丘の上の魔女 5
静寂が顔を出した頃、私達は頂上に来てしまった。
「ここにしようか」
クウが1番近い木の下に行き、言った。
「あそこにしよう」
私はある木を指す。あの木は<レギーネ>が戦う前に隠れていた木。特別な感情があるわけでは無いが、これはほんの些細な抵抗だ。
望む人生を送れなければ、最後に愛する人にすら会う事も出来ない。私は<レギーネ>にも誰にもならざるもの。<レギーネ>の亡霊でしかない。
「いいよ。あたしも、せめてあなたの好きな場所に拘束したいから」
「馬鹿じゃないの……。そんなの自己満足じゃない」
うずくまっているノーランが言った。どんな表情で言ったのかは分からない。
「そうしてしゃがみ込んで逃げてるあんたに言われたくないよ。……ノーランはそこで顔を伏せていて。全部あたしがやる」
そう言ったクウの瞳には、強かな決意がある。サーキーに、とてもよく似ている。
「簡単な事だ。私をあの木に縛るだけ。誰でも出来る」
言うと、クウは鋭く私を睨む。その目はサーキーそのものだった。
クウと木の下まで行くと、ノーランがうずくまっている所が女達人のテントがあった付近だった。
「立ったままでいいの? 座れば?」
「立ったままの方が縛りやすいだろう」
「疲れるよ?」
「疲れないよ。私は60年以上生きている魔女だから」
「あなたが魔女じゃなかったら、友達になりたかったな。ノーランと話してたんだよ。『レギーネさん可愛かったね、仲良くなりたいね』って……。でも、もう無理なんだね。あたし、お婆ちゃんを裏切れない。やるしかないんだね」
「さっきも言っただろう。私をここに縛るだけあと後の事はサーキーがする。ふたりはベッドで寝ていれば、起きたときには全てが終わっている」
「そうしたいけど、駄目なんだよ。町長の娘として、見届けないといけない。次の町長には妹のあたしがなるんだよ。……お婆ちゃんにそう言われているんだ」
クウは淡々と、言った。必死に愁いを隠しているように思えてならない。この様態が長く続いてはいけない。
私はさっさと縛るように催促をし、背を木に沿わせる。
震える手でクウは私を縛る。
「本当はこんな事したくないんだよ」
その呟きを、私は聞こえないふりをした。
「終わったよ」
そう言ってクウが離れる。確かに縛られているが、その気になれば抜けられるほど緩い。
指摘をしようとしたが、クウがあまりにもホッとした顔をしているから言えない。
「早く戻らないとサーキーに怒られるぞ」
「どうか、神のご加護があらん事を……、アーメン」
「魔女に神の加護を乞うなんて、罰が当たるぞ」
「少なくとも、あなたはシスター・ルノの友達だったみたいだから、代わりにね。それじゃ、また夜に」
そう言い残し、ノーランと共に丘を下って行く。




