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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
10.ダンジョンの中心で、鍋を煮込む。
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10-11 芋煮主、誕生

「おっ、でかいのが出てきたぞ」

「すごいえう!」「これは見事!」

「大きく健やかに育ちましたわ。きっと良い芋煮になってくれる事でしょう」


 オルトランデル、主の間近くの畑にて。

 カイとミリーナ、ルー、メリッサは掘り起こした芋に、にんまりと頷いた。


 今、育てているのはこの芋だけだ。

 収穫した愛芋を種芋にしてカイ一家と愛芋煮と愛愛芋煮で芋の成長を祈り、実りひとつに愛の全てを注ぎ込んだこの芋はまさに愛の結晶芋だ。


 芋煮達は今も増産中だが愛芋煮や愛愛芋煮は現在煮込んではいない。

 ダンジョンの外で現地オークが警護してくれるからである。


 入ってくるのは虫の息の怪物という貢物。

 それをルドワゥとビルヌュが討伐し、魔石にしてバクバク食べている。


 弱い者はオークが駆逐してくれる。

 それなりに強い者は芋煮爆発で討伐出来る。

 もっと強い者には愛芋煮や愛愛芋煮、アレクら勇者とバルナゥら竜がいる。

 現地協力者を得たダンジョンは今、磐石なのである。


「父さん暇だよー」「僕達もお外行っていいー?」

「芋煮風呂の時間までには帰ってきなさい」

「「「わーい」」」


 育て上げた愛芋煮や愛愛芋煮はちょくちょくダンジョンの外に転がり出ては怪物を狩って戻ってくる。


 カイと妻達の愛を受けた彼らの攻撃手段は爆発だけではない。

 矢のように飛び敵を穿つ芋穿、毒で敵を倒す芋芽、蔓で敵を切り刻む芋蔓、苗床にして食らい尽くす芋喰等々攻撃手段も多彩。


 腐ったり痛んだりするので芋煮鍋で回復する必要はあるが、爆発しなくても良いのはカイ達の愛にとても優しい。


 本当は芋煮達にも爆発して欲しくは無いが、戦う以上仕方がない。

 カイは彼らがめぐる芋煮をひたすら煮込むだけである。


 彼らのカイを想う気持ちを無に帰さない為に。

 いずれ訪れる別れの時に、彼らに礼を言う為に。

 カイの煮る鍋で芋煮はめぐり、芋煮の想いもめぐり続ける。


 そして今、また新たな芋煮が煮込まれようとしている。

 大きな鍋にごろんと転がる大きな芋。

 それにルーが水を注ぎ、カイがかまどの火を点ける。


「ぶぎょー」「ぶぎょーっ」

「お前らも祈れ」「えう」「む」「はい」

「「「こいこいーっ!」」」


 周囲の鍋から芋煮達がポコポコ生まれる中、カイ達は祈りと愛を注ぎ込む。


「異界の荒波に負けない、たくましい子に生まれてこいよ」

「元気に生まれてくるえうよ」

「そしてカイを助けてあげて」

「カイ様と私達の愛の結晶ですから望まずとも素晴らしいのは分かります。あぁ、私達に早くその可愛い顔を見せてください、そして私をお母さんと「「長い」」あうっ……」

「「「「ぶぎょーの芋煮。こいこいーっ」」」」

「「「俺達も待ってるぜ」」」

「「「わたしたちもー」」」


 周囲を転がる芋煮、愛芋煮、愛愛芋煮も祈りと愛を注ぎ込む。

 芋煮一家が祈る前で鍋はコトコトと煮込まれ、カイは小まめに灰汁を取り、そしてやさしくかき混ぜる。


「ねえ、あれは何なのかしら?」

「僕もカイルが生まれる時は、あんな風に祈ったなぁ」

「んな事より飯だ飯。今日は芋尽くしだ」

「痛んでる芋で生まれた芋煮が可哀想だから痛んだ芋は食べよう、ですか……何とも切ない食料事情ですよね私達」

「良いではありませんか。食べられる事にこそ感謝しましょう」

『うむ。ルーキッドやエルフらのさし入れは新鮮ゆえ、芋の痛みは目をつぶろう』

『『『うまいもっしゃもっしゃ』』』「わふんっ」


 ええいお前らやかましい。

 芋煮家族愛に水を差すんじゃない。


 と、カイは瞳でツッコミを入れ、鍋をことこと煮込む事三時間。

 揺らぐ煮汁の鍋の底、芋煮の瞳がぱっちり開いて輝いた。


「生まれたぞ!」「えう!」「ぬぐ!」「ふんぬっ!」

「「「「イモニガー!」」」」

「「「「「私達の末っ子だーっ」」」」」


 カイ一家は叫び、芋煮達は喜びにコロコロ転がる。

 主になった直後は頭を抱えていただけのカイ達だが今や幸せ芋煮一家。

 芋煮の誕生を我が子のように喜び皆で踊りだす。


「ねえ、あれも何なのかしら」

「僕もカイルが生まれた時は嬉しさに踊ったなぁ」

「私も次の子は踊る余裕くらいあるかしら……って、でかっ! 芋煮でかっ!」

「あはは」


 システィが叫ぶ先、芋煮が鍋から現れる。


 でかい。

 とにかくでかい。


 煮た芋よりも煮た鍋よりもはるかにでかい芋煮だが、そこはダンジョン。

 願いにマナが応える世界ではこの程度の事は当たり前だ。


 生まれた芋煮はまず上半身を出し、腕で鍋をつかみ、右足を出して地を踏みしめ、そして残った左足を鍋から出して自立した。


 身長三メートル。

 強烈にでかい芋煮である。


 しかし動きは何とも可愛らしい。

 自らの身体を見て、周囲の皆を見て身体を恥ずかしげに縮こませた芋煮はカイ達にちょこんと頭を下げた。


「私は末妹、芋煮主イリーナ……えう」


 おーっ。

 名乗りと語尾に感動する皆である。


「むむむ。これはミリーナっぽい」

「ミリーナと言えばえう。えうと言えばミリーナですわ!」

「えうー、照れるえう」

「いや、褒めてるのかそれ?」

「イリーナでかいねー」「ほんとだねー」「僕登るー」「わたしもーっ」


 芋煮主イリーナを囲み、やんややんやと騒ぐ芋煮一家。


 カイはうんうんと頷きイリーナを見上げた。

 自らを芋煮主と称したイリーナはミリーナの願いの影響を強く受けたのだろう、ミリーナに感じが似た可愛らしい芋煮である。

 きっとミリーナのように、可愛く挫けずたくましく生きてくれるだろう。


「で、イリーナはどんな芋煮なんだ?」


 カイはイリーナを見上げ、聞いた。


「芋が作れます」「「「「おおっ」」」」

「芋煮も作れます」「「「「おおおっ」」」」

「でも愛芋煮とかは作れません」「「「「それでもすごいっ」」」」


 イリーナの言葉に大興奮な皆である。

 何しろ芋も作れれば芋煮も作れる。

 今までカイだけが作れた芋煮がイリーナにも作れるのだ。

 単純に考えて労力半減。

 夫の過芋煮を心配していた妻達も大喜びだ。


「カイの芋煮寝不足が解消されるえう!」「一日中芋煮てるもんなぁ」

「芋煮大車輪も労力半減!」「一度に二十鍋煮込むとかしてるもんなぁ」

「カイ様の芋耕作も半減ですわ!」「耕しまくって筋肉痛で回復魔法だもんなぁ」


 苦労をしみじみ語る芋煮一家だ。

 芋畑を耕し、芋を育て、芋を煮て、芋を食べて、芋と寝る。

 芋まみれのダンジョンライフもこれで多少はマシになるだろう。


 カイはきめ細かな芋肌をポンと叩き、頼もしい芋煮愛娘を見上げて笑った。


「頼りにしてるぞ。イリーナ」

「はい。父さん」

「えう? えうはどうしたえう?」

「だって……お母さんのえうが素晴らし過ぎるんだもの。恥ずかしいわ」

「「「?」」」


 イリーナの言葉に首を傾げるカイ、ルー、メリッサである。


「胸を張るえう。えうは自由えう。平等えう。博愛えう。えうは人を選ばないえう。誰もがえうと叫ぶ権利を持つえうよ」

「「「??」」」


 ミリーナの言葉にますます首を傾げるカイ、ルー、メリッサである。


「そうなんだ! 私もえうを叫んでいいのねお母さん!」

「当然えう。さぁ、今から二人でえうを叫ぶえう。せーのっ」

「「えうーっ!」」


 えうー、ぇぅー、ぇぅー……


「???」


 オルトランデルに木霊する母娘のえうに首をひたすら傾げるカイである。

 しかし、首を傾げたのはカイだけだ。


「ぬぐぅ!」「ふんぬっ!」


 ルーとメリッサは母娘愛にがぶり寄り。

 ミリーナとイリーナの仲むつまじさをうらやましく眺め、悔しげに呟いた。


「……私の想いが足りなかった」

「まさしくその通りですわ。私達はミリーナのえうを想う心に負けたのですわ!」


 いや、えうを想う心って何よ?


 やはり首を傾げるカイである。


「カイ、早く次の芋煮主作る!」

「そうですわ! 次は私のはち切れんばかりのカイ様への愛を芋煮に注ぎ込んでみせます! さぁ次の芋煮主を、私とカイ様の愛の芋煮を作りましょう!」


 ルーとメリッサ、超やる気満々。

 しかし芋煮主はめぐる芋煮の想いの結晶。そう簡単には生まれてこない。

 カイ達は芋を育て、芋を煮て、芋に願い、芋に願い、芋に願ってようやく三体の芋煮主を煮込み上げた。


 ミリーナのえうの想いを受け継ぐ『えうのイリーナ』

 ルーの食の伝道師への意思を受け継ぎ愛芋煮も煮込める『芋煮上手のムー』

 メリッサの回復魔法への覚悟を受け継ぐ回復魔法使い『心眼のカイン』


 イリーナはオークの里で、ムーは第三層の主の間で、カインは第二層の主の間でそれぞれ芋を育て、芋を煮て、芋煮を異界へ送り出す。

 そして夕食の後は皆で集まり、芋煮風呂に浸かって語るのだ。


「ムーは芋煮上手えうねー」

「む。イリーナ姉さんの芋はとても良い出来」

「おねーちゃんと一緒に芋煮なんて恥ずかしいよぅ」

「「カインは可愛いなぁ」」


 ああ、素晴らしい芋煮愛よ。

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