10-16 異界に轟く救済のえう
『なぜなのです! なぜ我らを助けては下さらぬのですか! これだけの力を持ちながら、なぜ我らを助けては下さらぬのですか!」
第五層、主の間。
先ほど新たに構築された芋煮転がる広場に、老オークの悲痛な叫びが響いた。
その身体には痛々しい打撲の跡が見て取れる。
オークの勇者達を撃退したピーがそのまま異界に突入して蹴り飛ばした跡だ。
『カイ様! 我らをお助けくだされ! 我らの世界をお救いくだされ! 我らに道をお示し下さいませ! お願いでございます! カイ様!』
老オークはピーの怒りによりボロボロの姿だ。
しかし彼は、ピーによってここに連れて来られた訳ではない。
自らの足でここまで来たのだ。
そして爆発すれば死ぬ芋煮が転がる敵地で、カイにひれ伏し求めているのだ。
地の安寧を。
自分達の未来を。
そして彼らの世界の救済を。
『お願いしたします。どうか我らをお救い下さい……どうか……』
老オークのいる第五層の主の間には芋煮が転がるのみである……
が、カイはそれを聞いている。
「……なぁ、エヴァ姉」
「わふん?」
オルトランデル、主の間。
カイはエヴァのもふもふを撫でながら、老オークの訴えを聞いていた。
老オークの悲痛な懇願がカイの心に突き刺さる。
異界とはこことは違う別の世界。
ただ、それだけの違いだ。
たとえ異界の者であろうと、生きる姿は変わらない。
「いいんだよな? これで……」
カイはエヴァに呟く。
何とも後味の悪い結末。
しかしカイはダンジョン主を続ける事は出来ない。
カイにはカイにしか出来ない仕事がある。
手を差し伸べる事は出来ないのだ。
いや……本当は手を差し伸べる方法はある。
誰かをこのダンジョンの主にすれば良い。
イグドラに頼み誰かにダンジョン主を譲ればダンジョンは存続し、彼らの願いは成就する。
カイはこのダンジョンで最も弱い。
カイに出来るなら誰にでも出来るだろう。
しかし誰が、そのような事を引き受けるというのか……
主を引き受ける者はいくらでもいるだろう。
吸い上げたマナは主の願いに応え、様々な物品や祝福をもたらす。
魔石、ミスリル、カイのコップのような魔道具などだ。
異界討伐で得ていたそれらを継続的に得られる恩恵は計り知れない。
王国と交渉すれば喜んで人を送ってくるに違いない。
しかし、異界の救済まで引き受けるとは思えない。
誰が余計な事に自らの命を賭けるだろうか。
本来は敵である怪物の命を守ろうとするだろうか。
任せた者はダンジョンに引きこもり、マナを吸い上げる事に専念する事だろう。
そして得られたマナの力で世界を混乱させる事だろう。
力というものは存在するだけで周囲に影響を与えるものなのだ。
もちろんカイが信頼する者ならば、そのような事はしないだろう。
しかしカイはそれを誰にも頼めない。
主とは異界と世界を繋ぐ「重し」だ。
ダンジョンに居なければ階層は減り、やがて異界との繋がりは切れる。
常に居る必要は無いが、長い時間をダンジョンで過ごさねばならない。
主となった者は今のカイのように、ダンジョンに縛られるのだ。
主と言えば聞こえは良いが、悪く言えば人柱。
ただ芋を煮ていただけのカイがそれを頼める訳もない。
カイの周囲の者は皆、それぞれの道を歩んでいるのだ。
「「「「ぶぎょー、ただーいま」」」」「おう」
「「「「そしていってきまーす」」」」「……おう」
鍋からは芋煮が生まれ、そして転がり去っていく。
芋煮達は今、この瞬間も戦っている。
転がり、爆発し、カイや芋煮主の煮込む鍋に再びめぐる。
彼らは皆、戦ってばかりだ。
それも異界に侵攻する異界を討伐してばかりだ。
間接的にカイを守ってはいるが、今や芋煮は異界を守る為に戦っているようなもの。異界での戦域はダンジョンの安全とは無関係な場所にまで広がっていた。
仮初とは言え戦う為だけの命。
異界を守る為に芋煮鍋をめぐるだけの命だ。
「もうすぐ収支はトントンらしいから、そろそろ俺も世界に戻らないとな」
「わふん」
「最後に子供達をねぎらってやらんとな」
「……わふん」
エヴァはカイを見上げ、好きなだけ撫でろとまた寝転ぶ。
しなければならない事、続けたい事、続けてほしくない事。
カイの表情に様々な葛藤が浮かんでは消えていく。
『カイ様……!』
老オークは懇願を続け、カイはエヴァを撫で、エヴァはしょぼくれた表情のカイに撫でられ続ける。
……またしょぼくれた顔してるわふん。
エヴァはカイに撫でられながら、餌をもらい始めた頃のカイを思い出す。
背負うものが増えたカイのしょぼくれ方はあの頃以上だ。
妻、友、エルフ、そして芋煮達。
妻と友はカイに共にあるだろう。
しかしエルフと芋煮はそうはいかない。どちらかは切り捨てねばならないのだ。
エヴァは姉として何かしてあげたいと思うが、どうして良いのか分からない。
自分は姉だと自慢げに尻尾を振るエヴァだが十歳にも満たない犬。
エヴァはカイを慰める事しか出来ない。
撫でられる事しか出来ない。
だからエヴァは撫でられ続ける。
そしてどうすれば良いかを考える。
いろんな考えが浮かんでは消え、消えては浮かび……
エヴァは妻達がご飯だとカイを引きずり去るまで悩み続け、思いつかずに尻尾を垂らした。
もっと頭が良ければ……わふん。
しょんぼりと寝床で丸まるエヴァンジェリン。
その夜、彼女は奇妙な訪問を受けた。
「るっぷー」
夜。
耳を震わせる囁きにエヴァが顔を上げると、縦ロールをふよんと揺らすメリッサが彼女の近くに立っていた。
「メリッサわふん?」「ぶー」
「ピーわふん?」「ぷー」
ピーは嬉しそうに踊りながらエヴァンジェリンのそばに寄り、瞳をマナに輝かせながらもふもふを堪能する。
輝く瞳は回復魔法。
カイを慰めてくれたエヴァに対するピーのお礼だ。
ピーの回復魔法はエヴァの全身に染み渡り、カイのもふもふでからまり荒れた毛並みをほぐして艶やかな毛並み変えていく。
あぁ、ピーもカイを心配しているわふんね……
心地良い回復魔法に身を委ね、エヴァはピーに問いかける。
「ピーは、カイが心配わふんね」「るるっぷ!」
「何か良い考えはないわふん?」「むー、ぬー」
エヴァの言葉にピーは喜び、次の言葉に哀しげに瞳を伏せる。
しょんぼりと尻尾と縦ロールを垂らすエヴァとピー。
二人が求めるその答え。
それは天から降ってきた。
『カイの頼りし犬の姉、エヴァンジェリンよ……』
「わふん?」
『汝、カイの為にここの主になってはくれぬか?』
「……わふん」
祝福を持つピーを経由した神イグドラシル・ドライアド・マンドラゴラの言葉。
まさに、神の啓示だ。
エヴァはピーを見上げ、姿勢を正してお座りした。
「カイ、芋煮主が寝返ったわ!」
「はぁ?」
次の朝。
起きたばかりのカイは、システィの言葉に素っ頓狂な声を上げた。
「え、えうっ」「ぬ、反抗期早すぎる」「ええーっ」
「まぁ早くいらっしゃい。みんな待ってるから」
カイ達が寝癖も直さずテントを転がり出てみると、すでにそこは二組の仲間が対峙している修羅場? だ。
一方はシスティ、アレク、マオ、ソフィア、ミルト、マリーナ、バルナゥ。
もう一方はイリーナ、ムー、カイン、芋煮達。
そしてその前に構えるルドワゥとビルヌュ、エヴァンジェリンである。
「何してるんだよお前ら」
芋煮主に近づこうとするカイに、ルドワゥとビルヌュが立ち塞がる。
『下克上だ!』
『このダンジョンはエヴァンジェリンが乗っ取った!』
「わふんっ」
カーフゥーッ……ルドワゥとビルヌュが叫び、可愛く息を吐き出した。
何とも可愛らしい下克上である。
そして何とも戦力に偏りのある下克上である。
バルナゥはこちら側。そして勇者もこちら側。
どう考えても勝ち目はない。
ミルトに関してはよくわからないのでカイはまるっとスルーである。
関わらなくても良い面倒事には関わらない。
カイらしい選択であった。
それにしてもこんな下克上無いわなぁ……
と、カイは呆れてエヴァを見る。
皆も同意見なのだろう。
修羅場? は何とも微笑ましいムード。
ルドワゥは下克上と叫んでいたが良く言っても親子喧嘩であり、駄々っ子をなだめる大人達という構図であった。
「って……芋煮はどうなってるんだよ!」
『『『カイ様! お救いを!』』』
「……」
カイが慌てて念じると、第五層に避難したオーク達の悲痛な叫びが響いてくる。
あー、やっぱり増援送ってないのね……
老オークの痛ましい姿にカイはため息をついた。
芋煮が作れるカイと芋煮主は皆、この場で対峙しているのだ。
誰も芋煮を煮込まないなら増援が行く訳も無い。オーク達は芋煮達が門から転がり出ないために異界に押され、第五層の主の間まで避難してきているのだ。
「……わかった。とりあえず芋を煮よう。煮ながら対話しよう。それでいいな?」
「わふんっ」
あまりの切なさにカイはエヴァに提案し、エヴァが尻尾を振って承認する。
二人の合意に皆は慌しく動き出した。
カイと芋煮主達はかまどに火を点け妻達は食事の芋煮、他は芋煮鍋を用意する。
もはや下克上でも何でもない。いつもの日常風景だ。
煮立ち始めた芋煮鍋がずらり並んで一段落した頃、湯気上がる主の間で二者は再び対峙した。
「で、なんで下克上?」
「イグドラから頼まれたわふんっ」
「何て?」
「カイの為にここで主をしてくれと言われたわふんっ」
「……やっぱりか」
まあ、イグドラならそうするだろう。
なにせ我が子の将来がかかっているのだ。一刻も早くカイにエルフを集めさせたいに違いない。
「「「「ぶぎょーっ」」」」「おう、すぐに行ってやれ」
「わかったー」「がんばるねー」「ぐるぐる回るよー」「高速回転だー」
いつもより気合の入った芋煮達の転がりである。
カイは芋煮達をにこやかに見送ると、天に向かって叫んだ。
「イグドラ!」
『な、なんじゃ?』
「お前、エヴァ姉に都合の悪い事は話したのか?」
『当然じゃ。身の危険とダンジョンでの滞在じゃろ? しかと話したわ!』
「今もやってるから大丈夫わふん。滞在はランデル通いでも何とかなるわふん。散歩と昼寝のついでわふん」
「階層を増やさないならそれでいいかもしれんが、エヴァ姉に何の得がある?」
『余とて何の見返りも無く頼んだわけではないぞ……たぶん二、三年で達するとは思うが……』
「子作りわふん!」
「子作り?」
「わふんっ」
怪訝な顔で聞くカイにエヴァがぶんぶんと尻尾を振る。
「エヴァ姉の?」「違うわふん。カイの子作りわふん」「俺の?」
『そうじゃ……』
イグドラは一拍の間を置き、カイに聞いてきた。
『なぁカイよ。命とはどこから来ると思う?』
「俺らの命は神の世界とこの地をめぐっているんだろ?」
『そうではない。元々の命はどこから来たのか、という話じゃ』
「それは……どこだ?」
『願いからじゃ』
「願い?」
それと下克上と何の関係が……カイが訝る中、イグドラは続けた。
『そうじゃ。何かを為したい、成したい、生したいと思う願いの積み重なり。それが命の始まり。余も、汝もそこから始まり今に至るのじゃ』
「ん? それだと一番最初の命は誰の願いなんだ?」
『知らぬ!』「えーっ……」
『それは今どうでも良い事じゃ。カイ、汝は今まさにそれが起こらんとする場におるのじゃぞ』
「え……」
再び鍋から芋煮達が跳び上がる。
「「「「ぶぎょーただいまーっ」」」」
「よーし、もう一度いくぞーっ」「どんどん爆発」「それいけーっ」
芋煮達はカイの足元をコロコロ転がり去っていく。
やはり気合が入っている。
先ほどの芋煮達といい今の芋煮達と言い、やたら爆発したがっているように見える様にカイは首を傾げ、イグドラの言葉を思い出し天を見上げた。
「まさか……芋煮が?」
『そうじゃ。汝とダンジョンの願いが生み、めぐる事で強固なものになったあれは命の種。めぐり続けてそれを紡げば真の命となるであろう』
カイは過ぎ去った芋煮を、煮込まれている芋煮鍋を、そしてカイと同じように鍋を煮込む芋煮主を見る。
イリーナ、ムー、カインはカイの瞳にわずかに身をすくませる。
あぁ……
カイはこの下克上の意味を、ようやく理解した。
芋煮達は皆、生きたいのだ。
そして、おそらく……
カイは自らの願いを言葉に乗せて聞いてみた。
「……うちの子に、なるか?」
「なりたいですえう」「ん」「お願い、します……」
「バカ、土下座なんてするな!」
流れるように土下座しようとした芋煮主を怒鳴って止める。
家族で精魂込めて育てた芋煮主。
そして苦楽をわかち合った芋煮達。
だからそんな遠慮は不要。彼らはカイの家族なのだから。
それはミリーナ、ルー、メリッサも同じだ。
「ミリーナ、ルー、メリッサもいいか?」
「どんと来いえう!」
「むふん。お腹うぇるかむ」
「そうですわ。ああ、夢にまで見たカイ様と私の子が目の前にいるのですね!」
「これでやっと子供ができるえう」
「む。カイが選んだ子ならベルティアもきっと納得」
「納得せざるを得ませんわ。カイ様が自ら選んだ我が子ですもの」
ベルティアのこだわりもカイ自らのお墨付きなら引き下がらざるを得ない。
これもイグドラの狙いだ。
彼女もベルティアに対していい加減授けてやれと思っていたのである。
「カイの子供で里が作れるえう」
「むむむいきなり大家族ハッピー」
「五つ子だろうが十つ子だろうが受け入れてみせますわ!」
『そこまでは出来ぬぞ……年月はかかるじゃろうが三人は何とかしてみせよう』
「主の間での芋煮と散歩と昼寝はお姉ちゃんにまかせるわふんっ」
「……ありがとうエヴァ姉、イグドラ。システィ、そういう事でいいか?」
カイはエヴァとイグドラに礼を言い、今度はシスティに意見を聞く。
オルトランデルは王国の領土だ。
ここで何かしらの不都合があれば調整しなければならない。
そんなカイにシスティは肩をすくめて笑った。
「いいんじゃない? マナの収支もプラスになるし。ここからはあんたら家族の問題よ。ね、アレク」
「そうだね。子供は可愛いよカイ。あぁカイル可愛いよカイル」
「ははは」
子供が可愛い事は知っている……
いや、このダンジョンで知った事だ。
カイ達に甘え、カイ達を励まし、頑張り育つ芋煮達の姿は心に焼き付いている。芋煮も愛芋煮にも愛愛芋煮も芋煮主も、色々試した煮物達も皆カイの子供だ。
「みんな! お父さんとお母さんが迎えてくれますえう!」
「だからこれから頑張る超頑張る!」
「みんなで異界と鍋をぐるぐる回ろう!」
イリーナ、ムー、カインが鍋に叫ぶ。
「「「「さすがぶぎょー! ぶぎょー最高ーっ!」」」」
「さすが俺達のぶぎょーだぜ」「バカ、とーちゃんだろ」「わーいとーちゃーん」「よぉし元気に爆発するぜーっ、イモニガーッ!」
「「「「イモニガーッ!」」」」
煮込む鍋の芋煮も飛び出し叫ぶ。
芋煮達の歓声と雄叫びの中、システィはまとめた荷物を背負った。
「じゃ、行くわよアレク」「うん」
「え?」
カイが見れば皆の拠点はすでに無い。
いつの間に……唖然としているカイにシスティ達は笑う。
「言ったでしょ、ここからは家族の話。そしてマナ収支はほぼトントン。私達もそろそろ領地に戻らなきゃ」「それじゃあカイも頑張ってね」
「俺もそろそろエルフ店に戻るか」「私もランデルに」
「エヴァンジェリン、たまには教会にいらっしゃいね」
「またねわふんっ!」
『ルドワゥ、ビルヌュ……今度は討たれずやり遂げよ。母を泣かせるなよ?』
『おう!』『当たり前だぜとーちゃん』
『頑張って下さいね。私はカイ達と共に美味しいご飯を食べながら待ってます』
『『マリーナ、お前ぶれねぇなぁ』』
皆は荷物を手にダンジョンを後にする。
「みんな、ありがとう」
「えう」「む」「ありがとうございます。本当にありがとうございます」
カイ達は皆に頭を下げた。
ベルティアのうっかりで付き合わせてしまった皆にも自分の道があるのだ。
快く送り出すのが筋だろう。
が、しかし……
「カイ達もすぐ出て行くわふんっ!」
「え?」
「えう?」「む?」「はい?}
ぺしん。
エヴァンジェリンの尻尾がカイを叩いた。
『そうじゃ。カイには務めがあるじゃろ』
「子供が死ぬほど頑張るのにカイが暇だと示しがつかないわふん」
「うっ……」
「しょぼくれた顔は頑張る子供に毒わふん。子供の夢を壊すなわふん」
『ほれほれ今すぐ我が子のために働くのじゃ! 主は今からエヴァなのじゃ』
「ええーっ……」
「出るわふん、出て行くわふんっ」
神イグドラはさっくり主をエヴァに変え、とっとと出てけと皆を煽る。
ぐいぐいと押してくるエヴァにカイはたじたじ。
エヴァはバルナゥの祝福を受けている。
カイ程度のへなちょこなど敵ではない。
すぐにカイはダンジョンから叩き出され、荷物をポイポイと投げ捨てられた。
『『ほらほら、出て行け出て行け』』
「えうーっ!」「ぬふんっ!」「あらーっ!」
『あらあら』
ミリーナ、ルー、メリッサ、マリーナも同様だ。
皆を叩き出した後エヴァはマナに願い、出口を閉ざす分厚い扉を作り出す。
カイ達を完全に締め出すつもりなのだ。
「エヴァ姉!」
「カイも子供に負けないようにがんばるわふんよ」
カイは目の前で閉じていく扉に向かい叫ぶ。
「俺の子達を、頼んだぞ!」
エヴァは尻尾をぶんぶん振って、嬉しそうにわふんと吠えた。
「お姉ちゃんに、まかせるわふんっ!」
『皆の者! 芋魔王様の芋畑を命を捨てて守るのだ!』
異界の空の下、漆黒の異界を前に老オークが叫んだ。
彼が率いるオーク達の背後には、広大な芋畑が広がっている。
イリーナ、ムー、カインが植え育てている芋だ。
異界を食らい成長する芋はこの異界の生命線。
新たな盾が生まれるまでの約束で神が授けた救済だ。
『我らの神エリザも世界を守らんと足掻いておられる。芋に食わせる世界を奴らなぞに一片たりとも食わせるな。突撃えうーっ!』
『『『『えうーっ!』』』』
「「「「イモニガーッ!」」」」
オーク達は叫び、芋煮と共に突撃する。
怪物を前にオーク達は奮闘し、芋煮は爆発する。
違う世界の存在を食い、食われていく様はまさに死闘。
『イリーナ様、芋鍋です』
『ムー様、芋を収穫して来ました!』
『カイン様、種芋を籠一杯下さい!』
その後方ではオークの子達が次々と鍋を用意し、芋を収穫し、芋を植える。
世界を守る戦いは食うか食われるかの総力戦。
たとえ子供であろうと容赦無く食われるのだ。
オルトランデルではエヴァンジェリンがエルトラネの芋を煮る。
ルドワゥ、ビルヌュは異界の空を舞い、ブレスで異界を滅ぼしていく。
誰もが命をかけて戦う世界。
それはイリーナ、ムー、カインら芋煮主も芋煮も同じ。
いつか戻る世界のため、『命』をかけた戦いだ。
「私達もミリーナお母さん達のように、足掻いて足掻いて勝利を掴みますえう」
「む。カイ父さんの芋煮とルー母さんのお腹が待ってる」
「父さんもメリッサ母さん達もきっと頑張ってる。僕達もがんばらなきゃ」
「さぁ、芋煮をどんどん作りましょうえう!」
「愛芋煮はムーにおまかせ!」「うん!」
「「「「イモニガーッ!」」」」
異界の空の下、芋煮達は今日もめぐり続ける。
次回でダンジョン芋煮編終わりです。
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