姉貴、再来
俺はすっかり忘れていた。この会社に入ることになったキッカケを。俺にとっては悪魔のような声を。
数メートル後ろに吹っ飛んだ天王寺さんが後方でピクピク痙攣しているのは置いておいて、目の前にいる我が姉、七原小百合が拳から煙を出しながらこちらに微笑む。
「早かったじゃない、とりあえず入りなよ」
そうか、何気なくスルーしてたけどさっき周りが俺を見ていた時小百合の弟くんとか言ってたか。
あまりの異様な光景に目も意識も奪われ気付かなかったが俺はこの人にここへ入れさせられたのだ。
「あ、姉貴…」
唖然としていると後ろから何事もなかったかのように天王寺さんがひょこっと帰ってきていた。
「小百合さーん、流石に今のは普通なら顔面粉砕して病院コースですよまったく。」
いや、ですよね?画面に数センチ拳めり込んで吹っ飛んでましたよね?なんで平気なんすか?
「アンタなら大丈夫でしょ、そんなことよりさっさとお菓子を返しなさい。」
「それ僕だからでしょー」
いや大丈夫ってレベルではなかったぞ?
とりあえず俺は天王寺さんとセブンス・ラボへと入る。
中は計測器具や訓練施設?のようなところや応接室まである。待遇が凄いな、さすが先鋭舞台。
俺と天王寺さんは応接室のソファに座り机を挟んで向かい側に姉貴が座る。いや、てかなんで姉貴?
「改めて紹介しますね、この先鋭部隊セブンスのリーダーである貴方の姉の小百合さんです。」
「リ、リーダー!?」
驚いた、姉貴がそんなに重役だとは。だからさっきからこんな偉そうにふんぞり返っているのか。
目の前の姉貴は「えっへん」と自慢げにドヤ顔していた。
「ようこそカイト、我社セブンスへ!
って言ってもカイトはミリオンズだから、私達セブンスとはあんまり仕事しないと思うけどね。」
ミリオンズ、そういえば俺が配置される部署がそんな名前だったな。サポートとか雑務って言ってたか?基本的に何をするかはあんまり聞いてないな。
「えっとー、セブンスは全員で7人いるんですが、ちょっと外出してるみたいなんで今のうちにミリオンズの仕事内容をお話ししますね。」
ドンピシャなタイミングでの天王寺さんの提案。ちょうど考えてたところだし、俺はすぐに頷いた。
「では説明させて頂きます。このセブンスでは大きくわけて
技術班、先鋭舞台セブンス、ミリオンズ、事務班と4つに分かれます。技術班は能力の解明やボディケア、能力者の調整などを行う部署です。
続いては先鋭部隊セブンス、彼らは7人からなる部隊で、攻撃性の高い相手に対しての武力による対抗、制圧を目的とする実働部隊です。
次にミリオンズ、灰人さんが所属する部署ですね。ここは基本的に現場におけるセブンスのサポート、事後処理や簡単な任務の遂行などです。
最後は事務班、私のような人事部や表向きの会社運営や事務仕事、政府への報告など行っています。
ここまでで質問ありますか?」
天王寺さんは話しを一区切りして大丈夫かと聞いているが正直まったく処理しきれていない。
つまり姉貴率いる先鋭部隊が戦闘員で、俺らはそのサポートってことだよな?
俺そんな戦闘力とかないっすけど。
「なんで、俺が、選ばれ、たんですか?」
天王寺さんは「あっ、」と忘れていたことに気づいたように「すいません」と笑いながら先ほどの書類を開いた。
「そういえば採用理由を話していませんでしたね。
ここ、政府直轄機関セブンスに入るには学歴、経歴などは一切問いません。まぁ、技術班は例外ですが…
その他の部署にはただ一つ、クリアしなくてはいけない条件があります。
それは健康診断を受けて貰ったと思いますが、その時血液を採取させて頂きました。」
「あ、」
そういえば血液採取されたな、美人な看護師だっが何度も注射失敗して5回ほど刺されたな。
4回目ぐらいから泣きそうになってたけどそれもまた可愛かったなぁ。
「アンタ、変なこと思い出してるでしょ?」
「え、いや、別に?」
焦った、姉貴はエスパーか何かなのか。俺の心読みやがって。
すると天王寺さんがゴホンっと咳払いをして話しを続ける。
「その時採取した血液からある物質を検出します。
それは特殊能力の源である[S因子]と呼ばれるものです。その因子の数値が一定ラインを超えたらセブンスへと入れる、そういう基準になっています。」
「え、S因子…?」
聞いたことのない言葉だ。それが俺は規定をクリアしていたということだろうか?
先ほど貰った書類を開いてみるとS因子について書かれていた。
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S因子:
人間の細胞にある特殊な因子で、これが一定数値を上回っていればそれが身体、もしくは身体の周囲の空間に作用して特殊能力として発現する。
この因子は2001年に発見され政府で極秘に研究されていた。
そして翌年の2002年、政府はこのS因子の一定数値を超えた者を集めて民間企業として政府直轄機関セブンスを設立。
この設立は特殊能力者を監視下に置くと共に能力の研究、S因子の研究の足がかりにする目的である。
このS因子の数値が高ければ高いほど比例して発現する能力は強くなる。
現在はS因子の測定器も作られより能力者の発見が簡単になったと言えるだろう。
さらに2010年にS因子が遺伝によるものも強いと推測され、親族に能力者が居ればその者も能力覚醒の可能性が大きいと発表された。
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「えっと、つ、つまり、僕の、え、S因子?が、規定値を、超えた、ってこと、ですか?」
俺の詰まり詰まりの言葉にクスリと笑いながら天王寺さんが「そういうことですね」と続けて説明を始めた。
「灰人さんは規定値である500SPを超えていましたので本社へと入社が決まりました。
ちなみに灰人さんの場合はかなりレアで、測定値が501SPとギリギリラインだったんですが、小百合さんのゴリ推しで合格になったんですよ。」
「そうよ!感謝しなさいよカイト!」
501、あぁ、ここはラノベみたいにバカ高い訳ではないんだね。
1しか上回らないって、なんか複雑な気分だ。ちょっと期待した分ガッカリ感がすごい。
しかも姉貴の後押しとか更に凹む。
「と、とりあえず合格したんですから!
1でも上回れば能力発動の可能性は充分ありますから!」
あからさまにガッカリした俺を必死にフォローしようとする天王寺さんはほんとにいい人だ。それに比べ横で「流石アタシ!」と自画自賛している姉貴に天王寺さんの爪の垢を煎じて飲ましてやりたい。