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06.剣鬼様、冒険者になる(前編)

随分と遅くなりました

本当に申し訳ない

 

 そんなこんなで今、俺達は森の中を街道に向かって歩いていた。

 先程倒した魔物であるマキシマムアルマは魔石を取り出した瞬間、本当に透けるように消えてしまったが、その前の獣――どうやら魔獣だったらしい――からは爪と牙を回収しに一度戻ってきっちり取ってきた。

 シルフィは剣を取り戻した今も、弓を手に辺りを警戒しながら俺の斜め後ろに付いて歩いている。

 前衛が俺、後衛がシルフィという感じだ。

 道はシルフィが後ろから指示してくれている。

 ただ黙々と進むのももったいないかと思ったので、質問しながら歩くことにした。



「そういえば、エルフと会うのは初めてなんだが、エルフも人間と同じ言葉を話すのか?」


「ああ、そうか、世間に出たことがないということはそれも知らんか。この世界に生きている人間種、亜人種、魔族の話す言葉は全て神の御業により統一されているんだ」


「へぇ〜、神様がねぇ。文字もか?」


「文字は違うな。だが心配するな、これが読めるだろう?」



 そう言って首から吊るされていたドッグタグのようなプレートを胸元から取り出し見せてくる。

 そこにはアルファベットに似た知らない文字が書かれていたが、すぐに頭の中に『Bランク上級 シルフィ・クラウソラス』と浮かんできた。



「なるほど、これなら安心だ。で、これは?」


「これは冒険者証だ、身分証明書といえば分かりやすいか? カミヤも向こうに着いたら作ってもらうぞ。私が保証人になってやろう」



 まあ予想通りの言葉が返ってきたところで、質問を重ねていく。



「そう、それだ。冒険者ってなんだ?」


「冒険者とは各地を転々とし、各ギルドに報告して回る職業だな。出発したギルドから到着したギルドまでの間にある街や村、寄り道した際の森や山などがどうなっていたか報告するんだ」


「なんか諜報員みたいだな。偉い人が何か言ってきたりしないのか?」


「言ってくるところもある。が、その貴族達でさえその情報網を利用してるうえ、冒険者とは古くは巡礼者とも呼ばれていた由緒ある職でな、あまり強くは言えんのだ」


「巡礼者ねぇ、どうしてそれが冒険者に変わったんだ?」


「変わったというより別れたんだがな。簡単に言ってしまえば〝寄り道〟が増えたから、だな」


「……ん? 寄り道?」


「そうだ。巡礼者とは本来、神の為、各地で祈りを捧げる者達の事だった。しかしこの世界を渡り歩くには力がいる。だから巡礼者は決まってある程度の力を持っていた。その内そんな力ある者達の下へ助けを求める声が増えていき、あちらこちらへ寄り道が増え、その現状を見かねた巡礼者の一人が初代冒険者ギルド長になり、各地に冒険者ギルドを立ち上げ、今に至るというわけだ」



 なるほど。

 まあ成り立ちは理解したが、正直俺には関係のない話だな。

 ただ、各地を転々としながら金を稼げるというのはありがたい。

 何をするにしてもやっぱり金は大事だからな。

 金銭面でシルフィに頼るのは男として遠慮したいところがあったし、各地の魔獣や魔物を倒しつつなら腕もそこまで鈍ったりしないだろう。

 てか、そもそも渡された荷物の中には当然のようにこの世界の通貨など入っていなかった。

 そんな根本的なところから現地調達とか相変わらず死神局(うち)は平気で無茶振りを振ってきやがるな……。

 もしかしたらこの世界の通貨を持ってそうな、持ってなくとも換金できるような物を持ってそうな奴には心当たりがあるんだが……まあいいか。

 とにかく、そうして生活しながらターゲットに近づき、仕留めると。

 今回の仕事の方針が定まったところで、森の終わりが見えてきた。


 森を抜けた先に見えたのは、なんだか陰鬱だった森の中とは正反対の広い青々とした草原だった。

 遠くの方には草原を突っ切るように茶色の道、おそらく街道と呼ばれる道も見えた。

 数は少ないが歩く人や馬車も見える。

 その人々が着ている服や装備を見ても明らかに現代日本とは違う。

 ここがはっきりと異世界なのだと実感した瞬間だった。

 ――一般の人はともかく、正直エルフとか言われてもまだ俺達死神なんかが生きる日常には探せば居そうだからな。本局長(あいつ)とか一応は吸血鬼だし、弱点とかないけど。


 俺がそんな風に風景から観察をしているといくらか前を歩いていたシルフィが振り返って俺を呼んでいることに気づいた。

 自分でも気付かぬうちにどうやら感動していたらしい。

 頭は冷静でも心はワクワクってことだな。

 最近は周りからなんだか老けてきた、なんて言われてたりもしたが、まだ俺は25歳だからな。

 旅行ってわけじゃないが、未知の世界に来てワクワクしたとしても別に文句は言われないだろう。

 俺はシルフィに軽く手を挙げ返事を返し、後を付いて行った。



 いきなり2戦もさせられた――うち1戦は力加減を誤った俺の自業自得だが――森の中とは打って変わって平和に街道を進んだ俺達は、視界の向こうまで続く大きな壁の前に来ていた。

 どうやらこれは街を囲む壁であり、たまに襲ってくる魔物などから住民を守る安心の象徴らしい。

 こう言ってしまうと優美曰く〝フラグ〟とかいう不吉な言い回しになるらしいが、シルフィに訊いたところ、建ててから今までこの壁が突破されたことは一度もないという。

 突破できるような敵が攻めて来なかったのではないか、とも訊いたが、過去に何度か突破され掛かっては冒険者たちや街を守る騎士達によって危機は免れ、壁は補修され、だんだん大きく立派になり、今の壁になったのだという。

 話を聞く限りどうやらここは随分と長い歴史のある街らしいな。

 街道の先、壁に突き当たる部分に門があり、その脇には壁から少しはみ出す……あれは、小部屋か。

 その内外には街の衛兵と思われる人間が数人居て、人の出入りを管理しているらしい。

 そこから伸びる行列に並んで十数分、ようやく俺達の番が回って来た。

 衛兵が前に立つシルフィに声を掛ける。



「止まれ。身分証明書を提示してもらおう」



 さきほど俺に見せた冒険者証を取り出し渡すシルフィ。

 衛兵はそれを小部屋の窓から中にいる衛兵に渡すと、中の衛兵が機械のような物に冒険者証を置く。すると、冒険者証が淡い光に数秒包まれ、それが収まると中の衛兵が外の衛兵に冒険者証を渡し、シルフィに返ってきた。



「Bランク冒険者か、通っていいぞ。次!」



 次! は俺の番な訳だが、当然俺は冒険者証など持っていない。

 シルフィに目を向けると、シルフィは任せておけ、と頷き、衛兵に声を掛けた。



「すまない。こいつは私の連れなのだが身分証明書を無くしたようでな。通門料は私が払うから通してもらえないか? 無論、こいつが何かした際の責任は私が取ろう」


「ほう、Bランク冒険者が保証人になると言うなら通してもいい。だが安全の為に所持品検査と身体検査は受けてもらう」



 シルフィがこちらを振り向くが、俺は問題ないと頷くと、衛兵の前に出てリュックを預ける。

 衛兵は次は腰の剣だ、と言わんばかりに視線を向けてくるが、俺はここで少し躊躇ってしまった。

 衛兵の目が険しくなり、多少怒りを含んだ声を出した。



「ほら、剣もだ。早くしろ」



 俺の後ろにはまだまだ順番待ちの列が続いている。

 せっかちなようだが、この人が急かしたおかげで俺達の番が早くきたと思うと責められない。

 ――ただなぁ……。

 俺は諦めの溜息と共に両方の剣を差し出す。

 受け取ろうとする衛兵に注意を促しながら。



「気をつけてくれよ。それ重いからな」


「ふん、この程度持てなくて――」



 そう言いながら剣を受け取ろうとした衛兵の腕、というか上半身がガクンっと落ちた。

 重いと忠告したおかげだろうか。膝を曲げ、腰を少し落としていたおかげで大きな怪我にはならなかったが、衛兵は尻もちをつき、両腕を剣と地面に挟まれている。

 兵士が焦って声を上げる。



「なんだこれ!? お、おい、速くどかしてくれ! 確かに重い!」



 ――こうなると思ったんだよなぁ。

 俺はその2本の剣を〝軽々と〟持ち上げると、兵士は自由になった腕で額の汗を拭って立ち上がった。

 怒られるかと思ったが、兵士は案外冷静な態度で――



「いてて、それは魔剣か? それならそうと先に言っておいてくれ。まあいい、私であの有様なら今ここにいるどの衛兵でも持てんだろう。自分であそこに持っていけ」



 衛兵はそう言うと、先ほどの小部屋を指差した。

 俺は軽く頭を下げ、剣を持ってく。

 小部屋の中にいる衛兵に剣を見せている間に、別の衛兵が不思議な顔をしながらバッグを返してくる。

 バッグの中に入っているのは雨合羽や寝袋、少量の食料なんかだが、そんなに不思議な顔をする理由があっただろうか?

 ……少し考えて周りを見ると分かった、材質だ。

 現代日本からそのまま持ってきたからな、この世界はビニールとか無いのかもしれない。

 俺は衛兵から許しをもらったので剣をしまい、へったくそな愛想笑いをしながらバッグも受け取った。

 街の方へ目を向ければシルフィが不満げに立っている。

 そんなに待たせてはいないと思うが、彼女は案外せっかちなのかもしれない。

 俺は再度衛兵たちに軽く頭を下げてシルフィの下へ向かった。

 俺が追いつくと同時に進み出したシルフィに予定を訪ねる。



「さて、街に着いた訳だが、これからどうする?」


「とりあえずは宿だな、あまり遅くなると泊まる場所が無くなる。次にギルドに行ってカミヤの登録をしよう」


「あいよ」



 返事をしつつ周りを観察する。

 レンガ造りの建物、木で組み上げられた露店、中には地面に布を敷いてアクセサリーのような物を売ってる所もある。

 少し歩けば今度は食べ物の屋台が並んでいた。

 焼き鳥のようなものから漂う、どこかで嗅いだことのあるような匂いが鼻をくすぐる――いかん、腹減ってきた。

 それはそれとして、歩く人々の表情は明るく、活気のある街。

 そんな印象を受けた。

 空腹を無視してさらに進むこと少々。



「まずはここだな」



 そうシルフィが言いながら向き合う建物。

 他の建物より三倍は大きいと思われるその建物の看板には、『宿屋 木漏れ日』と書いてある。

 相変わらずずんずんと進むシルフィの後を付いていき、中へ入ると、ハーブか何かだろうか、爽やかな香りがした。

 受付の子がこちらを見て笑顔を浮かべ挨拶をしてくれる。



「いらっしゃい! お泊りですか?」


「ああ、そうだ。二部屋取りたいんだが……」


「二部屋? 空いてますけど、珍しいですね! もしかしてお連れ様?」



 受付の子が俺を見てそう言う。

 どうでもいいけど、元気な子だなぁ。

 受付係だろうか、随分と若い。

 まだ小学生くらいだと思う。



「ああ、仕事中に知り合ってな。しばらくパーティを組むことになったんだ」


「へぇ〜、〝あの〟シルフィさんがね〜」



 受付の子がニマァっと嫌な笑みを浮かべるのを見て、だいたい何を言いたいのか察したが、いちいち止めるのも面倒なので周りを見る振りをしてやり過ごす。

 しかしそういった器用な真似ができない人がここに一人。



「何だその顔は、何を勘違いしている?」


「いえ〜別に〜」



 ニマニマと楽しげな表情を浮かべる少女に、さらに意地になりそうなシルフィ。

 長くなりそうな予感がしたので仕方なく割って入ることにした。



「あ〜、悪いが急いでてな。部屋はどこに?」


「あ、ごめんなさい。部屋は二階の奥、この木札に書いてある番号の部屋です。木札には鍵も付いてるので無くさないようにしてください」


「ありがとう。ほら行くぞーシルフィ、部屋に荷物置いて他所に行くんだろう?」


「うわっ、ちょ、おい! 引っ張るな! まだ鍵が」


「俺が持ってる」



 そう言いつつ引っ張る手を離し、部屋の鍵を一つ渡す。

 荷物を置いていく、というのは俺の予想だったが、否定の言葉がないので間違っていないのだろう。

 割り当てられた部屋をざっと見て異常がないかを確かめ、荷物を置いた俺たちは、部屋に鍵を掛け、廊下で合流して宿の外に出た。

 途中、出て行く俺たちの後ろから生暖かい視線を感じたが、シルフィが気付かなかったので無視して出てきた。

 俺は腰の剣二本、シルフィは腰に細剣一本と先程倒した魔物の素材が入った袋、という身軽な格好で歩いて行く。

 やがて着いたのは西部劇に出てくる酒場のような外観の建物。

 看板を見るにここが冒険者ギルドらしい。

 なんとも物騒な雰囲気漂う場所だ。

 なんとなくここの人通りは少ない気もする。

 そんな場所に物怖じせず入っていくシルフィ。

 肝座りすぎだろ……と一瞬思ったが、すぐにこんなのは本職の冒険者たる彼女の日常なんだろうと納得して後を追った。


 中の構図は縦三つに分けると、中央はだだっ広いスペースと奥にたくさんの紙が貼られている掲示板、左側には手前から奥までたくさんのテーブルとイスがある。

 右側は手前に受付のようなカウンターがいくつか、奥にはさらに奥に続く通路という感じだった。

 シルフィを前にカウンターに連れ立って歩く。

 受付の男性が対応してくれるようだ。

 男性が低い声で言う。



「どうも、シルフィさん。無事でなにより」


「ああ、終わらせて来た。それより新規の登録を頼む」


「ほう、お連れさんですか、珍しいですね。あちらさんですかい?」



 そう言って俺の方を見るのに合わせて軽く一礼しておく。

 俺らしくない、なんてよく言われるが、敵でもない相手に挑発的な態度を取ったりはしない。

 その間にシルフィが話を進める。



「私が保証人だ。腕は確かだぞ?」


「……本当に珍しいですね、シルフィさんがそこまで人を買っているなんて」


「事実だからな」



 そう会話している間にも、男性は引き出しから書類を用意したり、同僚と思われる女性に伝言を頼んだりと手際がいい。

 やがて準備も終わったのか、手招きで呼び出された俺は説明を受ける。



「ここに名前と出身、どういった活動を主に行うつもりなのか書いてくれ。戦闘以外にも研究や採取専門の冒険者もいるからな。ただ一つアドバイスしとくと、戦闘って書くなら覚悟しておいた方がいい。この後の試験の難易度に響くからな。全部終われば面接して終わりだ」



 当然、試験があるらしい。

 引き続き説明を聞くに、戦闘以外を主に行うつもりであれば、それぞれの得意分野に合わせて筆記や文字を書けない人用に問答試験があるらしい。

 まあ、俺は文字も書けないしこの世界の知識もほとんどないうえ、戦闘においても正直誰が相手でも負ける気はしないので戦闘試験一択だな。

 俺は男性に代筆をお願いし、口頭で順に伝える。



「名前はカミヤ・カンザキ。出身は東の森の中にある村、名前は無いんだ、外界との接触を今まで絶ってたから必要無かった。どうしても必要ならそうだな……シニガミ村、と書いておいてくれ。最後の活動方針は――戦闘だ」


「ほう、自信があるんだな。まあシルフィさんが嘘をつくとは思っちゃいないが。にしてもシニガミ村ねぇ、そりゃまた物騒なこって……」



 と、呟きながらサラサラと書類に記入を終えた男性は、まるで後ろに目があるかのように後ろを歩いていた女性職員に書類を手渡し、こちらに向き直った。



「すぐに登録するんだろ? ならあの奥へ続く道を進んで突き当たりを右に行け。訓練用スペースで待ってれば試験管が来る。ついでにシルフィさんが取ってきた素材の検品もそっちでやっちゃいましょうかね、あるんでしょう?」



 頷いて返事をしたシルフィと共に奥の訓練用スペースへと歩いていった。








サブタイトルを先に決めて

そこまで書こうとしたら

長くなって終わりが見えなかったので

結局前後編になりました……

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