エピローグ
「姉貴!」
手を伝う生暖かい感触、その感触はゆっくりと腕を伝い地面へと落ちていく。
涙でクシャクシャになった顔で必死に腕の中にいる女の人に叫び続く。それが怒号なのか悲鳴なのか最早分からない。叫んでいる間も女の人の腹部から夥しい血が流れ出て地面を紅く染めている。
なんでこうなったんだよーーー
車の残骸、瓦礫の山、辺りは悲惨な光景と倒れている人の数で異様は雰囲気となっている。
そして目の前、その上空に浮いている黒いツナギを着た男がこちらを何事も無いかのような目付きで見下ろしている。
俺が弱かったから、俺が何も出来なかったからーーー
涙が溢れ出す。悔しさと悲しみ、目の前の現実を変えれぬ無力感にただただ涙しか流せなかった。
腕に抱えた女性は確実に死へと向かっている。
肉体は活動を停止して魂と呼ばれるものは消え、ただの肉塊へと変わる。人間が逆らえぬ絶対的終着点。
なぁ、答えてくれよーーー
返事をしてくれよーーーー
そして目の前にツナギの男が降りてきてゆっくりと手に持つ刃をこちらへと突きつける。
その鋒が頬に当たり薄く切れた傷口から血が流れる。だがこの女性が流した血に比べたら微かなものだ。
「立派な死に様だ、お前もすぐにこの女に会わせてやる」
ツナギの男がそう言うと同時に刃を一度引き、力を込めて振り下ろす。
刹那、俺は心臓が熱くなった。湧き上がる気持ちが俺の全ての神経を刺激する。この感情はよく知っている。
そう、これは、怒り。
お前だけは、お前だけは、許さないっーーー