05.剣鬼様、契約を結ぶ
遅くなりまして本当に申し訳ないです
大口叩けば筆が進むかと思いましたが、そんなこともなかった……。
執筆初心者なので慣れながら頑張っていきたいと思います。
私の名はシルフィ=クラウソラス。
Bランク冒険者として各地を回っている。
今はここ、魔女の森で標的の魔物を追いかけている道中、怪しい男と出くわし、紆余曲折の末その男によるマキシマムアルマの討伐を見届けている。
結論から先に言おう。
――それは暴力だった。
圧倒的であり、そして一方的な。
見る者によっては虐待に見えたかもしれない。
いかに相手が魔物といえど、哀れみを覚えてしまうような絶対的な――理不尽。
通常はDランクであるマキシマムアルマにしては身体が大きく、保有している魔力量も多かった為、カミヤにはCランクだと伝えた。
そう、私はカミヤに危険だと、気を付けろと忠告したのだ。
今思えばそれも恥ずかしい。
でも仕方ないではないか。
エルフである私は相手の持つ魔力量がおおよそ把握出来る。
私の見たところカミヤの持つ魔力量を10とするならば、あのマキシマムアルマの魔力量は通常個体の3倍に当たる12程だろう。
私の魔力量が30程だから、その私を軽々負かしてみせたカミヤを信じて行かせたのだ。
その結果がアレだ。
カミヤは錆落としなどと言っていたが、まさにそのようだった。
マキシマムアルマは姿を現したカミヤに、警戒を通り越して即座に身体中に魔力を巡らせて戦闘態勢へ。
こう言ったところは魔物や魔獣の特徴だな。
対してカミヤは呆れるほどゆっくりと魔力を巡らせてやる気など微塵も見せないような態度。
突っ込む魔物、躱すカミヤ。
カミヤはまるで自身の動きを確認するようにマキシマムアルマの攻撃を捌きつつ、身体を巡る魔力の動きを速めていく。
何かおかしいと思ったのはここからだった。
その違和感に私はすぐに気付いた、というか気付かされた。
魔力の巡り、そのあまりの美しさに。
当たり前の話だが魔力を持つ者は戦闘の際、魔力を使用する。
魔法使いであれば体外に放出し魔法を形作り、近接戦闘を行う者であれば体内に巡らせることで身体能力を上げたりする。
出来れば両方できるに越したことはないな。
だが、いくら魔力の扱いに長けた者といえど多少のロスは発生する。
魔法使いが体外に放出して魔法として形を成す際、いくらか空中の魔素に溶けたり、体内で魔力を巡らせてもいくらか体の外へ漏れ出してしまう。
エルフであり魔力の扱いに関しては全種族中でもトップクラスである私でさえそうだ。
なのにカミヤはどうだ。
戦いも中盤に差し掛かりその身体を巡る魔力の動きは私でさえ驚くほど高速でありながら、身体から漏れる魔力は一滴もない。
その魔力の動き自体もそうだ。
あれほど高速で動く魔力など、それこそ暴走時などの暴れ狂った状態でしか見られないが、カミヤの魔力は必要なタイミングで必要な量を必要な箇所へ的確に巡っている。
カミヤ自身が完璧に制御出来ている証だ。
そのまま時間が経ち、もはやその身に流れる魔力のように高速で動き回るカミヤに、しかしてこちらも疲れ知らずのマキシマムアルマ。
有効打がないのかと訝しんでいる間に、その時は来た。
カミヤがその動きを完全に止めたのだ。
それまで動きを捉えきれなかった相手が突然止まったのに対して待っていましたと言わんばかりに突進するマキシマムアルマ。
次の瞬間――カミヤの姿が消えた、と思えばマキシマムアルマが巨木の方へ吹っ飛んだ。
マキシマムアルマがぶつかった衝撃で突き刺さっていた私の剣が落ちる。
カミヤはまた高速で動き出すと、その剣を私の方へ弾き飛ばした。
人の剣を何だと……とムッとしないでもなかったが、私の剣がすぐ隣に突き刺さっても私の視線はカミヤに釘付けだった。
後は特に語ることもない。
再び高速で動き出したカミヤが四方八方からマキシマムアルマを滅多打ちにしただけだ。
たまにマキシマムアルマが繰り出す悪あがきの攻撃を、カミヤはわざと剣で受け止めてみたり、あえて相手の最も硬い部分である背中に集中攻撃を加えてみたりとその身体の錆落としらしい行動をしてから、最後にマキシマムアルマの頭蓋を正面から粉砕してその戦いは幕を閉じた。
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「ふぅ。こんなもんか」
俺は軽く息を吐き出して気持ちを切り替える。
この獣にはだいぶ付き合ってもらったが、その瞳には最初から最後までこちらに対する殺意しかなかったので遠慮なくやらせてもらった。
おかげでいい運動になった。
最近思いっきり動く機会がめっきり無くなってたからなぁ。
久々に翼に会えたから今日も斬りかかってやろうと思ってたのに緊急案件だとかで戦れなかったし。
しかし……物足りなかったな。
この、マキシマムアルマだったか? はCランクだというが、魔力量もそこそこあって何より身体が屈強だったからもう少し粘ってくれると思ったんだが、実際はあっさり終わってしまった。
まあ、黒い方が使えない今の俺の手に余るような強敵だと、それはそれで困るわけだが……うん、それは大問題なので今回の相手くらいの強さで良しとしよう。
そう俺の中では整理し終わったところだったのだが、不満が顔に出ていたのだろうか、シルフィがこちらへ歩きながら呆れ顔で声を掛けてきた。
「勝ったというのに不満そうだな、物足りなかったか?」
「まあそうだが、今回はこれでいいさ。あんまり強いのに出てこられても困る」
「貴様が強いというレベルの相手には出会いたくないものだな」
彼女はそう言っておもむろにマキシマムアルマの死体に剣を突き立てた。
「おい、何してるんだよ!?」
「何って、魔石を取り出すんだ。そんなことも知らないのか?」
何やら馬鹿にするような言い方に聴こえるが、彼女の瞳にはそんな感情は微塵も見受けられない。
それほどまでに常識ということなのだろう。
俺は正直に答える。
「ああ、知らん」
「貴様の村では魔物や魔獣は出てこなかったのだな」
気になるワードが出てきたので素直に訊いてみる。
「魔物や魔獣ってのは?」
「魔物は魔力によって生まれた存在だ、基本的に同種族でしか群れず非常に好戦的、魔物ごとに弱点はあるが共通の弱点として体内に魔石がある、魔石を砕くなり断ち切るなどすれば即座に死に絶える。傷つけることなく手に入れられればいい金になるぞ。死んだ魔物はやがて魔素へと還っていくが、魔石を取ればそれが速まるし、そうした方がいい。魔物の死骸を食うなりして取り込んだ魔物はさらに強くなるからな。武器や道具に使えそうな素材は特別な液体を掛けてやれば消えたりしないから覚えておくといい」
「ほうほう」
「魔獣の方は野獣が負の魔力をある程度浴びたり魔石を取り込むなどして生まれた存在だな。生態は魔物と大して変わらないが、こちらに魔石は無いし、死体は魔力が抜けるだけで普通に残る。素材も消えないから安心していいぞ」
「なるほど、ありがとう。勉強になった」
「どういたしまして、というほどでもないがな。これも〝契約〟の内だろう」
「ん? 契約?」
「そう、契約だ。貴様が知りたいことに私は出来るだけ答える、その代わりに貴様は私が強くなるのに協力しろ」
それがさっき言ってた条件というやつか。
しかし俺にはこの世界に逃げ込んだ害虫を駆除するという仕事があるし、あまり身動きを縛られるのは困る。
とはいえ、せっかく知り合った現地の協力者をここでみすみす逃すのは……と、考えていてもらちが明かないので、さっそく交渉……といってもこちらから提供出来るものが無いな……相談に入る。
「協力といっても俺にも世界を渡り歩くという使命があるんだが……」
「そこは問題ない、私とてそれは同じなのだ。私は強くなりたい。ただ単純な強さではなく、様々な場所へ行き、色々な物を見て、数々の強敵と戦い抜く、その先に私の目指す強さがあると私は考えている」
「おお、なんだか眩しいな……」
「何を言う! 私から見れば貴様の方が眩しい。どうすればそんな強さを持ったのか是非聞きたいものだ」
「俺の持つ強さはお前の求めている強さとは全然違うけどな。まあ何はともあれ、各地を転々と渡るって言うんなら俺も問題無……行き先は俺に選ばせてくれよ?」
「構わんよ。というか、いまさらになるがこちらからお願いさせていただこう、きさ……あなたの旅に付き合わせてくれ」
シルフィはそう言って礼儀正しく頭を下げてきた。
どうでもいいけどこっちにもあるんだな、そういう作法。
俺は突然態度を変えたシルフィに驚きつつ返事をする。
「いや、いいけど。いきなりなんだよ」
「なかなか直らん私の悪い癖でな。自分で言うのもなんだが我々エルフ族は基本的にプライドが高い、だからつい先ほどまでの態度で人と接してしまうことが多いし、その結果物事がうまく進まない、などということも多い」
「なるほどなぁ」
エルフ、というのは聞いたことがあるな。
ファンタジー小説とかで出てくるんだっけか。
プライドが高いっていうのは知らなかったが、少なくともこの世界ではそういうことなんだろう。
俺は基本的にそういうのは大して気にならない性質だから今までスルーしていた。
こんな場所で怪しげな男と出会って警戒してたというのもあるし、それは仕方ないんじゃないか?
しかしちゃんと契約が結ばれる以上、あまり警戒の必要も無くなって、自分の今までの態度に気がついたようだ。
もしかしたらあの態度を直したい彼女からしてみれば、不満の一つでも漏らして欲しかったのかもしれないな。
でも急に変えられるのもなぁ、と思ったのでそう伝える。
「正直、お前が喋りやすい方で構わないよ、俺はそういうの気にしないから。あ、でも貴様とかあなたとかお前呼びはなんか嫌だな。お互い名前呼びでいいか?」
「ふむ、わかった。ドタバタしていてきちんと言えていなかったが、これからよろしく頼む。カミヤ」
「ああ、こちらこそよろしく頼む、シルフィ」
そんなこんなで俺とシルフィの契約が成立したのだった。