2人の能力
[友情の結力]。
それが春田さんから聞いた姉貴の能力だ。
一定の距離にいる人と自分がお互いに仲間という認識を持てば、自分の身体能力が仲間と認識した人の数だけ向上するというもの。
あと、仲間と認識した人が能力者ならその能力を借りれるらしい。
それでなぜ姉貴しか戦えないのか。よくわからない。
今仲間と認識している人数は俺を含めて4人。つまり4人分身体能力が向上していて、春田さんと土井ヶ原さんと江上さん、3人の能力が使えるという状態だ。
この説明で俺はピンとこなかったが、姉貴の一瞬での移動、そしてラシードを一撃で沈めた威力。
4人でこの向上率なら間違いなく姉貴は強い。そんなチート能力使えるとかゲームだとバランス崩れてるぞこれ。
「あーなった小百合さんって無双だからなぁ」
春田さんがボソッと呟く。
それもそうだろう。素人目の俺から見ても明らかだ。
「ただあの人が能力使うと俺達は能力が上手く使えないからな。」
土井ヶ原さんが少し残念そうに補足する。
そこがよくわからない。俺が不思議そうに聞いていると春田さんが俺の顔色を伺い教えてくれた。
「小百合さんは能力を借りれるって言ったよね?
小百合さんが能力を借りている間は貸している方は能力が使えないんだよ。
しかも小百合さんの独断で借りたり借りなかったりするから僕達がどのタイミングで能力が使えなくなるのか分からないのが難点だね。」
なるほど、それは確かに姉貴しか戦えないというわけか。
なんとも自己中心的な姉貴にピッタリな能力だろうか。しかも強いから文句も言えない。
姉貴が全てを任され、尚且つ姉貴の意思次第。これほどまでに姉貴にピッタリの能力はないだろう。
「次はアンタだよ、鉄血さん。」
などと能力の考察をしていたら姉貴は次の行動を取っていた。
ラシードを沈めてそのまま鉄血へと拳を向けて打撃を加えようとしたらしいが、鉄血はその拳を両手で抑えて応戦していた。
「なるほど、この威力。なかなか祖国でもお目にかかれない強力な能力だ。」
鉄血は戦いへの興奮と強敵に会えた喜びを抑えきれず、口元に笑を隠しきれていなかった。
いるんだねあんな漫画みたいな戦闘狂。リアルで見るとちょっと引く。ほんとに俺は理解したくない感情だ。
すると姉貴は拳を引き少し後方に下がる。鉄血が嬉しそうに笑みを浮かべているのを見て姉貴も釣られてか口元に笑みを浮かべる。
「へぇ、かなり余裕あるみたいね。」
鉄血は抑えきれないのかとうとう高笑いを始めた。だがゆっくりと息を整えて脱力したように構えた体制を崩して姉貴を見る。
「久しぶりに能力を使えるとは、この喜び、抑えれきれないぞ。」
鉄血はまたニヤッと笑いながら、足に装着していたホルダーからナイフを取り出す。
そして何を考えているのかそのナイフで自分の掌を突き刺した。
「やばい、小百合さん!鉄血の能力がきます!」
春田さんがいち早く声を上げる。鉄血の能力、そう言えばその見た目のインパクトですっかり能力者というのを忘れていた。
[鉄血]と呼ばれるほどだ、何か血に纏わる能力なのか?
春田さんがその疑問にすぐに応えてくれた。
「[血華の宴]。彼の能力は自分の血液を硬化させて身体に纏う能力だ。」
すると鉄血の両腕には血独特の赤黒い色をしたかなり大き目の手甲が装備されていた。
そしてゆっくりと拳を握ったり開いたりして感覚をたしかめている。
「久しぶりの能力だ、すぐには倒れてくれるなよ?」
鉄血はニヤけた口元を隠そうともせずに構える。
しかし先に仕掛けたのは姉貴だ。姉貴は鉄血の顔面に拳圧が俺の場所まで肌で感じほどの渾身の一撃を入れた。だがその拳は呆気なく血の手甲に防がれていた。
「思ったより硬いのね。」
姉貴は壊す気だったのだろう、予想以上の硬さに少し驚いているが、想定の範囲内という顔をしている。
「硬いだけと思うか?」
そう鉄血が口にした瞬間、手甲から複数の棘が生えて姉貴の頬を掠める。姉貴はすぐに距離をとり頬についた血を手で拭う。
「あの能力の最大の利点は防御力じゃない。好きな形に変化できて今のようなカウンターなどを瞬時に行えるその多様性だ。」
春田さんがすぐに補足してくれた。
なるほど、確かに防御だけならそこまでの脅威ではないが、たった1つ、形状変化が加わるだけでその多様性と能力のレベルが格段に上がるというのは火を見るより明らかだ。
「やっぱり強いね、伊達に指名手配されてないよまったく。」
姉貴もその強さは充分理解しているのであろう。いつもヘラヘラしている姉貴の顔とは思えぬほど真剣で強ばった顔をしている。
「姉、貴…」
俺はただ見守るだけ、能力を姉貴に貸したりすることも出来ない。ここにきて己の無力感が心を覆う。俺はいったい何が出来るのだろう。その考えたくもない問がおれの頭を掠めた。