆息するイグドラである。

 ベルティアだけでも困ったちゃんなのに最近はエリザが増えている。

 ベルティアの一番弟子を自称する彼女は仕事部屋に入り浸り、ベルティアと共にカイを絶賛賛美中なのだ。


 そしてカイと軽口を叩き合うイグドラに、羨望の眼差しを向けてくる。

 今、ベルティアの仕事部屋は何とも困った状態なのである。


 まあ、イグドラもその気持ちが分からなくもない。

 エリザがカイを賛美するのは自分の世界を救ってもらったからである。

 イグドラを世界に戻す事で能力不相応に成果を得たへなちょこ成金神エリザは他の神々のカモとして絶賛タカられ中だったのだ。


 それを何とかしたのがカイの子供達である芋煮。


 煮込んだ鍋から生まれる彼らは真なる命を得るためにエリザの世界で戦い抜き、エリザはベルティア指導の下で世界の改革に勤しんだ。

 たかだか三年の期間でそれを成したのは地道に経験を積んできたベルティアの実務能力のたまものだ。


 世界を補強し、盾を作り、異界の侵攻を困らぬ程度に激減させた。

 米粒写経に勤しんでいたベルティアもこの時ばかりは超本気である。

 カイの可愛がる子供達を一刻も早く送り届けようとエリザの尻を叩いて叩いて叩きまくり、エリザの成金パワーで世界を改革しまくった。


 エリザでは何万年もかかっただろう改革もベルティアならばたったの三年。

 何百億年もかけて世界を耕してきたベルティアと、何百億年もかけて世界から搾取してきたエリザの切なくも当たり前の差だ。

 経験とはその後の人生を良くも悪くも大きく左右するのだ。


「よしエリザ、今日もカイさんを讃えて米粒写経です!」

「やりましょう! えうーっ!」


 その経験を遺憾なく発揮したベルティアは今、米粒写経に勤しんでいる。

 何とも切ない、切なすぎる変貌だ。


 世界を耕す事に定評があっても他の事はずぶの素人。

 彼女は今、カイの追っかけいう新たな分野に超ハまり中なのである。

 エリザというカイ賛美の同志を得た今、その突き抜けっぷりは半端無い。


 大赤字世界を救ってもらったエリザ世界のカイ信奉はものすごい。

 邪神殿はカイと妻達を祀る大神殿となり、芋魔王は救世の芋煮神となった。

 主食である芋は神の食物と崇められて毎食えうーと祈りを捧げる始末。

 エリザ世界ではえうは神の救済の言葉なのである。


 これに触発されたのがベルティアだ。

 エリザ世界では神と崇められたカイが自分の世界では無名のへなちょこ冒険者。

 結婚式での人間達の首の傾げっぷりを我が恥とばかりに超絶成功プランを煮詰め始めたのだ。


 カイよ、すまぬ。


 心で土下座のイグドラだ。

 やめておくのじゃというイグドラの忠告もベルティアには届かない。

 これまではイグドラとベルティアの二人であった仕事部屋は今やエリザを加えて三人。多数決で押し切られてしまうのだ。


 片方が落ち込めばもう片方がもり立て、二人で素っ頓狂な方向に暴走する。

 何とも困った状態なのであった。


「ふうっ……」

「先輩さすがです。きれいな米粒写経です」

「まだまだですよ」


 うふふ、あはは……


 米粒写経に燃える彼女達の汗がきらめく。


 輝いている。

 輝いているが……その輝きの方向は明らかに間違っている。


 そしてその努力を間違えた方向に使うに決まっている。

 カイが望むのは妻達と子供達とそれなりに幸福だ。

 超絶成功プランを煮詰めている時点で間違っているのである。


 どうしたものかのぅ……


 イグドラはまたため息をつき画面に映るカイを見る。

 と、カイは何やらトラブルに巻き込まれていた。


『あったかご飯の人?』『何だよそのふざけた名は?』


 何ともガラの悪いエルフが数人、カイに絡んでいる。


 あぁ、またじゃのう……


 イグドラは画面を見つめて苦笑する。

 理不尽な祝福を受けたカイの運命とも言える。

 あらゆる物事が祝福の重みに引き寄せられているのだ。


 それは星がより大きな星をめぐるが如く。

 そしてやがては重みに抗えなくなり落ちていく。

 バルナゥが物語と称したように、波瀾万丈な展開が降ってくるのである。


『じゃあカイ・ウェルスと名乗ればいいのか?』

『誰だよ?』『知らん』『どちらにせよ人間など信じられん』


 まあ今回は塵芥のようなものだ。騒ぐような事ではない。

 元々エルフの放浪は人間が原因だ。

 カイが人間だからと敵視する者もたまにいる。

 かつては呪い、今は祝福のせいで人間達にひどい扱いを受けたエルフは多いのだ。


 イグドラは慌てない。

 どうせご飯を振る舞えば円満解決だ。エルフだから。

 イグドラはこういう場面を何度も見てきて実感している。

 カイも困ったなぁ程度の表情を見せているが特に慌ててはいなかった。


 が、しかし……

 同じ画面を見る二人の女神は激高していた。


「先輩! こいつカイさんをけなしましたよ!」

「ぬうっ、この小童許せません!」

「いや大丈夫じゃ。大丈夫じゃから」

「大丈夫かどうかは問題ではありません。けなした事が問題なのです」

「先輩の言う通りです! カイさんを蔑ろにするなど神に背くも同然!」

「……」


 二対一。

 多数決の切なさである。

 イグドラが止めるのも何のその。ベルティアとエリザは二人で盛り上がりはじめた。


「謝りなさい。今なら許しましょう」

「あーっ! 先輩、こいつカイさんを突き飛ばしましたよ先輩!」 

「な、なんてことを!」

「先輩、このエルフは神をナメてます。絶対ナメてます! えうーっ!」

「……」


 イグドラが呆れる中二人の会話はヒートアップしていく。

 これが増えた事の恐ろしさだ。

 会話のキャッチボールにより思考が加速し続けるのだ。

 そして思考が加速に耐えられなくなった時、行動へとすっぽ抜ける。


「「あったかご飯の人に土下座懺悔するべきです!」」




 ぺっかーっ……




 二人の言葉の直後、カイの背後が輝いた。

 後光である。

 そしてその後光を見た者達が次々に土下座していく。


 偉大な力が行使されたのだ……神の力が。


「のぅ、ベルティアにエリザよ……」

「何ですか?」

「よくわからぬがカイが輝いておるんじゃが」

「「へ?」」


 唖然とする二人に頭を抱えるイグドラである。


 あー、やりやがったのじゃ。

 こやつらまたやりやがったのじゃ。

 またカイに愚痴られる……


 イグドラが耳を傾ければ、世界からカイの怒声が響いてくる。


 カイとの対話が出来るのはイグドラだけだ。

 だから苦情を聞くのもすべてイグドラである。


 飼い主の不始末は余がぬぐわねばならぬのじゃ……なんでじゃ?


 と、また頭を抱えるイグドラだ。


「ベルティア。ついでにエリザ……カイから伝言じゃ」

「「は、はい」」


 イグドラは息を思い切り吸い込み、近所にまで響く大声をぶちかます。


「またかよあのバカ神は! じゃ」

「「すみません! 本っ当にすみません!」」


 ベルティアとエリザは見事な土下座を披露した。

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世界樹エルフ
― 新着の感想 ―
[良い点] 神界視点のドタバタコメディーすここここ。 [気になる点] 時間も忘れてだいぶ読み進めてきたなと、話数を見るとまだ1/3程度。 いったいどこまで我々を楽しませれば気が済むのか、この作者は。 …
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