表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

精霊王シリーズ

精霊王の坐す場所。

作者: 絆 蒼奈

短編シリーズとしての投稿です。


ほのぼのとありますが、人によってはシリアス……かも?



ぴちょん……ぴちょん……。



仄暗い洞窟に水滴の滴り落ちる音が響く。


少し開けた広間のような場所。

微量の魔力を保有し、その魔力を光へと変換する"光苔"。

だが光苔の仄かな灯りではここまで明るくなることはない。ひとえに清水晶のお陰だ。

"清水晶"。綺麗な水の側でしか見つかることのない美しく、透き通った水晶。

その光苔の灯りを広場のような洞窟内に満遍なく光を届けている。


暗い洞窟の道を抜けるとここへと辿り着く。

清水晶の灯りを頼りにこの場所へ来ようとしても、来るまでに冒険者は命を落としてしまう。


そして、外から確認した洞窟の大きさより遥かに広い、泉。

泉の水は高い純度で美しい蒼色に見える。


その汀には泉と同じ色の髪をした女が下半身を水に浸けて倒れていた。

まるでどこに繋がっているかも判らないこの泉から、どこかから流れ着いたように見える。


深い蒼色のようで、浅い碧色にも見える髪。

その顔は見えないが透き通るような白い肌。

まるで……


そう。



水の化身のような女だった。







……私は、今何をしているのかしら?

私は……え? 私?

私はそもそも誰なのかしら。


……そう。そう! 私は……水の……いえ、水を統べるもの。私は水。


あぁ! なんていうことなのでしょう!

それなら早速、場を整えなくては!


女はなぜか分からないがこの岩がむき出しの岩室を快適な空間にしなければという使命感に襲われた。


……どうやればいいのかしら。……あら、そうやればいいのね。


女は目を閉じ、集中する。


あの方を招いても、恥ずかしくないくらいの水の涼やかさ、透明感、美しさを……。


泉から、水が浮かび上がる。

周囲に幼子特有の高い笑い声が響く。


《生まれた~?》

《生まれたの!》

《新しい王様が?》

《新しい王様が!》

《女の人だよ?》

《女の人だね》

《女王様?》

《女王様!》

《私たちの?》

《ボクたちの女王様!》

《お手伝いをしなくちゃね》

《なんてったってボクらは女王のために生まれた存在!》


透き通った水色の体と羽を持った小人……いや、これを指すならば"妖精"。


《あの方を招くため!》

《あの方を招くお部屋を!》

《造りましょう!》《創ろうよ!》


妖精の二人が手を取り合い、女の回りをパタパタ行き来する。

その顔はとても楽しそうで、幸せそうだった。


やがて、

泉の中央にあった岩は宝飾のされた玉座に。


陸地にあった岩はテーブルに。


壁は新たな通路を作り。


床は絨毯が引かれ、ただの岩の代わりに大理石に。


遮るもののなかった入り口は水を模した透明感のある扉に。



「これが私たちのお家!」

《キレー》

《とってもうまくいった!》

「ふふふ、初めてにしては上出来ではないかしら」

《初めて?》

《上出来?》


一度顔を見合わせると、くふふ、と笑いあう。


《上出来!》

《上出来!》

「さぁ、あの方がいつか来るまで、待ち続けましょう?」

《ハーイ!》

《尊いお方!》


いつか、来てくださいね? 私"たち"のお父様とお母様。

ずっと、ずっと、待っています。





◇◆◇◆





ここは遥か遠く、南の大陸の地。

火山が多くあり、火の精の力が最も強い地域。



シュウシュウとなにかが熔けるような音がマグマで照らされた洞窟内に響く。

少し開けた人の身では耐えきれない熱気の溜まった場所。

ここは火山の地下深く。マグマ溜まりと呼ばれる場所。

マグマのお陰で光源がなくとも昼間のように……いや、それよりももっと明るく、眩しいほどだ。


マグマの中心部に、男が一人。


「新たな同胞が……生まれたか」

《……同胞?》


紅蓮の髪、紅玉の瞳の男は呟いた。




ここは遥か遠く、東の大陸の地。

自然が豊かで、木の精の力が最も強い地域。


さらさらと木の葉が風に揺れる音が聴こえる。

少し開けた、妖精の輪(フェアリー・サークル)のような軽やかな場所。

ここは誰も立ち入らないほど深い深い森の中。

周りは精霊の眷属である妖精の仄かな光で昼は明るく、夜は月明かりと共に幻想的な灯りが満ちる。


聳え立つ樹が存在感を放つ中央、その樹の根本に座る女が一人。


「あら? あらあらまぁまぁお祝いをしなくては」

《お祝い?》


新緑の髪、翡翠の瞳の女は呟いた。




ここは遥か遠く、西の大陸の地。

谷間が多くあり旋風が吹き荒れる、風の精の力が最も強い地域。


轟轟と風が岩肌にぶつかる大きな音が響き渡り消えていく。

狭い谷の狭間、多くの風、旋風が吹き抜けていく場所。

人の身では墜ちてしまい到底いることのできない風の大地。

彼ら、風の精に光はいらない。それよりも辺りから声が自分の今いる場所を教えてくれる。


周囲よりも低い一本の岩の上で寝転がる一人の男。


「んぁ? ……生まれたのか。てかもうそんな時期か?」

《王様はだらしないから~……》


白銀の髪、白金の瞳の男は呟いた。





ここは天空。

光の統べる場所。


「……とても、明るいわね…………」


総てを輝かせる金髪、煌めきナニも写さない金の瞳の少女は呟いた。




ここは深淵。

闇の統べる場所。


「ここは寂しい。……淋しい」


総てを吸い込む宵闇の髪、総てを引き込む漆黒の瞳の少年は呟いた。





◇◆◇◆





あれから…………年。

ずっとずっと、彼女は、いや彼女たちは、あの場所に……。

え、えへ?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ