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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
9.そのエルフさんは世界樹に祝われています
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9-11 エルネの里、定住はじめました(1)

「カイ! エルネはすぐえうもうすぐえう!」

「待て、落ち着けミリーナ……」


 竜峰ヴィラージュのふもとの森。

 カイはミリーナに手を引かれながらエルネの里へと向かっていた。


 それにしても竜峰ヴィラージュ、ふもとでもなかなかきつい。

 エルネから山頂までの山道は能力に勝るエルフ基準の道であったがふもとも斜面に樹木がうっそうと茂り、楽に歩ける道は無い。

 ふもともやっぱりエルフ基準なのである。


『まあエルネの皆が育てに育てた樹木ですから』


 先導するマリーナが樹木をバクバク食べながらクルルと鳴く。

 アーの族のエルフは樹木の呪いが強いエルフだった。

 百余年前オルトランデルを一日で森に沈めたエルフの呪いは半端無い。

 森の樹木は強烈な密度となっており、進むだけでも一苦労だ。


「何度も来てるのに、相変わらずのへなちょこえうね」

「いや、いつもお前らが拉致ってたんだろうが……」


 呆れるミリーナに肩で息をしながらカイは毒づいた。

 勝手知ったるエルネの里……と、いう訳でもない。

 カイがエルネの里を訪れる時は大抵が拉致であり、誰かに担がれて訪れた事しかない。

 自分の足で歩いて行くのはこれが初めてだ。


 よくこんな所を俺を担いで走れるもんだな。

 と、初めて歩いたカイは感心する事しきりである。


「カイ、がんばれ」

「カイ様、辛かったらこのメリッサがおんぶにだっこですわ」


 ルーもメリッサもひょいひょいと森をかきわけ進んでいく。


 エルフ強いなぁ……


 と、改めてエルフの強靭さに感心するカイである。

 これでも先導する幼竜マリーナのおかげで通りやすくなっているのだ。

 ぶっちぎり最強生物はミスリルも魔石も食う悪食なので何でもバクバクよく食べる。樹木を食べ、倒木を食べ、草を食べ、岩を食べ、地を食べならしてカイの道を作ってくれていた。


『これは後でご馳走が必要ですねぇ』

「今食べてるのはご飯にならないんですか?」

『まずいですから』


 まずいんだ……


 カイはマリーナが食べた樹木をじっと見て、うんまずそうだと首を振る。

 草はとにかく樹木や地面はどう考えても食べ物じゃない。道具や建材の類だ。

 カイは少し止まって息を整えると気合を入れて、竜峰ヴィラージュのふもとをゆっくり進む。


「カイ、もうすぐえう。もうすぐ楽になるえうよ」

「えーっ」


 ミリーナに時折担がれながら樹木を避け、段差を乗り越え、亀裂を飛び越え数時間。


「あれ?」「えう」


 いきなり森が歩きやすくなった。

 樹木の密度が明らかに下がり、陽光差し込む地面は下草が適度に刈られている。

 まるでボルクの縄張りのような森である。

 それだけではない。


「道だ!」「えう!」


 さらにしばらく歩くと森が途切れ、広い道が現れた。

 樹木に強いエルネらしく道は材木で舗装され、馬車が走れる広さもある。

 道はここで途切れているがランデルまで繋ぐつもりなのだろう。舗装用の加工された材木が山と積まれている。

 呪いが消えれば樹木が勝手に生える事も無い。

 だから道路も作れる。


「こりゃすごい」

「エルネまで続いてるえう」「む、エルネもなかなかやる」「そうですわね」


 コツン。

 足音も心地よい。

 カイ達は木の感触を楽しみながら道を歩きはじめた。

 ランデルの人間から色々聞いて作ったのだろう、道は広く平らで傾斜は緩くふもとをうねり、馬車や荷車が通る事も視野に入れた道である。

 木材は雨にも滑りにくいように表面に凹凸が施され、なかなかに芸が細かい。

 これを作ったという事は放浪をやめたという事だ。呪いで森を点々としていたエルネはようやく安住の地を手に入れたのだ。


「どうえう?」

「いや、まったく楽になった」

「今のエルネはすごいえうよ。ランデルのように建設ラッシュえう」

「それは楽しみだ」


 自慢げに笑うミリーナをカイは素直に賞賛する。

 道をしばらく歩くと左右の森が急に開け、柵に囲われた草地が現れた。


「牧場か」「えう」


 ブモー……

 柵の中には鱗を持つ牛、竜牛がのんびりと草を食んでいる。


 王国ではここにしか生息していない竜牛の肉はとても美味であり、部位によっては一キロあたり聖銀貨一枚、一千万エンという破格の価値で取り引きされる。

 カイの生活費およそ七年分のキロ単価の肉がブモーと鳴き群れている様はなかなかに壮観だ。竜牛達も首紐から開放されて嬉しいのか仲間と遊び、広い草地をのびのびと歩いていた。


 まあ、いずれは食べるのだが。


「奥には猪牧場もあるえう」

「いきなり発展したな」

「む。さすがランデルに長老が入り浸る事はある」

「今はランデルも建設ラッシュですし、木材需要の見返りもいろいろあるみたいですわ。エルトラネの長老もうらやましいと言っていました」

『樹木ならエルネですからねぇ』


 樹木が勝手に生長しないだけでこの発展ぶり。

 土地を自由に使える事は本当に大事なのだなと感心するカイである。


 定住できれば大きな施設を建設でき、移動にかかる手間も無い。

 一ヶ月ごとに引越しを強要されていたかつてのエルネは今は遠い昔の話だ。

 牧場の柵に沿った道を進むと今度は木材が山と積まれた広場に着く。

 そこではエルフ達が木材を切断し、角材や板に加工していた。

 

「今度は製材所か」

「加工してランデルに出荷してるえう。種類もサイズも対応するえう」

「今のランデルを支える縁の下の力持ちだな」


 少し前まで宿場町であったランデルの急速な発展の裏にはエルフからの供給がある。栽培も製材も近隣までの運搬もエルフ任せだ。

 貧乏なランデルにとってはありがたい話だろう。


「長老がハンバーグ十食で引き受けようとしたえう」「アホか」


 ありがたいどころではなかった。タダ同然だった。


「代金は分割払いにしてくれとルーキッドに言われたえう」「当然だな」


 さすがに先を見据えればそんなズルはできない。

 領主であるルーキッドなら当然そう考える。


「そしたら長老が「うおー、ハンバーグーッ!」と駄々をこねたえう」「アホだ」

「それでマオが代金とは別に一日十食限定でタダにすると言い、なんとエルネはハンバーグが一日十食タダで食べられるようになったえうよ」

「……」「「なんとうらやましい!」」


 ルーキッドとマオの苦悩が目に見えるようである。

 カイがすまんまじすまんと二人に心で謝り道を歩く。

 製材所を過ぎ、果樹園を過ぎると木で建てられた家々が見えてきた。


「今のエルネは木造建築えう!」

「本当だ」


 カイが訪れていた頃はテント生活であった。

 今は様々な形状の木造家屋が点在する集落で、その集落をぐるりと獣よけの垣根が囲んでいる。

 そしてカイ達が進む道の終点に構えられた門は開き、髭もたわわなエルフの老人がカイ達の到着を今や遅しと待ちうけていた。


「おぉ! カイ殿ようこそおいで下さいました」


 エルネの里の長老だ。

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