9-8 ボルクは寡黙なちゃっかりさん(1)
「これはミリーナ、これはルー、これはメリッサ、これは俺。これは……ピーか」
「正解えう。カイもマナを見るのが上手になってきたえうね」
「ん。さすがカイ」
「全くですわ。これほどの数のマナをしっかり読み解くその素晴らしさ、とても祝福を受けて一年程とは思えませ「「長い」」あうっ……」
「ありがとう」
夜。
ランデル付近の森のテントの中、カイが手にしているのは様々な花である。
一人寝の頃より大きくなったテントの中は今、花であふれ返っていた。
メリッサと花を摘み合っていたところにミリーナとルーが参戦してきたからだ。
アー、ダー、ハー。
三つのエルフの族から祝福を受けたカイは全ての祝福を持っている。
だからカイの妻であるミリーナ、ルー、メリッサも全ての祝福を持っている。カイを経由して互いの祝福が広がったからだ。
「ミリーナの花も摘むえう」「背中はキノコ、尻は花。むむむ鉄壁」
だからミリーナとルーも尻から花が咲く。
カイよりも上手に花を咲かせた二人は摘め、摘めとカイに迫り、カイが摘むと摘ませろ、摘ませろとカイに迫る。
そこにメリッサがエルトラネの者として負けられませんわと応戦し、そこから先は花咲かせ合戦だ。
尻から花を咲かせまくり、摘みまくり。
おかげでテントの中はすごい有様だ。
本来ならこのまま寝て、川に流すのは明日なのだが寝たら花に埋まってしまう。
面倒だが今から流しに行くか……
と、カイが立ち上がると三人が魔法を使って花を集め、細切れにしてヘルシー鍋にぶっこみ蓋をして、寝床の脇にドンと置いた。
「花よりも芋の方がうまいえう」
「む。肥料にして芋作る」
「まあ、食べるなら芋ですよね」
「ごもっとも」
聞けば呪いの解けたエルトラネでも土に埋めているらしい。
生活が変われば文化も変わるものである。
かつては栽培できても食べられないエルトラネの皆であったが今は作れば食べ放題。流すなんてもったいないと土に埋めて流すのは特別な時だけにしているそうだ。
「寝るか」「えう」「む」「はい」
皆で布団を敷き直し、ごろりと横になる。
もう肌寒い季節だが世界樹の守りのおかげで寒くはない。
そしてミリーナ達三人がぺっとり寄り添ってくれれば温かい。
今日はミリーナとルーがカイの両脇を固めてメリッサはミリーナの横だ。三人はローテーションを決めてカイの回りをぐるぐると回っているのである。
ちなみに幼竜マリーナは外で見張りをしている。
マリーナは早くミリーナの子を見たいのだ。
そのためなら虫にすら容赦はしないぶっちぎり最強生物の子。
幼い曽祖母はカイ達の夜の守護者なのであった。
「カイの祝福使いもだいぶ上手になったえう」
「そうだな。マナを見られるのは本当に便利だわ」
ミリーナの言葉にカイは頷いた。
世界の全てはマナで出来ている。
物質はマナが変換されたものであり、生物は自らの中にマナを宿す。
それらを目や耳で知る前に知覚できる力というのは本当に便利だ。
先ほどの花の見分けもそれである。花が宿す皆のマナの流れを見る事ができるからこその芸当だった。
「これがあればキノコの見分けも楽ちんだったえうね」
「あー、最初は毒キノコとペネレイが見分けられなかったなぁ……」
「まったくえう。カイは手のかかる飼い主だったえう」
「何を言うか。ご飯に暴走する駄犬ちゃんがぁ」「えうっ」
カイは昔を懐かしむ。
見本を貰っていたのに手にしたキノコは全てが違う毒キノコであったあの頃。
カイがまだミリーナを駄犬と扱っていた頃だ。
「む。ペネレイの見分けは前からうまかった」
「ルーと会う前はペネレイと他のキノコを見分ける事すら出来なかったえうよ」
「むむむ。つまり特訓の成果。ルー偉いルー凄い」
「そうだな」
カイが笑ってルーの頭を撫でる。
ルーのお陰でペネレイだけはマナを見ずとも見分けが出来る。
ペネレイかそれ以外かの二択だがカイはキノコの専門家など目指していない。
ペネレイだけで事足りるカイにとっては二択で十分。
いや……三択か。
カイはルーの肩を抱く。
「そういえば、ルーのペネレイは大体わかるな」
「む。それは満足。大変満足」
そう言うとルーは嬉しそうに頬を染める。
カイはそんな妻の体を撫で、瞳を閉じた。
「ぷー」
すまんピー、今夜は勘弁な。
明日はいよいよルーの故郷ボルクの里。
土産の焼き菓子の仕入れも万全。
彼らはきっと喜ぶだろう。
金銭感覚に乏しいエルフはまだまだランデルの町には入れない。
マオが仕切る心のエルフ店の食品は常に売り切れ状態なのでエルフ達の食料事情はまだまだ貧相なのであった。