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異界の海征く現代艦隊  作者: ブルーラグーン
第一章 異界に破邪の霹靂は落ちて
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第6話 ソーリス・オータス泊地 前編

ラクティの従者二人の名前を勝手ながら、アリシア→「アリーナ」、ミレーナ→「ミレイユ」と変更しました。

 ソーリス・オータス泊地――ハワイのオアフ島に酷似した島の周囲を巨大な環礁が取り巻くCFの本拠地は、島の南部にある真珠湾(パールハーバー)に相当する入り江のみならず、環礁に囲まれた島全体がトラック諸島の様な天然の良港となっていた。


 ラテン語で“東から昇る朝日”を意味する名の泊地には、先ず南岸部の真珠湾とホノルル港に相当する一帯に、合計二〇〇隻以上の水上艦や潜水艦が同時に停泊出来る広大な港を始め、それらの建造、整備、修理、改修を担う多数のドックや、燃料と武器弾薬の貯蔵・補給施設といった各種港湾設備が存在する。ヒッカム空軍基地に相当する場所には陸上固定翼機が発着する何本もの滑走路、ホノルル市街地に相当する場所には兵士達の為の各種娯楽施設が集中している。


 東岸部には空母艦載機用の滑走路群と補助艦艇やモスボール用の港湾設備、中部の二つの山脈に挟まれた平原は大部分が海兵隊の演習場となっており、入り江に面した平原南端には兵器や弾薬等を製造する工廠群が立ち並ぶ。南西部と北西の一部には農場や牧場が広がっており、穀物、果物、野菜、香辛料、畜産物といった食糧を泊地である程度なら自給出来る様になっている。


 西岸部のワイアナエに相当する開けた低地には電波基地の他に、ミサイル試験場を兼ねた衛星打ち上げロケットの射場がある。ここには大型ロケット用の発射台に加えて旧ソ連製の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「R‐36M2ヴォエヴォーダ」を転用したドニエプルロケットのサイロも多数設置されており、更にはICBM迎撃用の大型ミサイルである「GBI」のサイロもある。


 そして泊地の最高峰である標高1220メートルのカアラ山に相当する山の頂には、航空機や巡航ミサイルのみならず弾道ミサイルの探知・追跡能力を併せ持つ巨大な三面式アクティブ・フェーズドアレイレーダー、通称“ガメラレーダー”こと「J/FPS‐5」固定式警戒管制レーダーが設置されており、24時間体制で泊地周辺の広い空域に隈なく睨みを利かせていた。


 最後に周囲の環礁を形成する島々には、泊地の東西南北の防空を担う陸上型イージスシステム「イージス・アショア」が計四ヶ所に配置されている。それに加えて12式地対艦誘導弾が泊地本島にも多数配備されているにも拘らず、CFを結成して間もない頃に造られた戦艦主砲を転用した沿岸砲陣地まで未だに残されていた。但し、今はレーダー連動式となった沿岸砲には万が一敵兵に占拠された場合を想定して、礁湖内や泊地本島を砲撃出来ない様に旋回角度の制限や自爆機能が施されている。


 そんな「シーパワーズ・ストライク」を長くプレイしてきた海咲達によって、コツコツと地道に機能追加を重ねられつつ現在の姿になったSO泊地に――――稲光をイメージして荒々しく描かれた「観測時に強い雷電。(ひょう)、氷霰又は雪霰を伴う」を意味する国際天気記号を、平和の象徴たるオリーブの葉で丸く囲った「CF旗」を高々と掲げ、艦首にも菊花紋章に代わって同様のエンブレムがあしらわれた旗艦の八洲を先頭に、環礁の内外を隔てる島々の間を通って礁湖へと大艦隊が入っていく。


 港では、八洲率いる艦隊より一歩先んじて帰港していた第五空母打撃群旗艦のウリヤノフスク級重原子力航空巡洋艦「ウリヤノフスク」を始めとして、艦前部の左右両舷に八基ずつ並ぶ計一六基の「P‐1000ヴルカーン」対艦ミサイル用キャニスターが如何にもマッチョなスラヴァ級ミサイル巡洋艦や、アーレイ・バーク級、ソヴレメンヌイ級、ウダロイⅡ級といったCFの主力駆逐艦、改良型オハイオ級やオスカーⅡ型といった巡航ミサイル原潜に加えて、フリーダム級やインディペンデンス級といった沿岸域戦闘艦達が整然と大艦隊を出迎えてくれた。


「…………この泊地も凄い数の艦隊ね……!!」


「…………嗚呼、ただただ気圧される……!!」


 アトランス側の常識では凡そ大砲が届く筈の無い遠距離にある岩礁を、たった一回の斉射で粉砕する威力を見せ付けた46センチ主砲の砲撃デモンストレーションを目の当たりにしてから、ラクティ達は八洲の第一艦橋で頭の中が暫く真っ白になりながら絶句していたのだが、艦隊がSO泊地に入港してやっと辛うじてその言葉を絞り出せるまでに回復していた。


「皆さん、本艦は間もなく港に接岸しますので、そろそろ下艦の準備をしましょうか。……先程から大変驚かれるのも解りますが」


「……え、ええ……判ったわ。アマギリ総帥」


「……そうだな……貴殿等には、我々にまだ見せたい物が多くあるのだったな」


 タグボートの的確な誘導に従って、ゆっくりと所定の埠頭にある桟橋に接近していく八洲。


「両舷停止、機関停止!」


 そして――――遂に八洲がその巨体を専用の桟橋へと接岸させる。暫くの後にトンビの鳴き声を思わせるサイドパイプの長閑(のどか)な音色が吹鳴される中、多数の護衛に伴われて総帥の海咲、副総帥の汐里、海兵隊司令官の麗華、航空隊司令官の彩菜に続き、海兵隊と航空隊の副司令であるウェインとケイティー、異世界の現地人であるラクティ達から成る一団がぞろぞろとラッタルを歩いて港に降り立つ。


 そこに八洲に曳航されていたアトランス帝国海軍近衛艦隊第一・第二戦隊の旗艦であるディエスとノクテスから、それぞれの艦長であるルキウスとサレイユスの二人と八洲での指揮を一通り終えた幸司が合流すると、M2重機関銃やM134ミニガンで武装したCF海兵隊のM1151装甲HMMWV(ハンヴィー)四両に護衛された、泊地内の移動に使われる人員輸送用バスが到着する。


「なッ……!? アマギリ総帥、ここでは馬車も自力で走れるのか!?」


「まあ、そういう事になりますね。ルーナさん。これからあの“バス”という大きな車両に乗って、皆さんを私達のソーリス・オータス泊地の見学へとお連れします」


「それと、今回は先ず海兵隊から色々と装備を見せていくんですけど、その解説はアタシとリザード中将が♪」


「航空隊の解説はあたしとストリーム中将が丁寧にしていきますから、今回はあたし達CFの装備をじっくりと見物していって下さいね!」


「ええ……あ、ありがとう。クレイトン司令、ワシザキ司令……」


 自分達から見ればどれもこれも常識外れの兵器や乗り物を前にして、それらが存在して当然と言わんばかりに平然と振る舞う海咲達に、ラクティ達は半ば感覚がついて行けなくなりつつあった。最も、海咲達もこれまで目にする機会が殆ど無かった現代兵器の実物に囲まれている状況で、内心では昨日から興奮が抑えられないでいるのだが。


(……海咲。取り敢えず、ここまでは昨日の打ち合わせ通りね)


(……うん。今は私達の力を、ラクティさん達に正しく理解して貰いましょう)


 そう汐里と海咲が軍議の続きで決めた予定に狂いが無い事を小声で確認する中、一行はハンヴィーに護衛されたバスに乗り込み港からSO泊地巡りへと出発する。異世界の現地人であるラクティ達はこれから更に、この世界の戦いの常識を根底から打ち砕く驚異の連続を味わう事になるのであった。



◇◆◇◆◇



「この“バス”という自力で走る乗り物も凄いわね。椅子もふかふかで、馬車と違って殆ど揺れないなんて」


「全くです、ラクティ様。ただ、それは我々が今走っている黒っぽい道路が、異様なまでに凹凸が少なく滑らかなのもあるでしょうが……」


 ラクティとルキウスがバスの乗り心地に驚嘆しながら話している内に、一行を乗せたバスとハンヴィーの車列は工廠群を通ってCF海兵隊の射撃演習場に到着する。


『――――ローディング!』


 そこではMARPAT(マーパット)迷彩のMCCUU野戦服を着て、小銃弾の阻止能力がある新型ヘルメットのECHや、ヘッドセットの使用を考慮して側面部が大きく開いたFASTヘルメットを被ったCF海兵隊員達が、異世界転移二日目の今日から早くも銃火器の射撃訓練を再開していた。


 訓練に参加している海兵隊員達は、全員が目を防護するタクティカルゴーグルやシューティンググラス、身体を防護するボディーアーマーやプレートキャリアを欠かさず着用している。


『ステンバーイ……! ターゲット!!』


 そして一目でそれと判る砂漠地帯用のデザートパターン、緑と茶の斑模様が特徴のウッドランドパターンという二種類のMARPAT迷彩に身を包んだ海兵隊員達が、個々人で様々なカスタマイズを施したM16A4やM4A1カービン、SCAR‐L/HといったCF海兵隊の主力自動小銃(アサルトライフル)を的に向けて一心不乱に撃ち、辺りにパンパンと連続的な乾いた射撃音を響かせていた。


 中には評価試験用に少数のみ保有する、カラシニコフ自動小銃シリーズのAK‐47やAKMの射撃訓練をしている部隊もいる。


「ばッ……馬鹿な!? どうやったら銃があんなに連射を……ッ!?」


「もし狩人があんな銃を手にしたら、狩られる動物達が大変にゃ~!」


 自分達の知るこの世界の銃を遥かに超越した速射性能と、それにも拘らず驚くべき命中精度で的を瞬く間に穴だらけにしていくアサルトライフルの射撃に、ルーナとカリーニャは身震いせずにはいられなかった。と、ここで、その光景を同じく凝視していたサレイユスがある重要な点に気付く。


「……ん? 何だ? あの斑模様の兵士達がぶっ放しまくってる銃から、周りにパラパラと落ちてやがる金属の筒みたいなモンは?」


 サレイユスの疑問に海兵隊副司令のウェインがすかさず答える。


「あれは“薬莢”といって、銃弾と装薬を金属の筒に一纏めにした物です。我々は弾の口径や使用する銃によって、様々なタイプの薬莢を使い分けているのですが……例えばその実物の一つが、これとこれです」


 ウェインはそう言って隣席に置いていたガンケースから、CFで使われる「7.62×51mmNATO弾」と「12.7×99mmNATO弾」を取り出して見せる。


「た、弾の先端が尖っているだと……!」


「こんな鋭い弾には絶対当たりたくないですわね……!」


 まるで(やじり)の様に先端が尖った凶悪な見た目の銃弾を、種族のプライドも忘れて畏怖の眼差しで見つめるダークエルフのルーナと魔族のウィオラ。特に後者の弾は手に取ってみるとずっしりと重い。


「後、このドングリみたいな弾が銃口から出る時に、銃身の内側にある“ライフリング”っていうねじれで弾が回転しながら飛び出すから、コマの原理で弾の弾道が安定して命中精度が高まるんですよ!」


「因みに、さっきまで私達が乗っていた八洲の46センチ主砲の砲身にもライフリングは施されています」


「成程な……! 薬莢にライフリング、それに球形じゃない鏃みてえな弾丸……俺達の国で作られる銃や大砲に、そんな発想はまるで無かったぜ……!!」


 麗華の説明と海咲の補足に驚きつつも納得するサレイユス。


 そして車列が少し移動し、分隊支援火器のMINIMI(ミニミ)軽機関銃やM240G汎用機関銃、護衛のハンヴィーにも積まれているM134ミニガンやM2重機関銃を撃つ射場に着き、それらから吐き出される猛烈な弾幕と射撃音の嵐にラクティ達がまたも絶句していると、先程からうずうずしながら同じ様にその光景を眺めていた麗華が遂に堪らず口走る。


「はあ……アタシも、ホントは撃ちたいな……」


「実は……司令ならそう仰ると思って、こちらに用意しておきました――――」


「ええっ!?」


 するとウェインがそのお言葉を待っていましたとばかりに、再び隣席のガンケースを開けて取り出した物は――――麗華が個人的に最も好んで止まない二種類の銃、7.62×51mmNATO弾を使うアサルトライフルの「SCAR‐H」と、12.7×99mmNATO弾を使う対物ライフルのバレットM82を、対空射撃が可能な様にプルバップ式とした「バレットM82A2」であった。


「――――さあ、どうぞお選び下さい!」


「おおおおおッ!! ウェイン、なっかなか気が利くじゃな~~いッ!!」


 歓喜の余りウェインに飛び付いてキスする事だけは辛うじて抑えた麗華。アメリカに住んでいた時期に加えて日本に帰国した後も、度々グアム等に赴いて父親と共に実銃を撃ってきた経験から、一番の愛銃となっていた二丁が再び彼女の前に姿を現していた。


 こうなれば、一行の前で射撃を披露して見せぬ手は無い。


 今回は大口径弾の威力と射程をラクティ達に示そうと判断した麗華は、既に海兵隊員達によって射撃実演済みのSCAR‐Hではなく、後者のバレットM82A2を撃ってみる事にした。すると麗華はウェーブの掛かった長い栗色の髪をポニーテールに結いながら、尚も絶句したままのラクティ達にこの銃について説明を始める。


 麗華の本気モードが発動したのだ。


「この子は“バレットM82A2”っていう対物ライフルで、文字通りアサルトライフルとかじゃ撃ち抜けない固~い目標を遠くから狙い撃つ為の銃です! 使う弾はついさっきウェインが見せてくれた“12.7×99mmNATO弾”っていう大きな弾で、それから普通の銃と違って肩に載せて撃つタイプの大型銃なんだけど……まあ皆さん! ここは“百聞は一見に如かず”って事で、とにかくじっくりとこの子の性能を御照覧あれ♪」


「…………えっ、ええ……」


 そう麗華は笑顔で説明しつつ手早く髪を結い終わると、次にガンケースに同封されていた散弾等に耐えられるバリスティックレンズ仕様のシューティンググラスに、ナックルガード付きタクティカルグローブやヘッドセットの類を身に着けていく。これらはいずれもアメリカのミリタリーメーカーが製造している品々で、元アメリカ海兵隊員であった麗華の父親は勿論の事、麗華自身もサバイバルゲームや実銃のシューティングに赴く際に愛用していた物だった。


 そして最大一〇発の12.7mmNATO弾が入る専用マガジンに一杯まで弾を込めると、マガジンを銃本体に装着し右側のチャージングボルトを引いて薬室(チェンバー)に初弾を装填。


 自ずと観測手を務めるウェインと数人の護衛に伴われて麗華はバスの車外に出ると、左側のセレクターレバーを安全状態からセミオートに切り替え――――斯くして全ての射撃準備が整い、ウェインがやや大声で車内の一行に呼び掛ける。


「では皆さん! これよりクレイトン司令自ら500メートル……失礼、ここから距離500メーティオ先の地上の的と、現在他の狙撃手も狙っている空中の標的用ドローンを狙撃されます!」


「ええっ!? ご、500メーティオも先の標的を!?」


「はい、ラクティさん。それと別アングルから撮影用ドローンが、車内のモニターに標的至近の映像を映し出しますので、そちらもご自身の目でしっかりとご確認下さい!」


 ウェインは麗華がバレットM82A2の射撃準備を整えている間に、無線で演習監視所に連絡を取り撮影用ドローンの映像をバスまで転送させる様に命じていた。麗華はバレットM82A2をバズーカの様に肩に担いで構えると、既に装着されていた対物レンズ直径50mm、M3タイプのリューポルドMk.4スコープを覗く体制に入る。


「それじゃあ、いざ尋常に……ゴーイング・ホット!! 撃ちますッ!!」


 そしてストックに頬を密着させて銃がぶれない様に固定すると、先ず地上の敵兵を模した標的にしっかりと狙いを定めて軽く深呼吸し、ふっと息を止めて躊躇い無くトリガーを引く――――――



 ――――――発砲、銃声。



 それも、いきなり五発連続で。



「ええっ!? ちょっ……麗華、何やって……ッ!?」


 麗華の些か予想外の射撃に一行がざわつく中、海咲までもが思わずそんな声を張り上げてしまう。


 次の瞬間――――ドローンからの中継映像を映す車内のモニターには、人型の標的に立て続けに五発の12.7mmNATO弾が殺到し、一発目が標的の胴体を上下真っ二つに両断してジェル状の物体をまき散らした後で、二発目以降が両断された胴体を更に容赦無く粉砕していく様子が映し出された。弾は全て半径約1メートル四方に散らばって着弾したものの、かつて人型だった標的は既にその原形を留めていない。


「……あれ? ミサキ、知らなかったの? バレットM82の初期型からA3までのタイプはアサルトライフルみたいにセミオートで射撃するから、扱いに慣れ切った人がその気になればこんな連射も不可能じゃないんだよ!」


「い、いや……その銃が一応セミオート射撃式なのは知っているけれど、まさか麗華がそこまで熟練者だったとは思わなかったから、つい……」


 それから麗華は狙いを空中の標的用ドローンに切り替え、今度は残り半分の弾を丁寧に消費する形で真面目に一発ずつ狙撃していく。麗華が一発発砲する毎に駐退機付きのバレルが一瞬だけ後退し、銃口とマズルブレーキから躍り出る衝撃波でポニーテールの髪がひらりと靡く。


 そして全ての12.7mmNATO弾を撃ち終わった時――――麗華は五機のドローンの内、合計三機を粉々に撃墜する成果を上げていた。未だに硝煙を上げるバレットM82A2を持つ彼女の足元には、エジェクションポートから排莢された12.7mmNATO弾の空薬莢が高熱を帯びた状態で散乱している。


「……いや~~!! やっぱり対物ライフルをセミオートで撃ってみるのはサイコーね!!」


 そんな久々の実銃射撃に興奮冷めやらぬ麗華の傍らで、ひたすら冷静を貫くウェインの淡々とした解説の内容に、ラクティ達は身の毛もよだつ様な戦慄を覚えてしまう。


「先程クレイトン司令が五発連続で集中射撃した地上の的は、モニターの映像からも判る様に敵兵の人体を模した物で、サイズや強度も平均的なヒト族の身体とほぼ同じに作られています。実を言うと、バレットM82シリーズの有効射程距離は今回の射距離の少なくとも三倍以上になるのですが、我々の世界で起きたとある戦争で本銃が対人狙撃用に転用された時には、実際に1500メーティオ先の敵兵の身体を一撃で両断した記録があります」


「んな……ッ!? せ、1500……メーティオ先の敵兵を、だと…………ッ!?」


「え、えげつねえ……!! CFの銃は威力も、射程も、速射性も、命中精度も……何もかもが、俺達の知る銃の遥か上って訳かよ…………ッ!!」


「…………少なくとも私達が確実に言える事は、CFの銃を手にすれば例え魔力を持たない一般兵であっても、扱い次第では精鋭や熟練の魔導兵ですら圧倒出来る力を手にしてしまう、という事ね……!!」


「嗚呼、私も同感だ。これはもう“銃”という武器に対する我々の認識を、一から改め直す必要があるな……!!」


 CFが使う銃の余りにも驚異的な性能にラクティ達が慄きながらそう話す中、麗華とウェインを護衛する海兵隊員達が散らばった空薬莢を全て拾い集めると、一行を乗せたバスとハンヴィーの車列は銃の射撃場を後にするのだった。



◇◆◇◆◇



 次に一行を乗せた車列が訪れたのは、戦闘車両やヘリコプター等がフルに動き回るのに適しただだっ広い平野。オアフ島のセントラル・オアフに相当する地域である。


 そこでは既に陸路やヘリでの空輸によって陣地進入を果たしていた、CF海兵隊の主力火砲の一つである八門の「M777」155mm榴弾砲が整然と並び、それらを扱う砲兵部隊が今まさに射撃準備を行っている所だった。これは麗華がCF海兵隊のモデルとしたアメリカ海兵隊と同様に、それまで使っていたM198榴弾砲を置き換える形で後継として配備を進めていた最新鋭の榴弾砲で、砲そのものの射撃性能は前任のM198と然して変わらないものの、例えばUH‐1Yといった中型汎用ヘリコプターでも空輸出来る程の軽量さが持ち味の砲であった。


「今回はあのM777榴弾砲が準備してる間に、もうちょっとしたら別の自走榴弾砲と多連装ロケット砲が進入して来る予定なのよね……って、おおッ! 来た来た! やっぱカッコイイ~!!」


「クレイトン司令……あ、あれが砲なの……!?」


 そう驚くラクティの視線の先に姿を現した計三種類の自走砲と自走発射機の内、一つは本来アメリカ海兵隊では運用されていないタイプのロケット砲で、もう一つはそもそも米軍採用装備ですらない自走榴弾砲だった。


 二両の多連装ロケット砲システム「M270A1 MLRS」と、その簡易軽量版である二両の高機動ロケット砲システム「M142 HIMARS(ハイマース)」に加えて、一見すると大型トラックの様な四両の「アーチャー自走榴弾砲」が陣地進入を果たすや、速やかに先着のM777榴弾砲達と砲列を並べていく。


「アメリカ製の榴弾砲とロケット砲の中にしれっと混じる、スウェーデンとノルウェーが共同開発した自走榴弾砲……」


「麗華が長砲身の155mm砲が欲しいって言うから、わざわざパラディンを全車没にしてまで導入したんだっけ……」


 一行の前に現れたMLRSとHIMARSにアーチャーという編成を見て、汐里と彩菜はそう呟かずにはいられなかった。


 CF海兵隊はアーチャーを導入する以前、アメリカ陸軍等で広く採用されているM109シリーズの自走榴弾砲を運用していたのだが、麗華はそれらを“パラディン”と呼ばれる最新モデルのA6やA7にアップグレードせず、敢えてM109を退役させてアーチャーへの全面更新に踏み切っていた。これは彼女がM109A6やA7の様な39口径長の砲ではなく、ドイツのPzH2000や日本の99式自走155mm榴弾砲といった新型自走榴弾砲が積む、52口径長の長砲身155mm砲を好んだ為である。


 その上で重量が55トンもあるPzH2000の様に重くなく、迅速な展開力を重視する海兵隊という組織にも相応しいと麗華が考えた、重量約30トンかつ装輪式ながら様々なハイテク機能を備えたアーチャーに、彼女は白羽の矢を立てたのだった。


「只今進入して来ましたMLRS、HIMARS、アーチャー自走榴弾砲はいずれも、射撃の際に乗員が車外に出る必要は一切ありません。例え周囲が有毒物質に汚染された環境下であっても射撃が可能な様に、簡単に説明しますと空気浄化装置を備えた気密構造の車内から、乗員が各種射撃操作を行う仕組みになっています」


「しゃ、車内から一切出ずに攻撃を!?」


「はい。特に弾薬の装填や砲の照準といったあらゆる射撃手順を全自動化しているアーチャー自走榴弾砲に至っては、配置開始から僅か30秒以内に砲撃準備を完了させる事が可能です。そして今回は距離20キロ――即ち距離20キリオ先の目標群に向かって射撃統制所からの指揮により、全ての火砲とロケット砲の一斉射撃を実施します」


 そんなウェインの解説が終わった頃には、既にボルボA30D六輪駆動ダンプトラックを元にしたアーチャーの車体から52口径155mm砲身が姿を現し、自動装填装置を内蔵した無人の砲塔ユニットごと、傍らのM777、MLRS、HIMARS達と共に一斉に仰角を取っていた。勿論、M777以外の砲と発射機の周囲に人員は一人もいない。


 そして不意にバスの車内に響く、射撃統制所からの無線。


『――――ステンバ~~イ……! ファイア!!』


 それを合図にM777とアーチャーからは155mm榴弾が、MLRSとHIMARSからはGPS誘導式のM31ロケット弾が、それぞれほぼ一斉に轟音と爆炎を伴って放たれる様子がバスから見えた。暫くして初弾が着弾するとアーチャーはバースト射撃に切り替えて、ラクティ達の常識では考えられない様な毎分八発以上もの発射速度で砲弾を目標へと叩き込み続ける。


「恐ろしい……! 20キリオもの遠距離で、何という正確無比な砲撃!! それでいながら、何という次弾装填の速さ!!」


 一行が演習場に着いてから殆ど無口だったルキウスが、そう興奮しながら車内のモニターに映る砲撃目標の映像を信じられないという様な表情で見つめていた。彼は八洲が砲撃デモンストレーションを行った時は自艦のディエスにおり、乗り込んでいた八洲の臨検隊員に艦内退避を指示されていた事もあって、八洲が25キロ先の岩礁を砲撃した時の様子を目では見ていなかったのだ。


 そんなルキウスの眼前で、M777、アーチャー、MLRS、HIMARS達は、初弾から全くの無駄なく正確に榴弾やロケット弾を目標へと着弾させ、アトランス帝国軍が使う大砲を遥かに上回る破壊力を見せ付け続ける。CF海兵隊砲兵部隊の一糸乱れぬ統率された火力支援の練度に、海咲達を始めとするCF幹部の面々も大いに満足していた。


 そしてMLRSとHIMARSが全弾を撃ち尽くし、M777とアーチャーから目標への最終弾が放たれた直後――――


『――――パンツァー・フォー!!』


 特徴的な1500馬力のガスタービンエンジンの作動音を響かせる、CF海兵隊が保有する主力戦車「M1A2SEPエイブラムス」の二個小隊八両が、AH‐1Zヴァイパー戦闘ヘリコプターの上空支援を受けつつ満を持して突撃を開始する。


「斑模様の兵士達、機械仕掛けの地竜……! ここまで全て、フュルギオン聖堂の伝承通りですっ!! その実物が、今わたくし達の前に……っ!!」


 そう感嘆するミレイユの前で、質実剛健を絵に描いた様な重装甲を誇るM1A2SEPエイブラムスが、ハネウェルAGT1500ガスタービンエンジンの唸りと共に約60トンもの巨体を加速させる。主砲の「M256」44口径120mm滑腔砲が咆哮し、多目的対戦車榴弾HEAT‐MPや、装弾筒付翼安定徹甲弾APFSDSを撃ち出しながら大地を疾駆していく様は、まさに獅子奮迅たる陸戦の王者を思わせる風格を纏っていた。


 因みに演習に参加している八両のエイブラムスの内、四両がSEP――システム・エンハンスメント・パッケージ――と呼ばれる電子装備強化を施されたSEPV2、もう四両が最新型のSEPV3であり、いずれも砲塔上にM2重機関銃をマウントしたノルウェーのKDA社製「M153プロテクター」RWS――リモート・ウェポン・システム――を載せたシルエットが特徴的である。


「皆さん、現在突撃を敢行しているM1A2SEPエイブラムス戦車に加えて、演習場の両翼から我々海兵隊のもう一つの主力戦車――10式戦車と、AH‐64Eアパッチ・ガーディアン戦闘ヘリコプターが突撃に加勢します! どうぞ刮目してご覧下さい!!」


 ここで何故かやや力を込めて説明するウェイン。


 すると演習場の左右に広がる林の中から突如として、身を潜めていた「10式戦車」の二個小隊八両が躍り出るかの様に姿を現し、タイミングを合わせる様に飛来したAH‐64Eアパッチ・ガーディアン戦闘ヘリに援護されつつ突撃に加わった。


 砲塔の正面と側面を覆うモジュール式空間装甲がやや近未来的な雰囲気を纏う、エイブラムスと比べて一回り小柄な44トンの車体に載せた、1200馬力の水冷4サイクルV型8気筒ディーゼルエンジンを唸らせて10式戦車達が駆ける。トリッキーな動きでエイブラムス二個小隊の左右に展開するや、日本国産の44口径120mm滑腔砲から放つ得意技の“スラローム射撃”を披露しつつ、エイブラムス達と共に百発百中の射撃精度で標的を屠っていく。


 そんな今回の演習に参加している10式戦車は全てCF独自仕様であり、M153から防弾板を外したやや簡素な見た目の前身機種、M151プロテクターRWSを搭載するカスタマイズを施されていた。


「……如何でしょうか? 皆さんが今御覧になっている10式戦車は、エイブラムス戦車を始めとする味方車両や戦闘ヘリコプターとリアルタイムで各種戦闘情報を共有し、戦場に居る友軍全体をネットワーク化する事で敵をいち早く発見して先手を打ったり、或いは重複攻撃によるオーバーキルを防いだりといった無駄の少ない戦いが出来ます。これこそが、我々の世界における味方全体が常に連携して戦闘を進めていく、統率された機甲戦闘の在り方なのです!」


「「「「「……………………」」」」」


 最早ひたすら絶句するしかない、アトランス帝国側の面々。


 余りにもこの世界の(いくさ)の常識からかけ離れ過ぎたCFの戦闘概念。仮にアトランス帝国軍がCF海兵隊と一戦交えようものなら、よしんば精鋭の魔導兵部隊が幾ら善戦しようとも十中八九勝ち目など無い。


(もう何というか……解る様な、解らない様な、という感じですね……)


(わたくし……もう頭がとてもついて行けないです……っ!)


(ヒト族が魔力を一切使わずに創り出した兵器の数々が……魔族たるワタクシにさえ全く理解出来ないなんて……!!)


(もう一々考える事すら億劫(おっくう)にゃー!!)


 従者のアリーナ達は各々でそんな内心を抱きつつも、アトランス帝国側が共通して一致した考えはただ一つ――――――



 ――――――霹靂の艦隊クラッシス・フュルミニスを、決して敵に回してはいけない。



「フフフフフ……! クックックックック…………!! ハーッハッハッハッハッハッハッハァ!!」


 ここに至り、まるで(たが)が外れた様に一人大声で笑い始めたルーナ。


「ル、ルーナ……ッ!?」


「ファッ!? ルーナ様ァ!?」


「ど、どうしたのですか!? ルーナさん!?」


 ラクティとサレイユスと海咲は、驚いてルーナの座る席に駆け寄る。


 ルーナはアトランス帝国内に住むダークエルフの中でも、ずば抜けて高度な闇属性精霊魔法を使いこなせる事で知られる戦士なのだが、特に戦闘時において戦場に満ちる負の感情を積極的に活用するそれを、長く常用し続けて来たが故の反作用とも言うべき症状が出ていた。


「いやはや! これだけの軍備が我が帝国軍にあれば、聖地イルミア諸島に居座る憎きムーリア兵共と黒船の艦隊を瞬く間に叩き出して……! いや、一兵残らず、一隻残らず、完膚なきまでに破壊し、蹂躙し、殲滅する事とて容易いであろうな!! アマギリ総帥ッ!! フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」


 今回、その発症のトリガーとなってしまったのが、彼女の常識を遥かに凌駕するCFの様々な兵器や艦艇を立て続けに見せ付けられた事なのは、最早誰の目にも明らかであった。


 そして――――その為に勢い余ったルーナは、あろう事か傍らの海咲をダークエルフの非常に強い腕力で抱き寄せてしまっていた。


「ひゃああああっっ!? ちょっ……いたたたたたっ! は、放して下さい!! ルーナさんッッ!!」


「うわああああああ!? ナンデ!? 何でそういう展開になるのォォ!?」


「ええええええええ!? え、えっ……海咲ぃぃぃぃいいいいいいいい!?」


「こらああああああ!! 直ちに海咲を放せぇぇぇぇええええええええ!!」


 異世界に来てからまたも強烈過ぎるハグを、全く予想外の人物から頂戴する羽目になった海咲を絶叫しながら助けにかかる麗華と彩菜と汐里。その後をすぐさま幸司とウェインとケイティーに加えてバスに同乗していた護衛の兵士達に、ラクティと従者のアリーナ達やルキウスとサレイユスまでもがルーナを制止すべく追い、いよいよ状況は大混乱の様相を呈していく。


「「「「「そ、総帥閣下を放すんだァァァァアアアアアアアア!!」」」」」


「ハーッハッハッハッハッハ!! 我等がアトランス帝国に栄光あれ!!」


「ひゃああああああああああ――――――!!」


 ……そしてこの大カオスな状況は、常識外の連続に揉まれて心の箍が外れたルーナをラクティが光属性精霊魔法で鎮静させるまで続き、その後にようやく一行を乗せたバスとハンヴィーの車列は海兵隊の演習場を後にしたのであった。

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