丘の上の魔女 7
足音が徐々に近づいて来る。不思議と恐怖も悲しみも、後悔も無かった。目を瞑り、自分自身にまじないをかける。次に目を開ける時、私は<レギーネ>のように魔女になる
魔女は<レギーネ>ではなく、私だ。
「起きなさい」
目を開けると、そこにはサーキーが居た。
「罪深き魔女レギーネ。今宵、神の名のもとに貴女に罰を与えます」
「お好きにどうぞ。覚悟なんてとうにできているんだ」
「……覚えていますか、私達が友であった頃を」
「あっはっは。さぁ? どうだろうね?」
「私は、覚えていますよ。あの頃は、楽しかった」
サーキーは私にしか聞こえないように「友になれて良かった」と呟いた。
私はそれを鼻で笑う。
「その友を今から殺すくせに」
「いいえ。今の貴女は、私の友ではありません。私の友であったレギーネはもう居ない……」
「そんなのどうでもいいから、やるんならさっさとしてくれない? あんたと話す事なんてないんだけど」
「下郎! 友を侮辱するな!」
「はあ?」
「貴女の存在が、レギーネを侮辱していると言ったんです」
――そんなの私が1番よく分かっている。
「確かにね、認めるよ。私はレギーネじゃない。ただの魔女だ」
「“私”?」
サーキーは一瞬だけ目を見開き、泣くように笑った。
「本当に貴女はレギーネじゃないのね。そう、良かった。罪悪感が無くて済むわ」
罪悪感、それは女達人を仕留めた時の事を言っているのだろう。
「そろそろ、終わりにしましょう」
「さっさとしてって言ってるだろ」
サーキーは深呼吸をすると、後ろに控える男達に何やら合図をした。ずっとサーキーの車椅子を押しているクウは、サーキーよりも感情が無く仮面を付けているみたいだ。
男達は縄を切り、私を地面に押さえつけた後、また何かに縛られた。私よりも少し大きめの十字架だ。関節と胴体が革紐で隙間なく縛られている。
「火炙りか。ベタだな」
サーキーは無言を貫き、男達はせっせと準備を進めて行く。
あっという間に私と十字架は、町民達のつむじが小さく見える位置に立てられた。
漆黒の町に飲み込まれてしまいそうだ。
「何か言う事はない?」
「それじゃ、ランクに伝えてよ。『愛してた』って」
サーキーの眉が少し下がった。
「分かったわ。他には?」
「それじゃ、墓を作って。あんたの友達のレギーネの墓」
「……分かったわ。他には?」
「それだけ」
「そう」
サーキーはそれだけ言うと、町民達に叫ぶ。
「今宵、ひとりの魔女に裁きを下す! 月の無い邪悪な夜に別れを告げ、皆で月を取り戻そう!」
町民達が雄たけびを上げた。
「今こそ皆の炎を魔女に灯すのだ!」
サーキーが松明を私の足元の薪に投げた。音を立てながら炎が上がって来る。
次々に松明が投げ込まれ、気づけば私の足は熱を持ち真っ赤にただれていた。町民達はその足を見て悲鳴を上げる。魔女と言えど、私を人である事を疑わなかった彼らは心底驚いている。
もちろんサーキーやクウも例外ではない。炎の中に、私の鉄がボタボタと落ちて行く。徐々に視界も曇り、赤や緑のノイズが激しくなって行く。
自分の服がどうなっているのかも分からない。ただ、鉄が溶け、銅線が切れて行くのは町民達の反応で分かった。
燃え盛る炎がパチパチと鳴る。祝福だ。やっと私は解放される。この体と<レギーネ>から、解放される。私の頬に、ひと筋の鉄が伝い落ちた。




