3つの可能性
「よっしゃー!どんどんこーい!」
「待ってくださいよ小百合さーん!」
陸での春田さんや土井ヶ原さん、灰人君の陽動も上手くいき私、江上胡呂呂と小百合さんは密入国船内部の潜入に成功しました。船内にあった図から捜索範囲を決めて現在は居住区らしきところを見て回っているところです。
内部は意外にも手薄で、密入国者や黒服さんたちはどうやら外に駆り出されてる様子です。陽動が上手く行き過ぎて少し恐怖さえ感じます。
「んー、意外と人いないから拍子抜けだなぁ」
「陽動が上手くいってるんですよ!でも確かに手薄過ぎな気はしますね…」
ここに来るまでも一般人の黒服が銃などの火器を所持して数人見かけた程度。
これではあまりにも船が無防備すぎる。一応の事を考えながらも周りを見渡し、罠や奇襲の可能性を考慮しつつ警戒を怠らないように注意を払う。
「もー胡呂呂は心配しすぎよ、大抵こういう状況なら可能性は限りてくるわ。」
「どんな可能性があるんですか?」
小百合さんは指を3本立てて私の目の前に突き出し「まは1つ」と説明を始める。
「1つは相手の指揮官が余程の馬鹿、もしくは指揮官が既に指揮を取れない状況。」
まぁ、確かにそのような状況も有り得るかもしれませんが、密入国なんてことをやってのける相手の指揮官が果たして馬鹿というのは考えにくいです。
あと、指揮が取れない状況っていうのも可能性が薄い気がします。
私が小百合さんの話しを聞いてうーんと考えていると小百合さんは目の前の指を1本折りたたんだ。
「まぁ、胡呂呂も気付いてるとは思うけどこれは1番低い可能性ね。
2つ目は既にこの船の中にいた指揮官、及び密入国した能力者が逃げた可能性。」
「それこそ可能性は低い気がします。この船が入港してからすぐに私達が作戦を開始しましたし、そんな逃げる時間があったとは思えません。それにもし、逃げているなら外の人達も能力者いましたし頃合で撤退するでしょう。
今まだ交戦中で船にも少なかれ人は残ってたところを見るとまだ指揮官は近くにいるかと。」
小百合さんはうんうんと頷き私の答えにグッと親指を立てて、よく出来た!と頭を撫でてくれた。
「なら3つ目が1番可能性高いわね、しかも1番私好みの可能性。」
「小百合さん好みですか?」
小百合さんはそう言うと袖を捲り手にはめていたグローブをグッと力強く握り締める。
これは小百合さんがいつも戦闘前にするジンクスというか合図みたいなものだ。それを見た私もすぐに気付き臨戦態勢を取る。
「そう、最後の可能性。それは…」
小百合さんが言いかけたところで爆音と共に船の天井から2~3mはありそうな巨大な体格をした男らしきものが落ちてきた。野獣のような奥から獲物を狙う眼光。口には八重歯というにはあまりにも鋭い歯。そして服の上からでもわかる隆々とした筋肉。私なんかと比べたら私が10人集まっても勝てそうにない程の迫力。
そして小百合さんはその人を見ながらニヤリと口元に笑みを浮かべる。
「敵の指揮官、あるいは能力者が護衛なんていなくても敵を倒せる程強いという自信がある奴。
これが最後の可能性だけど、答えは言うまでも無いわね。」
そしてその男はゆっくりとこちらを視界に入れて、口をひらくと禍々しい瘴気のような息が口から漏れる。
「舐められたものだな、女に子供とは。」
小百合さんはバシッと自分の掌を拳で殴り気合を入れて睨み返す。
「アンタみたいなゴリラは女子供で充分ってこと。」