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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
10.ダンジョンの中心で、鍋を煮込む。
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10-4 攻撃、始まる

 カイがダンジョンの主となって六日目。

 オルトランデルは今、実りの季節真っ盛りだ。


「うん、うまい」「これは美味えう」「おいしい」「すばらしいですわ」


 町の区画。

 カイ達はもいだ果物をそのままかじり、ダンジョンの実りを堪能する。


 木々は美味な果実をたわわに実らせ収穫してもすぐに実り、鍋を果実で満たしていく。

 異界のマナが木々の願いに応えた結果だ。


「……くそまずくなくてよかった」

「まったくえう」「む。あれはひどかった」「まったくですわ。ヘルシーでもくそまずいのは嫌ですわ」

『悪かったのぅ!』


 イグドラのダンジョンはマナ密度が高すぎてくそまずいヘルシー果物がたわわであったが、ここの果物はまさに食べ頃のマナ密度。

 エルフが育てた果物より美味なのはさすがダンジョンといったところだ。

 そして実り豊かなのは木々だけではない。


「すげえ。建物が豪華になってるぞ」

「カイとの出会いの石碑が眩しく輝いているえう!」

「むむ! あったかご飯の人、三人の妻と結婚式を挙げるの石碑が生えてきた」

「石工要らずですわ。すごいですわ」


 オルトランデルも実り豊か。

 ダンジョンが突き抜けた直後に綺麗になったオルトランデルだが今や増築改築の真っ只中。

 ダンジョン主であるカイの願いに異界から吸い上げたマナが応え、オルトランデルを頑丈で強固な防衛都市に変えているのだ。


 五階建てが六階建てになり、何も無かった部屋に椅子やベッド等が据え付けられ、夜は無数の灯りがともされる。


 オルトランデルの全盛期は、こんな感じだったのかもな……


 カイがそんな事を考えながら歩くと、向こうからコロコロ転がってくる芋煮達。


「あー、ぶぎょーだ」「ぶぎょー」「奥方様達もいっしょだーっ」

「よう」「えう」「む」「こんにちは」


 食えない芋煮達にももう慣れた。

 カイ達は転がる芋煮達に軽く手をあげ挨拶する。


 なんでもかんでも願いで解決。

 何ともすさまじきはダンジョンのマナである。


「こりゃ、勇者が必死に討伐する訳だよ……」

「異界のマナ万能えう」「む。願い一発即解決」「奪われる側はたまったものではありませんわね」


 カイ達はそんな会話をしながら町を見物し、果実をもいで食べ、主の間のある城の区画に戻る。


 城門では世界を奪い返す務めを果たす勇者の面々が優雅にティータイムを満喫していた。


「へぇー、立場が逆だと綺麗ねぇ」

「そうだね。以前入ったダンジョンは禍々しいマナに満ちた地だったのにね」

「もいだ果実でスイーツを作ってみたぞ。食え」

『また腕を上げましたねぇもっしゃもっしゃ』『うまいな』『まじうまい』

『ソフィアー、撫で撫でーっ』「はいはい」『おおーふっ』

「撫で撫でわふんっ」「はいはい」「わふんっ」

「あらあら、二人共甘えん坊ですね」『うむ』「わふんっ」


 システィが優雅に紅茶を飲み、アレクが美味な果実にかぶりつく。

 隣のテーブルではマオ作の新作スイーツをマリーナ達幼竜が喜び食べている。

 バルナゥとエヴァンジェリンはソフィアに腹を見せ、ソフィアの撫で撫でに気持ち良いと声を上げる。

 ミルトはそんなバルナゥとエヴァを微笑ましく眺めて芋煮を癒す。


 皆、余裕である。

 ダンジョンの実りを楽しんでいるのだ。


「お前ら、のんびりしてるなぁ」

「あんたもね。町なんて歩き回って怖くなかった?」

「芋煮達が転がりまくっているからな」


 からかうシスティにカイが笑う。


 主の間で芋煮に明け暮れていては気が滅入る。

 妻達と町を散策したのは正解だった。

 お陰で肩の力が抜けて開き直りが出来たカイである。


 芋煮がよぅ! でもいいじゃんか。

 収支がトントンになるまで煮込んで煮込んで煮込みまくってやる。


 と、カイは煮込む意思に燃えていた。


「そういえば最近白い芋煮がいるけど、あれ何?」

「あー……今、呼ぶわ」


 システィの疑問にカイは念を飛ばし、適当な芋煮を呼び寄せる。

 芋煮達はすぐに転がりやってきた。


「芋煮です」「芋をそのまま煮た奴だ」「知ってるわ」

「垢抜けた芋煮でーっす」「灰汁を取った奴だ」「灰汁が抜けてるのね」

「一皮剥けた芋煮でございます」「皮を剥いた奴だ」「よ、よろしく……」


 芋の挨拶に何とも微妙な顔のシスティである。

 なにせどれも芋煮。

 一皮剥けた芋煮はとにかく垢抜けた芋煮と芋煮は見た目は全く同じなのだ。


「で、何が違うの?」

「どうやら手間をかけた分だけ強くなるらしい」

「つまり私、一皮剥けた芋煮が最も強いのです。そう。白は最強の証」

「生産性と強さのバランスなら垢抜けた俺です」

「煮るだけで作れるから芋海戦術なら私、芋煮にお任せを」


 芋煮達の言葉にシスティが納得する。


「あー、それだけ力が注がれるのね。なるほど」

「まあ、ちょっとの差しかないんだけどな」

「「「イモニガーッ!」」」


 灰汁を取ったり皮を剥いたりしている間に主の力が注ぎ込まれているらしい。

 同じ芋煮でも手間をかけた分だけ強くなっていた。


「他にもこんな奴らがいる」

「イガ栗煮です」「栗煮です」「イガ煮です」「林檎煮です」「ペネレイ煮です」……

「どんだけ作ってるのよあんたは」

「食べられる鍋が出来るかも知れないだろ」「で、全敗だったと」「うっ……」

「カイは頑張ったえう!」「む、探究心素晴らしい」

「そうですわ。カイ様は足掻いて足掻いてやがて勝利を手にするお方!」

「イガ煮が成功したら食べるの?」

「嫌えう」「無理」「すみません無理です」

「そうよねー、食べる所無いもんねー」


 ケタケタと笑うシスティにくそぅと拳を握るカイである。

 相変わらずいいように遊ばれていた。


「んな食えねえ奴らよりお前らも俺のスイーツを食え」

「じゃ、もらおうか」「えう」「む、スイーツも良し」「ありがとうございます」


 マオがスイーツを盆に載せ、おらよとカイ達に差し出してくる。

 皆で頂こうとカイは念じてテーブルと椅子を寄せ、カイと三人は席に着いた。


「あんた、すっかり主ね」「さすがカイ」


 なんでもかんでも願いで解決。

 ダンジョン主にもだいぶ慣れてきた。

 カイの煮込んだ芋煮達は町を転がり、今も砂利のように大門の前に転がっている。


 芋煮を偵察に出してみたところ周囲は平原で、異界の者がダンジョン周囲に柵と砦を構築しているそうだ。


 これ以上拡大させない異界の意思を確認したところで芋煮には戻ってもらい、こちらも守りを固める事に決めた。


 異界も偵察を出してこちらの様子を伺っているが、まだ攻勢には出てこない。

 大門前の芋煮は今の所鉄壁ガード。

 だからダンジョン内は今、のんびりムードなのである……


「まあ、すぐに忙しくなるわよ」「うん」「だな」「そうですね」

「なんでだ?」


 しかし勇者達はのんびりしながらも、戦う決意に燃えている。

 首を傾げたカイにアレクが答えた。


「ダンジョンの階層がもうすぐ増えるからだよ。カイ」

「階層……あぁ、一週間程で増えるんだったな」

「そう。ダンジョン討伐は階層を増やさない事が最優先なんだよ。周囲を怪物の被害から守る事よりもこれが優先されるんだ」


 ダンジョンは成長する。

 異界のマナを吸い上げ自らを強化していくのだ。

 階層はまず横に広がり、ある程度の広さに達すると力を溜めて縦に広がる。

 ダンジョンという異世界がもう一つ増えるのだ。


「つまり今攻めないと面倒になる、と言う事か」「うん」

「階層が増えると難易度は格段に跳ね上がるわ。攻める側は順路通りに進まなければならないけれど守る側は色々な階層に転移が出来る。殲滅したはずの階層に怪物が待ち伏せているなんて当たり前に起こるのよ」

「背後から不意打ち食らうなそれ」

「そうよ。それが階層分だけ起こるから退却はもう本当に大変よ。一階層ならともかく、二階層以上あったら兵を動員してダンジョン内に拠点を作ってもらわないと討伐は難しいわね」

「ま、今は逆の立場だから俺らが経験した時よりかなーり楽だが……気を抜くと誰かが死ぬぞ。カイ」

「……ああ」


 マオの重たい言葉にカイは頷く。

 蘇生の魔法があっても死はやはり死だ。

 親しい者が血を流して動かなくなる姿などカイは見たくない。

 そして蘇生とて万能ではない。ダメな時はダメなのだ。


「ま、お前は芋煮をがんがん作れ。戦力はあればあるほどいいからな」

「わかった」


 カイの中にある程度の覚悟を見たのだろう、マオはニヤリと笑うといつものようにカイの肩をバシバシ叩く。

 限度を超えた打撃にカイの世界樹の守りが枝葉を伸ばし始めた頃、世界が小さく鳴動した。


『……来たか!』


 腹を撫でられていたバルナゥがむくりと起き上がる。

 マナに燃える瞳が睨む先はオルトランデルの大門だ。

 世界の境界である大門を通じて異界の震動と音がわずかに伝わってきているのだ。


「何だ?」


 震動と音が少しずつ大きくなっていく。

 耳が良い者の順に視線が大門へと注がれ、瞳がマナに赤く輝く。

 己の危機を感知したのだ。


 皆が身構え睨む先、大門はやがて大きく震え、激しい音と共に異界からの侵攻者を迎え入れた。


「鉄砲水だあっ!」


 芋煮が叫ぶ。


「「「「わあぁ! 流されるーっ」」」」


 侵攻して来たのは水である。

 土砂を伴った大量の水。それが異界から流し込まれているのである。

 あまりに激しい奔流に芋煮達は水に流され、石に小突かれ、岩に潰されていく。


 随所で芋煮爆発が起こるも勢いは止まらず、芋煮達は奔流に弄ばれて大門から離されていく。

 轟音と共に大門から流れ込む水にカイは呆然と呟いた。


「……こんなの、アリか?」

『当然だ。何をしても主を討伐できれば良いのだからな。我の初手も境界の外からのマナブレスよ……多少は侵略しておくべきだったが今更だな』


 バルナゥがカイに答え、アレク達と打ち合わせた配置へと歩き出す。

 アレク達も自らの武器を手に各々の配置へと動き出す。

 戦いが始まったのだ。


「カイは主の間へ。早く!」

「あ、ああ」「えう!」「む!」「ふんぬっ!」

「あんたは芋煮を作りまくりなさい! ここからは数の勝負。少ない方が負けると思ってちょうだい!」


 走り去るカイにシスティが叫ぶ。


「ミルトさん。私達は防御と回復に専念します。芋煮達の回復はお願いしますね」

「これがソフィアから聞いた異界との戦い……ですか」

「この程度ならまだまだ優しい方ですよ」


 震えるミルトにソフィアは微笑む。


『我が子らよ、そしてエヴァよ。我が良しと言うまで前に出るでないぞ』

『『『はーい』』』「わふんっ」

『それにしても水とはな……侵攻した異界に随分みみっちい手を使うものよ。よほどの貧乏世界と見たが……さて、次はどう来る?』


 バルナゥの瞳の睨むその先で……

 小さな無数の目がギラリ、と光った。

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